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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/05/15

大食いドクターのカバンの中身(11)・・・スリー・イン・ワン温度計と決勝ラーメン

「出来たて・アツアツのラーメンの温度は、何℃位でしょうか?」などというと、かつての人気番組 『トリビアの泉』(フジテレピ)みたいですね。「醤油ラーメンvs.味噌ラーメンvs.豚骨ラーメンvs.塩ラーメン」などといったラーメンの種類別データを集めたら、身近な疑問を調査するコーナー「トリビアの種」のネタとして意外に面白かったかもしれません。

先週まで連載で取り上げてきた、ドイツ・サニタス社製のスリー・イン・ワン温度計「SFT41 Fieberthermometer (3 in 1)」は、このトリビアを調査するにはうってつけのグッズと言えそうです(→大食いドクターのカバンの中身(8)・・・スリー・イン・ワン温度計とは?大食いドクターのカバンの中身(9)・・・スリー・イン・ワン温度計の実力)。先日、所沢にあるラーメン屋さんで出来たての豚骨ラーメンの温度を測らせていただいたところ、60.5℃という結果が出ました。
 

(「らあめん花月嵐・所沢駅前店」にて。手前はドイツ・サニタス社製「SFT41 Fieberthermometer (3 in 1)」表面温測定モード)

2009年春の爆食女王戦こと「元祖!大食い王決定戦inシドニー」(TV東京、2009年3月29日放送)の決勝「豚骨ラーメン60分勝負」を考える際、試合開始が16:24(現地時間)という遅い時刻であったことは、実は大変重要なポイントです。

これまでの当番組のロケにおける決勝戦は、だいたい13時前後にスタートしていました。バリやタイといった赤道に近い南国では、決勝戦はいつも過酷な猛暑と強烈な日差しの下で行われ、スタッフのみならず健康管理医師である私も、熱中症や事故の防止に神経をすり減らし、緊張でヘロヘロになりながら臨んだものでした。それが一転して、今年のシドニーでは試合時刻が軒並み遅く、決勝戦は気温が充分低下した夕方に行われたということは、過去に例を見ない設定でした。

しかも、本ロケ期間中のシドニーは気温の割に風が冷たかったということを、前回具体的に説明しました(→大食いドクターのカバンの中身(10)・・・スリー・イン・ワン温度計inシドニー)。決勝の食材である「一番星」の豚骨ラーメンは、出来たてのものは確かに62.9℃でしたが、出来てから数分後のもので52.0℃という測定結果が残っています。試合開始が遅く気温が下がっていたということと、風が涼しいというシドニー独特の気候ゆえに、ラーメンの冷め方も比較的早かったと考えられます。

ここで思い起こされるのが、昨年秋の男女混合戦です。2008年9月28日に放送された「元祖!大食い王決定戦inタイ」の決勝戦は、真昼の炎天下のプールサイドで行われました。かつてのテレビチャンピオン時代の大食い覇者でもあるドクター西川廣幸さんが、あまりの(気温の)暑さと(ラーメンの)熱さのダブルパンチゆえに、大きく膨らんだお腹をかかえながら、試合の真っ最中にプールへズンズンと入っていった姿は、見る者にかなり衝撃を与えました。

実は、このタイでの大会は、スリー・イン・ワン温度計のデビュー戦でもありました。この「スリー・イン・ワン」の2番目である「(液体の)表面温の測定機能」を用い、私はラーメンの温度を本番中に測りまくっていました。そこに、意外な人物が首を突っ込んできました。それが、「テレビチャンピオン大食い選手権」の頃からの古参プロデューサーでもあり、当番組の食材の管理・提供を統括する、ゼロクリエイトの重鎮・酒井英樹氏でした。

場所は赤道にほど近い北緯14度のバンコク、時は昼の13:30で気温は31℃。しかも、脂分が多くて冷めにくい豚骨ラーメンは、出来たて状態での温度が軒並み60℃を超ええていました。初めは私が温度計をピコピコと鳴らしながら測定する様子を、面白半分にニコニコと眺めていた酒井プロデューサーでしたが、その測定結果の数字を繰り返し目にするうちに、その表情から笑みが消えていきました。そして、決意したように周囲に告げたのです。

「ラーメン、もう少し温度下げよう!ちょっと危険すぎる」

熱帯の真ん中でアツアツのラーメンを大食いするとは、どういうことでしょうか。それは、30℃を超える気温が体外から、60℃を超えるラーメンが体内から、大食い選手の体を熱波で挟み撃ちしていくということです。当然、熱中症の発生リスクは上がり、その対策として当番組スタッフは氷入りの濡れタオルを用意し、選手の首にかけては交換することになります。しかし、体表のみの冷却では、まだ不安でした。西川廣幸選手がプールに入水したのも、そんな事情からかもしれません。

実は、その前年である2007年秋の大会でも、酒井プロデューサーはラーメンの温度を下げる判断を下しています。しかし、この時点では温度計が無く、ラーメンの温度を何度から何度に下げるという絶対的指標がありませんでした。その結果、ぬるくなったラーメンは、健康被害を出さなかったという点では成功したものの、「ラーメンが美味しくない」という、残念な副産物も生み出しました。「麺が生煮えかどうかなんて、画面には映らないんだから!」という声も聞かれたものの、やはり選手だって美味しいものを食べたかった筈です。

その観点からも、2008年にタイでデビューしたスリー・イン・ワン温度計の最大の功績は、「60℃のラーメンを5℃下げる」とか「これくらいの火加減なら、選手の手元にくる時点で55℃程度になる」というように、温度データが調理サイドにフィードバックされるようになったことでした。数字で可視化されたデータがあればこそ、食材温のコントロールに再現性が加わり、その経験を新たなノウハウとして蓄積することもできるのです。タイでの経験のせいか、今年のシドニーでの酒井プロデューサーは、食材調理の指示を出す姿に比較的余裕があったように見えました。そして、温度計を片手に相変わらずピコピコと測定する私にも、その真っ黒に日焼けした優しい微笑を向けてくれるのでありました。

なお、このスリー・イン・ワン温度計、今年はもう1つ、隠れた金星を挙げました。ここ数年、決勝戦で司会者の中村有志さんが温度計を掲げつつ「ここ、○○の気温は現在△□℃!」などと言うのが定番になっていましたが、何とシドニーの決勝では、スタッフがその温度計を忘れてきてしまったのです。そこですかさずディレクターから「片山センセー!(泣)」の声が上がったのは、言うまでもありません。待ってましたとばかりに手元の温度計の表示を読み上げつつ、「この風変わりな温度計・・・」と、しみじみと喜びを噛みしめる私でした。しかし残念ながら、カメラが回っていたにもかかわらず、このシーンはオンエアされませんでした。

そして時は流れ、このシドニーでの経験が、思いがけず選抜高校野球大会の観戦に威力を発揮することになりました。まさか大食いグッズが野球観戦に転用できようとは、以前は想像もできませんでした。その詳細については、来週述べたいと思います。