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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/04/17

大食いドクターのカバンの中身(7)・・・水絆創膏編

「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)は、2009年3月28日に無事にオンエアされ、岩手の大食い女王・菅原初代さんが、パワー全開の食いっぷりで二連覇を達成しました。また、私のもうひとつの関心事である「選抜高等学校野球選手権大会」(毎日新聞社主催)は、4月2日に無事に決勝を迎え、清峰が2度目の決勝進出にして初の紫紺の大旗を、長崎・佐々町に持って帰りました。そして、その清峰と決勝で対戦し、惜しくも0-1で惜敗した花巻東は、あの菅原初代を世に送り出した岩手からの出場校でした。

ちなみにスポーツ界では、1998年が「神奈川イヤー」として有名です。年始の箱根駅伝で神奈川大学が往路・復路とも完全優勝したのを皮切りに、大学ラグビーで関東学院大学が優勝、高校野球では松坂大輔投手を擁した横浜高校が春夏連覇、プロ野球では横浜ベイスターズが日本一、天皇杯全日本サッカー選手権大会で横浜フリューゲルスが優勝、しかも偶然にも国体は神奈川県開催で天皇杯・皇后杯も独占・・・といった具合に、まるで連鎖反応のように神奈川勢がタイトルをさらっていった珍しい年でした。

そして、今年の菅原初代に花巻東・・・大食いに引き続き、岩手県勢の全国制覇となる可能性もチャンスも、十分にあった花巻東高校硬式野球部でありました。まだ夏の甲子園や他競技もあることですし、2009年が「岩手イヤー」となるのか否か、今年の岩手勢の活躍からは、目が離せませんね。

その岩手の女帝が大活躍した今年の大食い大会において、以前のコラムでのストップウォッチ『→大食いドクターのカバンの中身(3)・・・ストップウォッチ編(前)、→大食いドクターのカバンの中身(4)・・・ストップウォッチ編(後)』に引き続き、野球からの転用品が活躍しました。

前回のコラムでは、大食い競技に伴う手荒れの問題を取り上げました(→大食いドクターのカバンの中身(6)・・・絆創膏(カットバン)?)。大食い選手の手指にかかるストレス負荷の強さゆえに、あらゆる薬剤や絆創膏を試してみたものの効果が長続きせず、ずっと私の悩みの種でした。そんなある日、突然ひらめいたのが、高校野球の現場で使われている「水絆創膏」(液体絆創膏)でした。

高校野球の場合、エースピッチャーの連投を防ぐために「複数投手制」が推奨されてはいるものの、やはり過酷な試合日程から、連投を余儀なくされるケースは珍しくありません。高校生投手の繊細な指先に連日の強いストレスがかかり、彼らの爪は割れたり、血マメがつぶれたりすることがあります。

昔の高校野球では「血染めのボールを投げた投手」などの武勇伝もよく報道されていましたが、今の高校球界では、そのような事態になる前に処置を行うという考え方が普及してきました。そこで、爪を接着したりマメを固めるために高校野球の現場で活躍しているのが、この水絆創膏です。そしてこれは、野球選手のみならず、大食い選手の指のケアにおいても大変有用で強力なツールでありました。

水絆創膏とは無色透明の粘液様の液体で、そのニオイと概観はセメダインに似ています。その主成分がニトロセルロース(ピロキシリン)であることから、小切傷・すり傷・あかぎれなどの傷口の上に塗ると、耐水性の被膜を形成して傷口を保護してくれます。そして、傷口の上の保護膜は傷に強く接着するのに対し、皮膚に異常が無い部分の保護膜は、生活とともに自然にはがれていくという選択性があります。つまり、皮膚面の傷が治れば、その膜もまた時間とともに勝手にはがれていくということです。

大食い競技で指にかかる負荷と、野球のピッチングの負荷・・・両者を比べたことが無かったのですが、よく考えてみたら共通点があります。それは、どちらも「血と汗と涙と脂」にまみれる可能性があるということです。野球界では実績のある水絆創膏のコーティング効果ですが、大食い版の「血と汗と涙と脂」に堪えられるのかどうか、大会前は未知数でした。しかし、この「傷がある限り、しがみつき続ける」という特性の被膜は、過酷な競技を経ても剥がれないばかりか、あらたなダメージ(手荒れ)を予防するプロテクターの役割も果たしてくれるのでした。全日程を消化して戻るシドニーからの帰国便の中で、選手の手の状態が日に日に良くなっていく経過を、私は嬉しくもしみじみと振り返っていました。

今まで、この水絆創膏の大食い競技における有効性に気づかなかったことに、いささかの悔しさと、今までの選手たちへの申し訳なさを感じます。今後も、野球界にかぎらず他業種・他分野であっても、有用なアイテムがあれば是非、大食い界にも取り入れていきたいと考えています。

付記になりますが、水絆創膏にはエタノールやカンフルが含まれ、消毒効果もあるという利便性があります。ただし、アルコールにアレルギーがあるケースでは、その使用には注意が必要で、医師等の専門家に相談するほうが賢明です。また、前回取り上げた「靴ずれ」にもまた、水絆創膏は非常に効果があったことも、付け加えておきます。

と、ここまで書いてきて、実は逆のパターンも最近あったということに気づきました。というのは、大食い競技に用意した物品が野球観戦に思いがけず役立った・・・という、「大食い界からの転用品」の一例です。それについては、来週にあらためて説明したいと思います。