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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/04/03

大食いドクターのカバンの中身(5)・・・アロンアルファ編

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)は先日、2009年3月29日に無事に女王戦のオンエアを迎えることができました。今大会では、女帝・菅原初代さん(岩手)の相変わらずの強さのみならず、異色の超美形大型新人・佐藤綾里さん(北海道)の登場や、大会参加3度目にしてついにファイナリストにまで登りつめた梅村鈴(京都)さんの大食い界におけるポジションの大幅な変化など、新顔キャラの充実にも見所がありました。

今週のコラムでは、本大会のロケ持参品として用意した中でも大当たりだった物品の1つ、瞬間接着剤「アロンアルファ」について取り上げ、私が瞬間接着剤を持参するようになった経緯を振り返ってみようと思います。

『元祖!大食い王決定戦』の大食い競技のレベルを大幅に引き上げたのは、2005年秋の大会におけるジャイアント白田・ドクター西川の両名の参戦であることは間違いありません。往年の『テレビチャンピオン~大食い選手権』(1992.4.16~2002.3.21、TV東京)が生んだスターでもある白田・西川組は、段違いのスピードを持っていました。ただ、過去に3年に渡り大食い番組を自粛した経緯(→大食いドクターのカバンの中身(2)…ペアン(?!)編から、大食いにスプリントの要素が入ることに対しては、スタッフ間に強い警戒感がありました(今もある)。大食い三か条の第一項「早食いは厳禁」という文言が生まれたのも、このためでしょう。しかし、番組2回目にして登場の伝説のスター2名は、彼らに憧れて番組に応募してきた選手のテンションも一気に引き上げました。そこにトドメとして登場したのが、岩手の誇るわんこそばクイーン・菅原初代さんです。鋭利な歯と無類の嚥下力を駆使したスプリント能力を備えたこの稀有な女性の登場は、それまで競技生活に多少のブランクがあった白田・西川組をホンキにさせてしまいました。かくして、番組制作サイドが予想はすれども決して望んだ訳ではなかった「スプリント時代」に番組は突入し、予選突破の最低ラインはズンズン上がっていきました。そして、その「スプリント時代」の影響として、突然増え始めたのが、歯のトラブルです。

大食い選手には、普段から大食いの人もいれば、普段は少食の人もいます。例え普段は少食であっても、当番組のような年に2度の大会のためとなれば、彼らは数ヶ月前からトレーニング生活(!)に入ります。ここで仮に、人の5倍の食べ物を食べ続けてきた人間がいるとしましょう。すると、その人の歯にかかる負荷の累積値もまた、通常の食生活を送ってきた人の5倍になります。負荷が5倍ということは、劣化のスピードもまた5倍ということを意味します。分かりやすく言えば、あくまでも「歯に関する限り」ですが、「この人の人生は、人の5倍のスピードで進んでいる」ということになります。つまり、若い人が滅多にかかることがないとされる歯の病気が、若い大食い選手には多くみられたとしても、それは決しておかしい事ではないのです。

ここに、当番組のレベルアップによる効果が加わります。特に、硬い食材によるハイスピードの試合展開が増えると、選手たちの歯も、それが自前かプラスチックかを問わず、ダメージを受けやすくなります。

2006年秋の大会(ロケ地・北海道)、ロケバスの後方座席で悲鳴が相次ぎました。
選手A:「センセー、事後報告ですが~、さっきの試合で歯が欠けました~!」
選手B:「差し歯が折れました~。くっつけてくれませんか?」

この大会では、私が選手Bの差し歯を瞬間接着剤「アロンアルファ」でくっつけました。くっつけた当日は良かったのですが、翌日には再び過酷な競技があり、試合後にその口の中を見て「ああヤッパリ」と思いました。私がくっつけたプラスチック製の歯は跡形も無く消えており、おそらく食材とともに胃の中に消えていった可能性が高いです。

この大会以降、私はドクターバックに必ず瞬間接着剤を入れるようになりました。2007年秋の大会では、初日の「鳥のから揚げ」の大食いの後、当時の新人女性選手・高橋実桜さんの差し歯がグラつき、取れる寸前となる事態が発生しました。ここまでになると、私ごときのアロンアルファ攻撃では太刀打ちできません。ということで、夜中に治療をしていただける歯科を探しあてて駆け込みました。そこではレントゲンまで撮り、応急処置と呼ぶにはあまりにも本格的な治療をしていただき、彼女も残りのロケ日程を何とか無事に戦い終えることができました。

そして今大会。恐れていた事態が発生しました。オーストラリアのシドニーで行われた準々決勝「オージービーフ45分勝負」の真っ最中、正司優子さんの差し歯のブリッジが折れたのです。2007年の高橋実桜さんのケースと違い、これは海外で発生したアクシデントです。そこで即座に活躍したのが、日本から持参したアロンアルファでした。ブリッジは折れていましたが、取れてはいなかったので、その亀裂部分にアロンアルファを何度も流し込み、「とにかくオージーロケの間だけはこれで何とか・・・」と祈るような気持ちでした。幸い、歯は取れることなく、彼女も晴れて決勝まで戦い抜くことができました。

なお、医療の現場では、瞬間接着剤が使われることが実は、珍しくはありません。例えば、「創傷処置」のケースです。切り傷を処置する場合、針と糸で縫うかホチキスで留めるのが一般的ですが、ケースによっては瞬間接着剤でくっつけることがあります。また、細いカニューレを細いリンパ管に固定するリンパ管造影検査などの現場でも、瞬間接着剤が使われたりします。このような使用方法は昔から存在し、それ専用の製品も販売されています。今までの大食いロケでは歯のトラブルにしか活躍の場がなかったアロンアルファですが、今後は別の用途での使用もあるかもしれませんね。