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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/03/27

大食いドクターのカバンの中身(4)・・・ストップウォッチ編(後)

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)のオンエアはいよいよ明後日、3月29日に迫っています。それと平行して、春の高校野球こと『第81回選抜高等学校野球大会』(毎日新聞社主催)は、阪神甲子園球場にて開幕いたしました。このコラムが掲載される頃には、私も甲子園のどこかでストップウォッチを片手に目を血走らせながらスコアブック片手に試合を観戦していることでしょう。

私は野球観戦の際、必ず首からストップウォッチをぶら下げて、試合中に色々な秒数を測定してスコアブックに記載しています。打者の足の速さを測定する(走塁における各塁への到達時間)とか、キャッチャーの肩の強さを測定する(送球の二塁到達時間)といったことは、コアな野球ファンの方々の間ではきわめて基礎的な測定事項に相当しますが、私の場合は他にも色々と測定して野球を楽しんでいます。野球場で女性がストップウォッチを片手にカチカチやっている姿はよほど珍しいらしく、各プロ球団のスカウトの方々からも、「キミ、何測ってんの?」などと、よく声をかけていただけます。もし、本サイトの読者の大食いファンの皆様のなかで、「春を呼ぶセンバツ」の会場に足を運ぶチャンスがおありの方は、私を見かけたら是非声をかけていただければ、具体的な内容をご説明差し上げます?!(誰も聞きたいと思わんか・・・)

このように、野球用に購入したはずのストップウォッチでしたが、まさか大食いロケでも首からストップウォッチをぶら下げる日が来ようとは、夢にも思いませんでした。

大食いロケに話を戻しましょう。『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)で会場に設置されるタイマーは、スタッフ用語で「減算タイマー」と呼ばれています。つまり、このタイマー文字通り「時間が減っていくタイマー」で、試合の残り時間を表示します。例えば45分勝負の試合の場合、15分が経過した時点ではタイマーには「30分00秒」の表示が出ます。この時点で選手が10皿平らげたと仮定しましょう。すると、「選手が10皿食べて残り30分」という情報と、「選手が10皿を15分で食べた」という情報の2つが会場では共有されることになります。

問題は、この2つの情報のうち、どちらが誰に都合の良いものかということです。番組進行を司るプロデューサー、ディレクター、司会者などにとっては、前者のほうが重要な情報です。彼らにとっては、この残り時間の中でどのように番組を彩り、選手を盛り上げ、ドラマを拾い上げていくか、ということが最大の関心事なのでしょう。しかし、選手の体調管理を担当する医師の場合は、実は後者の情報の方がはるかに重要なのです。

「何分の間に何皿分が胃に収まったか」「この人はどういうペース配分で入ってどういう配分で抜けようとしているのか」「何分前に胃に入った食材は、何分後にどの程度胃の中で膨張するだろうか」・・・こういったことを把握するためには、実は減算タイマーではなく加算タイマーが必要です。しかし、実際にストップウォッチを持参するようになるまで、恥ずかしながら私はこのことの重大性に気づいていませんでした。それまで、この減算タイマーをもとに、「45-35=?」「60-25=?」などという引き算を延々と続けてきたことは、頭の体操にはなったでしょう。しかし、加算タイマーを独自に持ち込んだことにより、選手の健康管理という「本来の業務」がかなり楽になったのは事実です。もっとも、加算タイマーを必要とする人物は、大食いをする当の選手たち以外に限れば、実は私ただ1人なのかもしれませんが・・・。

初めて私がストップウォッチを持参した2008年のハワイの女王戦(2008年3月30日オンエア)は、菅原初代さんの魅力満載の大会でした。この菅原初代なる人物、胃のトレーニング理論は実に体系的で、実際の試合のペース配分は実に戦略的でした(→理論派女帝・菅原初代の計算~元祖!大食い王決定戦 in Hawaii (1)、→大食い新世紀?!女帝降臨編~元祖!大食い王決定戦 in Hawaii (7)、→徹底検証?!大食いの資質(2)…胃ヂカラ・体格編(座高)、→徹底検証?!大食いの資質(4)・・・胃ヂカラ・体脂肪率編)。彼女と飛行機の中やロケの合間に会話したことは、いずれも「大食い競技」「大食い選手」を考えるうえで大変勉強になるものでした。ただし、私自身に大食い競技の素質も経験がないため、彼女の話を自分に置き換えて体感することができません。しかし、彼女の話をこの「加算タイマー」である甲子園仕込みのストップウォッチで追いかけることを覚えてからは、これが彼女の話の裏づけ(ないし予定の狂いなど)を把握する指標となり、ひいては他の選手のコンディションの理解方法として応用できることに気づき、私自身のロケの見方も変わってきたのです。

元をただせば「まぶしくてタイマーが見えない!」という切実な状況から思いついた、野球観戦グッズからの転用品でしかなかったストップウォッチでしたが、いまや大車輪の活躍をしています。オンエア映像では私の聴診器とともに、私の首もとのストップウォッチにも注目していただければ、また違う面白さを発見していただけるのではないかと思っています。