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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/03/13

大食いドクターのカバンの中身(2)・・・ペアン(?!)編

2005年の『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)に医師として初めて参加する1ヶ月ほど前、私は制作会社・ゼロクリエイトの小口基輝ディレクター(当時はAD)と初めてお会いしました。その際、過去の大食い番組では医師による健康管理・安全指導にはさほど気を配っていなかったと聞きました。それを、番組名も一新、リニューアルしての船出となる当番組では、番組内で健康被害や事故が起きることは死活問題となるため、絶対に回避しなくてはいけません。しかし、そんな大事な大会の割には、小口さんからの言葉には、あまり悲壮感がありませんでした。

「今大会に関しては、3年のブランクを経ての放送再開という事情があるので、大食いというのは医者の管理指導のもとにやってるんだよ~・・・誰でもどこでもやっちゃいけないんだよ~・・・というメッセージを画面に込めることが重要になります。だから、白衣と聴診器は必ず持ってきて下さい。それ以外は、オマカセです!」
「(それじゃコスプレやんけ!
・・・医者でなくても出来るんちゃうの?と思いつつもググッとこらえて)とおっしゃいますが、万一何か事故が起きたら、紹介状書くとか初期救急とかする必要があるんでしょう?どんなことを想定して準備したら良いでしょうか?」
・・・うーん・・・、先生の判断に、オマカセです!」

かくして、白衣と聴診器以外は何も必要物品を聞き出せず、私はとぼとぼと帰路についたのでした。

教えてくれないなら、考えるしかない
・・・!そう思ったとき、真っ先に脳裏をよぎったのが、番組放送自粛の原因となった、中学生の窒息事故のことでした。その内容が「パンの早食いによる窒息」だったことを考えるなら、大食い番組で最も警戒すべき事態は「窒息」なのではないか・・・私はそう考えたのです。

かくして、私が用意した物品は、「ペアン」でした。ペアンとは、手術でつかう鉗子の一種で、臓器や腫瘍などをはさんで動かしたりするためのものです。外見はハサミのように見えますが、刃は無く、はさむ面がギザギザしているので、つかんだものが滑り落ちないという特徴があります。

いざという時に、ノドに詰まった食べ物の塊を引っ張り出す必要がある
・・・という発想で、私は歯科用ミラー・手術用手袋・吸引チューブなどとともに、このペアンをコスメポーチに詰め込んで、初のロケに望んだのでした。

初の立会いとなった2005年春の一回戦は「宇都宮餃子30分勝負」でした。そして、そこで繰り広げられたバトルは、一体大食いってどんなんやろな~
・・・などと漠然と考えていた私の想像とは、まるで様相の異なるものでした。

まず、彼らの食べ方は意外とゆったりとしていました。もっとガツガツした光景を想像していた私にとって、これは驚きでした。というのも、この番組の試合は最下位1名のみが脱落する方式であり、最下位のペースを基準にして試合が進むため、上位の選手が100%のスピードで食べ急ぐ必要が無かったのです。

また、この大会は久しぶりの大食い番組でありながら新人戦でもありました。往年のスター選手との対決の実現には、この半年後となる2005年秋まで待たねばなりませんでした。従って、2005年春の時点では、大食い番組出場に賭けるすざまじい情熱も、勝利へのあくなき執念も、今ほどはヒートアップしていませんでした。

そんな雰囲気の中で、ペアンを持って待機する姿は、大食いスタッフにとっても司会者にとっても、おそらくとても間抜けだったに違いありません。すかさず司会の中村有志さんに突っ込まれ、その光景がよっぽどウケたのか、このシーンは本放送でもしっかりオンエアされました。

実は、大食いロケに入って、チーフプロデューサーと一杯傾けながら歓談するたびに、この時のことを笑い話として蒸し返されます。

「正直、先生が初めてあれ(ペアン)を持ってきたときは、意表をつかれて驚いたよ。でも、先生があれ持って待機している姿を見て、『なるほど~』と、妙に納得もしたんだ。この番組の選手ケアって色々あるから、いつも頭を悩ませるんだけど、結局一番怖いのは窒息なんだよね。それ以外は枝葉のこと
・・・とまでは言わないけど、とにかく窒息さえしなければ・・・という一番大事なことを、実は忘れてたかも」

一般に医師というものは、患者さんの病状を把握し治療計画を立てる際も、常に最悪の事態を頭にいれて、それを回避することを念頭に置きつつ診療しなくてはいけません。私も、その後色々と経験を積んだ結果、少なくとも当番組の大食い競技に関する限りは、咽頭レベルでの窒息がおきる可能性は低いということを学習しました。つまり、ペアンはロケかばんの中には必ずしも必要なものではなかったのです。

しかし、それから何年経っても、私はロケの準備の際に相変わらずペアンをカバンに入れています。なぜそうするのか、自分でも不思議です。きっと、ペアンを持って行こうと考えるに至った思考過程こそが、例え結論は間違っていたとしても、私にとっては意味のあることだったということなのでしょう。大食いロケでのペアン・・・それは私にとって、いささかの恥ずかしさを伴いつつ胸に刻まれた、忘れるべからざる初心の象徴なのであります。

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