Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/02/13

「人はなぜ大食いするのか?」(6)・・・日本の食文化編

ドイツの(庶民的な)レストランでは、料理の一皿あたりの分量が半端でなく多い上に、水やチップといった、料理本体以外の部分に非常に金がかかるというのが、先週のお話でした。最終的な支払い金額が高くなれば、それだけ客足が遠のくのは当然です。もったいないほどの食べ残しを見るたびに、「モッタイナイ精神」の日本人は心が痛んでしまいます。食べ残しを少しでも減らすのがエコという発想も漠然とあった私は、ある時、「それ、食べないなら私がもらいましょうか?」と申し出たのですが、その時に同僚から返ってきた答えは、非常に印象的なまでにドイツ的でした。

「そういう問題じゃないんだってば!食べ残しってのは、ボクの思慮分別(理性)の証なのさ(Das gehört zu meiner Vernunft)!」

私たち日本人は、米粒1つでも茶碗に残したら、「一生懸命お米を育ててくれた農家の人たちの努力を、アンタは台無しにするんか!」などと親に厳しく怒られたものでしたが、食べ残すことが「分別(ぶんべつ)」ならぬ「分別(ふんべつ)」とは、国変われば何とやらです。「どんなに小さな食べ残しも、自分の胃の限界や必要カロリー摂取量を元に熟慮した末の産物」との説明も、何だかいかにも研究職の理屈のようで、これまた印象的でした。

年配の世代が食べ残しに対して厳しかったのは、食糧難の時代をくぐり抜けてきたという彼ら自身の体験によるところが大きいのでしょう。しかし、それはドイツも同じことで、戦争を経験した世代には、そのような考え方の持ち主も当然多いです。しかし、そんな彼らであっても、「食べきれないものを無理に食べて苦しくなったら、体にも悪いし、食事が楽しくない」と割り切っており、この飽食の現代を生きる術としての「食べ残し」を、今では何の疑問も持たずに実践しています。

それよりもむしろ影響が強いのは、学校給食の差ではないかと思います。ドイツの学校の大多数は昼までに終わる半日制であり、学校給食というものは原則的にありません(最近、例外校も登場)。したがって、ドイツでは食習慣にまつわる教育・躾(しつけ)は親に一任されているということになります。それに比べて日本では、学校の教師が昼の給食時に「好き嫌い」「食べ残し」を厳しく禁止する風潮が大変強かった時期があったのは事実です(食物アレルギーの増加などでだいぶその傾向は緩和されているようですが)。

また、学校での課外活動が活発なのもドイツにはない特徴で、特に運動部では食品項目からカロリー数に至るまで徹底管理するケースもあります。このように日本国民は、仮に親が何もしなかったとしても、学校入学時から長期にわたり「食育」という名目で大きく介入を受けていると考えられ、それは「好き嫌い」「食べ残し」に対する負の意識(罪悪感 ? モッタイナイ精神 ? ) の啓蒙も含め、戦前の食料困難時代から続く価値観や食文化の継承に繋がっている可能性があります。

というのは、「好き嫌い」は「栄養バランスの偏り」、「食べ残し」は「食料自給率の低さ(廃棄食材の多さ)」という、現代日本を取り巻くキーワードとそれぞれ見事に対応しているからです。さらに国家レベルでは、「食育基本法」の制定 (2005年)などの法整備も進み、殊に「食習慣」に関する国の個人への介入の強さは疑う余地がありません。そして、強い大食い選手を輩出する土壌の一角は、実はそのあたりにもあるのではないかと私は疑っているわけです。

『元祖!大食い王決定戦』(テレビ東京)において、選手がおかわりをコールする場合、食べ終えて差し出す皿が汚いと、プロデューサーから「○△さん、それ、もっとキレイに食べてっ!」などと鋭い声が飛びます。ここでも、ただでさえ「食」に厳格な日本国における、さらに厳然たる「放送コード」の存在感に、思わずハッとさせられます。食べ残しの皿を「理性の証」と呼ぶセンスもユーモアも、日本では決して容認されないでしょう。

もっとも、大食い競技はその競技の性質上、仁義なき時間との戦いでもあり、ドイツ人の宴会での食べ残しなどとはそもそも比較できません。選手たちが、時間制限のない普段の会食などの際、それこそ「理性のかけらも残っていない(?!)」ほどキレイに料理を平らげていることは、私もこの目で確認済みです。

食べ物を大切にする我らが日本の美しい食習慣ですが、どうしてかの国ドイツではまるで定着する気配もないのでしょうか。来週はそのあたりについて、さらに考えていきましょう。

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465