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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/01/30

「人はなぜ大食いするのか?」(4)・・・ドイツ経済危機編

前回のコラムで、「大食い行為」と「飢餓」とは背中合わせであり、因果にも似た循環であることを説明してきました。世の中には、これを善悪で理解しようとする考え方が少なからず存在しますが、そうするとちょっと困ったことになります。というのも、これがもし悪なら、「医師」「看護士」「介護福祉士」といった医療従事職自体、この世に存在してはいけない危険職種ということになるからです。もっとも、深夜勤務に昼食抜きの重労働などは、何も医師に限った話ではありません。かつては、そのような激しい働き方は「働きバチ」(workaholic)などと諸外国から揶揄され、日本独特の現象であるかのような言われ方をしていた時代もありました。

しかし最近では、押し寄せるグローバリゼーションの波には対抗できず、社会福祉が充実しているとされてきたヨーロッパ諸国にも、冷たい風が吹き荒れ始めています。

私の住むドイツでは、昨今の深刻な世界不況のまっただ中にあって、失業率の低下と引き替えに、不当に低い賃金で重労働を強いられる人が急増していることが連日報道されています。まさに日本でいうワーキングプアです。それでいて、銀行の頭取などは億千万の年俸を得て、貧富の差は拡大の一途をたどっています。リーマン・ショック以降、最近ではテレビをつければ、この手の内容の討論番組を見ない日はありません。

家族を養うべき一家の大黒柱が、違法なほどの低賃金で派遣労働に従事するということは、何を意味するでしょうか。ちなみに、ドイツの報道では具体例がVTRでよく紹介されていますが、それを見るたびに「やっぱりここはドイツだな〜」と実感してしまいます。というのも、「一家の大黒柱」とされる人物が必ずしも男性とは限らないからです。そして、その扶養家族もまた、必ずしも「妻子」ではなく「夫子」(?)となる訳で、これまたとてもドイツ的です。

ドイツには比較的手厚い「児童手当」があるので、子供がお金をもたらすという側面はあります。それでも、肝心の親が超低収入となってしまうと、その「児童手当」は当の児童には流れにくくなります。父親や母親に飢餓感が擦り込まれ、規則正しい食生活を放棄せざるをえなくなるとしても、生活していくためにやむを得ないということは理解できます。ただ、私が危惧するのは、その子供たちの食習慣の行方です。親の貧困ゆえに、その子供が幼い頃より常に強い飢餓感に支配された生活を送るというケースは、その子供に長期的に何らかの陰を落とす(脳や内蔵への器質的な変化を含む)、具体的に言えば「大食いと飢餓の循環に陥らせる」可能性があるのではないか…などとつい考えてしまいます。日本ではバブル経済の崩壊以降、子供に三食をまともに提供できない親が増加していると、野球関係者から聞いたことがあります。ドイツでは今はそのような報道は出ていないものの、日本に遅れること十数年、今後顕在化してくる可能性があります。本来、「規則正しい食生活」や「栄養のバランス」などといった発想自体、子供時代の躾(しつけ)や生涯にわたる教育があってこその産物なのです。

恐らく、『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)での経験がなければ、私もそんな考えは微塵も思いつかなかったことでしょう。最近、妙にドイツの街角のあちこちで、1ユーロバーガー(日本でいう百円バーガー)をパクつく下校途中の小学生を見かける機会が増えました。(ドイツの)年輩者たちの経験した貧困とは明らかに質の違う「ネオ貧困」とでも言うべき厳しい時代の到来に、多くのドイツ人は不安と戸惑いを隠しきれないまま、寒い冬を過ごしているのが現状です。

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