2009/01/16
「人はなぜ大食いするのか?」(2)・・・医療従事者編(前)
『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)の東京予選と大阪予選が2月初旬に開催されます。興味深いのは、以前から当番組の予選に看護師や介護福祉士といった医療従事者が必ずといっていいほど参加していることです。また、本選出場経験者の中にも、昨年秋の覇者の「ドクター西川」こと西川廣幸さんや、2006年春の女王戦の決勝進出者の「ナース嘉数さん」こと嘉数千恵さん等がおりました。
かく言う私もまた医療従事者たる医師であります。そして、大食い選手たちと比べればその足下にも到底及びませんが、世間一般からみれば、どちらかといえば「よく食べるほう」に分類されるらしいです。そして、それは私が外科系医師であることと関係があると思います。
手術の執刀医たる外科医は、手術が終わるまで食事はもちろんトイレ休憩も許されません。当然ながら、手術が進むにつれて、お腹が空いてきます。しかし、人間とは不思議なもので、死ぬほどお腹が空いてくると、今度はかえって頭が冴えてきます。これは、血糖が下がると視床下部からの司令で交感神経系が活発化し、アドレナリンやコーチゾールなどのホルモンが動員され、体が戦闘モードになるということに由来します。もっとも、手術中の医師は、体のみならず心も戦闘モードで、目の前の患者さんのために手術を成功させることしか頭に無いので、空腹などどこ吹く風で、頭も手も冴えたまま、手術は順調に進んでいきます。
ここで仮に、手術途中で食事休憩を取ったら、どういうことになるでしょうか。この場合、個人差があるとは思いますが、手術に支障をきたす可能性が高いと考えられ、その理由は二つあります。まず、一般論として人は満腹になると眠くなる、ということが第一の理由です。満腹感に続く猛烈な睡魔を断ち切り、再び手術室に戻っていくのは、下手したら手術中の空腹に耐えるよりも過酷かもしれません。
第二の理由として、それまで持続していた緊張を一旦切ってしまうと、休憩後に集中力を元のモードに戻すのが容易でないということが考えられます。執刀医が手術中に食事休憩をとらないのは、こちらの理由の方が大きいかもしれません。同様の現象は実は高校野球界にも存在します。五回表裏終了後、グラウンド整備のため試合が中断するのですが、その小休止の直後(つまり六回表裏)に投手が打たれやすいという経験則が有名で、全国の監督さんの警戒するところとなっています。
話は戻り、脳外科の手術などは(稀ではありますが)20時間を超えるものもあり、さすがにそのような長時間手術の場合、水やジュースの補給は必要です。それでも、固形物は原則として摂らないことが多いようです。従って、長時間の手術およびカルテ・指示書の記入を終えてようやく医局に戻ってきた時、もう外科医は腹ペコのヘロヘロ状態です。それは時として、「お腹が空いている」などというレベルを大きく飛び越えた、「飢え」にも近い状態になり得ます。
想像してみて下さい。前述の腹ペコ・ヘロヘロ医者は、机の上に置いてある出前の宅配ピザを目にした瞬間、どのような感情を覚えるでしょうか?おそらく、私に限らず世の外科医たちは、「あー、やっと念願の食事にありつける…こうなったらもう、食べて食べて食べまくってやる!」という、どこかの番組で聞いたようなフレーズを脳裏に浮かべること間違いなしでしょう。そして、太鼓をたたく司会者もカメラクルーもいない深夜のわびしい医局で、我先におかわりを競う大食い選手権のように、彼らは目の前の冷め切ったピザでその空っぽのお腹を満たすのです。
ちなみに、あの大食い女王・菅原初代さんもまた、「腹が減ると頭が冴える」という内容の発言を、ロケの合間にされていました。医師が手術中に空腹に耐えるのは、自分の意思ではなく強制された行為ですが、その後に続く食事には、大食い選手の大食い生活との共通点も見えてきます。『元祖!大食い王決定戦』に医療従事者の参加が多い理由の一端をそこに見ることができるのかもしれません。「大食い選手はなぜ大食いするのか」という問いの答えを、「外科医の大食い」を通して浮かび上がらせることは可能でしょうか?来週は、この点についてもう少し掘り下げてみたいと思います。
かく言う私もまた医療従事者たる医師であります。そして、大食い選手たちと比べればその足下にも到底及びませんが、世間一般からみれば、どちらかといえば「よく食べるほう」に分類されるらしいです。そして、それは私が外科系医師であることと関係があると思います。
手術の執刀医たる外科医は、手術が終わるまで食事はもちろんトイレ休憩も許されません。当然ながら、手術が進むにつれて、お腹が空いてきます。しかし、人間とは不思議なもので、死ぬほどお腹が空いてくると、今度はかえって頭が冴えてきます。これは、血糖が下がると視床下部からの司令で交感神経系が活発化し、アドレナリンやコーチゾールなどのホルモンが動員され、体が戦闘モードになるということに由来します。もっとも、手術中の医師は、体のみならず心も戦闘モードで、目の前の患者さんのために手術を成功させることしか頭に無いので、空腹などどこ吹く風で、頭も手も冴えたまま、手術は順調に進んでいきます。
ここで仮に、手術途中で食事休憩を取ったら、どういうことになるでしょうか。この場合、個人差があるとは思いますが、手術に支障をきたす可能性が高いと考えられ、その理由は二つあります。まず、一般論として人は満腹になると眠くなる、ということが第一の理由です。満腹感に続く猛烈な睡魔を断ち切り、再び手術室に戻っていくのは、下手したら手術中の空腹に耐えるよりも過酷かもしれません。
第二の理由として、それまで持続していた緊張を一旦切ってしまうと、休憩後に集中力を元のモードに戻すのが容易でないということが考えられます。執刀医が手術中に食事休憩をとらないのは、こちらの理由の方が大きいかもしれません。同様の現象は実は高校野球界にも存在します。五回表裏終了後、グラウンド整備のため試合が中断するのですが、その小休止の直後(つまり六回表裏)に投手が打たれやすいという経験則が有名で、全国の監督さんの警戒するところとなっています。
話は戻り、脳外科の手術などは(稀ではありますが)20時間を超えるものもあり、さすがにそのような長時間手術の場合、水やジュースの補給は必要です。それでも、固形物は原則として摂らないことが多いようです。従って、長時間の手術およびカルテ・指示書の記入を終えてようやく医局に戻ってきた時、もう外科医は腹ペコのヘロヘロ状態です。それは時として、「お腹が空いている」などというレベルを大きく飛び越えた、「飢え」にも近い状態になり得ます。
想像してみて下さい。前述の腹ペコ・ヘロヘロ医者は、机の上に置いてある出前の宅配ピザを目にした瞬間、どのような感情を覚えるでしょうか?おそらく、私に限らず世の外科医たちは、「あー、やっと念願の食事にありつける…こうなったらもう、食べて食べて食べまくってやる!」という、どこかの番組で聞いたようなフレーズを脳裏に浮かべること間違いなしでしょう。そして、太鼓をたたく司会者もカメラクルーもいない深夜のわびしい医局で、我先におかわりを競う大食い選手権のように、彼らは目の前の冷め切ったピザでその空っぽのお腹を満たすのです。
ちなみに、あの大食い女王・菅原初代さんもまた、「腹が減ると頭が冴える」という内容の発言を、ロケの合間にされていました。医師が手術中に空腹に耐えるのは、自分の意思ではなく強制された行為ですが、その後に続く食事には、大食い選手の大食い生活との共通点も見えてきます。『元祖!大食い王決定戦』に医療従事者の参加が多い理由の一端をそこに見ることができるのかもしれません。「大食い選手はなぜ大食いするのか」という問いの答えを、「外科医の大食い」を通して浮かび上がらせることは可能でしょうか?来週は、この点についてもう少し掘り下げてみたいと思います。





