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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/12/19

徹底検証?! 大食いの資質(11)・・・のどヂカラ・「鵜飼いの鵜?」(後編)

「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)に登場する選手の資質を検証する当コラムは、「のどヂカラ」についての検証を続けてきました。また、当番組発足前、大食い番組が3年間放送を自粛した経緯として、パンによる窒息事故があったことも、当コラムで繰り返し述べてきました。このような事故を今後繰り返さ ないためにも、ここでは発想を少し変えて、食べ物が詰まりにくいノドとはどんなノドか、という観点から、「首の太さ」について考察を加えてみたいと思いま す。これは、前回コラムに出てきた、鵜飼いの世界における「いい鵜の条件」の2番目に相当しますが、大食い選手の資質の1つである可能性もあります。

まず、一般論として考えてみましょう。台所のシンクや洗面台を例にとるまでもなく、排水管の直径が太い方が、排水のスピードは当然速くなります。ということは、狭いノドより広く太いノドの方が、食べ物は詰まりにくく、より速く先送りされると考えて矛盾は無さそうです。そもそも、食べ物が胃まで到達するための通過部位とは、「口腔・咽頭・食道」の3つのみです。大食い選手といっても、別のルートがある訳ではありません。それでは、どういう時に食べ物はノドに詰まるのでしょうか?1つには、食べ物の径の方が、その通過部位よりも(大きく)上回るケースが考えられます。つまり、食べ物をよく噛まずに丸飲みした場合に、このようになります。

これは、「鵜飼いの鵜」にも言える話です。もっとも、鵜は首の長い鳥なので、「口腔・咽頭・食道」のうち、食道が首のレベルのうち相当長い距離を占めているはずです。そして、人間界の大食い競技と異なる重大なポイントもあります。それは、鵜飼いの鵜は、噛まずに魚を丸飲みするのが商売だということです。 鵜飼いの匠が首の太い鵜をより高く評価するのは、商売を可能にする解剖学的特徴を備えた鵜という動物同士の比較においての話です。人間が真似をするのは無 謀かつ非常に危険な行為であるということは、言うまでもありません。

人間の食道は、首のレベルの走行距離よりも、胸郭内の走行距離の方が圧倒的に長い点が、鵜の首とは異なります。そして、胸郭内における食道は、その周囲の組織が比較的柔らかくて動きやすいのに対し、首のレベルでの咽頭・食道の場合、周囲には硬い組織が密集しており、しかも可動性のないものが多いため、食べ物の通過ルートが伸び縮みしにくい構造になっています。このため、大きな塊の食べ物の通過速度を競う競技があるとすれば(注※)、首が太い選手の方が有利であることは、医学的には理にかなっていると言えるでしょう。

もっとも、首の太さとノドの大きさとが比例しないケースも珍しくありません。マッチョの人や肥満の人のノドが意外とコンパクトな場合があります(後者は 睡眠時無呼吸症候群の原因となります)。首全体に占める筋肉や脂肪の比率は人それぞれなので、正確に把握するためには頚部のMRIやCTなどが必要になります。番組の健診では当然そこまでカバーできないので、外から太さが見える首について触診などで観察するとともに、口の中からも実際にノドの広さをチェックするようにしています。

ちなみに、食道腫瘍や食道炎などの疾患が背景にあるケースでは、胸郭内の食道の伸びが悪くなります。これらの疾患の既往歴がある人は、大食い競技に参加 すべきでないのはもちろん、日頃から暴飲暴食や早食いの習慣があればそれを無くし、水分をこまめにとりながら食べ物を良く噛むように指導します。

水分の摂取もまた、忘れてはならない大変重要な要素です。餅やパンがノドに詰まりやすいのは、それらがノドの粘膜に貼り付いてしまい、滑りが悪いことにも原因があります。「元祖!大食い王決定戦」で番組スタッフが、競技前のみならず競技の最中にも、水分のこまめな摂取をしつこいほど呼びかけているのは、そういう意図もあるのです。

2009年の日本のお正月こそは、お餅による窒息事故の報道のない、のどかで静かな新年になることを期待したいと思います。


(注※) 日本を代表する大食いフードファイター・小林尊さんの参加で有名になった、アメリカのネイサンズ・ホットドック早食い選手権は、まさにこのカテゴリーに入ると考えられます。