2008/09/19
大食い生体実験系?(3)~スポーツドリンクの巻~
大食いファン待望のテレビ東京の看板番組(?!)「元祖!大食い王決定戦」は、いよいよ9月28日オンエアの予定です(予選版14:00~16:00、本選19:00~22:00)。大食い史上に残るであろう熱戦の数々を、是非お楽しみいただければと思います。
さて、以前の当番組のロケで、ある選手がスポーツ飲料の大量摂取にまつわる興味深い体験談を語っていました。これは医学的にも大変教訓的な内容でしたので、今回はこの話を少し考察してみようかと思います。
当番組に出場する大食い選手たちは、炭酸入りの清涼飲料水が好きな人が非常に多い印象があります。ロケバスの後部座席では、競うように2Lのペットボトルからコーラ等を豪快に飲み干す選手の姿を見かけます。そして、飲み物を買い出しに行くのは当然、制作会社『ゼロクリエイト』の若きADさんの役目です。彼らは番組特製の紺色のハッピを着ながら、選手の細かいリクエストに応えつつ、いつも重い袋を抱えて息を切らしながらコンビニとの往復に励む、番組の縁の下の力持ちです。
そんなロケ道中に、ある選手が「あれには懲りた!」とロケバス内で熱く私たちに語ってくれたのが、「スポーツ飲料のガブ飲みでの恐怖体験」です。
その選手いわく、ある日、普段コーラをガブ飲みするのと同じ感覚で、2Lのペットボトルに入ったスポーツ飲料をグビグビと飲みほしたところ、突然、猛烈なめまいと頭痛・吐気に見舞われ、さらに動悸も襲ってきて気が遠くなったそうです。ちなみに、他のジュースではそのような体験は無かったそうです。医学的には、この現象は「水中毒」と呼ばれ、急激な水分吸収に排出が追いつかないことにより、体に水が溜まりすぎてしまうことを意味します。
仮に、普通の水2Lをガブ飲みしたと仮定しましょう。すると、風船の中に水を入れていくように、胃腸の中に2Lの水が溜まります。しかし、胃腸の壁からの水分吸収のスピードには限度があり、その2Lの水が丸ごと瞬時に血液内に移動するわけではなく、吸収される段階に応じて、血管内に入るまでにタイムラグがあります。先の風船の例で言えば、通常は風船のゴム膜にミクロの穴が無数にあってそこからじわじわ水漏れするか、風船の反対側に蛇口があってそこから排水されていくというイメージです。排水が進むことによって、風船は少しずつしぼんでいくのですが、風船内の水が瞬時に風船の外側に移動するなどという、マジシャンやイリュージョニストの「瞬間移動」のような芸当は、引田天功さんには出来ても、我々の人体では到底無理でしょう。
それが引田天功さんでなくても可能になるのは、例えば過剰な量の水分を点滴した場合です。このケースでの「風船」とは、胃腸のことではなく、点滴台にぶら下がっている点滴バッグのことです。その中身が胃腸を経由せずにいきなり血管内に入れば、血液の「濃さ」が急に変わってしまうため、脳や肺などにその水が移動し、水びたしになってしまいます(脳浮腫・肺水腫etc.)。これが水中毒であり、生命に関わる大変危険な病態です。
これが点滴ではなくスポーツドリンクの場合、どうなるでしょうか?スポーツドリンクはそもそも、胃腸の壁からすみやかな水分吸収を実現するために、血液との浸透圧差を抑えた飲料として開発されました。この風船のモデルでいえば、壁の無数の「ミクロの穴」を広げて排水を促すトリックが、壁の方ではなく、水の方に仕掛けられているということです。熱中症や脱水に見舞われた際に、いちいち病院で点滴針を刺されなくても、グラウンドや路上である程度対応できるようになったのは、スポーツドリンクの大きな功績と言って良いでしょう。ただ、かつてスポーツドリンクを開発した人々は、2Lもの飲料を一気に飲み干す胃袋の容量を持つ人間の存在には思いが及ばなかったのでしょう。
思えば、当番組では試合毎に、選手が自分の飲みたい飲み物を指定できるのですが、スポーツドリンクを指定してきた人はいませんでした。ひょっとしたら、口にこそ出さないものの、みんな過去に同様の苦~い経験があったのかもしれません。
最近の大会では、ロケ先の立地の都合などで、あまり珍しい飲料を大量に用意すること自体が困難なため、スタッフがあらかじめ選択肢を「水」「ウーロン茶」「緑茶」の三種類に限定するようになりました。それでも、「氷入りor氷無し」「冷えたものor常温」といった注文にはキメ細かく応じています。また、飲み物を複数種類揃えることや、氷のみを入れた容器を用意することなど、選手の要求も多様化してきました。そんな次世代型大食い選手の皆様のコップには、少しでも納得のいく悔いの残らない試合をしてもらいたいという、スタッフの精一杯の誠意がなみなみと注がれているのです。誰がどの飲料をどの温度で要求するか・・・そんなことも、オンエア映像でじっくりチェックしていただければ、大食い番組をより深く楽しめること請け合いです。
(「大食い生態実験系」は不定期連載を予定しています)
さて、以前の当番組のロケで、ある選手がスポーツ飲料の大量摂取にまつわる興味深い体験談を語っていました。これは医学的にも大変教訓的な内容でしたので、今回はこの話を少し考察してみようかと思います。
当番組に出場する大食い選手たちは、炭酸入りの清涼飲料水が好きな人が非常に多い印象があります。ロケバスの後部座席では、競うように2Lのペットボトルからコーラ等を豪快に飲み干す選手の姿を見かけます。そして、飲み物を買い出しに行くのは当然、制作会社『ゼロクリエイト』の若きADさんの役目です。彼らは番組特製の紺色のハッピを着ながら、選手の細かいリクエストに応えつつ、いつも重い袋を抱えて息を切らしながらコンビニとの往復に励む、番組の縁の下の力持ちです。
そんなロケ道中に、ある選手が「あれには懲りた!」とロケバス内で熱く私たちに語ってくれたのが、「スポーツ飲料のガブ飲みでの恐怖体験」です。
その選手いわく、ある日、普段コーラをガブ飲みするのと同じ感覚で、2Lのペットボトルに入ったスポーツ飲料をグビグビと飲みほしたところ、突然、猛烈なめまいと頭痛・吐気に見舞われ、さらに動悸も襲ってきて気が遠くなったそうです。ちなみに、他のジュースではそのような体験は無かったそうです。医学的には、この現象は「水中毒」と呼ばれ、急激な水分吸収に排出が追いつかないことにより、体に水が溜まりすぎてしまうことを意味します。
仮に、普通の水2Lをガブ飲みしたと仮定しましょう。すると、風船の中に水を入れていくように、胃腸の中に2Lの水が溜まります。しかし、胃腸の壁からの水分吸収のスピードには限度があり、その2Lの水が丸ごと瞬時に血液内に移動するわけではなく、吸収される段階に応じて、血管内に入るまでにタイムラグがあります。先の風船の例で言えば、通常は風船のゴム膜にミクロの穴が無数にあってそこからじわじわ水漏れするか、風船の反対側に蛇口があってそこから排水されていくというイメージです。排水が進むことによって、風船は少しずつしぼんでいくのですが、風船内の水が瞬時に風船の外側に移動するなどという、マジシャンやイリュージョニストの「瞬間移動」のような芸当は、引田天功さんには出来ても、我々の人体では到底無理でしょう。
それが引田天功さんでなくても可能になるのは、例えば過剰な量の水分を点滴した場合です。このケースでの「風船」とは、胃腸のことではなく、点滴台にぶら下がっている点滴バッグのことです。その中身が胃腸を経由せずにいきなり血管内に入れば、血液の「濃さ」が急に変わってしまうため、脳や肺などにその水が移動し、水びたしになってしまいます(脳浮腫・肺水腫etc.)。これが水中毒であり、生命に関わる大変危険な病態です。
これが点滴ではなくスポーツドリンクの場合、どうなるでしょうか?スポーツドリンクはそもそも、胃腸の壁からすみやかな水分吸収を実現するために、血液との浸透圧差を抑えた飲料として開発されました。この風船のモデルでいえば、壁の無数の「ミクロの穴」を広げて排水を促すトリックが、壁の方ではなく、水の方に仕掛けられているということです。熱中症や脱水に見舞われた際に、いちいち病院で点滴針を刺されなくても、グラウンドや路上である程度対応できるようになったのは、スポーツドリンクの大きな功績と言って良いでしょう。ただ、かつてスポーツドリンクを開発した人々は、2Lもの飲料を一気に飲み干す胃袋の容量を持つ人間の存在には思いが及ばなかったのでしょう。
思えば、当番組では試合毎に、選手が自分の飲みたい飲み物を指定できるのですが、スポーツドリンクを指定してきた人はいませんでした。ひょっとしたら、口にこそ出さないものの、みんな過去に同様の苦~い経験があったのかもしれません。
最近の大会では、ロケ先の立地の都合などで、あまり珍しい飲料を大量に用意すること自体が困難なため、スタッフがあらかじめ選択肢を「水」「ウーロン茶」「緑茶」の三種類に限定するようになりました。それでも、「氷入りor氷無し」「冷えたものor常温」といった注文にはキメ細かく応じています。また、飲み物を複数種類揃えることや、氷のみを入れた容器を用意することなど、選手の要求も多様化してきました。そんな次世代型大食い選手の皆様のコップには、少しでも納得のいく悔いの残らない試合をしてもらいたいという、スタッフの精一杯の誠意がなみなみと注がれているのです。誰がどの飲料をどの温度で要求するか・・・そんなことも、オンエア映像でじっくりチェックしていただければ、大食い番組をより深く楽しめること請け合いです。
(「大食い生態実験系」は不定期連載を予定しています)





