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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/09/05

大食い甲子園(4)・・・元・高校球児の場合

毎年、3月末~4月初めの選抜高校野球大会に併せて来阪する関係で、関西の高校や大学の健康診断医のお仕事を受ける機会が増えました。最近の依頼先には関西六大学野球連盟や京滋大学野球加盟の私立大学数校が含まれ、受診者として来場する多くの硬式野球部員さんとお話させていただきました。彼らが私のブースに来ると、ついつい野球の話で盛り上がってしまいます。グラウンドを離れた彼らはフツーの学生と変わらない表情を見せてくれますが、時には、指導者にも言えないような本音を打ち明けてくることもあります。

ある日、某強豪大学野球部を引退して数ヶ月経つ学生が私のブースに入ってきて、かなり深刻そうな表情で告白してきました。
「部活を引退してから、肥えてきて、肥えてきて、自分ではどうにもならんのです」
聞くところによると、彼は少年野球・中学・高校と、比較的高いレベルで硬式野球を続けてきた人物で、大学野球の世界では残念ながらあまり活躍できず、就職を機に野球から離れることになったそうです。しかし、競技者(アスリート)としてそれまで育成されてきた中での食習慣は、そう簡単に変えることはできないのか、引退を機にどんどん太りだしたとのことです。本人は戸惑いの表情を浮かべ、何をどうしたら良いのか分からないと言います。
「部活をやめても、食欲は収まらんのです・・・どうしても我慢しきれんで、食べだしたら途中で止められへん・・・運動せんようになったんやから、(食事量を)減らさなアカンことは、自分でもよう分かってるんですけど・・・」
これは、今どきの元・硬式野球部員の抱える厳しい現実を教えてくれる貴重な証言でもありました。同時にこの話は、私たちに大変重要なことを訴えています。人間というものは、消費カロリーの増減にかかわらず、一度身についた食習慣を変えることが大変困難な生き物だということです。これは実は、大食い番組を観る際の大変重要なポイントの1つでもあります。

野球に話を戻しましょう。仮に、12歳頃から野球選手として有望視され、22歳で選手生活を断念したとすると、「野球人」としての大食い人生は約10年になります。十年来の大食いが習慣化した場合、ある日突然普通の食生活に戻せと言われても、既に胃が拡張しきっていたり、脳が満腹を感じなくなっていることは、医学的にも十分に想定できます。しかも、社会に出てからは、宴会や接待といった、日本社会に広く深く根づいた大食いの機会(アルコールも含む)が彼らを待ち構えています。食事制限をしたい人がそれを実行できる職場環境が整っていなければ、そして、運動レベルを元に戻すチャンスも時間も無いのなら、肥満が進行するのは必然というものです。

前述の元・高校球児に関していえば、彼が野球選手として有望視された時期が全く無かったとしたら、このような事態にならずに済んだかもしれません。ただ、彼のように、自分で事態を把握して悩んでいる人は、まだ良い方でしょう。原因に気づいていればこそ、重大な健康被害に至る前に、無事に大食い習慣から抜け出せる可能性は十分あります。そのためにも、大学の保健室や会社の健康管理室といった場所が、このような「元・アスリート」が「アスリート生活」から上手に離脱するための相談相手かつ指南役としての役割を果たしていくことが、今後ますます重要な意味を持つことになるでしょう。

高校野球における「大食い」が意味を持つ背景には、野球界独特の構造もまた大きく関与していると思われます。この点について、来週考えてみたいと思います。

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