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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/08/22

大食い甲子園(2)・・・現役高校球児の場合

   大食い甲子園(2)…現役高校球児の場合

大食いファンのみなさまの熱気にも負けない一大行事、第90回全国高等学校野球選手権大会(朝日新聞社主催)は、偶然にも大食い予選と同じ8月2日に開幕し、大阪桐蔭高校(北大阪)の優勝で幕を閉じました。私も連日の観戦で、すっかり日焼けしてしまいました。
 先日観戦した甲子園での試合で、朝日放送のアナウンサーがある投手のことを次のように紹介していました。
「彼は、高校入学時は57キロしかなかった選手でしたが、食べて、食べて、85キロにまでなりました!」
彼は今年入学したばかりの一年生、身長176cmの大型サウスポーです。その体格はとても一年生とは思えないもので、お腹周りにもすでに貫禄があります。彼は今大会では、先輩投手を好救援してチームの勝利に貢献した、守護神のような存在でした。まだ一年生ということは、この選手は高校入学後わずか4カ月で体重が28kgも増えたということになります。

大食いファンの場合、この「食べて、食べて」という連呼部分を、どこかで聞いた覚えがあると感じるのではないでしょうか。
司会:「食って、食って、食いまくるぞーっ!」
選手一同:「オーっっ!」

これは、「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)に毎回収録される、お約束のセリフです。私もすっかり大食いファンの思考パターンに染まってしまったようです。
しかし、ちょっと待って下さい。わずか4ヵ月で28キロ…そんな急激な体重変化って、体に害は無いものなのでしょうか?

176cmで85kgである彼の場合、国際的な体格判定法であるBMI(Body Mass Index)は27.4 (注1)、肥満度は33.6%(注2)となります。もっとも、BMIとはそもそも大人のみに適用される指標で、高校一年生という成長期にある彼をこの数値で評価することは時期尚早です。ちなみに成人の場合、BMI 25.0以上が肥満、19.8未満が痩せと定義され、最も健康被害の出にくいのはBMI22.0程度とされています。また、肥満度は小児肥満の判定にも使用可能な指標で、30~39%は中等度肥満に相当しますが、実際はこれに体脂肪率も加味する必要があります。

BMIの判定対象があくまでも成人に限定されているのは、成長期の少年や青年の体格があくまでも過渡期にあるからです。また、スポーツ選手のように筋肉質で体脂肪が少ないケースでは、BMIが高くても肥満とは言えず、健康上の危険もないとされています。

それでは、高校球界は何故、「食って、食って、食いまくれ!」と唱えるのでしょうか。それは、現代野球がパワーを求められる時代になったからです。高校生離れしたパワー野球「やまびこ打線」で関係者に多大な衝撃を与えた1982〜1983年夏春連覇の池田高校(徳島)あたりがターニングポイントだったでしょうか。今や、合理的なスポーツ医学理論に武装されたウェイトトレーニングやバッティングマシン導入などは当たり前になりました。その上、さらに選手個人の体格を大きくすることで、筋力や持久力を向上させるべく、高校野球指導者は15~18才の成長期の男子に、「毎食おにぎり追加」や「どんぶり飯三杯以上」などといった、大食い番組もビックリの『食のノルマ』を課すケースが増えているのです。

ただ、小児肥満は世界的な傾向であり、特に日本ではバブル経済の頃(1985~1991年)を境に特に急速に増大したとされます。その頻度は2007年時点で思春期男子の12%とされています。このトレンドが高校野球にも影を落としているということはないのでしょうか?次回は「高校野球の指導者」に注目して、そのあたりの事情を明らかにしたいと思います。

(注1): BMI = 体重(kg)/身長(m)2
(注2): 肥満度(%)=(実測体重―標準体重)÷標準体重×100:本ケースでは176cmの場合の標準体重63.6kg(16才)から算出

参考資料
メルクマニュアル家庭版 156章 肥満
文部科学省発行 「平成18年度学校保健統計調査書」
国立成育医療センター 「糖尿病等の生活習慣病対策を推進するための方策について 小児期の生活習慣病対策」