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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/07/04

大食い生体実験系?(1) 〜キャベツの巻〜

大食い番組のロケに健康管理ドクターとして帯同するようになって、すでに3年が経ちました。その間、多くの現役大食い選手や元・選手たちとの交流を通して、大食い界の色々な側面を垣間見てきましたが、その中でも特に印象が深かったのは、大食いの前後に大食い選手に観察される身体的変化や、彼らの率直な体験談の数々でした。これらはまさに「大食い生体実験系」とでも呼びたくなる性質のもので、医学生時代や勤務医時代に学んだのとは一風変わった、それでいて妙に納得してしまう医学知識がふんだんに盛りこまれています。

今週から数週にわたり、そんな不思議な世界へと皆様をご案内します。

<生野菜の大食いにご用心>
「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)といえば、大食い番組全体の長い放送自粛期間を経て、2005年4月に満を持して放送開始となった大食い番組です。自粛明けの番組である以上、健康トラブルはご法度ということで、スタッフはもちろん、大食い番組ロケの帯同医師なる職務は全く初めてとなる私は、特に張り切ってこのロケに臨んでおりました。しかし、この栄えある第一回放送で私は、いきなりドえらいハプニングに見舞われてしまうのでした。

1回戦で宇都宮餃子の大食いを勝ち抜いた選手6名は、2回戦のキャベツの千切りの大食いに進みました。イメージとしては、「トンカツ屋さんでのキャベツおかわり無料」といったところでしようか。ただし、トンカツ・ご飯・味噌汁はおかわりできず、キャベツの味付けは「ドレッシング」「マヨネーズ」「塩」の三種類のみというのが条件でした。

実はこの本番収録中、私は司会の中村有志さんからマイクを向けられています。「キャベツの大食いというのは、医学的にどうですか」という趣旨の質問でした。これに対し、私が「キャベツは繊維質で消化が悪い」と答えたところ、「う~ん」とスタッフが考えこみ、この質問は使えないということになりました。実際、このやりとりはオンエアされていません。どうやら、私の返答はスタッフの求めていたものとは違ったようでした。

スタッフは、「キャベツ=ヘルシー」という答えを期待していたようで、このやりとりの過程で私は思いました。2回戦に、トンカツの大食いではなくキャベツの大食いを選んだ理由は、制作費の限界などの金銭的なものではなく、「自粛明け」を意識した結果なのではないかと。1回戦に油分の多い餃子を大食した後は、野菜をたくさんとりましょう…というシナリオだったのかもしれません。何故なら、この第一回大会で健康被害が出ることは番組の即死に等しく、他ならぬ制作会社スタッフこそがそのことを最も警戒していたからです。従って、彼らがこの手の出費増大を惜しむとは、私にはどうしても思えないのです。

しかし、このキャベツの大食いの結果は、翌朝のロケバス内での悲惨な光景となって私たちの肝を冷やすことになりました。ほとんどの選手が、ロケバスの後部座席で、頑固な便秘による腹痛にのたうちまわり、苦悶に顔を歪めていたのです。これを観て私は、いわゆる「サラダダイエット」の極端な副作用を見た思いがしました。生野菜の中でも、生キャベツの繊維は頑丈というか消化に悪い上に、腸内での滑りも悪いようです。事前にドレッシングを振りかけようともマヨネーズをまぶそうとも、それは所詮コーティングでしかなく、消化液がすっかり洗い流してしまいます。彼らの腹部を触診すると、そうして残った繊維質はあたかも巨大な毛玉ロールのごとく、亢進する腸蠕動に対抗しつつ、いたる所をバリケード封鎖している様子が、文字通り「手に取るように」触れるのです。

初仕事でいきなりこれかと冷や汗かいて、一時はどうなるかと思いましたが、午前中にはみんな何とか「毛玉ロール」の排出に成功し、3回戦以降は大きなトラブル無くロケ終了を迎えることができました。この一件でつくづく思いましたが、人生には程よい油分も必要なようであります。