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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/05/23

大食い新世紀?!女帝降臨編〜元祖!大食い王決定戦in Hawaii(7)

時は2008年3月2日、ハワイ時間で12時30分。「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)も、様々な紆余曲折を経て、無事に決勝にこぎつけることができました。決勝戦に臨む宮西亜紗美、菅原初代、正司優子の3人が、ハワイのショッピングセンターの特設ステージを上がっていきます。

他の競技の場合、決勝戦というのはいわゆるフィナーレです。大会の中で一番盛り上がってしかるべきでしょう。しかし、この試合に関しては最初から様子が違い、何だか不思議な静けさが流れていました。

最初は、これまでのコラムに書いたような、ギャル曽根さんが敗退したことによるスタッフの混乱や、台本との相違からくる違和感かと思いました。決勝進出者の3名の中で、明らかに1人の実力が飛び抜けていたこともあり、試合前の「誰が勝つのか?」的なワクワク感がスタッフの中にあまり無かったことも一因かもしれません。

しかし、決勝戦が始まり、名司会・中村有志さんの軽快な語り口で試合が進むうち、そのベールを脱ぐかのように、その意味する所が見えてきました。

私と菅原さんは、ロケの合間や往路の飛行機などで色々な話をしましたが、その中で印象的だった内容が2つありました。1つ目は、彼女が私のコラムを「全て読んでいる」と言ったこと、そして2つ目は、彼女が大食いをするのは「自分に自信を持ちたいから」と言ったことでした。当サイトで「女帝」と書かれたことについてはしきりに照れていた彼女でしたが、実生活では一児の母としての堅実な現実を生きながらも、この決勝では、というより、決勝のこの日こそは、本物の女帝としての威厳を体現しようとしている・・・そんな風に見えました。

といっても、前半で飛ばしたリードを守りきる先攻逃げ切りの戦略や、攻撃的な目つきで「おかわり!」と叫ぶスタイル自体は変わりません。しかも、一週間に渡る長期ロケに伴う胃の調子の低下などもあり、彼女は自分との戦いにはやや苦戦していたようでした。それでも、彼女はこれまでにない勝ち方、ただ勝つだけではないそれ以上の何かを求めて模索しているようにも見えました。実際、両サイドとの戦いに関してはまさに圧勝で、2位に5杯差をつけてハワイ大勝軒のラーメンを20杯完食した彼女は、ついに悲願の初優勝をその手につかみ取ったのです。

しかし、私を含め、周囲が本当に驚いたのは、実はこの後でした。撮影終了後、妊婦のように大きく膨れた腹を気にする様子も無く、彼女は涼しげな顔でステージ中央から深々と頭を下げ、大きな声で観客に感謝の辞を述べ始めたのです。

「どうもありがとうございましたぁ!」

つい先ほどまで冷や汗を流しながらラーメンをすすっていた女性は、後でその行為の理由を私にこう説明してくれました。

「試合終了後にどうしても観客の皆さんにしっかりとお礼を言いたかった」

今回で7度目の大食いロケ帯同となる私ですが、決勝戦後に優勝者がこういうことをするシーンは、これまで1度も見たことがありませんでした。あのお辞儀の時点で彼女の腹の中には、ラーメンと水分を合算して、少なく見積もっても6キロは腹に納まっていたはずです。私だったら、6キロの荷物を腹に括り付けた状態では、お辞儀どころか、立っているだけでも精一杯、下手に動いたら確実にぎっくり腰でしょう。あの時ほど菅原さんが神々しく見えた瞬間はありませんでした。

ちなみに、ヨーロッパに戻ってからというもの、あちこちで牛の放牧の光景を目にすることが増えました。牛は、緑に茂る芝生を、立ったままモリモリと食べていきます。そして、満腹になった牛から順に、腹を地面にピタッとくっつけるようにしてうずくまります。胃腸の消化活動に体を専念させるためです。この光景はなかなか壮観です。この牛たちは、「食物の消化」というのは実は結構体力のいる仕事なのだという、当たり前ながら私たちが忘れがちなことを教えてくれます。

菅原さんが決勝戦を終えてもこれらの牛のようにはならなかったこと、体力を消耗してでも表現したかった思いがあったこと、それを一世一代の大舞台できっちり形にすることができたこと・・・今大会での菅原初代さんは、あらゆる悲願を実現できた輝かしい女性でした。そして、その輝きとはまさに、大食い界における新世紀の幕開けと、それを彩る女帝降臨を同時に告げる号砲だったのかもしれません。