大食い珍道中(2)〜 業界用語編(前)
さて、ちょうど今頃、日本のどこかで「元祖!大食い王決定戦」(テレビ東京)の撮影が行われています。海外行きの切符を賭けた熾烈な大食いバトルが繰り広げられ、私は冷や汗のかき通しでしょう。そんなロケ現場で炸裂しているであろう、「ぷぷっ」と笑いを誘う、癒しの業界用語の数々を今日から2週にわたり紹介させていただきます。
・「食材バラシ」
選手は基本的には、大食い競技で使用される食材や料理名については知らされていません。そんな中、司会者が「今日の○回戦は…△△だぁ~っ!」などと食材を紹介するシーン・・・これが「食材バラシ」です。選手はこれに対し「よっしゃぁ!」だったり、「え~っ、マぁジぃ~?(涙)」などと異なるリアクションを見せ、それをカメラは逃さず捉えます。何も知らない私は、台本にある「食材バラシ」の文字を見て、文字通り食材をバラすのかと思っていました。魚なら二枚か三枚に下ろすとか…?
先ほど、選手は食材について「基本的に知らない」と書きました。基本的に、ということは、例外もあるということです。ここが重要でして、選手も必死なのです。どんな手を使ったのやら、たまに情報が漏れていることがあります。しかし、この「食材バラシ」は番組演出上、水戸黄門の印籠レベルのお約束シーンになっています。仮に食材を知りえたとしても、知らないふりをすることは、大人の礼儀のようなものであります。
それでも所詮、演技は演技。「え~っ!」の声のトーンや顔の表情に注目すると、わかりやすいと思います。多少なりともわざとらしく、やや大袈裟に感じられるようでしたら、それは情報漏れの可能性があるのです。
・「板つき」
演劇の世界では、役者が舞台の所定の位置に着くことを意味するそうです。それが大食い番組では、「板」は舞台でなくてテーブルになります。「ハイっ、次、板つき行くよ!準備急いで、早くっっ!」などといった感じです。現場に一気に緊迫感がみなぎり、本気モード突入の号令といった感じです。そして、まさに役者が舞台に上がるように、大食い選手はテーブルに着くのです。我々一般人が缶ビール片手にゆったりと食卓に着くのとは、ワケが違います。選手の口数もグッと減り、笑いは消え、まるで気温が瞬時に2度位下がったような空気の引き締まり方になります。
外科医にとっては手術台、放射線科医にとってはレントゲン台・・・人間誰しもそれぞれに板つきで戦っているんだろうな~、などと、この言葉を現場で聞く度に考えてしまいます。
・「目線下さい」
番組では、競技開始前に全員の「板つき」光景を、遠方から全景撮影したり、近くから個別にショット撮影したりします。実際のオンエアでは、「さて、この試合、どうなる?」的な内容のおどろおどろしいナレーションがついてきます。しかし、撮影現場ではナレーションなど当然無く、ディレクターの「ハイっ、選手!目線下さ~い!」の一言で、選手はそのディレクターが挙げた握りこぶしを、にらめっこのようにジ~ッと見つめなくてはなりません。ベテラン選手は慣れたものですが、不慣れな選手の中には、緊張が切れてついよそ見してしまい、「○○チャン、キョロキョロしないっ!」と一喝される人も。証明写真を撮っているような固まった表情に、薄気味悪いような沈黙が漂うこと1~2分。終わりを告げるディレクターの言葉が、これまた面白いです。普通なら「はい、OK」と言うところを、「はい、いただきました」と言うのです。「◎◎下さい」に対する返答だから「いただきました」でしたか・・・。
大食いロケ現場において目線は、中元・歳暮のような、手渡せる贈答品なのです。





