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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/01/25

大食い海外ロケの意味(2)・・・メリット編

大食い番組を海外で撮ることの意味は何でしょうか?
理由の1つは、視聴者に与えるインパクトだと言えるでしょう。「元祖大食い王決定戦」(テレビ東京)は、2007年春のハワイ(アメリカ)→同年秋のバリ(インドネシア)というように、2大会連続で南の島の高級リゾート地で開催されました。それまで新潟の水田の横や水戸偕楽園といったコテコテの日本風景をバックに行っていた大食い競技が、突然ホノルルのショッピングセンターの真ん中で行われれば、画面を見る視聴者に与えるインパクトは大きいでしょう。

また、南の島の灼熱の太陽光線によって、大食い競技自体が醸し出す異様感(不健康感…と言ったら言い過ぎか)が吹っ飛ばされ、選手の顔色が良く見え、『健康的なグルメ旅行番組』というテレビ東京の最も得意とする土俵で勝負できるという点も、視聴率の大幅アップに繋がった1つの要素だと考えられます。中には人生初の海外旅行となった選手もおり、多かれ少なかれ彼らは心から旅行を満喫し、その弾けた喜びはそのまま映像に表れていました。

しかしながら、南国リゾート・ロケには、映像に映る変化だけではなくもっと大きな、それも医学的な視点から見る発見が色々とありました。1点目は気温です。大食い選手は軒並み体脂肪率が低く、寒がり方が半端ではありません。例年、ロケが行われるのは2月末~3月初旬と8月末~9月初旬ですが、この時期の日本は結構寒く、選手のクレームに直結します。これがハワイやバリに舞台を移した途端、寒さとの戦いから開放されます。使い捨てカイロも温風器も毛布も要らないし、選手の調子も上向くのです。

2点目は、「大食い」に対する海外の人々の認識に接したことです。ハワイやバリのビーチで撮影風景を白衣姿で観察する私に、外国人観光客が次々と声をかけてきました。あれは何の番組か、あの細いお嬢さんたちは何者なのか、などの質問に次々と答えていった私は、説明直後の彼らの反応が大きく2通りに分かれることに気づきました。

ヨーロッパ人は大部分が好意的で、好奇心丸出しで質問を浴びせかけてきます。競技の詳細について根掘り葉掘り聞いた後、「1度この目で見てみたい」「私の国でも放送して欲しい」と締めくくります。

それに対し、興味深いことに、アメリカ人の反応は正反対です。まず、最初に口にするフレーズが皆同じ、「あの子たちはブリミアでしょ」です。ちなみにブリミアとは日本語で神経性大食症(Bulimia Nervosa)と訳される心療内科的疾患概念です。あとは、この疾患に対する御意見を長々とアメリカンイングリッシュでまくしたてて去る・・・というものです。その意見は比較的賛否明瞭なものが多く、ディベート社会アメリカの縮図を見る思いがしました。

私がドイツで大食いVTRを見せたドイツ人は、基本的にみんな好奇心派でした。自分たちが知らない世界に対してはひたすら質問あるのみで、肯定も否定もありません。これに対し、アメリカには大食い文化そのものが存在し、そのアメリカ大食い界でアメリカ人を凌ぐ活躍をしている日本人という実例(例えば小林尊さん)もあるため、国民それぞれが普段から何らかの意見を持っているのでしょう。いずれにせよ、世界各国の様々なお国柄がビーチにひしめき、そこに示唆的なコントラストが描かれていたという記憶は、日本ではきっと得られなかった、海外ロケならではの収穫でした。

そして3点目。それは、アメリカ合衆国独自の治安上の事情として、ハワイの至る所に設置されている、「中が見えるトイレ」でした。日本のトイレは基本的に密室です。しかし、ハワイのロケでは、何と、扉のないトイレまで登場する始末です。食事とトイレとはそもそもが表裏一体です。大食いの舞台がアメリカに移っただけで、判ることがあったということです。これは、私にとっては医学的な意味がありました。しかし、何よりも重要なのは、これが選手同士にとってもまた、新たな相互理解を生む体験だったということです。

昨今飽和状態に達しつつある大食いバラエティが決して(見せたくても)見せることのできない深淵、テレビ業界の裏側…。これらに対して論理的思考を展開する上で、大変有意義なロケ体験だったといえましょう。