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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2008/01/18

大食い海外ロケの意味(1)・・・リスク編

「元祖大食い王決定戦」(テレビ東京)が、2005年の放送開始から2年の時点で海外ロケを敢行したことの意味は、決して小さくありません。制作スタッフや局の上層部にとって、2007年春の女王戦のハワイ(アメリカ)、同年秋の男女混合戦のバリ(インドネシア)という2大会連続の海外撮影は大英断でしょう。海外撮影時における主なリスクは2点…「出費の大幅増大」と「選手引率の困難さ」です。

「出費の大幅増大」のリスクとは・・・大食い番組の制作にあたり、スタッフは事前に現地調査の上、番組進行や店・食材の選定を進めていきます。事前調査に要するスタッフの数往復の航空運賃・現地滞在費、ビザの申請、実際の現地ロケ費用などは累々と制作費に加算されていきます。企画の目新しさから多少の視聴率アップが見込めるとしても、実際にその数字が思惑通りに上がらなければ、制作予算額に収まらず大幅な持ち出しとなり得るのです。

「次はハワイ」と初めて聞かされたのは、確か2007年の初頭でした。その時点では、全試合をハワイで行うという話でした。しかしその後、数度のやりとりの中で内容が変化していき、「前半を日本で、後半を海外で」という現行スタイルに落ち着きました。制作会社の話では、予算面でテレビ局の上層部から強い意向を受けつつも、あくまでも海外ロケ実現にこだわったとのことでした。

悲願の海外ロケ実現でしたが、もう1点、スタッフを悩ませる大きな要素がありました。それが海外ならでは、「選手引率の困難さ」です。これまで、国内ロケ中の選手の体調トラブルは多々ありました。ただ、日本国内なら、日本の保険証1枚あれば救急車の要請や入院などの医療サービスに容易にアクセスできます。しかし、海外となるとこのようにはいきません。その国の医療レベルや大食い文化の有無次第では、現地医師が治療を出来ないというケースも十分起こり得ます。また、医療行為の価格設定が世界一安いと言われる日本と違い、海外の医療費は概して高額です。以上の点から、海外大食いロケの健康管理医にかかるプレッシャーは、日本国内とは桁違いです。海外では「トラブルシューティング(トラブルが起きたらどうするか)」ではなく、「トラブル予防(トラブルを起こさないにはどうするか)」に尽きる訳で、バリ島での決勝戦『炎天下でのラーメン大食い』の際、選手の熱中症予防のために私が積極的に試合に介入したのも、まさにこのためでした。

カメラが回っていない時にも、大食い選手の独特の習性ゆえの事情が待っています。番組プロデューサーに事前に言われたのは・・・「大食いの人は放浪癖のある人が多い。だから海外は余計に気を使う。僕はこっちを重点的に見るから、片山先生は○○ちゃんと××さんを見てもらえないかな?」・・・まるで小学生の遠足を引率する教師のような会話です。スタッフの目配りにも限度があるようで、実際「右向いて左向いたらもう居なくなっている」という選手が結構います。強い個性の中に炸裂する天然ボケ度の高さもまた、大食い選手の魅力なのでしょうが、そんな彼らが事件にでも巻き込まれたら大変です。日本レベルの治安の良さを海外で期待する訳にはいきません。海外ロケがこれ以上長くなると、予算より先にスタッフの緊張感が切れてしまう・・・これもまた、海外大食いロケを短縮せざるをえない理由の1つなのかもしれません。