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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2018/04/27

さよなら東京タレントナビ(完)…アナログコンテンツが誘う人それぞれの感動と懐古の旅

2007年11月から連載を開始した当サイトは、そのタイトルが『大食い選手権の真実』であることからも察せられるように、あくまでも大食い専門の企画としてスタートしました。主なテーマは、当時私が撮影に関与していた『元祖!大食い王決定戦』(テレビ東京)の撮影秘話、大食いに関する医学的一般論、ひいてはロケ帯同経験を重ねることで紡ぎ出された私的見解などで、たまに地元ドイツや高校野球にフィギュアスケートの話題を絡めることもありましたが、基本的には大食いから大きく逸脱することはありませんでした。

しかし、その後に日本という国が激動の変化に相次いで見舞われ、コラムのテーマも急転換を強いられます。最大の転機はやはり、2011年の東日本大震災でしょうか。それまでバリバリの原発推進派だったドイツのアンゲラ・メルケル首相がフクシマの映像を見て脱原発を即断したように、この震災とその後に引き続いた日本国内の食糧事情の変化を目の当りにした私もまた、それまで全力で応援してきた大食い番組との決別を決意せざるを得ませんでした(→緊急寄稿…”SEISME DU JAPON”の衝撃、→緊急寄稿(2)…さらに衝撃的だった”ERDBEBEN IN JAPAN”、→緊急寄稿(3)…今度は”Super-GAU”の大合唱、→緊急寄稿(4)…ドイツの天気予報に起きた異変、→緊急寄稿(5)…「German Angst」から「民族大移動」へ)。今後は日本・EU経済連携協定(JEFTA)、環太平洋パートナーシップ(TPP)、ひいてはトランプ大統領が手ぐすねを引いて待ち望む日米二国間協議などを経て、日本の食糧事情はさらに別次元の変化に見舞われることは必至です。日本の第一次産業が壊滅的打撃を受ける時代が来ようものならば、現状のような大食い番組は果たして国民の理解を得られるのかと、今から想像してしまいます。

つくづく、『TVチャンピオン 大食い選手権』(テレビ東京、1992~2002年、今の『元祖!大食い王決定戦』の前身)や『フードバトルクラブ』(2001~2002年、TBS)が華やかだった大食い全盛期は、今からは想像もつかないほど平和で無邪気で長閑(のどか)だったと感慨に耽ってしまいます。小林尊さんやジャイアント白田さんに赤坂尊子さんたちが輝いていた時代は、そっくりそのまま「日本が輝いていた時代」だったのかもしれません。

何でもかんでも昔が良かったと言うつもりはありませんが、当コラムで以前紹介した甲子園のリニューアルの話のように(→真夏の邂逅(3)…いつも満員札止め!「フラリと立ち寄る甲子園」の時代の終焉に思う)、昔の方が明らかに今よりもいい時代だったと声を大にして訴えたくなるような事例は枚挙にいとまがありません。

そして、そう思っている人はこの日本に、私以外にもいた!ということを知ったのが、こちらの新聞の投書です(下写真)。昨年9月1日に偶然発見、「我が意を得たり!」とばかりに感銘を受けて保存しておいたこの小さな切り抜きは、まさに10年半もの長きにわたり続いた当コラムの最終章にもピッタリの内容なので、以下に全文を引用させていただきます↓。(引用分は青字および赤字。色分け及び強調は筆者)


 <懐古の旅に出る夏の終わり> (69歳男性、加古川市 無職)
 定年退職後に自由時間が増えたため、これまでの人生でのいろいろな感動シーンを振り返って、思い起こす作業二つに着手してみようと思い立った。
 まず、これまで撮りだめしている莫大な量のアナログ写真の整理である。孫が生まれてからはデジタルカメラに変えたが、息子たちとのふれあいシーンがちりばめられている思い出の写真を選び出し、アルバムに整理し、がむしゃらに生きてきたこれまでの足を止めて家族との足跡を回顧してみたい。
 もうひとつはアナログレコードの整理だ。高校生のころから買い足してきた洋楽が多いがLP、EP合わせて約2000枚。その1枚1枚に思い入れがあるものばかりだ。ドーナツ盤には針を下ろしただけで当時の世相がフラッシュバックする。
 この見る&聴くのタイムマシンに乗って感動と懐古の旅に出てみようと決心した夏の終わりだった。

(2017年9月1日、神戸新聞13面、オピニオン欄より)

何と言ってもこの投稿で私が真っ先に食い付いたのは、2度に渡って登場する「アナログ」の4文字でした(笑)。デジタル技術が登場する以前、この世のあらゆるエンタメは当然のように全てアナログコンテンツであり、「アナログ資料の整理」とはそのまま、「古き時代の日本の追体験」に他なりません。当時の音楽により当時の世相が芋づる式にフラッシュバックするというのは、先の年末年始に私が古いビデオテープからDVDにダビングしたばかりの『19XX』(フジテレビ)や『週刊テレビ広辞苑』(読売テレビ)に関するコラムや(→広辞苑第七版の発売で振り返る読売テレビの伝説の深夜番組『週刊テレビ広辞苑』)、高額商品にもかかわらず奮発して年末年始のドイツで堪能した『ザ・ベストテン 中森明菜DVD』に関するコラム(→正月恒例?「ザ・ベストテン中森明菜DVD」鑑賞(1)…文芸春秋最新号との奇妙なオーバーラップ、→「ザ・ベストテン中森明菜DVD」で気づいたこと(2)…「カビだらけの餅」が象徴する時代の加速度的変遷、→生放送・生演奏・生歌唱の豪華三点セット!ドイツの国民的歌番組で分かった日本の『ザ・ベストテン』の真骨頂)とも全く同じ発想であり、おそらくこの投稿主さんの心理そのものではないかと想像します。

なお、この投書が昨年夏に掲載された時点で69歳ということは、この投稿主の男性は1947年9月から1948年8月の間に誕生日があると思われ、高校生の頃と言えばだいたい1962~1966年あたりに相当します。この期間にはビートルズの全盛期がすっぽり入り、ローリング・ストーンズやキンクスはちょうど駆け出しで売れ始めの頃、R&B/ソウルの世界だとサム・クック(1964年死去)やオーティス・レディング(1967年死去)に「ファンク路線」に転向したばかりのジェームズ・ブラウン(2006年死去)などといった感じで、後々に伝説ないし大御所となる面々が目白押しです。投稿主さんの趣味がどっち方面かは存じ上げませんが、きっと現代から一瞬でタイムトラベルできる珠玉のコレクションを揃えられたことと想像します。ちなみに私の場合は、手元のアナログレコードのコレクションといえば70年代パンクロック(→40周年の節目に指摘が相次ぐ?「パンク音楽」と「ブレグジット」「トランプ」との共通点の数々)とフレンチロックで、他にも80年代のMTV創成期のビデオクリップも多数VHS録画しており、こちらの整理はまだ全くの手つかずですが、いずれは「聴くタイムマシン」として老後(?)に大活躍することになるでしょう。

しかし、「見るタイムマシン」は、私の場合アナログ写真ではありません。それはズバリ、『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ、1981~2005年)です。1981年の放送開始当初といえば、ちょうど私がドイツから日本に来たばかりの頃です。ドロドロした浮世のことなど何一つ知らないガキではありましたが、記念すべき第1回放送作品の『球形の荒野』(1981年9月29日オンエア、松本清張原作、島田陽子・芦田伸介・竹脇無我主演)と第2回の『消えたタンカー』(1981年10月6日オンエア、京太郎原作、中野良子・夏木勲・岡田英次主演)で完璧にハマり、以降はほとんどの回をリアルタイムで視聴(←ちなみに高3になろうが大学入試直前だろうが、ザ・ベストテンとザ・トップテンと火サスだけは欠かさず毎週視聴!土曜ワイド劇場は外出予定と重なることも多かったが、在宅の場合は極力見るよう努力していた)。

当時、受験勉強もそっちのけで、親に呆れられながらも2時間サスペンスを食い入るように見るマセガキだったのには、高校野球にハマったことにも通じる事情がありました。つまり、ドイツに染まり切って帰国してきたばかりの自分にとって、日本がどういう国なのか、社会を支配する暗黙のルールはどのようなもので、人々の価値観はどうなっているのか、たとえそれが良いことばかりではなく陰湿で差別的だったとしても、短期間で学習する必要があったのです。そういう意味で、初期の火サスは下手な道徳の教科書よりも示唆と寓意に富んだ、文句なしの優れた教材でした。しまいには周囲から「キミなら(高校野球ではなく)80年代の火サスで本が書けるんじゃない?」「火サス博士(笑)」などと揶揄されたことも、懐かしい思い出です(笑)。残念ながらリアルタイムのオンエア当時は我が家にビデオデッキがなかったのですが、後に90年代頃から民放(主にテレビ大阪)で昼間に多くの「元・火サス作品」が再放送されるようになり、これらを実家で片っ端からビデオ録画、さらにスカパーの日テレプラスでも再放送を録画、といった具合に長年かけてコツコツ撮り貯めてきたVHSビデオを折々にDVDに焼き直したディスクは既に膨大な数にのぼり、老後の楽しみには事欠かない一大アーカイブとなっています(笑)。

先の投書の投稿者がアナログ写真を「見るタイムマシン」と表現するのであれば、私にとっては『火サス』、『週刊テレビ広辞苑』、『19XX』、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)といった80年代から90年代にかけての人気番組のアナログ・アーカイブこそ、家族写真にも似た「日本のポートレート」そのものと呼べるかもしれません。

昨年9月、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)で28年ぶりに復活した「保毛尾田保毛男シリーズ」が炎上してテレビ局が謝罪に追い込まれた一件がありました(末尾参考サイト)。「同性愛者への差別や偏見を助長する」「今の時代に合わない」というのがその理由でした。この昨年の復活バージョンこそ見ることができませんでしたが、昨年末にハードディスクにダビングした『週刊テレビ広辞苑』のVHSビデオの中に、1989年当時の「保毛尾田保毛男」がなぜか紛れ込んでおり、炎上騒動の記憶も新しいタイミングだっただけに驚きました。さらに、その内容を改めて確認したら、LGBT差別とはとても思えないものでした。というのも、石橋貴明さん扮する保毛尾田保毛男の姉で市役所勤務の保毛尾田今日子という役どころがあるのですが、演じる岸田今日子さんがそれはもう神々しいほどにお美しいのです!ホモの疑いをかけられて同級生にからかわれる設定の弟に対し、姉の今日子は一切の偏見も先入観もなく、全身全霊で弟に愛情を注いでいます。当時は今でいうLGBTに対する偏見も差別も酷い時代でしたが、その放送での今日子さんの姿は、LGBTでない人がLGBTの人と向き合うにはどうするのが最良か、という問いの答えをそのまま体現していました。そもそも自分も相手も同じ人間であり、性を超越した人間同士として敬意を持って向き合うことが肝要である、そしてそのためにはまず自らが暖かい心を持つ人間とならねばならない…岸田今日子さんはご自身の演技を通して、精一杯そう視聴者に訴えているのです。

フジテレビにとっての不幸はむしろ、保毛尾田今日子さん役だった岸田今日子さんが2006年に逝去されたことの方でしょうか。弟・保毛男の28年振りの復活に姉・今日子さんが御存命のまま出演が叶ったならば、ここまでの炎上騒ぎにはならなかったかもしれません。しかし、この一件で懲りて、今後はテレビに限らずいかなるメディアも「保毛尾田的な表現」には一切手を出さなくなるでしょう。それはすなわち、「今日子さん的な表現」も巻き添えを喰らって日本から消え去ることを意味します。この調子で突き進んでいくのであれば、日本では「巨大な媒体ほど何も表現できない」という時代が来るのも時間の問題でしょう。

ドイツではこのようながんじがらめの表現の制約がないのは、テレビを見る人が元々少なく、チャンネル数が多く、テレビ(ひいては背後のスポンサー)の世論形成に対する影響力が限定的だからでもあり、それゆえにテレビ番組には自由な雰囲気が溢れています(→地デジ狂想曲の怪!(3)…テレビ俳優が生放送で「脱テレビ宣言」しても許される国)。裏を返せば、日本ではキー局が媒体として巨大過ぎるがゆえに、試行錯誤を重ねつつ実験的でタブーなき作品を生み出す余地は残っておらず、受け入れる視聴者の側にも精神的な余裕がないことから、アナログ時代のクオリティに戻ることは残念ながらもうないでしょう。年配世代には、老後を末永く共に生きていくことのできるアナログ時代の思い出があり、人それぞれがアーカイブ化されたアナログのコンテンツを通じて、それぞれの時間旅行に旅立つことができます。そういう意味では、あらゆる毒や刺激をフィルター除去された残り汁のような現代のデジタルコンテンツしか知る機会のない若い世代は少し気の毒な気もします。

さて、お別れの時がやってまいりました。今後、もし皆様と世界のどこかで出会う機会があれば、人それぞれの感動と懐古の時間旅行に少しでもお役に立てるナビゲーター役を果たすことが可能となるよう、これからもあらゆるジャンルにアンテナを伸ばしつつ精進していきたいと、今は漠然と考えているところです。


<参考サイト>
東スポweb(2017年10月16日):フジテレビ「保毛尾田保毛男」騒動を謝罪
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/797665/

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