Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2018/04/13

世界に発信された「KEGARE(穢れ)」…相撲の女人禁制問題をドイツ語圏の人々はこう見た!

舞鶴市で行われた大相撲の春巡業で4月4日、土俵上で挨拶中に突然倒れた舞鶴市長に対して咄嗟に土俵上に上がり救命処置を施し続けた女性数人に対し、「女性は土俵から降りて下さい」と複数回にわたりアナウンスがあった件(参考サイトA)ですが、その後すっかり国際案件に発展したようです。日本で連日ワイドショーで大騒ぎすることも、名だたる男勝りの女性キャスターが一斉に噛みつくであろうことも想定内でしたが、間髪入れずに翌日の4月5日からアメリカのCNNやABCにニューヨークタイムズからイギリスBBCにテレグラフなどの海外メディアも一斉に参戦、さらに同じタイミングでドイツやオーストリアにスイスといったドイツ語圏の各種メディアもまた報道合戦を開始。いつの間にかテーマが「日本における女性の地位や尊厳の問題」にすり替わり、以前の当サイトに掲載した国際女性デーと国歌のジェンダーフリー化の時のような議論に移行していったさまは、あたかもハイエナに肉が投げ込まれたかのような急展開でした(→ドイツで観る平昌五輪(6)…金メダリストの口元に見る「国歌のジェンダー・ニュートラル化」というバトル)。

今回の報道、ドイツで口火を切ったのは通信社dpaでした。まず、日本のメディアを騒がしている一連の出来事を、背景としての相撲界の「女人禁制」の由来、さらに元・大阪府知事の太田房江氏が賜杯を土俵上で授与させてもらえなかった過去の事例を盛り込みつつ配信。各メディアは、このdpaの記事を引用しつつそれぞれが独自に加筆する形で4月5日に一斉に記事を配信したため、この日は奇しくもドイツ版「日本相撲祭り」と化したのでした(笑)。

ということで、今回のコラムでは、ドイツ語圏の各メディアがこの問題をどう報じているかを覗いてみたいと思います。まず代表して、「この雑誌に掲載されれば、ドイツで知らぬ者はいないという意味」とまで言われるシュピーゲル誌の記事(参考サイトB、下写真)を箇条書きで要約しつつ紹介します。(本文記事からの要約は青字。強調は筆者、赤字は筆者注釈。以下同様)

<タイトル:「女性たちは手助けしようとした - そして相撲のリング(=土俵)から放り出された」>
・暴力事件、違法な賭け事、麻薬使用…相撲界には不祥事が立て続いてきたが、今度はコレだ:土俵上で意識を失った舞鶴市長を救命救助した人物を、女性だというだけの理由で土俵から叩き出したのだ。動画サイトのビデオを見ると、多々見良三市長に心臓マッサージを施している複数の女性たちが、土俵を下りるようにと会場のアナウンスで何度も警告されていることが分かる。
・相撲界の伝統では、土俵は神聖なる場所とされ、取り組み毎に力士が「清めの儀式」として口をゆすいだり塩を撒く。仮に力士が取り組み中に出血したら、土俵上に落ちた血は取り組み後に削り取られ、塩で清められる。女性もまた、「毎月出血する(Monatsblutung=生理)」存在であるという説明から、「KEGARE」(穢れ)、つまり汚れた(schmutzig)存在として相撲界では扱われるのである。
・今回の一件で厳しい非難が相次いだため、さすがの相撲協会も謝罪に追い込まれた。八角理事長は「(土俵から降りろという)アナウンスは人命がかかった場面では不適切だった」とし、救命処置の女性たちに感謝しているという。
・相撲界はスキャンダル続きで、日馬富士の暴力事件とそれに伴う引退、さらには大砂嵐の無免許運転での交通事故とそれに伴う引退があったばかりである。
・土俵から女性を締め出すというのは、決して新しい話ではない。数年前、当時の大阪府知事だった女性の太田房江氏(在職期間2002年2月~2008年2月)が大阪で開催の春場所(三月場所)の優勝者に賜杯を土俵上で授与することを希望したが、相撲協会の断固たる反対により実現しなかった。


読後の第一印象は、「これでは、KEGAREが和製ドイツ語になるのも時間の問題?!」という心配でした。カミカゼ、カロウシなど、ろくな単語が無い和製ドイツ語や和製フランス語ですが(→欧州はまるでジャパンウィーク?!…「最後のカミカゼ」から「ヒロシマ」「ナガサキ」そして「センダイ」まで、→世界最頻出テロ用語は日本語?!「KAMIKAZE」大合唱の仏メディア、「NINJA」大流行のテロリストのアカウント名)、ここに「ケガレ」まで加わったら、男尊女卑国家としてのイメージが世界で半永久的に固定化されてしまいそうです。特に、読み進めて目が点になったのが、相撲界の伝統としての「女人禁制」に関する以下のような三段論法でした:

「血液=ケガレ」
「女性=毎月出血する存在」
ゆえに
「女性=ケガレ」

これでは話があまりに単純化されすぎではないでしょうか?なぜなら、女性だって24時間365日出血している訳ではありませんし、生理用品やタンポンが発達したこの21世紀に何を言っているのやら…。それに、不浄なのはあくまでも血液だと言うのなら、閉経したおばあちゃんは土俵に上げても良いことになるではありませんか!元大阪府知事の女性も現在66歳とのことなので、今ならチャンスか?それ以前に、男性だって切れ痔やイボ痔から毎日のように出血しているケ―スもあるでしょうに、国技館から「切れ痔のある男性は土俵入り禁止」などという話が聞こえてきたこともありません。

などと記事に向かって一人でブツブツとツッコミ倒していたら(笑)、参考サイトCのリンク先論文(PDF)の72ページに我が疑問に対する明快な答えが載っていました。相撲は神道との結びつきを強調することにより女性排除の論理を獲得したということで、以下にその説明部分を引用します:

神道における女人禁制や女性差別の考察にあたって鍵となるのは、その「穢れ」の思想である。すなわち、神道の「穢れ思想」では、「」「」「出産」をそれぞれ「死穢(=黒不浄)」「血穢(=赤不浄)」「産穢(=白不浄)」という穢れとみなし、忌避する。そのさい、穢れには、触れることで伝染するという「触穢観」が古くからあったことから、黒不浄や赤不浄、白不浄の状態にある人々を一定期間隔離するという習慣があった。

これを読んで、医療関係者なら誰もがすぐにピンときたことでしょう。黒不浄(死体)は確かに放置すれば腐敗し疫病の元となるため、火葬・土葬を問わず隔離下での処置が必要となることは言うまでもありません。しかし、赤不浄(男女に限らず出血病変がある人)や白不浄(お産ないし産褥の期間にある女性)の場合、本当に不浄なのはむしろこれらに該当しない一般庶民たる私たち、つまり通常の生活圏としての外界の方であって、流血やお産をしている当人たちではありません。つまり、怪我人や妊産婦を「不浄だから」と隔離する理論は、むしろ「病原体に対する抵抗力の落ちた彼らや彼女らを感染から守り、元の体力に戻るまで静養させる」というのが真の目的であり、だからといって「自分たち外界の方がよっぽどケガレている」と言うと角が立つので、当時の権力者ないし宗教者が論理をあえて逆に喧伝することにより、衛生学的な正解を実現した…というのが種明かしではないかと考えます。身内の話で恐縮ですが、実は我が家の先祖について書かれた昔の資料の中に、第一子出産後の産褥期にこの「白不浄の隔離ルール」を守らずバリバリ家事に復帰したら、ほどなく腹膜炎を発症、以降不妊になってしまったという明治の女性が登場します。当時は道路もろくに舗装されておらず、トイレは汲み取り、水質管理された水道もない不衛生な環境だったとはいえ、これを読んだ後世の女医たる子孫は、バイ菌がウヨウヨする外界を甘くみたらいかんのじゃ…と気を引き締めたと同時に、差別や不合理と思われがちな因習や言い伝えの中には医学的な整合性があるケースもあるのだろうと、いにしえびとの生活の知恵の奥深さに思いを馳せたものでした。

なお、この参考サイトCの論文には他にも、そもそも日本初の相撲として日本書紀に記載があるのは女相撲であること(つまり相撲の元祖は女による興業だった!)、室町時代や江戸時代にも女相撲が存在していたこと、江戸末期から明治初期にかけて行われた男性の盲人と女性による相撲(合併相撲と呼ばれた)が風紀・風俗上の問題を度々引き起こして禁止されたこと(←この段階では女同士の相撲は禁止されていない)、江戸時代の相撲場には観客の激しい喧嘩による安全上の理由から女性の観戦禁止期間があったこと、当時の相撲の男性力士には荒くれて手の付けられない者に社会の構成要員となるための生業を与える「必要悪」という側面があり、女子禁制の導入には彼らの社会的地位を高める意図もあったことなど、興味深い記述が数えきれないほど登場します。今回の舞鶴の一件を正しく理解しようと思われる方には、是非ともリンク先の原文を読んでいただきたいと思います。今は男尊女卑として断罪されている「相撲界の女人禁制」も、こうして歴史を丹念に見ていくと、当初の趣旨はむしろ「女性保護」にあったのではないかと考えられる内容です。

さて、今回の騒動について、南ドイツ新聞(参考サイトD)が面白い指摘をしています。それは。来年に控えた新天皇の即位式典にまつわる話で、「なるほど、こういう可能性もあるのか!」と感心するものでした。その該当部分だけをピックアップして和訳しましょう:

(女性排除という理屈は)相撲協会だけのものではない。2019年5月に予定されている現・皇太子殿下の天皇即位式典に女性を参列させないことを、日本政府は最近決定したばかりである。1889年にこの式典が初めて国家行事となって以降、女性が参列したことが一度もなかったから…というのがその理由である。(中略)今年の9月に自由民主党は総裁選を予定しており、女性閣僚である野田聖子氏にもアウトサイダーながら当選のチャンスがある。新しい自民党総裁はそのまま総理大臣になるため、事と次第によれば、来年の新天皇即位式典に日本の総理大臣が参列できないという可能性がある

これを読んで私が感じたのは、ひょっとして海外メディアは最近のモリカケ問題の蒸し返され方を見て、安倍首相の自民党総裁選での再選は危うくなったと見ているのかも…という疑いでした。先日の舞鶴の土俵上での救命処置の女性と日本相撲協会のバトルを、まさか「野田聖子さんが天皇即位式典に参列できるか否か」という話にランディングさせるとは驚きですが、最近パナマ文書などでスクープを連発している南ドイツ新聞だけに、ひょっとしたらひょっとするかもしれません!

なお、今回のドイツ語圏の報道がリンク先に挙げている、現場で観客が撮影したYouTube動画(参考動画1)を私も見ました。この動画の何が最も深刻かというと、目の前で倒れた市長を前に颯爽と土俵に駆け上ってテキパキと救命処置を開始した女性陣とはあまりにも対照的な、何をどうして良いやら途方に暮れつつ木偶の棒のように立ち尽くすのみならず、女性陣の処置を妨害しようとまでしていた男性陣の姿にあると言わざるを得ません。救命救急講習を受けたことのある男性があの広い会場に一人もいなかったのでしょうか?それとも、マニュアルの通用しない突発事態における状況判断力や実行力は、日本では女性にしか備わっていないとでもいうのでしょうか?

ドイツやオーストリアのニュースサイトのコメント欄についたコメントを見ると、彼らは日本語こそ分からなくても、そんな日本男性の思考停止ぶりを動画から感じ取っていることが分かります。例えば、オーストリアのニュースサイト(参考サイトE)のコメント欄には、このようなやり取りまで登場する始末です:

(日本の相撲が女人禁制に固執するのは)アメリカ女性が進出してきたらトップを奪われると日本の男が恐れているからじゃないのか?」
「男の世界では、トップはもうモンゴルに奪われているけどな」
「男は確かにそうだけど、日本の女性のことは見くびらない方がいいぜ。なんたって、女子サッカーのワールドカップでアメリカを破って優勝したんだからな!」

「今回のケースにピッタリの笑い話がある。一人の男性が路上で意識を失った。一人の女性が彼の横にしゃがんだところ、別の男性が現れてこう言った:『どきなさい!私はれっきとした救命救急士だ!』。そこで女性はこう返した:『そうですか。それでは、医師を呼ぶ段取りになったら教えてください。私がその医師ですから』」
「まんま実話やんけ」


ここまで言われたら、「日本の2017年版の世界男女平等ランキング(ジェンダー・ギャップ指数)が144ヶ国中114位で過去最低」(参考サイトF)(ちなみにドイツ12位、スイス21位、オーストリア57位)といった最近の報道も、違う意味を帯びて聞こえます。長年の伝統がかえって現代の日本男性を劣化させている…そう海外から指摘される前に、相撲に限らず政治や社会の仕組みも含めた大規模な検証が必要な時期に来ているのかもしれません。


<参考サイト>
A) 日刊スポーツ(2018年4月5日):救命女性に土俵下りる指示 一連の対応に波紋も
https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/201804050000232.html

B) シュピーゲル誌(2018年4月5日):Frauen wollen Hilfe leisten - und werden aus Sumo-Ring geworfen(女性は助けようとした…そして土俵から放り出された)
http://www.spiegel.de/panorama/gesellschaft/sumo-in-japan-ersthelferinnen-wegen-ihres-geschlechts-aus-dem-ring-geworfen-a-1201307.html

C) 北海道教育大学学術リポジトリ - 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第59巻第1号 p.71-86 (2008年8月) - 相撲における「女人禁制の伝統」について(吉野祥司、稲野一彦)
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/933

D) 南ドイツ新聞(2018年4月5日):Frauen müssen draußen bleiben(女性は土俵の外に残るべし)
http://www.sueddeutsche.de/panorama/japan-frauen-muessen-draussen-bleiben-1.3933662

E) dieStandard.at(2018年4月5日):Kritik an Frauen-Tabu beim Sumo in Japan(日本の相撲における女人禁制への批判)
https://derstandard.at/2000077360958-1192182008432/Kritik-an-Frauen-Tabu-beim-Sumo-in-Japan

F) 日経新聞(2017年11月2日):日本114位、過去最低 世界の男女平等ランキング
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22985930R01C17A1CR8000/


<参考動画>
1) YouTube - 大相撲舞鶴場所、舞鶴市長倒れ、救命女性に「女性は土俵から降りて下さい」とアナウンス
https://www.youtube.com/watch?v=35aIqDTYOD8

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516