Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2018/02/16

ドイツで観る平昌五輪(1)…五輪選手の出身地ランキングの日独比較から浮かび上がるウィンタースポーツの真実

ついに平昌五輪が始まりました。ご存じか分かりませんが、今大会のドイツは目下のところメダルランキング1位を独走中(2月14日現在)です!開幕から5日連続で複数枚のメダル獲得、しかも一日も欠かすことなく5日間で金7枚・銀3枚・銅2枚という急ピッチでのキンキラ(?!)ぶりに、テレビのアナウンサーやレポーターの声は終始上ずりっぱなし、メダリストたちは後日別競技にもエントリーしているにも関わらずインタビューをハシゴしてから深夜(現地時間)までドイツハウスの祝勝会でシャンパン掛けに興じ、ドイツ国民はそろそろドイツ国歌を聞き飽きつつある…という、贅沢千万としか言いようのない「嬉しい誤算」となっております(笑)。

(参考動画1からのスクリーンショット。中央がスキージャンプ・ノーマルヒルで優勝し首に金メダルを掛けたアンドレアス・ウェリンガー)

先週までの当サイトでは、ちょうどド―ピンク関連報道が立て続いたタイミングだったこともあり、「五輪前のドイツが恐ろしく盛り下がっている」というコラムを掲載したばかりでした(→ラトビア選手に驚きの続報、そして一向に盛り上がらないドイツの五輪ムード、→五輪直前のドーピング問題に急展開!ラトビア選手の苦悩からドーピング検体ボトルの欠陥まで)。しかし、ここまで金メダルラッシュが続けば、ドイツ国民もいよいよ遅ればせの五輪応援モードに突入かと言うと、世間はそう甘くはありません。何と言っても痛かったのは、先週末から今週水曜にかけての期間がカーニバル(←ドイツでは「ファッシング」と言う)の真っただ中だったことでした。このため、五輪中継終了後のプライムタイムでは、テレビにピョンチャンのピの字も五輪のゴの字もまるで出てきません!(せいぜいニュースで「今日もドイツ選手は金メダルを何個とりました」と原稿を読み上げる程度)

代わりにここ数日の夕方から夜にかけての放送枠は、「今日はケルン、明日はマインツ」とばかりに、見事なまでにカーニバルの日替わり生中継や録画中継で埋め尽くされており、私のように現地に行く手間もヒマも惜しむ人間は、お茶の間ザッピングでタップリ堪能したと思われます。リオのカーニバルの映像も伝わるなど、まさにカーニバル一色のこの時期、我が家のご近所などはシャッターを閉め切って泊りがけの旅行に出かけていることがバレバレの家ばかりで(笑)、今回の冬季五輪のタイミングの悪さを見事に物語っていました。

(いずれも2月12日オンエアのカーニバルの模様。左:デュッセルドルフの仮装行列。社会民主党のシュルツ党首が挽肉にされ、「ゼルバー・シュルト(自業自得)」の「シュルト」を「シュルツ」に掛けている。右下の吹き出し内の男性はこのダジャレの発案者とか。右:ケルンの仮装行列。メルケル首相が往年の映画『サタデーナイトフィーバー』のジョン・トラボルタでお馴染みのポーズを披露、後ろには映画主題歌のタイトルと同じ「Stayin’ alive(生き延びてるわよ)」と書かれている。長期政権のメルケル氏だが、今度ばかりはいつまで首相として生き延びられるやら?)

それ以前の問題として、平昌五輪の開催時間はドイツ時間だと深夜1時頃から午後3時頃までで、公共放送はARDとZDFの回り持ち、しかも17時きっかりに終わります。さすがに民放EUROSPORTは五輪関連番組を一日中放送しているものの、以前のコラムでも説明したようにドイツでは昨年春から地デジの民放が完全有料化(公共放送料金とは別に課金される!)ということもあり、よほどのスポーツ好きでもなければいちいち追加料金を払ってまで見たりしません(→ドイツの五輪放映権トラブルとロシア選手団の派遣禁止が問いかけるオリンピック中継の存在意義)(ただし衛星放送受信設備があればEUROSPORT1は無料)。

私が一番注目しているフィギュアスケートに至っては、北米のプライムタイムに合わせよという「泣く子も黙るスポーンサー様の御意向」に屈し、試合開始が午前10時(ドイツ時間の午前2時)開始という異常事態で、こんなのをリアルタイムで見ていたら昼間仕事になりません。ということで、思いきってハードディスクレコーダーの2台目を購入しました。片方は公共放送ARD/ZDF専用、もう片方は民放EUROSPORT1専用という2台体制で夜中にフル回転録画!そして、時間のあるときに2台を同時再生して映像を見比べ、あるいは音声解説を聞き比べていく…という、「聖徳太子」のような日々を送っております。(←もっとも、7人の声を聴き分けたという聖徳太子に比べたら、わが負担ははるかに軽いと思われますが…笑)

そんな「聖徳太子生活」が始まって間もない頃、私はあることに気付きました。大会初日(日本と異なり、ドイツでは2/9の開会式を大会第0日と数えるため、日本で大会第2日と呼ばれる2/10は大会第1日に相当)に晴れてドイツに第1号と第2号の金メダルをもたらした女子バイアスロンのラウラ・ダールマイヤー(Laura Dahlmeier)とスキージャンプのアンドレアス・ヴェリンガー(Andreas Wellinger)の2人が、インタビューで揃いも揃って結構なバイエルン訛りだったことです(←さらに地元で応援する彼らの父親や幼少時代のコーチも登場し、もっと強烈な訛りを披露)。その後、メダルの数だけメダリスト・インタビューも増えていく訳ですが、これまたバイエルン訛りやらシュワーベン訛り(←バーデン・ヴュルテンベルグ州南東部を中心とするシュワーベン地方の方言)のオンパレードで、これはドイツ南部の出身者が相当多いのではないかと思い立ち、急遽DOSBのホームページに飛んで全選手のデータを確認しました。(参考サイトA)

今大会では、ドイツからは全154名(男子94名/女子60名)から成る選手団が平昌に派遣されています。参考までに、日本からは全124選手(男子51名/女子73名)が参加しており、ドイツよりも30名少なくなっています(参考サイトB)。ドイツで男子が女子よりも多く、日本で女子が男子よりも多くなっているのは、アイスホッケーでドイツは男子のみ、日本は女子のみがエントリーしていることで説明できます。それでも、日本の総人口がドイツの約1.5倍であることを考えると、日本は相対的にウィンタースポーツが苦手なのかな…という印象を与える数字です。

そして、それぞれの国で出身地別ランキングなるものを作成してみると、驚くべきことが分かります。まずはドイツのデータを紹介しましょう。

<ドイツ代表全154選手の出身州別ランキング>(参考サイトAより筆者集計。なお、ドイツは全16州から成る連邦制)。ドイツの州の位置関係をご存じない方のため、参考サイトCのWikipediaサイトから地図を引用しました↓)

1位     57名(37.0%)  バイエルン州(Bayern)
2位     21名(13.6%)  バーデン・ヴュルテンベルグ州(Baden-Württemberg)
3位     16名(10.4%)  ノルドライン・ヴェストファーレン州^(NordrheinßWestfalen)
4位     13名(8.4%)   チューリンゲン州(Thüringen)
5位     12名(7.8%)   ザクセン州(Sachsen)
6位     10名(6.5%)   ベルリン(首都)(Berlin)
7位     6名(3.9%)    ヘッセン州(Hessen)
8位     3名(1.9%)    ブランデンブルク州(Brandenburg)
9位     2名(1.3%)    ザクセン・アンハルト州(Sachsen-Anhalt)
10位タイ  1名(0.6%)    ブレーメン州(Bremen)、ニーダーザクセン州(Niedersachsen)、ラインランド・ファルツ州(Rheinland-Pfalz)
(番外)海外出身 11名(7.1%)…内訳:カナダ2、チェコ2、オーストリア1、スイス1、ルーマニア1、ウクライナ1、フランス1、ベルギー1、アメリカ1(←ここにはフィギュアスケートのペア選手が3名含まれる:ウクライナから帰化のアリオナ・サフチェンコ選手、フランス出身のブリューノ・マッソー選手、ベルギー出身のルーベン・ブロンメルト選手)

この数字をはじき出すにはかなり手間暇が掛かってしまい、週末にみっちりドイツの地理の勉強をするハメになりました(笑)。何せ、聞いたことも見たこともない、人口が1万人を切るような小さな町の名前がズラズラと登場するのですから、どの州かをいちいち調べるのは大変でした。そうして出たデータはまさしく、大会初日の第一印象をそのまま裏付けるものでした。ご覧の通り、ドイツ南端に並ぶバイエルンとバーデン・ヴュルテンベルグの2州だけで、合計が5割を超えています!これらの州はそれぞれオーストリア国境やスイス国境に面し、アルプスやチロルといった雪深い山々へのアクセスが抜群だったり、地域内にウィンタースポーツ施設が豊富だったりします。他にも、ポーランドと国境を接するブランデンブルク州、エルツ山脈をチェコと分け合うザクセン州、東ドイツ屈指の工業都市をいくつも擁し(光学機器のカール・ツァイスでも有名)ドイツのリュージュ・ボブスレーの発祥の地としても有名なチューリンゲンなど、旧東ドイツがかつて強さを誇ったウィンタースポーツの施設や文化が各地に残る地区が軒並み上位に来るのは理解できます。

反面、海に面する地区は苦戦しています。北海とバルト海に挟まれるシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、バルト海に面するメックレンブルグ・フォアポンメルン州、ドイツ北部最大の都市であるハンブルグ(←1市で州を形成)、そして南西角に位置するラインランド・ファルツ州が1人も今大会の選手を送り出していないことに、正直なところ驚きました。ドイツの場合は日本とは逆で、南に行くほど寒く(標高が高くなるため)、北に行くほど暖かくなります(低地となるため)。また、南西から吹く温かい偏西風の影響で、フランス国境に面するラインランド・ファルツ州周辺はドイツでもかなり暖かく(←だからこそワインの名産地でもある)、雪など積もることは滅多にありません。つまり、「南部2州で半数超え」「北部5州でたったの2名」というあまりにも明らかな『南高北低』は、気候の違いとそれに伴うウィンタースポーツの設備環境の差を見ているものと思われました。

ランキングを見ていたら、ドイツで言うところのバイエルンとバーデン・ヴュルテンベルグが日本で言うところの北海道と長野あたりに対応するのではないか、という気がしてきました。ということで、日本のデータも提示しましょう↓。(同様に参考サイトBより集計)

<日本代表全124選手の出身地別ランキング>
1位     54名(43.5%)   北海道
2位     15名(12.1%)   長野
3位タイ    5名(4%)   愛知、東京都
5位タイ    4名(3.2%)  岩手、新潟、神奈川
8位タイ    3名(2.4%)  富山、山形
10位タイ   2名(1.6%)  青森、宮城、福島、石川、群馬、静岡、兵庫
17位タイ   1名(0.8%)  秋田、埼玉、栃木、岐阜、京都、奈良、和歌山、岡山、香川、福岡、熊本
番外  海外 2名(1.6%) (内訳:アメリカ1、カナダ1)

ランクインしたのは以上の通り、27都道府県と海外2ヶ国となりました。日本の場合は、北海道出身選手が全体に占める割合は4割を超え、長野と合わせると55%を超えることが分かります。さすがは北海道、日本のウィンタースポーツ界におけるその優勢ぶりは「寡占」に近く、バイエルン州を上回ること6ポイント以上となっています。逆に、ランクインできなかった(平昌五輪に出身選手を派遣できなかった)都道府県を挙げると、

「茨城・千葉、山梨、福井、三重、滋賀、大阪、広島、山口、鳥取、島根、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄」

となります。もう、何をかいわんや、ですね。中国・四国や九州など、圧倒的に南国ばかりです。ここでも、ウィンタースポーツは環境が大事ということでしょうか。

そう言えば以前、当コラムで「高校野球の世界で寡占が進んでいる」という主旨の記事を掲載したことがありましたが(→<号外>関東勢と大阪桐蔭しか優勝できない?!夏の甲子園をじわじわ襲う「寡占」の正体)、日本全国からスカウティングされて関東&近畿の一部強豪校に集まっているだけとも言えるため、冬季五輪の選手出身地に比べれば偏っているうちに入らないような気がしてきました(笑)。

もっとも、注意も必要です。上記の日本版・冬季五輪選手出身地ランキングにおいて、圧倒的存在感を示している北海道・東北・北信越地区の3つだけで合計75%近くに達しますが、これらはかつて「高校野球が弱い」と烙印を押されてきた地域と大きく重複します。かつて、甲子園の全国大会の抽選会では長らく、初戦が東西対決となるようクジが分けられていた時代があり、北国のチームを引き当てた西日本のチームがガッツポーズをしたものでした。しかし、思えば当時、冬季五輪における日の丸飛行隊と呼ばれたスキージャンプの黄金時代や、スピードスケートで五輪のメダルを続々かっさらっていた背景には、そんな北国の出身者による圧倒的な存在感がありました。私自身がドイツでもかなり雪深い地区で子供時代を過ごしただけに、日本に帰国してきた当時、高校球界では当たり前のようにマスコミに書きたてられたり人々の口から語られていた「雪国だから弱い」というドイツでは考えられないような論調に、子供心ながら猛烈な違和感を抱いたことを今でもハッキリと記憶しています。

「素質」と「環境」では、スポーツにおいてどちらが重要か?これはもはや禅問答か哲学の域に近い話かと思っていましたが、今回のドイツと日本における出身地別ランキングを見比べて、私の中にはある程度答えが固まりつつあります。おそらく、

競技人口の多い世界では、最後は素質の差が勝負を分ける(ここで言う「素質」とは、努力する素質、といった要素を含む)
競技人口の少ない世界になればなるほど、環境の差が勝負を分ける

といったあたりに真実は収束していくのではないかと思います。そして、夏季五輪の種目の多くが前者の世界であり、冬季五輪の種目の多くは後者の世界であるということさえ分かれば、色々とヒントが見えてきます。冬季五輪開幕前は例によって例のごとく「強化費用がない」ばかり言っていたドイツが、開幕したらどうしてこれだけ強いのか、日本は何をすればもっと強くなれるのか。平昌五輪もこれからさらに一週間余り続きますが、テレビ中継をご覧になる際は上記の視点を脳の片隅に置いていただくと、競技に対する好奇心が膨らみ面白さが増すことと思います。


<参考サイト>
A) ドイツオリンピックスポーツ連盟(DOSB)ホームページ - 2018年平昌五輪参加選手一覧
https://www.teamdeutschland.de/de/athleten/pyeongchang-2018.html
(ドイツから参加の全154選手の顔写真やプロフィール、アンケートの回答などが閲覧可能)

B) Yahoo五輪特集 - 平昌五輪参加選手一覧
https://pyeongchang.yahoo.co.jp/japanese/list
(Sports Navi特設サイトにつき掲載期間は3月27まで)

C) Wikipediaドイツ語版 - Land (Deutschland)
https://de.wikipedia.org/wiki/Land_(Deutschland)


<参考動画>
1) ARD Sportschau Olympia (2018年2月11日):Video: Andreas Wellinger zu Gast im Sportschau-Studio
http://www.daserste.de/sport/sportschau/videosextern/andreas-wellinger-zu-gast-im-sportschau-studio-100.html

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516