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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2018/01/26

広辞苑第七版の発売で振り返る読売テレビの伝説の深夜番組『週刊テレビ広辞苑』

今年の1月14日(金)、国民的な国語辞典として長い歴史を持つ『広辞苑』(岩波書店)が実に十年振りの大幅改訂を行い、最新版となる第七版が全国の書店に一斉に並びました。新たに加わった単語、採用を見送られた単語…テレビも新聞もこのニュースを大きく取り上げました。また、「しまなみ海道」の「大島」(今治市)を「周防大島」(山口県)と間違えるといった誤りが発売直後から相次いで指摘され、「重版で訂正」するものの時期は「未定」と公表され(参考サイトA)、刻々と移りゆく現代社会を10年に一度の紙媒体が改訂でカバーすることがいかに困難であるかを目の当りにする事態となりました。

しかし、そんなドタバタ劇を前に、私が思い出していたのは全く別のことでした。というより、別の番組、と呼んだ方がよいでしょうか。それは、かつて私も含む関西出身の東大生が全員見事なまでにハマっていたという読売テレビ(関西ローカル)の伝説の深夜番組、その名も『週刊テレビ広辞苑』です。

今回の『広辞苑』第七版の刊行という報道で私が何よりも驚いたのは、そのタイミングでした。実は私、昨年末のうちに、学生時代に撮り溜めていた『週刊テレビ広辞苑』(1988年4月4日~1989年3月20日オンエア)やフジテレビの深夜音楽番組『19XX』(1990年10月8日~1991年9月23日オンエア)といった、当時大好きだった深夜番組のビデオカセットを実家からゴッソリと持ち出し、DVDディスクに片っ端からダビングするという作業を年末年始をまたいで集中的に行ったばかりだったのです。

一昨年から昨年にかけての私の年越しといえば、ドイツの古典的年越し番組『ディナー・フォー・ワン』(→お正月の過ごし方inドイツ(2)…大晦日の視聴率が断トツのトップ!『ディナー・フォー・ワン』ってどんな番組?、→大晦日の定番!ドイツの長寿番組『ディナー・フォー・ワン』の時代背景と衰えぬ人気の秘訣)やファン垂涎のお宝ライブ満載の洋楽三昧でした(→お正月の過ごし方inドイツ(1)…クイーンの80年代ライブに釘付け!音楽三昧の大晦日)。それが今回、まさか『週刊テレビ広辞苑』でゲラゲラ笑ったり、『19XX』で和洋混合の昭和の懐メロにドップリ浸りながらの越年となろうとは、少なくとも大晦日の直前までは全く予想も予定もしていませんでした。しかし、一旦ダビング中の放送内容をのぞいてしまったのが運の尽き、脳内が完全に”広辞苑&19XXワールド”に染まるまでさほど時間はかからず、今もその余韻が続いている日々です(笑)。

特に『週刊テレビ広辞苑』の方は、当時の東大の同期の友人に特に多かった灘高校出身の皆々様が揃いも揃って、放送翌朝にはセリフが全部頭に入っていたという『広辞苑フリーク』のようなツワモノばかりでした。必然的に、本郷キャンパスの法文2号館地下の銀杏・メトロ食堂(←店の左半分が「銀杏」で和定食メイン、右半分の「メトロ」は洋風でカレーや日替わりパスタに定評…テレビ広辞苑オタクは例外なくメトロ側に棲息!)は松竹新喜劇かNGKに瞬間移動したかのような空間に一変!ランチタイムのメトロ食堂にそんな人間が二人以上鉢合わせようものなら、目の前のパスタを口に運ぶのもそこそこに、周囲の東京出身者たちの白~い目もなんのその、いきなり「昨日の再現!」と称して暗記したての前夜の放送ネタの一斉披露がスタート!関西人の面目躍如とばかりに、みんなとても素人とは思えない即席掛け合い漫才のスキルがおありです(笑)。なお、広辞苑フリークの溜まり場だったメトロ食堂は今も現存し、一般客も利用可能で、価格が学生のおサイフに優しいお値打ちなのも変わらないようです。(参考サイトB)

かくいう私も、灘高出身でこそありませんが、セリフは一応頭に入れて翌朝登校してきたクチでした(笑)。中でも、今回の広辞苑の報道で真っ先に記憶が蘇ったのが、他ならぬ本家『広辞苑』をネタにしたこちらの掛け合い漫才でした↓。(以下、写真は全て『週刊テレビ広辞苑』の「な」の週からのスクリーンショット)

ご覧の通り、左には『三省堂国語辞典』で有名な金田一京助(きんだいち・きょうすけ、1882-1971、あの金田一春彦氏の実父)が、右には当時の最新版だった『広辞苑 第三版』を手に持つ新村出(しんむら・いずる、1876-1967)の姿が…って、ホンモノなはずがありません!この偉大な両人を掛け合い漫才で演じる二人の俳優の名は、左が上海太郎(しゃんはい・たろう)、右が槍魔栗三助(やりまくり・さんすけ)。もし右の槍魔栗さんの顔に見覚えがある方がいらっしゃるとしたら、『トリック』や『ごくせん』のファンでしょうか、それとも初期の『相棒』の殺人鬼役の方でしょうか。槍魔栗さんの本名は生瀬勝久(なませ・かつひさ)。関西での芸名はNHKの連続ドラマ『純ちゃんの応援歌』への出演に支障があるということで、上京を機に芸名を本名に変更し活躍の場を広げ、今年はソフトバンクの新CMへの出演も決まっているそうです。

上海さんも槍魔栗さんも、当時は劇団そとばこまちという、今やクイズ王としても名が通る俳優の辰巳琢郎さんや『相棒』(テレビ朝日)で特命係に「暇か?」の声かけとともにコーヒーを飲みに来る捜査二課長を演じる山西惇さんが所属したことでも知られる、元々は京大の学内サークルから発展した劇団の団員でした(なお、上海さんは京大出身、槍魔栗さんは同志社大出身)。この二人の他にもう一人、はりけーんばんび(←この人も京大出身)という俳優さんが週刊テレビ広辞苑でメイン出演していましたが、この読売テレビとのお仕事が御縁となったのか、今では土曜朝8時のニュース番組『ウェークアップ・プラス』(読売テレビ制作)のナレーションを担当しており、21世紀の今になってもその美声は全く衰える気配もありません。ウェークアップ・プラスのテロップはあくまでも本名の「川下大洋」となっていますが、見ているコチラは「ああ、ばんびさんの声や」という懐かしさが前面に立ち、ニュースが頭に入って来ません。いっそのこと、「ナレーション はりけーんばんび」と書いていただいた方が吹っ切れるかもしれません(←そんなん、アンタだけやがな!という空耳♪が早速聞こえてまいりました)。

ということで今週の当コラムでは、本家の『広辞苑』の最新版刊行記念と題して、『週刊テレビ広辞苑』の「な」の週の中から、この広辞苑ネタを見事な掛け合い漫才にまとめ上げたハイクオリティ作品「鍋蓋」(なべぶた)というコントの全セリフを書き出してご紹介したいと思います。間もなく終わりを告げようとしている平成の時代ですが、この年号の始めの頃の日本にはこのようなテレビ番組があったということを、時代の勢いや空気の違いも含めて実感していただければ幸いです↓:

金田一京助(以下、金): 『国語辞典』の金田一京助です。
新村出(以下、新):お馴染み、『広辞苑』の新村出です。
金:二人合わせて…、
金&新:生き字引です。
金:ところで君、エラい顔色うかんむり
新:あれっ、わかんむり

金:なんか、やまいだれ
新:ひょっとして、ガンだれ

金:るまた!冗談、たくみへん

新:へへへ。ところで君、あっちの方はおおざと
金:オンナへん
新:そうにょう

金:なかなか、てーへん
新:エエこと、したごころ
金:まあ、そこそこ、したみず
新:くら、にくづき~!一晩に何回くらい、筆づくり
金:まあ、六回位、しかばねー。
新:ギョーにんべん!アンタちょっとそれ、下半身、ケモノへん

金:なかなかの見事な門がまえ
新:イヤッ、ちょっと、ここで示すへん
金:はつがしら~。プーッ(←屁をこく)。あっ、ゴンベン

新:くっさ~かんむり!ええ加減に、しんにょう

金:ほな、この辺で、ナベブタ

以上です。赤字部分がそれぞれ部首名です。恥ずかしながら、国語が苦手科目だった私は、この漫才の御蔭で初めてその呼称を知った部首がいくつもありました(笑)。毎度の下ネタも、深夜番組ならではのお約束であり、親に見られたら若干の気まずい空気が流れるかもしれませんが、何せ灘高出身者は東京では下宿生活ですし、京阪神の実家では深夜は親も寝ている時間のオンエアだったのが救いでしょうか(笑)。

それにしても、これだけ濃密で完成度の高い掛け合い漫才の作品を毎週一本ずつ書き続けた当時の『週刊テレビ広辞苑』のスタッフには、今見ても純粋に称賛と尊敬の念しかありません。週を追うごとに視聴者の期待がより高まっていく中、当時の作家さんたちは多大なプレッシャーと格闘していたと想像します。ユーモアの質が似ている深夜番組として、フジテレビの『カノッサの屈辱』(1990年4月9日~1991年3月25日)も思い浮かびますが、あちらが「受験勉強をベースとして捻り出されるトンチと澄ました笑い」の世界だとすれば、『テレビ広辞苑』はそこにさらに上方お笑い文化の長い歴史(?)が重なり、関西特有の間合いや擬音にジェスチャーをふんだんに盛り込んだ内容となっています。

テレビ広辞苑のダビングを全て終えた今となって心底感じるのは、平成も終わりを迎えようかというこの21世紀において、こういう知性を感じさせる笑いの創り手が日本からいなくなってしまったという寂しさです。かつて、日本の深夜番組には意欲的かつ実験的な番組が数多く投入され、その中にはいつの間にか消えていったものもあれば、今の『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)のように、深夜番組での成功を足掛かりにゴールデンタイムに進出し、今も思わぬ長寿番組として君臨している番組が存在します。

しかし、テレビで前衛的な試行錯誤ができる時代はとっくの昔に終わってしまいました。『週刊テレビ広辞苑』が放送されてから今年で30年が経とうとしていますが、今であれば放送はおろか、このコラムで紹介することすら憚られるネタがかなりあります。どうりで再放送もビデオ販売もされてこなかった訳です。槍魔栗さんも芸名を変えて東京へ出て行ってしまいましたし…(笑)。

とんねるずの人気番組中の名物コーナーだった『保毛尾田保毛男シリーズ』(フジテレビ)も、昨年復活させてみたら大炎上してしまうような時代です。30年前に出来たことが今は出来ない…という話が増えている背景として、ネット社会になったことで人々が発信者となっただけならまだ良かったのが、一斉に検閲者となって相互監視が始まってしまったことがありそうです。ドイツやフランスではここまで断罪されることなどあり得ないような芸能人・政治家の不倫報道を見ても、まさに物言えば唇寒しです。あらゆる表現に対して物言いがつく時代、一つの過ちも全てスパコンに記録されて末代まで残るような不寛容社会をビクビクしながら生き続けていかなければならないのであれば、まだ第一版の『広辞苑』登場の頃のような紙媒体しかなかった時代の不便さも悪くなかったのかも…そう感じるキッカケとなった、『週刊テレビ広辞苑』にまつわる『広辞苑』つながりの思い出でした。

最後に、金田一京助役を演じた上海太郎さんの近況を。テレビ広辞苑収録終了直後にそとばこまちを退団、1989年に自らの劇団「上海太郎舞踏公司」を立ち上げてダンスとパントマイムで世界に進出した上海さんのテーマはズバリ、「言葉を使わない身体表現による芸術表現」。それこそ三省堂辞典も広辞苑もいらない、言葉の壁を越えて世界中の人々に伝わるステージを作り出すべく、2009年から劇団名を「上海太郎カンパニー」に変更し、舞踏家・パントマイマーとして活動しているようです(参考サイトC)。舞台活動の傍らには、母校の京都大学で夏休み体験教室の講師として子供たちにパントマイムを教えたそうで、パントマイムのワークショップのタイトルが「身体でつたえる、ほんとのことば」(参考サイトD)と言うから、まさにこのコラムの結語としてピッタリです!週刊テレビ広辞苑でも惜しげなく披露された身振りやジェスチャーがその後どのように進化していったのか…もし日本でも海外でも機会があれば、是非とも上海太郎さんの”今”の表現をこの目で見てみたいところです。


<参考サイト>
A) 時事通信(2018年1月23日):新広辞苑、誤り相次ぎ指摘=修正、ネットに追い付かず
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018012300889

B) 食べログ - 銀杏メトロ食堂
https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131004/13044392/

C) CoRich舞台芸術 - 上海太郎カンパニー(兵庫県)
https://stage.corich.jp/troupe/3799

D) 京都大学総合博物館 ニュースレターNo.32 (2014年11月号)←リンク先PDF注意
http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/000013_4E4C3332E585A5E7A8BF783161E69C80E7B5822E706466
(p5. 「夏休み学習教室 体験EXPO2014’夏」内に上海太郎さんについての記述あり)

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