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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/12/01

グランプリファイナルに向けて…日本では完全無視?!世界が注目するペア競技の「アラサー女子旋風」

ウィンタースポーツの世界も、いよいよ本格的にオリンピックシーズンに突入です。この原稿が掲載される12月1日といえば、韓国・平昌五輪(2018年2月9日~2月25日)からちょうど70日前というタイミングに相当します。そのためか、最近のドイツのスポーツ中継では右上に小さく「五輪まであと○○日」という文字を見かけることが増えました。

例えば、先週のスケートアメリカの結果を伝えるスポーツ専門チャンネルEUROSPORTのニュースはこんな感じですし…↓、

(2017年11月27日、Eurosport Newsより。右上の五輪マークの下には「五輪まであと74日」の文字。写真中央で背を向けているのは、男子シングル優勝のアメリカのネイサン・チェン選手。昨年のジュニアっぽさがウソのように、今季は随分と表現力がアップしているネイサン君については、以前のコチラの記事を参照:→フィギュアスケートGPフランス大会観戦記(1)…グランプリ・ファイナル出場選手を一挙紹介!男女シングル編。写真右端の3位の位置に立つのは、私にとっても他人と思えぬ御縁(?)のあるセルゲイ・ヴォロノフ選手(ロシア)。NHK杯優勝を始め今季絶好調で、三十路にしてついに初の五輪切符を手にしてしまうかもしれない男子シングル界きってのアラサーの星こと、セルゲイ・ヴォロノフ選手についてはコチラを参照:→見てきたつもりのU-18野球W杯(1)…いきなりのロストバゲージ報道で思い出したスケートカナダ観戦

公営第一放送ことARDだとこんな感じになります↓。

(2017年11月26日ARD Sportschauより。写真では見えにくいが、右上には第一放送の①のロゴの左側に「五輪まであと75日」という、通常は入らない文字が加えられている)

それにしても、ドイツのテレビの前にしがみついて観戦したソチ五輪から間もなく4年が経過しようとは、時の流れは早いものです(→祝・ソチ五輪開幕!(1)…日本チーム登場の開会式で学ぶロシア版アルファベットの語順、→祝・羽生結弦選手金メダル!ソチ五輪(2)…パトリック・チャンの敗因は「カナダの呪い」ならぬ「ZDFの呪い」?!、→ソチ五輪閉幕、失言オリンピック開幕?!(3)…「ヨナが金」発言の全文から読み解くカタリナ・ヴィットの真意と誤解、→ZDF版ソチ五輪フィギュアスケート解説者の驚異的博識(4)…ソトニコワの金は「伊藤みどりの代理戦争」だった!)。

さて、フィギュアスケートのグランプリシリーズは先週のスケートアメリカで全6大会を終了し、グランプリファイナルに進出する顔触れも確定しました。今年のグランプリファイナルは来週、日本の名古屋で開催され(12月7日~10日)、日本からは男子シングルの宇野昌磨選手と女子シングルの樋口新葉選手の2名が出場予定、テレビ中継はテレビ朝日です。ということは、松岡修造さんや織田信成さんの出番にも期待がかかるところです。

テレビ朝日 フィギュアスケート
http://www.tv-asahi.co.jp/figure-gp/2017/

うーん、テレ朝のホームページを見て、さっそく悪~い予感がしてきました(笑)。上に引用したスクリーンショットにおいて、中央の宇野昌磨選手を起点として反時計回りにネイサン・チェン(アメリカ)、セルゲイ・ヴォロノフ(ロシア)、アダム・リッポン(アメリカ)、ミハイル・コリヤダ(ロシア)、金博洋(中国)の男子シングル各選手、そして同じく中央の樋口新葉選手を起点として時計回りにエフゲニア・メドヴェージェワ(ロシア)、アリーナ・ザギトワ(ロシア)、カロリーナ・コストナー(イタリア)、マリア・ソツコワ(ロシア)、ケイトリン・オズモンド(カナダ)の女子シングル各選手が写っているのは分かるのですが、見事なまでに男女シングルのみしかおりません!当コラムで「大食いソックリさんペア」として紹介した頃はシニア初挑戦の新星だったのが、今やすっかり無敵ペア、今年はついに世界王者にもなり平昌五輪金メダル最有力候補に躍り出た隋文静/韓聰組(中国)(→日常の中の大食い的風景(2)…中国フィギュアスケート界の新星に大食い選手の面影!)はどこ?先々週グルノーブルで開催されたフランス大会で自らが持つ歴代最高得点(フリーおよび総合得点)を更新して圧勝したアイスダンスのガブリエラ・パパダキス/ギヨーム・シゼロン組(フランス)(パパダキス/シゼロン組についてはコチラを参照:→エリック・ボンパール杯観戦記(3)…移民国家フランスのロールモデル?シャフィック・ベセギエが体現する世界、→フィギュアスケート・フランス杯観戦記(2)…グランプリ・ファイナルでも活躍した選手を紹介!ペア・アイスダンス編)はどうなるの?放映日程も、12月7日19時~男子ショート、12月8日19時~男子フリー・女子ショート、12月9日18時56分~女子フリー、12月10日18時57分~エキシビションとあるのみで、他のカテゴリーは完全無視という様相を呈しております。

日本のフィギュアスケート中継におけるシングル偏重にはもはや付ける薬はなさそうですが、ドイツも他人事ではありません。この国ではペア以外の種目はそれこそ開催すらされていないのかと錯覚しそうなほど、もっとハッキリ言うと、来週のグランプリファイナルのため来日予定のペア、アリオナ・サフチェンコ(Aljona Savchenko)/ブリューノ・マッソ(Bruno Massot)組の事しか関心も報道もありません(笑)。ちなみにアリオナさんはウクライナ出身で最近イギリス人と結婚したばかりの33才(来年の平昌五輪には34才として臨む予定)。ロビン・ショルコーヴィ(Robin Szolkowy)選手とペアを組んでドイツ代表としてバンクーバー五輪(2010年)とソチ五輪(2014年)の2大会連続で銅メダルを獲得。しかし、ソチ五輪後にショルコーヴィ選手がサクッと引退し、事もあろうにライバルのロシアペア(エフゲニア・タラソワ/ウラジミール・モロゾフ組)のコーチに電撃就任。あくまで現役続行にこだわったアリオナさんが見つけ出した新パートナーのブリューノ・マッソ君は、5才年下のフランス人。フランスのスケート連盟からドイツへの移籍が紛糾を極め(その経緯についてコチラを参照のこと:→欧州選手権inブラチスラバ(4)…出場停止処分解除でついに大舞台へ!ドイツの新生ペア「サフチェンコ/マッソ組」の挑戦が始まる)、19ヶ月も丸々棒に振った末に2015-2016年シーズン後半からようやく始動。2016年から2大会連続で欧州選手権銀メダル、世界選手権では2016年銅メダル、2017年銀メダルという彗星の如き勢いで頭角を表して世界を驚かせてきました。ウクライナ人とフランス人のペアがドイツ代表というだけでも話題を呼びそうですが、この調子で来週のグランプリファイナルもさることながら、来年始めの欧州選手権における初の栄冠、そして次の平昌五輪でこれまで五輪史上5例しかなかった「三十路越え女性ペアスケーターのオリンピックチャンピオン」の6例目にその名を連ねることができるか、それとも3大会連続で涙を呑むことになるのか…。アリオナ・サフチェンコ選手もまた、間違いなく今シーズンきっての注目株の一人です。

ここで参考までに、過去の5名の三十路女性ペア金メダリストを順に紹介しましょう。1920年アントワープ五輪の時点で35才だったルドヴィカ・ヤコブソン(ドイツ人だがフィンランド代表、1884-1968、ウォルター・ヤコブソンとの夫婦ペア、さらに4年後には39才で五輪銀)、1932年レークプラシッド五輪時30才アンドレ・ブリュネ(フランス、1901-1993、2大会連続金、ピエール・ブリュネとの夫婦ペア)、1968年グルノーブル五輪時32才リュドミラ・ベルソワ(ソビエト連邦、1935-2017、2大会連続金、オレグ・プロトポポフとの夫婦ペアで1979年にスイスへ亡命)、1980年レークプラシッド五輪時30才イリーナ・ロドニナ(ソビエト連邦、1949-現在68才、3大会連続金、アレクサンドル・ザイツェフとの夫婦ペア)、そして比較的記憶に新しい2010年バンクーバー五輪時31才申雪(中国、1978-現在39才、それまで2大会連続銅メダル、ペア相手の趙宏博とは大会後に結婚)です。

こうしてみると、過去の三十路金メダリストたちはほとんどが30になったばかりの女性で、しかも夫婦ペアばかりです。ドイツのアリオナ・サフチェンコ選手が別の男性との結婚生活とドイツ軍所属下での競技生活を両立しつつ、34才にならんとする中、いまだにペア競技の第一線で金メダル候補で居続けられること自体、いかに驚異的であり、不断の努力の賜物であるかを痛感します。しかも、過去の例のうち3例が「三十路突入以前からの五輪連覇」であることを考えると、彼女はむしろ「直前2大会で連続銅メダル」という共通点がある申雪さんにあやかりたいところでしょうか。

ここでニュース速報を…!サフチェンコ選手のペア相手であるブリューノ・マッソ選手、今週の水曜日(11月29日)に晴れてドイツ国籍を取得したそうです!マッソ選手といえば、つい最近もフランス訛りながら頑張ってドイツ語でインタビューに答える姿が放送されたばかりでしたが(参考動画A)、短期間で習得した割には発音もスムーズで、はるか以前からドイツ国籍を有するアリオナ選手よりも各段にドイツ語会話が滑らかなことに、ドイツのお茶の間もきっと驚いたことでしょう。これでようやく五輪出場に何の支障もなくなりました。ドイツフィギュアスケート界としては1988年のカタリーナ・ヴィット(東ドイツ)以来パッタリ途絶えているという「東西ドイツ統一後初」かつ「ドイツ代表として30年振り」となるフィギュアスケートのオリンピックチャンピオンが誕生することを国民は待望しています。

ここで、ARDで放送された珠玉のカットを紹介しましょう。(以下の写真は全て参考動画Aからのスクリーンショット)

まずは華麗なるスリーショットを。左から右に、ブリューノ・マッソ選手、アリオナ・サフチェンコ選手、そして今季のフリーの振付を担当しているクリストファー・ディーン氏です。

クリストファー・ディーン氏といえば、フィギュアスケートファンに詳しい方なら知らぬ人はいない、この神プログラムの人です↓。

左上は、1984年サラエボ五輪のフリー演技において、ラベルの「ボレロ」の旋律に乗せて芸術点6点満点をジャッジ全員から引き出して圧巻の金メダルを獲得した、アイスダンスのジェーン・トービル/クリストファー・ディーン組(イギリス)。彼らはプロ解禁となった1994年リレハンメル五輪でアマチュア復帰し銅メダルも獲得(なお、この二人は夫婦ではありません)。右上は、今季のサフチェンコ/マッソ組のフリー演技。”元祖・神プロ”のディーン氏の振付というだけあって、トービル/ディーンの「ボレロ」と衣装も振付もよく似ており、「サラエボの神演技アゲイン!」という、ドイツの悲願をも十分すぎるほど具現化した抜群の仕上がりとなっています。

果たして奇跡は起きるのか?名古屋のグランプリファイナルから平昌五輪にかけて、アラサー女性旋風は吹き荒れるのでしょうか?来週のグランプリファイナルの出場選手に関しては、カナダペアのメガン・デュハメル(Meagan Duhamel)/エリック・ラドフォード(Eric Radford)のデュハメルさんも三十路を越えており、平昌五輪を32才で迎えることになります。彼らもまたサフチェンコ選手同様、夫婦ペアではありません(デュハメルさんは彼らのコーチと結婚)。サイドバイサイドの単独ジャンプで目下最高難度であるトリプルルッツを飛ぶことでも知られるこの二人にも、今季は注目が集まっています。

ちなみに、先ほど挙げた「三十路越えの五輪女王」の対象をペア以外に広げると、アイスダンスのタチアナ・ナフカ(1975-現在42才、ロシア)が2006年トリノ五輪で金メダル獲得時点で30才だったケースが1例あるのみで、女子シングルは該当者ゼロです。ということは、仮に平昌五輪を31才で迎えるカロリーナ・コストナー選手(イタリア)が女子シングルで金メダルを獲得しようものなら、三十路女子シングルスケーターとしては史上初という一大快挙となるのです。

最近の女子シングルを見ると、ジュニアからシニアに上がったばかりの女子選手がノーマークの中をいきなり表彰台…というライジングスターがかなりいる半面、その後の思春期の体形変化をうまく乗り切ることができずに数年後に思わぬ低迷に見舞われる傾向が強く、パーフォーマンスのピークが軒並み16歳前後に集中するという、いわば「子供のスポーツ」と化してきた感が否めません。つい最近も、摂食障害の治療と療養のため平昌五輪断念を表明したアメリカのグレイシー・ゴールド選手(22才)のケースや、ソチ五輪の団体金メダル獲得の立役者として国民的ヒロインに祭り上げられながらも同じく摂食障害で引退したロシアのユリア・リプニツカヤ元選手(19才)といった悲しいニュースが相次いだばかりで、審美スポーツと女性の肉体との折り合いの難しさが残酷に現れている、見ていてやや辛いカテゴリーとなりつつあります。

「女性の働き方改革」や「男女間の賃金・地位の格差解消」が世界的に叫ばれるこの御時世にあって、フィギュアスケートのペアを震源とする「アラサー旋風」「三十路越え女王」といったトレンドは、既にフィギュアスケートあるいはスポーツというカテゴリーを大きく超えてもはや社会的関心事となっていることは、海外の新聞などを見開くと明らかです。以前のコラムでも取り上げたゾーイ・ジョーンズ(イギリス)という女子シングルの元選手がコーチ業から一転、フランス人男性選手と組んでペア競技に「アラサー」どころか「まさかのアラフォー」で復帰劇を果たしたケースも、大いに話題を呼びました(→欧州フィギュアスケート選手権のキーワード(1)…「エイジレス・ジェネレーション」アラフォーの女子スケーター登場!)。

日本もフィギュアスケート大国と自称する以上は、現行のような男女シングルしか中継しないような日本独自の放送スタイルを少しでも改めて、競技の全体像及び世界的トレンドないし社会的な立ち位置をきちんと見せる努力をしていただきたいと、危機感をもって要望する今日この頃です。


<参考動画>
A) ARD Sportschau(2017年11月25日):Video: Savchenko/Massot feilen an der Olympia-Kür
http://www.daserste.de/sport/sportschau/videosextern/savchenko-massot-feilen-an-der-olympia-kuer-100.html
(マッソ選手のドイツ語力が披露されるのは1:17頃~。短期間での上達ぶりにビックリ)

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