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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/11/03

見てきたつもりのU-18野球W杯(7)…日本野球の未来を左右するEFL・外国人監督・英語野球アカデミー

日本列島を二週続けて襲った台風21号(10/22)および22号(10/29)は、今も各地に土砂災害や電鉄運休といった爪痕を残している。そして奇しくも、この台風の合間を縫うような日程での開催となったセ・リーグのクライマックスシリーズでは、リーグ3位の横浜DeNAが誰もがビックリの日本シリーズ進出を果たした。ファーストステージ(10/14-17)でリーグ2位の阪神を2勝1敗でギリギリかわし、ファイナルステージ(10/18-24)ではシーズン中ぶっちぎりの首位を独走した広島をまさかの4連勝で撃破。明らかなターニングポイントとなったのは、「まるで水球の試合のよう」とまで形容された悪天候下の甲子園での阪神戦の勝利であり、以降のDeNAは当時接近しつつあったホンモノの台風を先取りするような、まさに文字通りの「野球版・台風の目」と呼ぶにふさわしい存在となった。

その「台風の目」は、日本シリーズ開幕2日前に行われたドラフト会議でも際立っていた。野手では最多タイとなる7球団が清宮幸太郎内野手(早稲田実)を1位指名、さらに2球団が中村奨成捕手(広陵)、さらに2球団が田嶋大樹投手(佐野日大-JR東日本)という新旧の甲子園組3名に集中する一種の”寡占”(→<号外>関東勢と大阪桐蔭しか優勝できない?!夏の甲子園をじわじわ襲う「寡占」の正体)にあった中、各球団の代表者が毎度のようにクジ引きの箱の前にズラリと並ぶのを横目に、DeNAだけは12球団唯一となる単独1位指名で先週のコラムの主役「アズマックス」こと東克樹投手(愛工大名電-立命館大)の交渉権獲得にすんなり成功したのだ。(→<番外編>羽ばたけ、アズマックス世代!愛工大名電・紫魂の2017年ドラフト

そんな今年のDeNAのドラフト戦略が異彩を放っていた件について、あの東尾修さんがこのようなコメントを週刊朝日に寄せている↓。(以下、引用文は青字、強調は筆者)

Aera.dot(2017年11月1日):週刊朝日・連載「ときどきビーンボール」 - ドラフトも? 東尾修「DeNAラミレス監督の思い切りの良さ」をほめる
https://dot.asahi.com/wa/2017103100055.html?page=1
これ(←筆者註:東投手の12球団唯一となる単独指名のみならず、大学左腕の上位指名が今年で4年連続となったこと)はフロントの判断なのか、ラミレス監督の希望なのかはわからないが、ラミレス監督だからこその決断力、思い切りの良さを感じてしまうよね。CSファイナルステージでもそう。(中略)救援投手の左右のバランスは、思っている以上に重要だ。特に短期決戦は先発が初回から飛ばすから、どうしても継投勝負となる試合が増える。その時に、左右のバランスが良ければ、次々に投入できる。左投手が1枚しかいないとなれば、投入場所を考えなければいけない。
(中略)ラミレス監督の采配ではないが、「常識」や「最低限」といった考えを持つと、スケールダウンになる。それを覆してあっと驚く選手が増えることを期待したい。


ラミレス監督を形容する表現が「決断力」「思いきり」、そしてその采配を「常識・最低限という考えを覆す」とするこの東尾氏のコメントからは、日本野球の中で凝り固まりつつある”既存の価値観”を打破する存在としてのラミレス監督に対する期待の大きさがひしひしと伝わってくる。

ここで唐突に思い出されたのが、今年の9月上旬に行われたWBSC U-18野球ワールドカップ(以下、U-18 W杯)のストリーム配信中継だった。YouTubeのWBSC公式チャンネルでは、全50試合のうち30試合が無料ストリーム配信で生中継され、私もドイツからこれらの放送を見ながらそのリンク先を掲示しつつ、これまでの連載を執筆してきた。(→見てきたつもりのU-18野球W杯(3)…「飛ぶボール」と「タイブレーク」ならどちらを選ぶべきか、→見てきたつもりのU-18野球W杯(5)…甲子園大会とU-18国際大会の試合時間差が突きつける日本の課題

しかし、原稿掲載からほどなく、日本の複数の知人から相次いで指摘を受けた。YouTubeにアップされているこれらの試合のうち、日本が登場する9試合だけは日本から視聴ができないというのだ。

例えば、ドイツのYouTubeサイトで”WBSC baseball japan”で検索すると、スーパーラウンド・韓国戦やカナダ戦、ファーストラウンド・アメリカ戦など、日本が登場した全9試合のノーカットバージョンがズラリと表示される↓。いずれも3時間超のフル動画ばかりで、中にはアメリカ戦のように、雨天中断の間も中継が継続されたため全長が5時間8分を超えている動画もある。

そして、このアメリカ戦のリンク(上写真の最下端)をクリックすると、ドイツからであれば普通に試合が再生されるのに対し、日本だとこんな画面が出てくる↓。

「このユーザーは、このビデオをあなたの国では再生できないように設定しました」なる一文とともに、丸いおメメとひん曲がった口のアイコンがお出迎えである(笑)。これが悪名高きジオブロック(Geoblock)というヤツで、日本のテレビ局が放映権を購入して地上波やBSなどで中継を行うことから、YouTubeの無料ストリーム配信サイトに日本からアクセスすると日本戦9試合に限って再生をブロックされる。さらに解せないのは、大会もテレビ中継もとっくに終了した今になっても、そのブロックが解除されないままであることだ。それにしても、あくまで国技がサッカーであって国民の誰一人として野球になど興味も関心もなければルールもろくに知らないドイツ国民が何の支障も無く見ることができる日本戦が、野球が国技で現地実況コメントにも学ぶところが多いであろう日本国民はあたかもイジメや村八分よろしく、世界からブロックされてしまうというこの構図自体、根本的な矛盾という以上に、他ならぬ日本の野球界にとって大きな損失ではないかと思えてくる。

というのも、このYouTubeの国際映像についている現地解説こそが、私にとってはU-18杯観戦における最大のハイライトかつ収穫だったからである。個人的な話になるが、私は当連載執筆のため9月から1ヶ月半ほど、土日祝日の度にひたすらU-18 W杯の中継動画を1日あたり2~3試合は観戦するという、文字通りの野球漬け(?)の週末を送っていた。そして、この中継動画の解説が全て英語であったことが、思わぬ副次効果をもたらすことになる。元々ドイツ訛りをさんざんからかわれてきた私の英語力がここにきて飛躍的に向上したと、最近になって周囲のドイツ人たちからお褒めの言葉をいただくようになったのである!

私の場合、仕事で必要であるのに英語がなかなか上達しない理由はハッキリしている。それはズバリ、「嫌いだから」(笑)である。言い換えるなら、英語を好きになるような機会や人脈やコンテンツに恵まれてこなかった、ということになるだろうか。非英語圏の人間がコミュニケーションのツールとして用いる「外国語としての英語」は一般的にEFL(English as a foreign language)とかESL(English as a second language)と呼ばれるが、好きだの嫌いだの面倒だのとEFLから逃げ回っていては、世界と繋がることもできなければ、世界に対して自らの言い分を理解してもらうことすらかなわない。そんなことは他人に言われるまでもなく百も承知だが、大学受験の時も、必要に迫られている今も、なかなかやる気が起きなかった。元々、好きなバンドやテレビドラマがフランス語圏のものに極端に偏っていたのが契機とはいえ、誰に強制されることもなく執着的かつ集中的に独学で習得していったフランス語とは、上達の曲線が明らかに異なっている。

しかし、「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものである。今年の9月から唐突に始まった「U-18 W杯聞き流し式英会話」(笑)は、1日5時間だろうが9時間だろうが、聞き続けることに全く苦痛がなかった。一試合を見終われば、立て続けに別の試合も早く見てみたいと思えるほど、コメンテーター2人の知的でウイットに富んだ軽妙なトークには虜にさせられた。これは使える…というフレーズに出会ったらメモしつつ、聞き取れない表現は何度もリピートしつつ、繰り返していくといつの間にか脳内に英語特有の言い回しのブロックが次々と積み上げられていく。空振り三振を”swinging-K”、見逃し三振を”looking-K”、振り逃げを”swing and a miss”と言った具合に、日本語でしか知らなかった幾多の野球用語や野球独特の表現を「英語ではこう言うのか~!」と知るのは新鮮なことこの上ない。野球に英語が便乗して脳内に一緒に勝手に入って来るという感覚である。ちなみに、この体験を日本の友人に説明すると、皆が判で押したように「スピードラーニングみたいだね!」と同じ事を言うのが興味深いが、根本原理は同じであっても、自分が個人的に好きな内容を選んで教材としている点で、スピードラーニングよりも効果はさらに高くなるのではないかと思われる。

ここで紹介したいのが、今年に入って相次いだ「英語を公用語とする野球教室設立」という報道である。まず、元大リーガーとして在米生活20年の経験を持つマック鈴木さんが、全てのレッスンを英語のみで行う野球教室をオープンしたというニュースが本年5月に(参考サイトA)、さらには元巨人のウォーレン・クロマティ氏が7月に来日、英語で子供や指導者を指導するベースボールアカデミー設立に動いているというニュースが本年9月に(参考サイトB)、相次いで報じられた。今どきの日本の子供たちが学習塾にピアノ教室、水泳教室に英語塾といった具合に、習い事に超多忙であることを見るにつけ、マック鈴木氏やクロマティ氏が提案する「英語を公用語とする野球アカデミー」はまさに英語塾と野球塾をドッキングさせた2in1であり、別々の塾に通うよりも月謝が割安になる一石二鳥ではないかと期待が膨らむ。その効能は、長年EFLから逃げ回ってきたこの私が野球が絡んだ途端に向き合うことができたという事実が実証している(笑)!そもそも野球はアメリカから来たスポーツであり、野球を学ぶことと英語を学ぶことは片方ずつではなく同時進行した方が効率的であり、相乗効果も大きいのだろう。

ちなみに、DeNA監督のアレックス・ラミレス氏はベネズエラ人。つまり、母国語はスペイン語であって、試合後の流暢な英語インタビューはまさに努力して習得したEFLに他ならない。今後、日本野球が鎖国状態のままでよいと考えるのであれば、かつての私がそうだったようにEFLから逃げ回っても構わないだろう。しかし、世界と同じ土俵に立つ心づもりが少しでもあるならば、ジオブロックなどさせている場合ではないのではないか。3年後に控える東京五輪も見据え、クロマティ氏に「ワンパターン」「全て予測可能」「自己表現不足」と評された日本野球の現状を打破する鍵を握るのは、ラミレス監督のような外国人監督だったり、英語を公用語とする少年野球アカデミーの広がりなのかもしれない。年数はかかるだろうが、元大リーガーの両氏による英語の野球アカデミーの運営手腕と卒業生の動向には注目していきたいと思う。


<参考サイト>
A) 週プレニュース(2017年05月27日):マック鈴木が“英語野球教室”をオープン!「少しでも人生の選択肢を広げることになれば」
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/05/27/85206/
(元大リーガーのマック鈴木氏が「準備運動を含めたすべてのレッスンが英語で行なわれる“英語野球教室”」をオープン)
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/05/27/85206/2
(「僕は幸いにもメジャーまで行きましたが、それよりも20年間のアメリカ生活で英語を身につけたことのほうが人生の財産になっている気がする。この子たちも、英語を身につけることで、少しでも人生の選択肢を広げることになれば」とマック氏の弁)

B) フルカウント(2017年9月7日):日本野球の「レベルダウン」に警鐘 クロマティがアカデミー設立を目指すワケ
(1ページ) 巨人で活躍したクロマティ氏、「私は選手の自己表現をもっと見たい」
https://full-count.jp/2017/09/07/post83029/
(元巨人のクロマティ氏が、英語で指導するベースボールアカデミー設立を計画していることを表明。「日本野球はワンパターンでサプライズが足りない」「選手の自己表現をもっと見たい」とも指摘)
(2ページ)「英語で子供や指導者を指導するベースボールアカデミーを設立したい」
https://full-count.jp/2017/09/07/post83029/2/
(クロマティ・スタイルのベースボールアカデミーの目標は、「規律や基本技術のみならず、子供たちや指導者に旺盛な自己表現を促し、英語教育を進めること」だという)

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