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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/10/13

見てきたつもりのU-18野球W杯(5)…甲子園大会とU-18国際大会の試合時間差が突きつける日本の課題

先週、甲子園における開会式や閉会式のスピードアップについてのコラムの中で、大会主催者が「試合そのもののスピードアップにばかり躍起になってきた」と述べた。実は、先月のWBSC U-18野球ワールドカップ(以下、U-18 W杯)を見ていて感じたことの一つが、この「試合時間短縮」を美徳とする高校野球を取り巻く価値観がどうも日本独自のものであって、世界とは相容れないのではないか…という違和感であった。そして、この点をデータで徹底的に検証してみたら、意外な結論に達した、というのが今日のテーマである。(→見てきたつもりのU-18野球W杯(4)…国際大会の開会式におけるスピーチと宣誓に学ぶ

U-18 W杯は日本や韓国ではテレビで連日生中継されたようで、YouTubeのWBSC公式チャンネルでストリーム配信された映像を見ると、「13時間もの時差にもかかわらず深夜や早朝にテレビ放送されて毎日ご苦労なことで…」といった若干皮肉の効いた解説がお約束のように添えられていた。中には、韓国と日本のタイムゾーンが同じであることから、「トーキョー」を何度も「ソウル」と言い間違える困った場面もあった(笑)。しかし、日本で生中継をご覧になった方ならきっと感じられたのが、やたら長い試合時間にダラダラ感のある間合いではなかっただろうか。日本の甲子園大会のようなテンポで試合が流れないため、中継をセットアップする放送局も放送枠の確保や予期せぬ延長などに苦労があったのではないかと想像する。

ここで、今年の夏の甲子園こと第89回全国高等学校野球選手権大会(8月8日~23日)の全48試合、そして今回のU-18 W杯の全50試合における試合時間の平均値から見ていただきたい。

<平均試合時間(全試合)>
甲子園:   2時間12分49秒(延長戦6試合を含む。甲子園にコールドゲームはない)
U-18 W杯: 2時間51分04秒(コールドゲーム10試合および延長戦2試合を含む)

<平均試合時間(コールド・延長戦除く)>
甲子園:   2時間09分30秒
U-18 W杯: 2時間52分35秒

まず、一試合を普通に9回成立させるための所要時間が、カナダでのU-18W杯では甲子園よりも40分以上長くなってることに驚かされる。今のコールドゲーム規定も、平均試合時間をさほど短縮させないようだ。これでは、「試合が90分+αで終わるサッカーと比べて、野球は試合時間が長い上に終了時間が読めない」という、野球が世界的スポーツとなりにくい理由として頻繁に挙げられる指摘そのままになってしまう。野球が一度は五輪の正式種目から外されたのも、次の2020年東京五輪に野球競技の復活が決まった際に「七回で試合成立」なるルールの導入が一時検討されたこと(←結局採用はされず従来通りの九回に落ち着いた)も、この「試合時間の不確かさ」と無縁ではない。

なお、試合時間の短縮に関しては甲子園大会で鍛えられているはずの日本代表チームだが、この大会の平均試合時間に対してはどう影響したのだろうか?ということで、今度は日本が登場するゲームと日本が登場しないゲームについて、それぞれ平均試合時間を算出してみた。

日本代表出場試合(全9試合)の平均試合時間    3時間05分07秒
日本代表不出場試合(全41試合の平均試合時間)  2時間47分54秒

なんと、日本が出場する試合の方が、他国同士の試合よりも試合時間が17分以上も長くなっているではないか(ちなみにコールド・延長戦を含んだ場合はそれぞれ2分程度ずつ試合時間が長くなるが、その差はほぼ変わらない)。つまり、日本の高校野球におけるスピーディーな試合運びは、海外には持ち込まれなかった。特に甲子園の野球のスピード感は、わずか2週間余りの間に48試合をたった一つの球場で全部こなした上に休養日まで設けようという、いわば甲子園大会ならではの特殊事情だったことがこれでハッキリした。複数球場を使用する地方大会や、時間をタップリ確保してセットアップされた練習試合や招待試合などであれば、彼らだってそこまでセカセカした野球をする必要はないし、ましてや海外にまで羽を伸ばして普通に野球をやれば、試合時間が3時間を軽く超えてくるのは全く当然のことなのである。

日本高校野球連盟は一試合あたりの平均試合時間の目標を2時間以内に設定しているとよく言われる。それでは、実際の甲子園大会における試合時間の短縮は、具体的にはどのようにして実現されているのだろうか。パッと思いつく限りでは、最も寄与度が大きいのは以下の三要素ではないかと私は考えている:

1) 投球間隔の短縮(←サイン簡略化も含めて投手が速いテンポで次々と投げこむこと)
2) フィールドからベンチへの全力疾走(←攻撃側の打者走者の凡退時、守備側の攻守交代時)
3) 伝令の回数制限およびグラウンド出入り時の全力疾走

上記の3つが全て揃うと、試合時間はかなり短くなることは確かだ。となると、U-18W杯でこの三要素を検証すれば、試合が長くなる理由が見えてくるはずだ。

ということで、YouTube内のWBSC公式チャンネルから、日本が出場する試合を中心に見て検証していった。データは膨大になるので割愛し、結果と考察を以下に列記する:

1) 投球間隔について
 ここでいう投球間隔とは、投手が一球投げてから次の球を投げるまでのインターバル秒数と定義する。すると、U-18W杯では日本代表を始めほとんどの国で投球間隔(ここでは無走者場面のみに限定)を測定すると概ね14秒~19秒の間で推移する(ちなみに一般論としては、試合序盤ないし無走者時は短く、試合後半ないし走者が多くなるほど長くなる)。ちなみに日本の春夏の甲子園大会では、投手の(無走者時の)投球間隔はほとんどが10~14秒の間におさまり、時には8~9秒台の投手も珍しくない。つまり、これは日本の甲子園と海外の国際大会との差にはなっているが、国際大会の出場チーム間の差にはなっていないということだ。U-18W杯を見ていると、日本以外のチームでも甲子園顔負けの速いテンポで投げる投手が少ないながらも存在するし、逆に日本にも、甲子園での快投が別人かと思うほど、その投球間隔がほとんど17秒以上という投手がいた。甲子園では世を忍ぶ仮の姿だったのかもしれないが、そのマウンドさばきのカナダと甲子園におけるギャップには、こんな引き出しもあったのかと驚きを通り越してむしろ感動した。野球とは相撲にも負けぬほど間合いが大切なスポーツである。間合いとズバリ、時間軸を操作する駆け引きの行為に他ならず、この競技の生命線でも醍醐味でもある。そんな野球というスポーツにおいて、投球テンポとは本来はバッテリーの価値観や個性の表現の一種であるはずで、それが甲子園では大会運営の都合上、強大な権力を駆使して封印されている…ただそれだけのことだ。しかし、日本選手の自己表現を、私たち日本人が国際大会でしか目にすることができないのだとすれば、あまりに皮肉な構図だとは思う。

2) フィールドからベンチへの全力疾走(←攻撃側の打者走者の凡退時、守備側の攻守交代時)
 日本高校球界でこれをトレードマークにしているチームは全国に幾つか存在し、そういうチームが甲子園に出場すると球場では拍手喝采され、新聞・テレビなどのマスコミはベタボメな礼賛を展開する。しかし、甲子園大会であっても特に夏は体力温存の観点もあり、あくまでも「小走り」よりやや早いかという程度であって、「全力」まではいかないことがほとんどである。国際大会たるU-18 W杯でも、基本的に攻守交代は「小走り」であり、投手だけはプロ選手の如くゆったり歩いてベンチに戻るケ―スが多いものの、所要時間を規定するのはあくまでもベンチから最も離れた位置から戻って来る外野手であるため、近いポジションの選手が歩いても全体のタイムは変わらない。したがって、甲子園との試合時間の差への寄与度もさほど大きくはないだろう。それにしても、世界の高校生がやらないようなことが、どうして日本のそれも高校生の場合のみ「青春の象徴」のように祭り上げられるのか。何か根源的な疑念を突きつけられているようだ。

3) 伝令の回数制限およびグラウンド出入り時の全力疾走

 甲子園では伝令は同じ高校生であるベンチ入り控え選手が務める。反対にU-18W杯の場合、伝令は選手ではなく監督またはコーチであり、ゆっくり歩いてベンチに向かうケースが多い。日本代表の小枝守監督は開幕当初は小走りにマウンドに行くことが多かったが(上写真:参考動画1「ファーストラウンドvsアメリカ」の0:34頃より)、そのうち歩いて向かうようになった。さらに小枝監督の場合、微妙な判定や疑義のあるプレーに対する審判への確認行為が他国首脳陣と比べて明らかに多い。しかも、そこではスペイン語と英語と日本語が飛び交う翻訳合戦が勃発することが往々にしてあり、他国チームが同じ確認行為を行う場合に比べて所要時間は確実に跳ね上がる(下写真:参考動画2「スーパーラウンドvsカナダ」の18:11頃の音声解説内容)。それでも小枝監督、さすがは捕手経験者のことはあり(←大学時代)、超がつく細かいところまで大いに目が利く。長年の高校野球指導経験にも裏打ちされた独特の持ち味を、カナダの空と雲の下でも存分に発揮していた。

(このシーンでは主審がキューバ人、二塁塁審がアメリカ人、そして日本の監督・スタッフは日本人。中央のオレンジ色のTシャツは現地ボランティアを意味しており、この男性は日本代表専属通訳のようだ。このシーンの際、「発言内容は往々にして翻訳を介することで一部が失われる」との実況が流れ、これを聞いた瞬間、2003年ハリウッド映画で日本が舞台の『ロスト・イン・トランスレーション』を連想して思わす噴き出してしまった)

以上を要約するに、甲子園大会よりもU-18 W杯の方が平均試合時間が長いのは投球間隔の差に負うところが大きく、U-18 W杯における他国チーム同士の対決よりも日本戦の方が長くなるのはズバリ、監督の”登板回数”の差(笑)ということで間違いなさそうである。WBSCストリーム配信の現地解説者コンビのCraig DurhamとTyler Maunの両氏は、小枝監督を始めとする日本ベンチの眼力の高さを絶賛していた。例えばスーパーラウンド韓国戦で一塁走者が三塁を回った際に勢いあまってサードコーチの腕につかまってから帰塁したプレーがあったが、ベンチから小枝監督と通訳がいち早く飛び出してきて抗議を申し入れ、その後の審判協議の末に走者アウトとなった際、「今のプレーに気付いて抗議に出ていくとは、日本ベンチは非常に目ざといですね~!」(That is very alert on the japanese side to have noticed that and go out for that conversation)と興奮気味に舌を巻いていた。(下写真:参考動画3の1:51:55頃から)

(問題シーンのリプレイ映像。三塁をベースを越えた走者の右手が三塁コーチの右上腕を掴んでいる。三塁手は履正社・安田尚憲選手)

今回の試合時間のスタディで私が辿り着いた真実が一つある。それは、野球とは本質的に「普通にやれば一試合が3時間弱かかるスポーツである」ということだ。これが野球の偽らざる実体であって、このスポーツが根源的に内包する時間でもある。大学野球であればエール交換や応援団・チアガールによるパーフォーマンス、プロ野球であれば応援歌演奏&風船飛ばしのようなファンサービス的イベントなどをはさむことで、さらに全体像が伸縮していくのだろう。それでも、あくまでも基軸となるのはこの3時間(正確には2時間50分)という数字なのである。だからこそ、甲子園大会も一試合を2時間ではなく2時間50分かかることを前提に大会運営方法を構築し直すことから始めるのが、本来あるべき姿なのではないか?

これは高校野球に限らず、長時間残業の企業や大病院の研修医の過労死といった昨今の日本を揺るがす社会問題にも通じる話である。無理が通れば道理が引っ込む、とはよく言ったもので、日本における有害事象たる人災の多くは、人間としての本質や物事の本来の姿を無死してトップの都合で無理矢理デフォルメをすることから発生しているというのが今風の考え方であり、だからこそ最近では「人間工学」「リスク・マネージメント」「ヒヤリ・ハット」といった単語が当たり前のように定着するに至った。甲子園大会を始めとする高校野球にもこの視点の導入がそろそろ必要である。そもそも朝の8時から1日4試合を連日消化して夕方の18時迄のNHKの放送枠に収めようなどという発想自体、野球の本来の姿からかけ離れているとまず自覚することから始めない限り、「人間が行う」「道理のある」高校野球は日本には永遠にやってこないし、世界一にもなれないだろう。急激なグローバル化と国内情勢の変化の中、来年は春の選抜が第90回大会で夏の選手権が第100回大会と、相次いで区切りを迎える。未来の甲子園に残すべき価値観と消すべき価値観を十分に吟味しつつ、そろそろ人間本位の聖域なき改革へと舵を切る時期が来たのではないかというのが、連日のU-18 W杯の動画観戦で私が辿り着いた結論である。


<参考動画>
1) YouTube - USA v Japan - WBSC U-18 Baseball World Cup 2017
https://www.youtube.com/watch?v=8it_Phsav6k

2) YouTube - Canada v Japan - Super Round - WBSC U-18 Baseball World Cup 2017
https://www.youtube.com/watch?v=RsT8JglzIoM

3) YouTube - Japan v Korea - Super Round - WBSC U-18 Baseball World Cup 2017
https://www.youtube.com/watch?v=wpstkIeiw-c

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