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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/10/06

見てきたつもりのU-18野球W杯(4)…国際大会の開会式におけるスピーチと宣誓に学ぶ

日本には日本の高校野球文化があり、その最高峰に位置付けられるのが年に2度の甲子園である…そのことに異論のある人は少ないであろう。私自身、長い海外生活から帰国したばかりの頃、心を奪われたのは他ならぬ、テレビから流れてきた甲子園の高校野球であった。確かに、そこで繰り広げられていた世界は海外の価値観と比べれば激しいギャップがあったが、それはそれで日本という国を一から新しく理解する必要のあった当時の私にとっては恰好の教科書となり、さらには善き人々との出会いにもつながり、以後の私の学校生活のみならずその後の人生における大きな精神的支柱となって今に至っているのは、当連載を始め様々な媒体でこれまで述べてきた通りである。

しかし、今夏の甲子園こと第99回全国高校野球選手権大会は、初っ端からいただけなかった。開会式途中でプラカード担当の女子学生がいきなりバターンと倒れたシーンのことである(参考動画1の37:55頃~)。本人に配慮してその画像をここに紹介することは控えるが、日本高等学校野球連盟会長による長々とした英単語をふんだんに混ぜたスピーチの終盤に、よりによって直後に選手宣誓を予定していた主将のいるチームを担当するプラカード嬢が、何の前触れもなくフワ~っと意識を失い、バーンと派手に前方へ崩れ落ちてそのまま微動だにしなくなったのだ。SNSや掲示板では、熱中症を発症したらしきこの女子生徒に対して周囲の選手たちが誰も助けに行かなかったことや、都合の悪いモノが速やかに”排除”されるかのごとく、次の瞬間には何事もなかったかのように別のプラカード嬢に入れ替わっていたことが随分叩かれていた。もちろん、女子生徒の病状も気にはなったが、むしろ私が反射的に目がいってしまったのはこの選手宣誓予定の主将の方で、念入りに準備してきた宣誓のセリフがこの前代未聞のアクシデントで全部すっ飛んでしまったのではないかと心配した。幸い、その選手の宣誓は滞りなく終了し、開会式も何とか体裁は保たれた形となった。

しかし、この開会式の映像を見て、何とも言えぬうすら寒い戦慄を禁じ得なかったのは、おそらく私だけではなかったことだろう。何と言っても、女子生徒が倒れた瞬間、大会役員がスピーチで高らかに発したのがよりによって

「誰かが苦しいときは、他の誰かがカバーしてくれる。高校野球は、仲間同士で支え合う若人を育むスポーツです」

などというセリフだったのだから、全くシャレにならない。この突発的事態の可視範囲にいた選手たちは、いずれも周囲を伺いつつフィールドでオロオロと立ち尽くすばかりだった。彼らは少なくともこの状況では、スピーチの中でブチ挙げられた「支え合う若人」になりたかったとしても、手も足も出しようがなかったことだろう。しかし、演壇上から一部始終が目の前に見えていたはずのスピーチ中の当の本人が、話を中断することも短縮することもなく、謎の英単語の羅列から成る予定稿を延々と読み上げ続けたのは、聞いている方が赤面してしまうイタさだった。この一件、式典の続行を優先したとか熱中症対策がどうのという以前に、一番の問題は「式典での役員の話が長すぎる」という点に尽きると思う。

そういう意味で、翌月上旬にカナダ・オンタリオ州サンダーベイで開催されたWBSC U-18野球ワールドカップの開会式は、大変参考になるものだった(参考動画2)。式典全体の構成は、楽団および役員の入場、選手の入場、来賓&役員4名による挨拶、選手および審判による宣誓、大会会長による開会宣言、そして役員および選手の退場というものだったが、全体としての所要時間は22分。甲子園の開会式の全長が50分近いことを考えれば、実に半分以下である。

そして何よりも、一人ひとりの役員のスピーチが短い!4名の役員のスピーチ時間はそれぞれ順に2分半、1分12秒、2分半、3分12秒というものであった。今年の夏の甲子園における開会式でのお偉方3名のスピーチが順に4分20秒(大会会長の朝日新聞社社長)、3分12秒(文部科学省副大臣)、4分21秒(前述の高野連会長)であったことを考えると、甲子園大会の開会式にはさらなるスピードアップの余地がまだまだありそうだ。

また、もう一つ新鮮だったのは、選手宣誓のみならず審判宣誓があったことだった(下写真)。審判宣誓は、オリンピックやパラリンピックでは毎回普通に行われているが、日本の国内大会では競技を問わず見慣れない。選手がフェアプレーを誓うのであれば、審判だって公平なジャッジを誓うべきという考えがあってもよさそうだ。特に日本の高校野球は、妙な判官びいきやメディアの刷り込みがジャッジひいては勝敗そのものに影響する事例が少なくない(→真夏の邂逅(3)…いつも満員札止め!「フラリと立ち寄る甲子園」の時代の終焉に思う)。来年以降の甲子園の開会式における導入を検討してほしい事項の一つである。

(参考動画2の28:11頃~。プエルトリコの審判員アンジェロ・リオスAngelo Rios氏による宣誓。所要時間0分19秒。今大会のリオス氏はファーストラウンド日本vsキューバの主審を始め、スーパーラウンド日本vs韓国の一塁塁審、3位決定戦日本vsカナダの一塁塁審などを務めた)

ちなみに、選手にしろ審判員にしろ、この大会では宣誓する者はメモを片手に宣誓文を読み上げていた。日本から見たらこれまた新鮮な光景であり、そもそも甲子園における選手宣誓が全文暗記でなければならない理由はどこにあるのかという疑問が湧いてくる。

(参考動画2より。27:30頃~選手宣誓を行うカナダ代表チームのジェイソン・ウィローJason Willow選手。所要時間は0分20秒。「全選手を代表して、ルールを遵守し、審判の判定に従い、全力を尽くし、スポーツマンシップにのっとり、大会の栄光と母国の栄誉にかけて戦うことを誓う」と簡潔に宣言)

(参考動画1の40:15頃~。所要時間1分15秒と、先ほどのウィロー選手の4倍近い長さ)

甲子園以外の地方大会や他のスポーツの大会では、選手宣誓といえば「ハイル・ヒトラー」の如く右手を挙げて行うケースが未だに多いようである。しかし、甲子園では以前から手を挙げない”世界標準”の宣誓である。かつて、宣誓といえばあらかじめ用意されたものを読むだけだったそうだが、1984年の第66回大会を境に、選手自らの言葉で思いを伝える宣誓に変わったとのことである(参考動画3)。

上写真は、その1984年の宣誓からのスクリーンショットである(参考動画3)。この福井商キャプテンこと坪井久晃(つぼい・ひさてる)さんといえば、個人的に思い出すのは、同大会に他校のエースとして出場し、この宣誓を実際に甲子園のグラウンドで後方から見守っていた某・元選手から後日談として聞いた、こちらの話であった↓。

「今まで選手宣誓といえば絶叫調で早く終わったのに、あの坪井が”語りかけるような宣誓”に変えちゃったせいで妙に宣誓が長くなって、「なげーよ」ってチームメイトと言い合っていた」

その話を聞いた時は「そんなもんかね?」としか思わなかったが、今回の記事化にあたってタイムを計測してみてビックリ!あの伝説とも呼ばれた坪井さんの「長い」と文句を言われた選手宣誓だが、その所要時間はたったの40秒だったのだ。確かにゆっくりと語りかける独特の口調なのだが、福井商のチームのモットーである「炎」という単語もうまく絡めてスッキリとまとめ上げており、こんなに短かったのかと23年も経った今になって改めて感心しきりである(→祝・W杯サッカー準々決勝進出!ドイツ代表は「勝って強くなる炎のチーム」)。今年の選手宣誓こそ1分15秒と例年よりは短めだったが、昨年は1分46秒という長さであり、90年代以降は軒並み1分半前後で年々長くなる傾向にあった。中には、宣誓している本人が途中から何を言いたいのか分からなくなっているような、日本語の文章としておかしいものもあった。手元のメモを見ながらでも構わない。来年以降は、たった40秒で日本全国の老若男女のハートを鷲掴みにした坪井さんの再来を思わせるような、簡潔かつ深く心に刻まれる宣誓に出逢いたいものだ。

そして何よりも、役員のスピーチをもっと劇的に短縮してほしい。閉会式における大会講評なども、その必要性を全く感じない。一時期、「見逃しの三振はダメ」だのと作戦面に対して考えを押し付ける大会講評が続いた黒歴史が甲子園の閉会式にはあった。そもそも、中立の立場にあるべき連盟や大会役員が試合内容や個別のプレーに対して主観を述べる、ましてや善悪のレッテルを貼ることなど許されるのか?その点、カナダでのU-18ワードカップの開閉会式における役員挨拶は素晴らしかった。大会の歴史を尊重し、選手の健闘を祈念あるいは称賛し、地元開催地やボランティアに深く感謝するといった内容から、彼らのスピーチは決して逸脱することがなかった。これまで試合そのもののスピードアップにばかり躍起になってきた高野連だが、むしろ開会式や閉会式のダラダラぶりの解消こそ喫緊の課題であって、来年以降の改革の一環として是非とも盛り込んで欲しい。


<参考動画>
1) YouTube - 2017夏 第99回全国高校野球 開会式 全 阪神甲子園球場 The Openiong Ceremony of High School Baseball Championship
https://www.youtube.com/watch?v=FsiXCVh7OTo
(現地で撮影していた観客の手によるノーカット映像)

2) YouTube WBSC公式チャンネル - Opening Ceremony 2017
https://www.youtube.com/watch?v=oGCUaGJitSo

3) YouTube - 1984夏甲子園 福井商 坪井キャプテン 選手宣誓
https://www.youtube.com/watch?v=xLPiVtwuabc

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