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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/09/22

見てきたつもりのU-18野球W杯(2)…世界の背中が遠ざかる!BMI野球のイタチごっこの限界

かつて番組ロケ帯同医師として『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)に参加していた頃、目からウロコというような体験や忘れられない思い出はいくつもあったのだが、その中でも特に印象的で今でも頻繁に思い出すエピソードがある。それは、当コラムでもおなじみの大食い女帝・菅原初代さんが「くるくるソーセージ45分勝負」の撮影終了直後に放った、このような一言だった:

「日本で売っているソーセージは、増量剤でカサ増したり添加物で味を調整して、見た目と味だけを似せているものが多い。だけど、今回出てきたのは全然違う。しっかり肉の味がする。ホンモノのソーセージはやはり美味しさがが違う!」

大食い選手というのは、何でも嬉しそうに食べるのかと思ったら大間違いで、実は味にうるさい人ばかりである。そういえばジャイアント白田さんも、化学調味料には敏感だった。テレビカメラの前では「おいし~い!」を連呼していた人が、カメラが止まった瞬間に真逆のダメ出し…というケースも一度や二度ではなかった。しかし、あの時の「くるくるソーセージ」に関しては、誰もが異口同音に最高級の賛辞を送っていた。それもそのはず、あのソーセージは本場ドイツで賞をもらったばかりという折り紙付きの、生産者こだわりの逸品であった。菅原さんが「何キロ食べても全然辛くなかった!」というのだから間違いない。かくいう本場ドイツでは近年、ソーセージの添加物による発癌性を指摘する報道が相次ぎ、その消費は以前よりも下降気味とのこと。それでも、ドイツ名物のオクトーバーフェストでカリーヴルスト(ソーセージのカレー味ディップ添え)をつついたり、どこのスーパーにも普通に売っている「くるくるソーセージ」を見かける度に、あの日の菅原さんの発言が勝手に脳内でクルクルと再生されるのである(笑)。(カリーヴルストについては以前のコラム内の写真を参照:→「ポルディ王子」ヴィッセル神戸加入記念!ルーカス・ポドルスキー選手来日を伝えるお宝ニュース映像を紹介

さて、今日もまた一段と前置きが長いが一体何を言いたいのかとお思いになった皆様には、是非とも以下のデータを見ていただきたい。今月上旬に行われたU-18野球ワールドカップにおける、チーム別の体格ランキングである。(データは末尾参考サイトAおよびBから収集。優勝のアメリカが赤字、準優勝の韓国が青字、3位の日本は緑太字。ただしオランダに関しては暫定値…末尾註※を参照のこと)

<2017年BMI中央値ランキング>
1位  (25.25)    アメリカ       ←優勝
2位  (25.04)    キューバ      ←6位
3位  (24.80)    カナダ        ←4位
4位  (24.79)    日本         ←3位
5位  (24.71)    韓国         ←準優勝
6位  (24.65)    オランダ(※)    ←8位
7位  (24.64)    メキシコ       ←10位
8位  (24.38)    南アフリカ     ←12位
9位  (24.30)    台湾         ←7位
10位 (23.92)    ニカラグア     ←11位
11位 (23.89)    イタリア       ←9位
12位 (23.59)    オーストラリア   ←5位

こうしてみると、日本はBMIランキング4位と、体格では決して世界に引けを取らなかったこと、それでもアメリカはそのはるか上を行く体格の良さであったこと、日本を撃破して決勝に進んだ韓国が日本より体格では下に位置していたことなどが分かる。

次は、身長ランキングを見てみよう。

<2017年身長中央値ランキング>
1位  (187cm)   カナダ           ←4位
2位  (185cm)   アメリカ          ←優勝
             オランダ(※)       ←8位
4位  (183.5cm)  オーストラリア      ←5位
5位  (183cm)   メキシコ          ←10位
6位  (182.5cm)  韓国            ←準優勝
7位  (180cm)   イタリア          ←9位
             ニカラグア         ←11位
9位  (178cm)   日本            ←3位
             キューバ          ←6位
             南アフリカ         ←12位
12位 (177.5cm)  台湾            ←7位

ここで、毎度おなじみの「いつものパターン」が出てくる。今大会での日本は身長が下から2番目という低さだったが、韓国はなぜか欧米諸国に見劣りしない高身長…という話だ。これは、以前の当サイトのコラムでも取り上げたサッカーと全く同じである(→祝W杯優勝!ドイツが制した戦いは「ソイラテvsアルゼンチンステーキ」?)。2014年W杯サッカーでは、「身長ランキングの上位は軒並み欧州・北米」「下位はアジア・中南米」というハッキリした傾向が見られた中、韓国だけは全32チーム中10位タイという、実はアジアの国じゃないんじゃないかというほど身長ランキングの上位に食い込んでいた(ちなみに日本は29位タイ)。もう一つのBMIランキングの方も、日本は20位と、アメリカ(22位)や韓国(27位)よりも上位で、優勝したドイツ(25位)をも大きく上回っていた。サッカーと野球では事情が異なることは承知しているが、アメリカ・韓国・日本の本来的な身体特性がにじみ出ているようで興味深い。

参考までに、オコエ瑠偉(関東一→楽天)や平沢大河(仙台育英→千葉ロッテ)に小笠原慎之介(東海大相模→中日)で盛り上がった2年前の日本開催だったU-18W杯におけるこの三チームの身長およびBMIのランキングも確認しておこう↓。(→U-18野球ワールドカップ観戦記(3)…身長・BMIランキングを振り返りついでに東京五輪の野球も占ってみる

アメリカ  BMI:5位 (24.09)、身長:1位 (188cm)    ←優勝
日本    BMI:3位 (24.42)、身長:9位 (178.5cm)   ←準優勝
韓国    BMI:9位 (23.58)、身長:6位 (182cm)    ←3位

今年のデータとよく見比べていただきたい。前回王者でもあるアメリカは、2年前にはトップだった身長こそ3cmもダウンしたが(188→185cm)、BMIを1以上引き上げる(24.09→25.25)という大型化されたチームだったことがわかる。また、前回3位だった韓国も、身長こそほぼ不変(182→182.5cm)も、BMIは1以上アップしている(23.58→24.71)。その反面、日本は身長が微減(178.5→178)、BMIは微増(24.42→24.78)。つまり、ほぼ現状維持のチームプロフィールで今大会を迎えたことになる。

ここで思い出されたのが、先の夏の甲子園こと第99回全国高等学校野球選手権大会におけるホームランの大会記録の大幅更新に関する一連の報道である。先月の今頃は、ワイドショーやスポーツニュースならまだしも通常のニュース番組までもが、高校生が甲子園で放つホームランの数をまるで国家の一大事であるかのごとく逐一報じていた。しかも、今年の異様なまでのホームラン量産の理由ととして、「選手の体格が良くなった」「フルスイングするバッターが増えた」と、それはもう判で押したように同じ解説が加えられ、確かにそれもあるのだろうが、一部に「例年になく低い投手力」を指摘する声こそ上がれども、「飛ぶボールを使用しているのでは?」といった疑惑は陰ではささやかれるものの、正面から堂々と議論することはタブーのようだった。

しかし、以下のグラフを見ていただければわかるように、甲子園に出場する全ての出場選手のBMI平均値はここ10年、多少の増減こそあれ基本的には右肩上がりである。その割には、ホームラン数はアップダウンが激しいだけでなく、その浮沈に一定の周期があるように見える(←このことが「特定ロットの在庫処分」という”飛ぶボール説”の論拠にもなっている)。これでは必ずしも体格の指標と連動しているとはお世辞にも言い難い。体格とかフルスイングとか言うのであれば、例えば下のグラフにおいて前年よりもBMIが減った2008年にホームラン数が倍増していることや、BMIが一直線の右肩上がりだった2013~2016年にかけてどうしてホームラン数が低迷したのか、去年までの選手はフルスイングしなかったのか、納得できるような合理的な説明をしていただきたいものである↓。

 さて、今年のU-18大会を見ていて初めて気づいたことが一つある。BMIの数値が同程度の選手を見比べた場合、アメリカやカナダの選手は日本選手よりもスリムに見えるのだ。理由は単純で、彼らは高身長であるという以上に、日本人よりも手足が長いからである。太腿の太さは同じでも長さが違うことによる、一種の”目の錯覚”だろうか。

例えば、対日本戦での先制2点本塁打を始め3本塁打を放ち、大会MVPにも輝いたアメリカのトライストン・カサス選手(195cm/110kg、BMI 28.93)を見てみよう(下写真)。見ての通り、清宮幸太郎選手(184cm/101kg、BMI 29.83)のようなポッチャリとした雰囲気は全く無い。胸板こそガッチリあるが、顔はシュッと細く、足はカモシカのようで、全体的にはるかに引き締まったバランスの良い肉体に見える。これで本当に体重が110キロもあるのであれば、それは筋肉量のみならず、骨密度の違いもあるのではないかという推測も成り立ちそうだ。

(カサス選手本人のツイッター”@mvptc37”より引用。アカウントにMVPの文字がさりげなく入っているところが愛嬌あり。マイアミ大学進学予定というカサス選手は2000年1月生まれの現在17才、2018年MLBドラフトの目玉の一人)

普段ドイツのティーンエイジャーを見ることも多いが、彼らの体格面での早熟性は日本に比べたらそれはもう明らかで、しかもさほど努力しなくてもゴツくなってしまう傾向があり、さらに油断すれば太るようである。2010年冬季バンクーバー五輪のフィギュアスケート女子シングルで浅田真央さんに次ぐ銅メダルを獲得したジョアニー・ロシェット元選手(カナダ)が、たくましく発達した全身の美しい筋肉に対して何か筋トレをしているのかと問われ、「(自分の体質として)筋トレすると物凄くムキムキになってしまうので、むしろあまりやらないように心掛けている」と返答したことも思い返される。これには遺伝的要素が大きく関与しているのだろうが、さらに思い浮かべるのは、肉・小麦・野菜を中心とする食生活という、日本との圧倒的な栄養差である。(→高校野球界を席巻する不健康極まりない「白米偏向食」から裏読みする「伝統的和食」の一長一短

というと、「日本の高校生だって食トレで栄養は良くなっているはず!」という反論が予想されるが、そう言う人たちは「栄養とカロリーは違う」という医学的初歩でもある基本事項を分かっていない。日本の高校野球が「白米偏重かつプロテイン&サプリメント頼み」という状況にあることは私も各地で目の当りにしており、近年の高校球界におけるBMIの急上昇の本質は、いわゆる「エンプティ・カロリーの過剰状態」にあると考えている。手足の攣りなど熱中症の多さがひと昔前に比べて異様なほど目立つのも、怪我からの回復が遅くなっているのも、選手の疲労骨折の背景にその骨密度の低さが指摘されるのも、私に言わせれば原因は明らかである。

もっとも、そんな日本独自の「食トレ」には、「肉・野菜・麦のコスト高」という日本ならではの食料事情に起因するやむを得ない側面があり、白米自体に栄養学的優位性があってそうなっているのでもなければ、プロテインやサプリメントが「アンバランスな食生活」を無かったことにしてくれる訳でもない。そもそも、食材だろうが薬剤だろうが、全てのものにはリスクとベネフィットがある。白米には無機砒素&カドミウム汚染という、海外では頻繁に報じられる有名なリスクもある(→過ぎたるは及ばざるが如し(2)…今度はコメと米菓子に有害ヒ素!離乳食も?ドイツが全土に警告を発した衝撃内容)。少なくとも医学的には、特定食材の偏食は避けてあらゆる食材を満遍なく摂ることこそリスク分散の王道であり、食育の本来あるべき姿なのである。

ここで冒頭のソーセージの話に戻りたい。大食い女帝の菅原さんが絶賛した、しっかりと肉の味がする、ドイツから賞までもらっているソーセージ。増量剤と添加物でカサ増しした、見た目だけ似せて製造コストを抑えたソーセージもどき。「日本の高校生の体格も良くなりましたよ!」という理屈は甲子園の高校野球までなら何とか通用しても、大学や社会人、そしてプロと、野球のステージが上がれば上がるほど、付け焼刃は通用しなくなっていく。いみじくも今回のU-18大会が実証したのは、筋肉量を増やすのも結構だが、「肉質」も問われているということではないか?

今夏の甲子園大会の期間中、会食した某野球解説者に甲子園出場選手の右肩上がりのBMIデータを供覧したところ、「これは守備練習のウェイトが下がっているということではないか」と即答された。甲子園大会での使用球を世界標準の国際規格のものに統一することにでもなれば、勝つためには打撃練習よりも守備練習、という時代に戻るかもしれない。今回のU-18大会でも、かつて日本のお家芸とまで言われた「1点をもぎ取りに行くソツのない野球」「虎の子の1点を守り切る野球」「細かくつなぐ野球」を日本が出来なくなっていたのを尻目に、アメリカやカナダなどの日本よりもはるかに”大型”とされるチームの方がむしろスモールベースボールにも長けた多彩な野球を創り上げていたのが印象的だった。彼らは軒並み足が速く、バントも日本顔負けの巧さで、守備でも無茶な体勢からの遠投であってもサーカスのような身のこなしで楽々とアウトを取るなど、BMIを上げても機動力や敏捷性が損なわれることがないようだ。

今の日本がパワーを切望するあまり、海外の同年代とのBMI競争というイタチごっこを続けても、勝ち目が乏しいばかりか、それまでの日本チームの長所だった数々の資質を失うリスクの方が大きいのではないか(→BMIランキング的中!?東海大四の決勝進出が教えてくれた「BMI野球」が不利な理由、→出場49代表のBMIランキングの変遷から占う今年の甲子園の優勝旗の行方)。本来的な身体特性から離れていくほど、弱点ばかりが増えていく。とは言っても、硬式野球部の高校生たちにとって、一番の目標はあくまでも甲子園であり、よそがみんな打撃偏重のパワー野球に邁進しているこのご時世に、自分たちだけが別の価値観で動くことは怖くてできない…そんな集団心理もあるのだろう。これはむしろ、世界からどんどん取り残されつつあると評される近年の日本の教育界における、「不毛な受験競争を健全化するために、まず必要なのは大学入試改革である」という話に限りなく近そうだ。それなら、実は本丸の甲子園大会を改革することこそが、全体の軌道修正への近道となる。ということで、来週はU-18W杯を見ていて浮かんだ具体的な高校野球改革について考えてみたい。


<参考サイト>
A) WBSC公式ホームページ - XXVIII U-18 Baseball World Cup
http://www.wbsc.org/tournaments/2017-u18-baseball-world-cup/rosters/

B) Academia Liga Mexicana de Beisbol Liga Doble A 2017(←PDF注意)
http://www.academia-lmb.com/images/ROSTERSPDF.pdf
(参考サイトAのうちメキシコ選手の欠損データはここから補充)

註(※)参考サイトAには身長体重データが欠損している選手が3名いる。そのうち2名(日本1名、メキシコ1名)についてはサイトBなどで別途判明したのでデータを補充できたが、オランダ選手1名については検索を尽くしても発見できなかっため、コラム掲載にあたってはオランダのみ暫定値とした。今後、当該選手のデータが判明した場合、記事の訂正更新を行う予定。

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