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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/08/11

真夏の邂逅(2)…選抜決勝再現の感動から暗転!過酷な観戦で骨身に染みた”五輪招致の負の遺産”

桜島駅に降り立ったら、舞洲(まいしま)行きのバスはさっき出たばかりだという。舞洲球場(現・大阪シティ信用金庫スタジアム)のアクセスはとにかく悲惨で、最寄りであるJRゆめ咲線桜島駅からバスで最低でも15分はかかる。その上、何といってもこのバス、1時間に3本しか出ない。次を待っていては、観戦できる時間が20分以上減ってしまう…そう思った私は、待機中のタクシーにすかさず乗り込んだ。

「舞洲球場までお願いします」
「おっ、上宮vs大冠(おおかんむり)が目当て?それともやっぱり、履正社vs桐蔭?」
「どっちも、ですかね」
「凄い人らしいから、入れるか心配やね」

そんな会話をしながら、タクシーはいかにも埋め立て地という風情の大阪湾岸を走る。ゴミ処理施設や流通センターといった大型工場が立ち並び、いかにも夜間人口が低そうである。史上初の大阪勢同士による頂上決戦だった春の選抜大会決勝から119日後、「履正社vs大阪桐蔭」の再現はこの日、第99回全国高等学校野球選手権大阪大会の準決勝の第2試合に予定されていた。しかし、そんな超がつく人気カードを開催するには、収容能力がたったの1万人という舞洲球場はあまりにスペックに問題がありすぎる。現地には前日夜から泊まり込みのファンも少なくなかったという。報道でも、第1試合登場の大冠高校の保護者が「息子の学校のベスト4の試合を見届けられないのは最悪。今日は入れないと困ります」と、前夜から球場に泊まり込んだエピソードが紹介されていた(参考サイトA)。これでは、運転手さんについ愚痴の一つもこぼしたくなる。

「こんなにアクセスの悪い球場じゃ、せめて大阪大会の準決勝以上とかは大阪ドームでやろうという話にはならないんでしょうか?」
「それは未来永劫、絶対にありえへん!」
「へっ?何でですか?」
「この辺のスポーツ施設はなぁ、みぃ~んな大阪がオリンピックに手ぇ挙げた際に建てたもんなんや。それやのに、五輪がポシャったやろ?せやから大阪市としては、なんぼ不便や不都合言うたかて、使い続けるしかないんや」
「えーーーっ、そんなぁっ!」
「ま、最近よう言われとるような、いわゆる”五輪招致の負の遺産”ってやつや。ハッハッハッ」
「うーん。何だか、東京五輪も二の舞いになりそうな予感が…」

ついこの間までモメに揉めていた東京五輪の競技会場のいくつかも、そういえば東京の湾岸エリアに建設予定である。恒久施設にするか仮設にするかで都知事を中心に日本オリンピック委員会(JOC)や五輪大臣にIOCバッハ会長まで来日してきててんやわんやだったのも今となっては懐かしいが、これから向かう舞洲球場はまさに、アクセスの悪い恒久施設を抱えた自治体はいかに後々が大変かという反面教師そのものでもあるように思えてきた。

現地に着くと、タクシー代金は1400円を少し超えていた。夜の銀座で人々がこぞって万札を振りかざしながらタクシー待ちしていたバブルの時代ならいざ知らず、今のこの非正規雇用者が増えてブラックバイトや過労死問題が世界的にも知れ渡るに至った我が国のこのご時世に、タクシー代が1000円以上かかる球場では先が思いやられる。

球場入口では何とか入場券(800円)こそ手に入れることができたが、ゲートに向かう通路は既に見たこともないような人の波。そして、スタンドに出た瞬間、さらに唖然とする光景が目の前に広がった。空席が文字通り一席も無く、溢れた人々が通路や階段に座り込んで観戦しているのだ。最上段では立ち見客がひしめくように列を成している。彼らは、立ったままおにぎりをほおばったり、通路にシートもゴザも何も敷かずにペタンと座り込んでいる。外野席も開放されているが、あちらも現時点で御堂筋線のラッシュ時ほどではないが、朝の阪神電車の通勤特急クラスの混雑には達しようかという勢いで、第二試合が近づけばさらに人が増えることは確実である。

これが大阪ドームだったら、この人々はこんなつらいスタイルでの観戦を強いられることはなかったはずで、これまた時空を超えた”五輪招致の負の遺産”の一型かもしれない。経済情勢を読み違えてバブリーな箱モノをバンバン建てた挙句にバブル崩壊と五輪招致失敗で下手を打った自治体側の都合…という、あのタクシー運転手の話が本当なのだとすれば。この調子なら、いずれ「府民ファーストの会」ならぬ「野球観戦客ファーストの会」なる団体が結成され、大阪府高等学校野球連盟に抗議文が送りつけられるのも時間の問題かと妄想してみたりする(笑)。

結局、第一試合は全く座ることができず、炎天下の一塁の大冠高校応援席と三塁の上宮応援席の間の、人一人通れるかどうかという通路を一時間余り、ひたすら何往復も歩きながらの「ながら食い」ならぬ「ながら観戦」となった。ちなみに、この日の帰宅後に体重が3~4キロ位減っていたので、ダイエットしたい人は舞洲へGO!これがホントの舞洲ダイエット!などという方法は医学的には危険すぎて決してオススメできないので、よい子は真似をせぬように。その後、練り歩きながらもひたすら目で探していた空き席は、第一試合終了直前に大冠高校応援団のすぐ横にたった一席、ようやく見つけることができた。その瞬間にその席をゲットした私の姿は、あたかも若鷹か大鷲が獲物に飛びつくような獰猛さに映った違いない(笑)。

大冠高校が初の決勝進出を決めた瞬間(上写真)、こちらは既に10キロマラソンを走り切ったかのような疲労がドッと襲っていた。しかし、この日のメインイベントはまだこれからだ。生きて帰って来れるのか、心配になってきた(笑)。

さて、119日振りの両チームのリターンマッチは、奇しくも甲子園と同じで、履正社が一塁側、大阪桐蔭が三塁側に陣取った。つまり、一塁側の大冠高校の応援団の横の席に座っていた私は、応援団の入れ替えとともにあっという間に履正社の青い恰好の人々に取り囲まれてしまった。それでいてそこは、大阪桐蔭のベンチ内の様子が手にとるようによく見えるポジションでもあった。反対側ベンチの観察といえば、先週も述べた私の野球観戦上のこだわりの一つである(→真夏の邂逅(1)…東海大菅生、日大三も早稲田実も破り甲子園へ!神宮球場で交錯する人間模様)。大阪桐蔭の有友茂史部長が自らグラウンドに水を撒いていたのにはビックリしたし(下写真)、試合前にベンチ内のドリンクサーバー(下写真でベンチの出口の隣に写る青い容器)に氷を補充すべく走りまわっていた姿は写真に取り損ねたが、昨今の女子マネージャーでもまずいないというほどの甲斐甲斐しくもきめ細やかな部長の動きは、この試合における新発見の一つであった。

この席からは、試合中も桐蔭ベンチの中のミーティングの様子が手にとるように見えるし…(下写真)、

こんなショットも撮れたりする↓。

履正社の伝令はフィールドへの出入りの際は必ず帽子を取ったまま駆け抜け、絶対に白線を踏まない(上写真)。こういうのはもう死語、ならぬ、「死に絶えた伝統」かと諦めつつ、この手の指摘は極力言わないようにしてきたが、さすがは履正社、オールドファンの心を裏切らない!こういう光景自体が最近の高校野球では本当に稀少となったため、私をこの席に導いてくれた大冠応援団の皆さまにあらためて感謝したい(笑)。

さて、甲子園のスコアボードと舞洲のスコアボードを下に並べてみる。

(2017年4月1日、第89回選抜大会決勝:大阪桐蔭8-3履正社)

(2017年7月29日、第99回選手権大阪大会準決勝:大阪桐蔭8-4履正社)

観戦中はさほどでもなかったが、試合後に振り返れば両試合は試合展開も最終スコアも、ソックリとまではいかなくとも、かなり似通っていたという印象だった。履正社は、追いつくも同点止まりだったセンバツからは一歩進んでこの日は逆転も果たし、試合を2度に渡ってリードすることもできた。そして大阪桐蔭は、何と言っても「八時半の男」(参考サイトC)ならぬ「9回表の男」がまたやってくれた!センバツでは3-3の同点で迎えた9回表、一死二塁からエース徳山の代打として値千金の2点本塁打を放ち、監督に抱きしめられていた西島一波選手(下写真)が、この日も1点リードで迎えた同じ9回表の一死二塁からレフト前タイムリー。「十年一日」ではないが、119日のインターバルもまた一日の如く、毎度のように試合を決める一打を要所で放つ。今夏の甲子園でも、大阪桐蔭の9回表は特に注目したいところである。

試合はともに大阪桐蔭の勝利となったが、今後の大阪をリードする両雄としての両校の強さを再確認できる内容であった。そして、27年前の渋谷(中村紀洋選手を擁して1990年優勝)以来となる府立高校による夏の大阪大会制覇を目指すべく、決勝進出を決めた大冠高校の強さも深く心に刻まれ、溢れんばかりの満足感を胸に球場を後にすることができた…。

という文言で締めくくることができればパーフェクトだったのだが、そうは問屋がおろさなかった。そう、ここは舞洲球場だった。そして、ここから帰宅までがさらなるドラマとなってしまった。あまりのアクセスの悪さに、元々多くの観客が当然のように自家用車で観戦に来ており、一斉に帰路に就く彼らによって、近隣の道路が大渋滞となったのだ。こうなると、バス会社が臨時便を出そうにも、その臨時バスが渋滞のためにバス停に辿り着くことが物理的に不可能…という、ブラックジョークにもならない絶望的な光景だった。それ以前に、バス停の前の長蛇の列を見れば、何本先のバスに乗れるのか見当もつかない。これではタクシーを呼ぶことも不可能だし、仮にタクシーを確保できたとしても、肝心の道路が全く動かないため、料金メーターがどこまで跳ね上がるか不安でとても乗っていられないだろう。つまり、行きも不便なら、帰りはさらに輪をかけてもっと不便となること。これこそが、舞洲球場の最大のアキレス腱なのである。

私がバスと電車を乗り継いで神戸市の自宅に辿り着くまでには、何と丸3時間を要した。もはや、狂気の沙汰という他にない。超満員のバスに一時間以上揺られて気分が悪くなりながら、ひたすら”五輪招致の負の遺産”という言葉が脳内をグルグル回り続けた。以前コラムで取り上げたドイツのハンブルグのように、五輪招致を住民投票で否決するケースが近年相次いでいることも、この状況だと骨身に染みて納得させられる。(→目指すは「五度目の正直」!ドイツでも始まった五輪招致活動の前哨戦、→当サイトのコラムで振り返る波乱と激動の2015年

こんな球場で大阪大会の決勝などやっていいのか?などと私ごときが書いても相手にされないだろうが、あの小早川毅彦さん(PL学園→法政大→1984-96広島→1997-99ヤクルト)が私と全く同じ意見をサンケイスポーツの紙面で述べているのを知ると、とても心強い(参考サイトB)。リンク先によれば、小早川氏自身が高3の夏に初戦を戦ったのが当時の南海ホークスの本拠地だった大阪球場、そして決勝を戦ったのは当時の近鉄バファローズの準本拠地であった日生球場で、プロの一軍が使用する球場での試合に身が引き締まる思いがしたという。その後、1997年に日生球場が閉鎖、1998年から2004年までの大阪大会決勝は同じく近鉄の本拠地であった藤井寺球場で開催。さらに藤井寺閉鎖後となった2005年から決勝は現在の舞洲へ移り現在に至っている。

ここで気づくのは、小早川氏が挙げた3つの球場がいずれも鉄道のアクセスが抜群だったことである。大阪球場はなんば駅前(近鉄・南海・地下鉄・JRなどが集まるアクセス抜群の立地)、日生球場は森ノ宮駅前(JR環状線、地下鉄中央線・長堀鶴見緑地線)、さらに藤井寺球場も藤井寺駅(近鉄南大阪線)から徒歩数分という立地だった。それでいて、いや、だからこそ…というべきだろうか。いずれの球場も今は廃止されて解体、そして商業施設に生まれ変わったりマンション用地として売却されている。アクセスの至便な土地というのは、それだけおカネになる土地でもある。これら3つの球場はそんな事情から消えていったのであろう。今の築地市場の豊洲移転問題のドタバタをみるにつけても、古き時代の遺産を大切に引き継ぎ使い続けるという発想は、日本では流行らないようだ。

ちなみに先述のサンスポ記事で小早川氏はこうも嘆く:

「大阪代表の夏の甲子園優勝は12度、通算勝率.656(164勝86敗)はいずれも全国1位。今年も176校が参加した激戦区の代表を決める舞台が舞洲では、ちょっと寂しい」

ブロ野球経験者でPL学園野球部OBたる小早川氏は明言を避けているが、おそらく言わんとするところは、「大阪大会の決勝ともなれば、大阪ドーム(現・京セラドーム大阪)ぐらいの球場でやらなあかんのとちゃう?」ということに尽きると思う。なお、1998年以降、京セラドームでは大阪大会の開会式および北地区と南地区それぞれの開幕試合が行われているという。それなら、準決勝・決勝なり、今回の「履正社vs大阪桐蔭」といった高い集客が事前に分かっているカードなどは、選手関係者のみならず応援団や一般客の移動交通上の安全確保という観点からも、京セラドーム開催にできないのだろうか?来年は夏の甲子園が節目の100回大会、春の選抜も第90回記念大会を迎える。この機会に、是非とも大阪には"負の遺産”ではなく”正の遺産”を後世に残すことから始めてほしい。

(来週8/18はコラムは休載とします)

<参考サイト>
A) 朝日新聞(2017年7月29日):大阪で選抜決勝再び 球場で夜明かすファン、開門前倒し
http://www.asahi.com/articles/ASK7X4HT5K7XPTIL00L.html

B)サンスポ.com(2017年7月28日):【小早川毅彦のベースボールカルテ】舞洲、大阪大会決勝の舞台には寂しい
http://www.sanspo.com/baseball/print/20170728/hig17072808000010-c.html

C) ZAKZAK by 夕刊フジ(2009年10月7日):【アンコールV9巨人】「8時半の男」宮田征典
http://www.zakzak.co.jp/sports/baseball/news/20091007/bbl0910071608004-n1.htm

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