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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/08/04

真夏の邂逅(1)…東海大菅生、日大三も早稲田実も破り甲子園へ!神宮球場で交錯する人間模様

知らない人にはいつもびっくりされるものの、私と一緒に野球観戦したことのある人々であれば周知の事実の一つとして、「懇意にしているチームの試合を見る時は、必ず対戦相手の応援席に入る」というのがある。理由はズバリ、味方の応援席からは贔屓チームのベンチが見えないからである。そもそも応援席がベンチの後ろにあるのが納得がいかないと、野球を観戦するようになった子供の時分からずーっと疑問に思っていた。応援したいチームのベンチ内での雰囲気だったり、仲の良い監督さんが要所となる場面で出すサインなどを、この目でしっかり確認した上で後日彼らと談笑する際にその話をぶつけるのだから、一番見やすい席といえば何だかんだ言いながらも結局は相手側ベンチ後方ということに落ち着く。ベンチのみならず球種やコースが見やすいという意味ではネット裏も確かに良いのだが、こちらは逆にあまりにも業界臭(?)が漂い過ぎて、「朝の6時から並ひました」というようなスカウトやメーカーやコアな常連さんに囲まれて気を使うばかりで、落ち着いて試合に集中できない。特に西東京大会で「早実」「日大三」が揃い踏み…といった具合に、神宮球場がプロも顔負けの満員御礼で外野開放となるような日ともなれば、私はハナからネット裏には見向きもせず、例によって例の如く、観たいチームの反対側の応援団の方に向かってズンズン歩き出したのであった。

「片山さん、今日は○○(対戦相手)の父兄の後ろにいたでしょう?ネット裏に移動してきたのが6回裏あたりでしたよね?8回あたりからはコーチが合流して…(以下略)」

そういえば、かつて試合後に毎度のようにそんなことを言ってくるキャッチャーがいた。千葉マリンスタジアムの客席って結構広いのに、よくそこまで見てるね~!なんて返答していると、監督が不気味な笑みをたたえて登場、「オマエ、片山さんに気でもあるんじゃないのか?」などと袖のあたりをツンツンと突っつき始めるのがお約束だった(笑)。まるでコントか漫談のようだったその会話の中で彼らは、チームの要であるキャッチャーがどの程度客席に目配りができていたかを、平常心を保っていられたかどうかのバロメーターにしているようにも見えた(それとも、単純に私をからかって遊んでいただけなのかもしれないが…)。ちなみに彼らは晴れて甲子園出場を果たし、そのキャッチャーもプロ入りは果たせていないが、今も社会人野球で息の長い活躍を続けている。

さて、くどくどと長い前置きで何が言いたかったのかと言うと、私が先月の第99回全国高校野球選手権・西東京大会準々決勝「東海大菅生vs日大三」で三塁側の日大三応援団の後ろに座っていたのは、別に日大三が目当てだった訳ではない…という事である。この日、7月25日の神宮球場の第一試合「早稲田実vs日本学園」は早稲田実の圧勝に終わり、その次の第二試合が「東海大菅生vs日大三」だった。早稲田実と日大三が対戦こそしないものの神宮球場に揃い踏みするのは、2017年4月27日に神宮球場で夜18時プレイボールで両チームが相対して4時間を超える延長12回の死闘となった春季東京大会決勝以来、数えること実に89日という長いようで短い、短いようで長い真夏の邂逅だった。

この第二試合、私の興味はあくまでも東海大菅生の方にあった。エース級の投手が5人も揃うという今季の抜群の安定感、夏の西東京大会で昨年まで3年連続の準優勝という悲運性、そして、元プロ野球・中日の投手であった若林弘泰監督(東海大相模→東海大→日立製作所→1992~1997中日)のベンチワークに対する期待。センバツ出場の早稲田実と日大三の両校があくまでも二強と信じられていた中で、このチームがどの程度この二強に食い込めるか…そこが見どころのはずだった

しかし、試合が始まってみれば、絵に描いたようなワンサイドゲーム。東海大菅生打線は日大三のエース・桜井周斗(さくらい・しゅうと)の不安定な立ちあがりを果敢に攻めて先制、さらに足技も絡めて中押し、長短打を絡めてのダメ押しという、打ってよし走ってよしの5得点。対する日大三は東海大菅生の先発投手である背番号11の松本健吾投手(3年)を打ちあぐね、8回までに10三振。9回からは背番号1の戸田懐生投手(2年)がきっちりクローズの完封リレーとなった。

中でも圧巻だったのは、右投手である松本投手の徹底した左封じ。通常なら「右投手vs左打者」は打者有利とされるが、そんな過去の常識を根底から覆す内容を見ると、これは日大三が誇る「左の強打者三羽ガラス」とも呼ぶべき一番・井上大成(いのうえ・たいせい)、三番・桜井周斗、プロ注目の四番金成麗生(かなり・れお)はもちろん、来たる決勝の早実戦における「仮想・清宮封じ」にもなっていることに気付かされた。日大三の三羽ガラスは三人ともタイプの違う左の強打者であり、それぞれに対して異なる攻め方で彼らを仕留めていく東海大菅生バッテリーの戦略は、元プロ野球投手の監督の面目躍如でもあったのだろう。そして、この松本投手であれば早実も清宮もピシャリと封じる確率はかなり高そうだ…と、決勝の試合内容をも予想させる内容となった。

そして実は、ここから早実撃破までの東海大菅生の躍進を最も雄弁に予言することになる光景が、この時の私の目の前にしっかり展開されていた…というのが、三塁側の日大三サイドに座っていたからこそ決定的瞬間を奇遇にも目撃することができたという、コチラの人物の背中だった↓。

上写真中央の男性のTシャツの背中には、「TAISEI」と書かれたその下に、インコースのボールに対してキッチリ腕をたたんでしっかり叩く瞬間の井上大成選手の白黒写真がプリントされている。特に左打者にとって、身体に近いボールをしっかりさばけるかどうかは重要で、しかも一番打者なのであれば、さらに見極めもしっかりしていることがさらに大事ではあるが、このようなTシャツを着ているのが日大三応援団の中でこの男性ただ一人である以上、この男性はおそらく当人たる井上大成君のお父様ではないかと、私は勝手に推測していた。

そして、このお父様とおぼしき男性、息子の打席での一喜一憂が実に雄弁かつ明瞭であった。一番打者たる左打者としては全国トップクラスとの呼び声が高い井上選手が、この試合では東海大菅生バッテリーによる徹底したインコース攻めに遭い、膝元にスッと沈む変化球に全くタイミングが合わず先頭打者として三振、チャンスでも三振、4打席とも全く本来のバッティングをさせてもらえず、私たちの目の前で高校生活最後の試合を終えた。ちなみに上写真は3回裏、第2打席を迎えた井上選手がカウント1-1からフォークを空振りした瞬間のカットである。要するに、この時点ではまだツーストライクになったばかりだというのに、この男性が既にここまでガックリとうなだれるのがあまりにも印象的だったため、私は慌ててデジカメを取り出したのだった。単純に考えればこのフライング気味の落胆は、「次も同じ球が来て三振するだろう」と先読みしたがゆえのリアクションだったのだろうが、この男性がこれまでに大成君の幼少期から現在に至るまで陰に日向に見守り続けてきた何千試合もの蓄積が発露したのがこの一瞬でもあったのだろうと思う。日大三に思い入れがあってこの席に座っていた訳ではない私だが、全くの赤の他人ながら、後ろから見た光景だけで万感の思いに包まれるという凄い経験をさせてもらったという意味で、この試合は長く自分の記憶に残ることになるだろう。

(9回からリリーフの2年生エース戸田懐生投手。三州瓦で有名な愛知県高浜市出身。鮮やかなオレンジ色のグラブが印象的な171cmの小柄ながらパワフルな力投型右腕)

(日大三の桜井周斗投手が投げ、金成麗生選手が一塁を守る姿は美しい!ともに今秋のドラフト候補であるこの二人が、このユニフォーム、かつ、このアングルで写真に収まるのも、これが見納めかもしれない)

さて、この日大三に続き早稲田実も破った東海大菅生が出場する第99回全国高等学校野球選手権大会は、いよいよ来週月曜日、8月7日に開幕する。「清宮ロス」「桜井・金成ロス」の人も少なくないとは思われるものの、並みいるライバルを蹴散らした今大会の東海大菅生には是非とも、東京大会でも見せたスキのない攻めと安定した守りを発揮しつつ、ズバリ優勝を狙って獲りに行ってほしいと願う。そして、甲子園の青空に撃ちあがる真夏の花火のような監督の胴上げを是非とも見てみたいものである。


<参考サイト>
東京中日スポーツ(2017年7月3日):[高校野球]東海大菅生、投の5人衆が出陣 関東球児の夏始まる
http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/shutospo/news/CK2017070302000133.html

Web Sportiva (2017年7月31日):早実を撃破で甲子園。東海大菅生バッテリーが「勝利の配球」を明かす
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/hs_other/2017/07/31/___split______split_3/

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