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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/06/16

世界卓球の社会学(2)…卓球版ジャパン・パワー!メディアの温度差を憂うドイツ代表監督の恨み節を数字で検証

いやいや、驚きました。先週のコラムで取り上げたキーワードが2つ、いきなり日本のニュースに登場です。先週は中国-ドイツ間の国際親善おけるピンポン外交との対比で取り上げた「パンダ外交」、そして、「五輪にはないミックスダブルス」について言及しました(→世界卓球の社会学(1)…開催国ドイツ、混合ダブルスで銅メダル!中独親善ピンポン外交はパンダを超えるか?)。そして、先週の記事を上梓した時点では、日本の上野動物園における5年振りとなるパンダの赤ちゃん誕生のニュース(6月12日)もなければ、2020年の東京五輪で卓球のミックスダブルスが新競技として採用(6月9日)という決定もまだ為されていなかったのでした。これに似たケースとして、以前の当連載で大食い選手とフィギュアスケーターが子持ちであることの意味を検証した記事を完成・送信した直後に織田信成さん(現・関西大学フィギュアスケート部監督)が電撃結婚、しかも相手が妊娠中と報じられ、慌てて原稿を加筆訂正したことを真っ先に思い出しました(→菅原初代とエフゲニー・プルシェンコ(2)…子持ちであることの意味)。一種の「予知夢」?とまでは申しませんが、長いこと連載を継続していれば、色々と不思議な現象が起きるものです(笑)。

さて、今年の世界卓球をドイツ側から見た連載第2弾は、西ドイツ新聞に掲載されたコチラの男性(下写真左)の恨み節からスタートです↓。

(参考サイトAからのスクリーンショット。左が代表監督ロスコプフ氏、右手前に写るのがドイツのエース、ディミトリー・オフチャロフ選手。上写真でも分かるように、ロスコプフ氏は左利き)

現在48才というこの男子卓球のドイツ代表監督であるヨルグ・ロスコプフ氏(Jörg Roßkopf)、パッと見ただけでも表情が怖~いフランケンシュタイン的雰囲気全開(!)ですが、実は1989年にドイツのドルトムントで開催されたW杯の男子ダブルスでシュテフェン・フェッツナー氏(Steffen Fetzner)と組んで金メダル獲得という、れっきとした元世界チャンピオンです。しかも、ロスコプフ氏自身が金メダルを獲得した当時はドイツ全土がその快挙に大フィーバーだったというのに、あれから28年後、そしてドルトムントからたったの70kmしか離れていない今年のデュッセルドルフの世界卓球において、自国開催の世界選手権に対するドイツのマスコミの扱いがまるで冷淡すぎる…といった批判を紙面で展開しています:(参考サイトAからの和訳引用は青字。強調は筆者)

「ついこの間、アイスホッケーの世界選手権決勝『スウェーデンvsカナダ』がドイツのテレビで中継され、ドイツが出ていないのに結構人気があった。スキーのジャンプも、民放RTLが何年にも渡ってテレビ中継することで人気を盛り上げてきた。卓球だって、同様の手法で、テレビ局が特設スタジオを設けてインタビューやら何やら付け加える労を厭わなければ、今だって人気が出ていてしかるべきなのに、我が国における卓球のテレビ中継は他競技に比べて驚くほど少なすぎる!」
「だいたい、全世界にオンエアされているという自国開催の世界選手権で、自国の有力選手が登場していても2回戦だと中継しないなんて、ダメでしょ?!」
「ドイツのマイナースポーツにおける若者の育成が上手くいっていないの何のと文句を言う前に、ドイツの政治家は一度考えてみた方がいい。我が国のテレビにおけるスポーツ中継がいかにサッカー偏重多様性(フィールファルト)がないかということを!」


出ました、当コラム頻出単語「フィールファルト」(→ポルトガルEURO初優勝!データから浮上した欧州サッカーの強さのキーワードは「フィールファルト」だった!、→日本版フィールファルト時代到来?!黒人系ハーフ選手が牽引する現代日本の高校野球)!ロスコプフ代表監督の怒り、実にごもっともです。今年のドイツ開催の世界卓球、ドイツ国内のテレビ中継は平日も土日も昼間のみ、それも公共放送ARDとZDFおよびHR(ヘッセン州ローカル)が回り持ちで1日あたりたったの1時間という、開催国にあるまじきお粗末な内容でありました(参考サイトB)。そりゃあ確かに、国際卓球連盟(ITTF)のホームページ内では連日ライブ・ストリーミング(無料)があったようですが、ネットストリーミングにアクセスしてまで全試合を見届けようという熱烈な卓球ファンが果たしてドイツにどの程度存在するやら?やはり、競技への関心を一から掘り起こして人気を定着させようと思えば、地上波放送を増やさないことには話になりません。その点、日本のテレビ東京は日本選手の登場する試合を全試合地上波で、それも7時間の時差にもめげず(!)生中継していたとのことす。当コラムでもおなじみの『元祖!大食い王決定戦』の制作局でもある”テレ東”の力の入ったお仕事ぶりをロスコプフ氏も当然ながら大会会場で目の当りにしていたはずで、きっと「あー羨ましい!」と指をくわえて見ていたことでしょう(笑)。

なお、このテレビ東京が今年の世界卓球に投入したおカネや人員について報じたドイツARDの番組がなかなか興味深いものでした↓。(参考動画1より。以下の写真は全てこのリンク先動画からのスクリーンショット。文章はナレーションの和訳で青字で表記、強調は筆者。ビデオにない筆者注釈は赤字)

・この三番テーブルは、日本選手の登場する試合のみが行われるテーブル。従って、このテーブルの周囲を取り巻くのは、日本から来たテレビカメラやスタッフのみである。

・この三番テーブルに登場する日本選手の試合は、あらゆるアングルに配置されたカメラにより、全試合が日本のお茶の間に生中継される。(←ドイツでは地上波中継は1日あたり1時間のみ、しかも上位進出者のみ!)

・日本が今大会にこれだけ力を入れるのも、2020年の東京五輪のためである。以下に、数字で見てみよう。

・テレビ東京単独の放映権料:100万ユーロ(約1億2千万円)(←先週記事のパンダの年間レンタル料と同額)
・日本からのテレビカメラ:13台←ちなみにドイツ公共放送ARDのカメラはたったの3台!
・日本からのスタッフ:107名←ドイツARDのスタッフの倍以上!

・13才の張本智和選手が強豪選手を次々と撃破して今大会のスターに躍り出たことで、テレビ東京の多大な投資も報われたことだろう。両親が中国人である張本選手は、日本語にしろ中国語にしろ、世界各国のメディアからのインタビューに比較的クールに応じている。日本人は、2020年の東京五輪で彼が金メダルを獲得することを期待している。その時の彼もまた、無数のテレビカメラにぐるりと囲まれているに違いない。

かつて、フジテレビのドラマで「三番テーブルの客」(1996-1997年、三谷幸喜脚本、全24回)という名作がありましたが、ドイツにおける世界卓球の会場にも日本専用の「三番テーブル」があったとは驚きです。一億円を超える放映権料、さらには開催国を凌駕するカメラ&スタッフ数といった「ジャパン・パワー」に裏打ちされた数字は、以前コラム化したフィギュアスケートの世界を連想させます(→番外編(2)…フィギュアスケートのリンク壁面広告にみるジャパン・パワーの圧巻)。

そしてもう一つ、卓球熱の日独格差を大きく浮かび上がらせるデータがありました:(参考サイトCから引用)

・全大会期間(8日間)における観客動員数5万8千人
参加選手数608名(108ヶ国)←2014年の808名(148ヶ国)をピークに縮小の方向へ
ドイツのメダル獲得数:1枚←ドイツ卓球連盟の設定した最低目標値をとりあえずクリア
・「学校も職場もある平日昼間(木曜)に9200人もの観客数を動員したことは、ドイツにとっては異例の事態!」と、ドイツ卓球連盟会長のミヒャエル・ガイガー氏はご満悦


まず、大会規模を縮小する方向というのは、大会を開催できる国が限られてしまうことを避けるためだそうです。つまり、現代の卓球界は中国と日本が突出しすぎて他国がついていけなくなっていると、国際卓球連盟は懸念しているようなのです。また、ミヒャエル・ガイガー会長といえば先週のコラムでも紹介した、ドイツ唯一のメダリストとなったペトリッサ・ゾルヤ選手を表彰式で懸命に鼓舞していた男性です(→世界卓球の社会学(1)…開催国ドイツ、混合ダブルスで銅メダル!中独親善ピンポン外交はパンダを超えるか?)。そのガイガー会長は今大会の観客動員数を「ドイツにしてはよくやった方である!」と解釈しているようです。

しかし、日本におけるスポーツ観戦事情を知る者が見れば、これは楽観視できる数字とは到底思えません。例えば、阪神タイガースが登場する日の甲子園球場は連日満員の4万7千人が黄色い声援(?)を送っていますし、春夏の甲子園こと選抜高等学校野球大会も全国高等学校野球選手権大会も、近年の大会入場者数の一日当たりの平均は5.5万~5.8万人程度で推移しています(参考サイトDより算出)。世界卓球の8日分の観客が一日で来る日本の高校野球人気は確かに高いのですが、裏を返せば、世界レベルの卓球がドイツでは日本の高校野球の1/8程度の人気しかないということです。これでは、テレビ中継が少ないのも仕方がないと言わざるを得ず、「卵が先か?鶏が先か?」という話に行き着きそうです。なお、前提条件として、ドイツではそもそも「スポーツとは見るものではなく、するものだ!」「他人のスポーツ見て、何が面白いの?」と人々が考える傾向が強いことも、観客動員数やテレビの視聴率が日本とは桁違いになってしまう一因ではないかと考えられます。

今のこのご時世、日本が「世界第三の経済大国」と呼ばれているならば、ドイツは一応「世界第三の卓球大国」という事になっています。リオ五輪でドイツ選手団の旗手まで努めたティモ・ボル選手やエースのディミトリー・オフチャロフ選手の二人は依然として高い知名度と人気を誇っています(→リオデジャネイロ五輪特集(1)…毎度ながらのスロースターター?ドイツのメダル皮算用)。しかも、現在の国際卓球連盟会長はドイツ人です!それでいて、ドイツではプロリーグこそあるものの卓球自体の国民的人気はあまり盛り上がらず、さらに後継者が伸びてこないという悩みも抱えています。だからこそ、13才で彗星の如く頭角を表した張本智和選手の姿にドイツメディアは大きく色めき立ったのでしょう。何かドイツの若手育成にとってのヒントが隠されているのではないか…と。しかし、その議論の行きつく先は日本のそれとは随分異なるようです。それについては来週に続きます。


<参考動画>

1) ARD Sportschau(2017年6月4日):Tomokazu Harimoto - der kommende Tischtennis-Superstar
http://www.sportschau.de/weitere/tischtennis/video-tomokazu-harimoto----der-kommende-tischtennis-superstar-100.html


<参考サイト>

A) Westdeutsche Zeitung (2017年6月1日):Tischtennis WM: Jörg Roßkopf für mehr TV-Übertragungen
http://www.wz.de/lokales/duesseldorf/sport/tischtennis-wm/tischtennis-wm-joerg-rosskopf-fuer-mehr-tv-uebertragungen-1.2447371

B) Tischtennis.de(2017年5月22日):WM-Fernsehtermine: Tischtennis live auf ARD, ZDF und HR
http://www.tischtennis.de/sonderseiten/news-detail/artikel/wm-fernsehtermine-tischtennis-live-in-ard-und-hr.html

C) ARD Sportschau(2017年6月5日):WM-Bilanz: 58.000 Zuschauer sahen 608 Teilnehmer
http://www1.wdr.de/sport/tischtennis/bilanz-tischtennis-wm-100.html

D) 公益財団法人 日本高等学校野球連盟 - 大会入場者数
http://www.jhbf.or.jp/senbatsu/spectators/
http://www.jhbf.or.jp/sensyuken/spectators/

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