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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/05/26

フランス大統領選(3)…日本ではあり得ない!マクロン大統領の新婚当時の発言にみる「女性活躍社会」の日仏格差

39才の若きエマニュエル・マクロン氏がフランス大統領に就任してから間もなく2週間になります。日本では主にワイドショーを中心に、マクロン氏の25才年上の愛妻ブリジット夫人に関する報道も珍しくなくなりました。二人の馴れ初めから逆境を克服してのゴールインといった詳しいラブストーリーについては、先週のコラムでかなり詳しく述べましたので、気になる方は是非とも参考にしていただければと思います(→フランス大統領選を振り返る(2)…奥様は64才!マクロン氏勝利に学ぶ年上女房の大いなる存在意義)。

ところで、フランス大統領選の連載を作成するため、この1ヶ月近く私はフランスメディアの様々な記事を読み込んでおりました。すると、そんな私が目をひん剥いてしまうような摩訶不思議な表現に出くわしたのでした(末尾参考サイトA)。それは、マクロン氏の新婚当時を回想する発言の中にあり、フランスでは何の違和感も無く受け入れられる性質の発言であったようなのですが、日本ではとても考えられない内容であったため、以後の私の心にずっと引っかかることになります。これをそのままにしてはあまりにも気持ち悪いため、当該発言の裏にあるフランスの事情を調べていったところ、我らが日本で政府や政治家があちこちで連発気味の「女性が輝く社会」や「一億総活躍社会」といった掛け声についての根源的な覚悟を問う重要な問題提起が背後にありました。これは男女を問わず、広く日本の人々にも共有していただき、皆様一人ひとりが一考した上で議論を重ねていただきたいテーマであろうと考え、今回記事化に至った次第です。ということで、問題となった衝撃の発言を以下に全訳して提示します。(青字は全て末尾参考サイトAからの引用、強調および赤字注釈は筆者)

<エマニュエルとブリジットのマクロン夫妻の間に実子おらず>
(前略)もっとも、夫婦に近い人物からの極秘情報の中には、二人の子作りに関する話題はなかなか出てこなかった。随分経ってからチャレンジ(←1982年創刊の毎週二十数万部を売り上げるフランスの週刊経済専門誌)が報じたところによると、エマニュエル・マクロン氏はかつて、「50才代の女性を妻とすることにより失ったものは一切無い」(n'a jamais souffert d'épouser une quinquagénaire)と語った。そして彼は、「自分ははるか以前から、自らの実子を持たないことを心に決めていた。なぜなら、自らの信じられないほどの(輝かしい)キャリアに専念したいからである」(a choisi depuis longtemps de ne pas avoir d'enfant lui-même, pour se concentrer sur son incroyable carrière)とも語っていたという。言うなれば、ブリジット側の3人の連れ子と7人の連れ孫がそのまま自分の子や孫となるのであり、エマニュエル・マクロンは「三十代のおじいちゃん」(un grand-père trentenaire)となるのである。


上記報道を最初に読んだ時は、その意味がよくわからずにフランス語の原文を前にポカ~ンとしてしまった私でした。少なくとも日本における決して短くはない我が人生において、「自分の職業人としてのキャリアを優先したいから、自分の子は持たない」と公言する男性にはただの一度もお目にかかったこともなければ、そんな人がいるという噂すら聞いたことがありませんでした。そもそも、結婚相手が妊娠したり出産した男性は「これで益々仕事に精進します!」とばかりに、家事はともかく育児の大半は女性に丸投げしつつ、さらなるモーレツ仕事人間になるのが相場でこそあれ、「自分の子ができたら仕事に専念できない」だなんて、日本の価値判断に照らせば男性の発言とはとても思えないものでした。

日本における男女平等原則の導入や女性差別問題への対策には紆余曲折があります。勤労婦人福祉法(1972年)を国連女子差別撤廃条約(1979年)の日本での批准(1985年)を経て改正した男女雇用機会均等法(1986年施行・1999年改正)を機に、身近なところでは「保母さん」「看護婦さん」「スチュワーデス」などと親しみを込めて言っていたのが突然NGワード扱いされるようになり、「保育士」「看護師」「客室乗務員」といった代替語が急速に社会に広まっていきました。「スッチーと合コン!」「今度のカノジョはパ・ニ・オ・ン!」などとはしゃいでいた医学部の同期の面々が一斉に言葉狩りに遭うようになったのは、さらにその数年後のことだったでしょうか(笑)。それでいて、「女医」という言葉はなかなか無くならず(←それでいて「男医さん」なる呼び方は無い!)、今でも「女医限定」の求人広告をよく見かけますが、これは逆差別だと訴える男性医師はいないのでしょうか(笑)?

話が脱線してしまいました。最近の日本では、夫婦において夫が家事の一部を負担することは珍しくなくなり、中には産休や育休を取る男性の話も多少なりとも耳にするようになりました。しかし、第一子出産をきっかけに退職する女性が6割に達するなど(参考サイトE)、事が妊娠出産となると女性への負担が圧倒的に多いのは相変わらずで、日本における男性の育児休暇取得率はわずか2パーセントだそうです(参考サイトC)。私の周囲を見回すだけでも、妊娠と同時に肩たたきに遭った女医さんの事例は数知れません。「男女雇用均等法」(1986年)や「男女共同参画社会」(1999年)に「一億総活躍社会」(2015年)を経てもなお、2013年頃より「マタニティーハラスメント」などという英語圏にはない和製英語が定着してくるなど、フランスとは雲泥の差のお寒い現実が残念ながら日本には根強くかつ強固に存在することは明らかです。

さらに、待機児童の問題もこれに大きく関与しているように見えます。ベビーブーマー世代と今とでは子供の数が半分にまで減っているというのに、未だに待機児童問題が解消していないこと自体、単なる無策を通り越して少子化を意図した作為なのではないかと邪推したくもなります。結局、「保母」「看護婦」「スッチー」を別の言葉に言い換えるような言葉狩りだけが先行し(「精神分裂病」を「統合失調症」に、「精神科」を「メンタルヘルス科」に言い換えたりしたのと同様、根本的解決には全くならない単なる言葉イジリ)、政治決断や予算編成などによる抜本的改革を怠ってきたそのツケを今も多くの女性が払わされている中、「女性が輝く社会」だの「一億総活躍社会」だのといったスローガンだけが空しく響いて聞こえるのは私だけなのでしょうか?

それだけに、マクロン氏の「キャリアに邁進したいから自分の子は作らない」という発言がごく普通に受け止められるフランスという国に、日本に対する重要な問題提起および解決のヒントが潜んでいる気がしてなりませんでした。そこには、「女性は子供を産む機械」(2007年)と暴言を吐く政治家もいなければ、「社員に妊娠されたら職場が迷惑」「保育所が確保できなければ女性が退職して当然」「男は外で働くもの」といった無言の圧力がある社会とは全く別の理屈があるはずです。

その「理屈」の一つとして考えられるのが、フランスにはパパになったばかりの男性に対する「産休」が制度化されており、取得率がほぼ100%だということです。この父親でも取れる「出産時休暇」(Congé de naissance)は赤ちゃんが生まれた日から3日間、さらに引き続き11日間の「父親休暇」(Congé de paternité)、トータルで2週間の完全有給休暇となります。これは2002年のジョスパン内閣時にセゴレーヌ・ロワイヤル家庭大臣の肝煎りで導入された制度とのことです。以下に、昨年10月のデイリー新潮の記事(参考サイトB)から該当する記述を抜粋して紹介します(引用部分は青字、強調は筆者)。

赤ちゃんの誕生後、サラリーマンの父親には3日間の出産有給休暇があります。取得率はほぼ100%。フランスでの出産入院は通常3泊4日程度なので、経過が良ければ、妻の入院中の時間をまるまる一緒に過ごし、退院にも同行できます。
この3日間が、お父さんトレーニングの本格的な第一歩。沐浴やおむつかえなど、入院中に助産師指導で進められるスケジュールは、父親の来院時間に合わせて組まれていきます。目標は退院時、父親も母親と同じくらい赤ちゃんのお世話をできるようになること。ミルク育児を選んだ家庭ではもちろん、ミルク作りや授乳のコツなども、父母が揃って教わります。
出産有給休暇が終わった男性には、今度は11日間連続の「子供の受け入れ及び父親休暇」が待っています。二つの休暇を合わせた2週間が、一般的な「男の産休」です。
父親休暇は2002年の施行からすばやく社会に浸透し、12年には新生児の父親の約7割が取得したといいます。取らない3割は時間に融通のきく自営業者が中心で、対象を公務員に限った場合、取得率はほぼ9割に達しているそうです。


ここで、上記記事で触れられていない重要事項を補足するとしたら、

1)この「男の産休」が自分の実子の誕生時に限らず、養子縁組時であっても適用されること(従って同性婚でも取得可能!)
2)この父親休暇に引き続きさらに6カ月間の「育児休暇」を両親のいずれかが取得可能であること(片方ずつ交替での取得も可能)

の二点でしょうか。引用したデイリー新潮の記事にもある通り、1)の「男の産休」はそもそも「お父さんトレーニング」であり、母親と同等の育児スキルを習得する短期集中特訓講座という側面がある以上、何もその赤ちゃんは自分たちの実子である必要はなく、養子でもOKな訳です。フィギュアスケートのファンならピンと来るであろう例を挙げるなら、かつての元フランス代表で女子シングルの元欧州チャンピオン(1991-1995年に五連覇)のスルヤ・ボナリー元選手は海外県レユニオン系でしかも孤児院からの養子ですし(ステージママとしてリンクサイドでハッパをかけていた白人の養母をご記憶のスケートファンも多いのでは?)、同じく男子シングルの元欧州チャンピオン(2011年)のフローラン・アモディオ元選手もブラジルから生後数週間でフランスの夫婦に引き取られた養子です(→エリック・ボンパール杯観戦記(3)…移民国家フランスのロールモデル?シャフィック・ベセギエが体現する世界)。

なお、2)の育児休暇の方もこれまた養子であっても適用されますが、こちらは1)と異なり取得率が低いとされます。その理由はズバリ、保育所(施設保育)ないし保育サービス(在宅保育)が充実しているフランスではフルタイム勤務しながら育児が可能なケースが多く、休暇取得の必要性が低いから、という羨ましい話です。もちろんフランスにも待機児童問題は全く無いわけではなく、特に前回大統領選で国民戦線のマリーヌ・ルペン氏への投票率が高かった北部で深刻とのことで、マクロン支持多数派とルペン支持多数派によるフランスの分断を説明する別の側面と見ることもできそうです。それでも1999年の国勢調査によれば、フランス全土における0-2歳児の8割前後は何らかの保育サービスを受けているとのことで、2005年の日本の東京都における0-2歳児における保育所在所児童数が同年齢人口の16.7%に過ぎないという数字と比較すると、ドエラい差です。これぞ正に子育て版「天国と地獄」でしょうか?(この段落に登場する日仏のデータはいずれも参考サイトCのp102から引用)。

フランスの新大統領エマニュエル・マクロン氏の新婚当初の発言に対する小さな疑問から、話がまさか昨今の子育て事情の日仏格差にランディングすることになろうとは、私自身が一番ビックリです。ただし、この話にはもう一つ、裏があります。日本のメディアではまだ取り上げられた形跡がありませんが、実はブリジット夫人、つい1年半ほど前まで、年齢を5歳ほどサバ読みしていたようなのです。

代表例として、ル・モンド紙の2015年11月の記事を紹介します(参考サイトD)。この記事の中に、以下のような一文があります(引用部分は青字。強調は筆者)。

「リセの第一学年の生徒で16才だったマクロン青年は、同校教師で当時3児の母であった20歳年上のブリジット・トロニョウ先生と恋に落ちた」(il est tombé amoureux de sa professeur, Brigitte Trogneux, mère de trois enfants et de vingt ans son aînée

「ん?20歳年上?25歳年上の間違いでは?」と今なら誰でも知っていますが、2015年当時のメディア報道では二人の年の差を20歳とするか、彼女の年齢をボカして明記しないかのいずれかでした。それが今年に入り、大統領選の第一次投票を前にマクロン氏が世論調査で軒並みトップとなり、ブリジット夫人がフランスのファーストレディになる可能性がグンと高まったあたりを境に、二人の年の差は唐突に一っ跳びで5つも開いたのです(笑)。というのは冗談で、要するにファーストレディになる人物の生年月日や年齢はいずれバレるために、大統領選の本番を前にマクロン陣営はブリジット夫人の本当の年齢を公表せざるを得なくなったのです。

(参考サイトAからのリンク先である参考サイトFからのスクリーンショット)

そう考えると、「職業人としてのキャリアに響くから、自分の実子はいらない」と言ったとされるマクロン氏の発言も、別の意味を帯びてきます。二人が挙式したのは2007年10月20日、このときブリジットさんは実際は54才だったのを49才と公称していたことになります。本当に49才だったのであれば、まだ二人の間で挙児に成功する可能性のあるギリギリの年齢と言えますが、実は54才だったなると、二人の間に実子をもうけることは最初からかなり厳しかったという話になります。そして、そのことを他ならぬマクロン氏本人が一番よく知っていたはずです。となると、冒頭でも出てきた「妻が50歳代であることで失ったものは何一つない」「自分には連れ子3人と連れ孫7人がいるのだから、それで十分」といった発言は、マクロン氏の究極の優しさと妻へのいたわりを意味しているとの解釈も可能です。そもそも、実子に限らず養子縁組の時であってもオトコが産休を取ることのできるフランスという国であればこそ、これらの発言はフランス全土の国民が耳にしても何の違和感もないのでしょう。

さて、マクロン氏といえばもう一つ、ある「疑惑」があるのをご存じでしょうか?これに関する報道も、読めば読むほど、とある別の話題に対する日仏格差をクローズアップする性質のものでした。これについては来週に続きます。


<参考サイト>

A) lintern@ute(2017年4月24日→5月8日改題加筆され更新):Brigitte Macron : portrait de la (probable) future première dame→Brigitte Macron (biographie) : qui est la femme d'Emmanuel Macron ?(エマニュエル・マクロンの妻ブリジット・マクロンってどんな人?)
http://www.linternaute.com/actualite/personnalites/1199177-brigitte-macron-portrait-de-la-probable-future-premiere-dame/
(先週の記事で参考サイトCとして提示したのと同一サイト)

B) デイリー新潮(2016年10月21日):男の育休はこう取るべき 子どもの誕生から2週間“男の産休”でパパトレを!
https://www.dailyshincho.jp/article/2016/10211200/?all=1

C)レファレンス(2007年11月):社会労働調査室・柳沢房子「フランスにおける少子化と政策対応」
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200711_682/068205.pdf

D Le Monde(2015年11月12日):Macron, un ovni en politique devenu « la coqueluche du Tout-Paris »(政界の未確認飛行物体マクロン氏、パリの寵児となる)
http://www.lemonde.fr/politique/article/2015/11/12/emmanuel-macron-un-ovni-en-politique-devenu-la-coqueluche-du-tout-paris_4807780_823448.html

E) 週刊東洋経済(2013年5月24日):女性を追い込む、出産ハラスメントって何?連合初、働く女性の電話相談を実施
http://toyokeizai.net/articles/-/14065

F) Le Lab Europe1 (2017年2月17日):EN IMAGES – Suivez l'évolution des saisons grâce à Emmanuel Macron en une de Paris-Match
http://lelab.europe1.fr/en-images-suivez-levolution-des-saisons-grace-a-emmanuel-macron-en-une-de-paris-match-2972858

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