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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/05/12

フランス大統領選を振り返る(1)…答えは1年前の雑誌の中に書かれていた!

2017年フランス大統領選挙は4月23日の第一回投票で独立系中道派のエマニュエル・マクロン氏と極右候補のマリーヌ・ルペン氏が通過、5月7日の決選投票にてエマニュエル・マクロン氏が当選を果たし、5月14日に史上最年少のフランス大統領に就任することが確定したのはご存じの通りです。

しかし、お菓子のマカロンは知っていても、マクロンと言われても「見たことも聞いたこともない」という方が大統領選前の日本では大多数だったのではないかと思います。私自身、初めてマクロン氏の名前を知ったのは、1年前にキオスクでたまたま見かけて購入したコチラの雑誌からでした↓。

これは、ル・ポワンというフランスの雑誌の2016年5月26日号の表紙です。ル・ポワンといえば当コラムには何度か登場しており、例えばお魚の話とか(→フランスにて腰を抜かす(2)…雑誌ル・ポワンが指摘する「魚は必ずしも体に良くない」の衝撃的理由、→過ぎたるは及ばざるが如し(4)…選ぶべき魚と避けるべき魚リストの図鑑と調理例を一挙公開!)、日本の神風特攻隊の生存者のインタビューとか(→欧州はまるでジャパンウィーク?!…「最後のカミカゼ」から「ヒロシマ」「ナガサキ」そして「センダイ」まで)、中国のサッカーについての特集記事を丸ごと和訳したこともありました(→EURO2016開幕直前のフランスの雑誌が特集した中国のサッカー事情と内なる野望)。ちなみに、この中国サッカーの記事が掲載されていたのが、まさに今回取り上げる上写真の号と同じものです。

ということで、手始めに表紙の一部を拡大してみましょう↓。

左が、今や日本でもすっかり有名人となったエマニュエル・マクロン次期大統領(Emmanuel Macron、雑誌発売当時は38才)で、その横には”La mascotte”(マスコット)の文字があります。いかにも、25才年上の愛妻といまだにラブラブというマクロン氏らしいキャッチコピーですね!そして右は、現ボルドー市長で1995-1997年にシラク大統領の下で首相を務めたアラン・ジュッペ氏(Alain Juppé、当時70才)で、横には”L’affranchi”(自由人)の文字が添えられています。マスコットと自由人…一体どういう組み合わせなのやら?その上には”Qui a peur des libéraux?”というタイトルがあり、これは「リベラルを恐れているのは誰だ?」という意味です。つまり、この二人は当時のフランスにおける「リベラルの二大旗手」という扱いだったことになり、しかも当時のフランスにはそんな「リベラル」を恐れるような事情があったということになります。ちょうど前年にパリで2つの大きなテロ(シャルリー・エブド襲撃事件とパリ同時多発テロ事件)があったばかりで(ニースのテロ事件はこの時点ではまだ起きていなかった)、人々が民主主義の下で不安を強く感じるような時代になったことが、このタイトルに直結したのでしょう。

雑誌をめくっていくと、この号には表紙のジュッペ氏やマクロン氏たち本人はあまり登場せず、むしろ彼らの周囲を取り巻くリベラルな人々を紹介する構成となっています。特に、日本では「中道独立系」「元・投資銀行幹部で大資本家の味方」「エリートによる支配」という文脈で紹介されることの多い新大統領のマクロン氏が、この号を読む限りは実際は政治家としても思想的にもかなり左寄りの人物であることが分かったのは意外でした(後日別稿で紹介予定)。そもそも2006年から2009年まではオランド大統領と同じ社会党員だったうえ、2012年のオランド大統領就任後は大統領府で経済顧問を務め、2014年から2016年までオランド大統領の鶴の一声で経済産業大臣に大抜擢されたのですから、どこからどう見てもオランド大統領の秘蔵っ子、オランド直系の後継者であります。そのオランド大統領が自らの不人気を理由に出馬しなかった大統領選で、オランド政権の「マスコット」が圧勝するのですから、さすがは自由・平等・博愛の国フランスです。

実はこの雑誌、買った当初は私はあまり真剣に読んでおりませんでした。つい最近、東京の自宅に転がっていたのを久々に発見し、今更ながらにパラパラ読み返し始めたらあまりに面白すぎて止まらなくなった…というのが、フランス大統領選の決選投票直前というタイミングでした。ちょうどエマニュエル・マクロン氏とマリーヌ・ルペン氏が決選投票進出を決め、特に極右勢力の国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が大統領になれば欧州はどうなるのか、EUはドミノ離脱で空中分解か…という観点からの報道が日本のみならず世界を席巻していた頃です。ギリシャ危機からフランスでのテロ事件多発にシリア情勢に難民流入といった問題を背景に、「ブレグジット」から「トランプ・ショック」という世界各国の「排外主義」「自国第一主義」の嵐が吹き荒れてきた大きな流れがあるだけに、特に欧州連合のメインプレイヤーとしての立場を共有するドイツは大いなる危機感をもってこの大統領選を注視してきました。(→「女ラスプーチン」騒動の後日談…韓国スキャンダルの報道姿勢にみるドイツマスコミの本音と教訓、→アイスランド旋風を横目にイギリスの”BREXIT”がもたらす欧州サッカーEURO 2016への思わぬ余波、→ドイツで見届けたアメリカ大統領選(1)…ブレグジット・アゲイン?!お通夜のような画面で始まった朝

しかし、このル・ポワンの2016年5月26日号をパラパラめくっていったら、大統領選の結果が既に書いてあったも同然…というページにいきなり遭遇してしまいました(同号・46ページ)↓。

様々な政治家の支持率と不支持率をランキングのように並べた世論調査で、2016年5月20日から21日にかけて無作為抽出の電話調査で行った結果だそうです。この表で今回当選のエマニュエル・マクロンマクロン氏は3番手につけており、支持が44%、不支持が43%と、その比率も拮抗しています。それに対し、決選投票の対抗馬であったマリーヌ・ルペン氏は下から数えた方が早い29番手!しかも、支持が22%なのに対して不支持が73%と、コアな支持者以外には圧倒的に嫌われているという構図が見えます。フランス大統領選のように、一次ラウンドを通過した上位2名の中から決選投票で選ぶスタイルは一般論として、「選びたい者を選ぶ選挙」ではなく「落としたい者を落とす選挙」とよく言われます。まさにこの表を見れば、決選投票の顔ぶれがマクロンvsルペンとなった時点で、これだけ潜在的に嫌われているルペン氏の当選はあり得なかったことになります。そのことを誰よりもルペン氏自身が分かっていたからこそ、彼女は決選投票の開票開始直後から早々と敗北宣言を行い、しかも終始ニコニコしていたのでしょう。

ちなみに、この表の1位は「自由人」ことアラン・ジュッペ氏でした。ジュッペ氏はニコラ・サルコジ前大統領と同じ共和党所属ながら「リベラル寄り保守」の穏健派です。何度も大統領選有力候補と目されながらその度に不正資金疑惑などで敗れてきたという71才のジュッペ氏にとって、今回の大統領選は「ラストチャンス」だったはずでした。ほんの2~3年前まではどの媒体の世論調査結果でもぶっちぎりの一番人気で、当時は「次の大統領はジュッペで決まり」という空気がフランスにはありました。それが、特にダメ押しとなった度重なるフランス国内のテロ事件により世論がタカ派化・強硬化して脱ヨーロッパの方向に流れてから人気がズンズンと下降、昨年末の共和党内予備選の段階でフランソワ・フィヨン氏に敗退してしまったために大統領選に進めませんでした。

人間というもの、人の好き嫌いは生理的なものが大きく影響します。政策や政治スタンスがどうであれ、ジュッペ氏のことを嫌いという人は本当に少なく、これは氏のキャラクターに負うところも大きいのでしょう。対する共和党内予備選勝者のフランソワ・フィヨン氏はこの表では7番手におり、支持が38%、不支持が48%という数字が示す通りの「嫌いな人の方がやや多い」候補であったからこそ、本年1月に発覚した妻子に対する実態のない秘書給与支給疑惑ひとつでその支持がパラシュートのように急降下、大統領選の第一回投票で落選となったのでした。もし大統領選の決選投票が「自由人vsマスコット」ならぬ「ジュッペvsマクロン」だったとしたら、人々は迷いなく「マクロン氏を落とす」ことができたでしょう。裏を返せば、マクロン氏は「嫌われ度がダントツ」のルペン氏が相手だったからこそこの大統領選に勝利できたことに他なりません。思い返せばあのアメリカ大統領選の「ヒラリーvsトランプ」でも全く同じ力学が働いたのであり、当時ヒラリー・クリントン氏が政治的にしろ生理的にしろ、人々にどの程度嫌われていたのかをメディアが意図的に明らかにしなかっただけの話だったのかもしれません。(→ドイツで見たアメリカ大統領選(2)…トランプ特需?高視聴率に沸く選挙特番で”復活”したトランプ支持女性の主張

この雑誌を購入した当初は「ふーん」という以外の感想が何も湧かなかったこの表が、大統領選の終わった今になってて見ると別の意味を帯びてきて、この表一つでビールを3杯位おかわりできそうです(笑)。今回、大躍進を果たしたと評される極右政党の国民戦線ですが、現状のマリーヌ・ルペン氏をトップに擁いたままの体制では来たる国民議会選挙も苦しいことでしょう。この党が誰か、嫌われ度の少ないタマを擁立することに成功したら、その方がフランスにとってもヨーロッパにとっても圧倒的に危険です!

ちなみに、選挙後のドイツの討論番組を見ていたら、「マリーヌ・ルペンの美人の姪が要注意!」という発言が飛び出しており(末尾参考動画)、私と同じことを考える人がいるものだと感心したものでした。その美人の姪とはマリオン・マレシャル・ルペンという27才の国民戦線所属の国会議員(←史上最年少の22才で選出)です。極右色を弱める発言を織り交ぜて伯母と距離を置いてはいるものの、今回のルポワンのランクは伯母マリーヌよりもワンランクしか上でない28番手、それも支持が22%で不支持が71%という見事な嫌われっぷりでした。しかし、若くてスマートで美人の女性というのはそれだけで大きな武器なので(←それにしては嫌われているという説もあるが…笑)、今後のこの人の活動や発言次第では、オセロのごとく一手で形成が大きく逆転する可能性も十分にあります。いずれにしても今後のマクロン政権下のフランスの5年間がどう出るか、世界中が注目していくことになるでしょう。

さて、マクロン氏といえば、世界中が注目しているのはその政治手腕だけではありません。日本のメディアでもここにきて急に報道が増えた、25才年上のブリジット夫人です。しかし、日本のワイドショーの報道にはウソも混じっていたりと、あまりきちんと伝えられていないようです。ということで、ブリジット夫人に関しては、来週の当コラムで詳しく紹介しますのでお楽しみに!


<末尾参考動画>
ドイツ公営第二テレビZDF(2017年5月4日):討論番組「マイブリッド・イルナー」
https://www.zdf.de/politik/maybrit-illner/frankreich-vor-der-wahl-europa-vor-dem-ende-sendung-vom-4-mai-2017-100.html
(公開期限2017年8月4日、日本からの視聴も可能。該当する発言はこの動画の57分35秒あたりから、女性政治学者のUlrike Guérot氏が発言)

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