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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/04/21

選抜大会を振り返って(3)…引き分け再試合の力学を「早実本」で学ぶ

今年の春のセンバツこと第89回選抜高等学校野球大会(2017年3月19日~4月1日、毎日新聞社主催、阪神甲子園球場)は、試合数が例年よりも2試合多くなりました。代表が32校なので本来ならば決勝戦が31試合目のはずが、大会中に延長15回引き分けが2試合、それも同じ第7日目に立て続くという、長い高校野球の歴史の中でも前例のない珍事に見舞われたため、33試合を以て大会を終了したのでした。

3月26日の日曜日、第7日目第2試合の「福岡大大濠(福岡)vs滋賀学園(滋賀)」が1-1のまま延長15回で決着がつかず引き分けとなった直後の甲子園球場内には、この試合の再試合が翌日の大会第8日目(本来なら一日で3試合行われる日)の第4試合に組み込まれるというアナウンスがありました。おそらく、翌日の第1試合に登場予定だった秀岳館(熊本)や作新学院(栃木)は、このアナウンスを聞いて「明日は早起きか?!」と身構えたことでしょう。しかし、引き続く第3試合「福井工大福井(福井)vs健大高崎(群馬)」もこれまた取りつ取られつのシーソーゲームとなり、延長戦に突入してから大会役員が冷や汗と寒気に見舞われながら各方面に連絡調整する姿が目に浮かぶようでした(笑)。

結局この試合も引き分けとなったことにより、その前の試合ともども再試合2試合を2日後となる3月28日(第9日目)に独立して行うことが決定します。これに伴い、本来なら選手の疲労と投手の連投を防ぐ目的で予定されていた準々決勝翌日の休養日が飛んでしまいました。というのも、準々決勝翌日の休養日は、大会日程が雨天などの理由で2日以上延長したら消滅すると規定されているからです。今大会はすでに大会第3日が雨天で丸々順延されていたため、再試合日が発生した時点で2日オーバーとなり、この規定の適用となりました。つまり、この再試合に勝利したチームは決勝まで4日連続で試合があることになり、ピッチャーが一人しかいないチームであればエースは4連投となるはずでした。

しかし、実際には再試合を勝ちあがった福岡大大濠も健大高崎も、その疲労のせいか否かは分かりませんが、いずれも再試合翌日の準々決勝で敗退しました。特に、地方大会で登板経験のあるピッチャーが一人しかいない福岡大大濠は、エースの登板を回避しての準々決勝敗退でした。当のエース本人は準々決勝も投げる気満々だったものの、監督は「もしチームが逆転したらリリーフ登板を頼む」とだけ本人に告げていたようですが、試合展開が全く一方的だったためにエースの出番は無くなりました。このエースの疲労度と将来性を考慮すれば、この登板回避は監督にとって賢明な選択でしたが、準々決勝翌日の休養日がもし消滅しなかったとしたら、監督はエースを登板させていたかもしれません。また、結果論ではありますが、その後に決勝戦がこれまた雨天順延で1日延びたため、実際にはどのみち4連投は回避できたことになります。決勝戦に進んだ大阪桐蔭も履正社も、この雨がなければ3連投でした。つくづく、高校野球では選手のコンディションもさることながら天気予報が重要だと痛感させられます。そもそも大会日程が過密であることが甲子園大会の最大のガンで、それは大会を主催する人間サイドの心がけ次第で本来は変えられる問題のはずです。「オトナの事情」が反映されて硬直した大会規定を楯に強行される過密な大会日程に対して、歯止めをかけられるのは大自然からの恵みの雨しかない、というのも何とかならないものかといつも思います。

さて、そんな高校野球の過酷日程ですが、決して昨日今日の話ではありません。むしろ昔の方が高校球児の世界はハードで、特に甲子園はブラック企業も顔負けの世界だったのです。そのことに気付かせてくれたのが、最近本屋さんで発見して即購入、一気に読破してしまったこちらの本でした↓。

Amazon.co.jp - 『新装版 早実野球部 栄光の軌跡』(ベースポール・マガジン社)
https://www.amazon.co.jp/%E6%97%A9%E5%AE%9F%E9%87%8E%E7%90%83%E9%83%A8%E2%80%95%E6%A0%84%E5%85%89%E3%81%AE%E8%BB%8C%E8%B7%A1-%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%B8%E3%83%B3%E7%A4%BE/dp/4583108966

見ての通り、早稲田実(2000年まで東東京→2001年から西東京)の野球部の栄光の歴史がこの一冊で丸わかり、というマニア垂涎の一冊です。同書巻末の脚注によると、この本は元々2010年9月にベースボールマガジン社「ムック」シリーズの一つとして刊行されたものに一部追加取材のうえ新装版としたものだそうです。掲載されているインタビューなどはムック刊行当初から多少はアップデートされているものの、例えば先のセンバツに出場した清宮幸太郎選手のインタビューは2015年夏の西東京大会直前の時点、1980年夏の甲子園の準優勝投手である荒木大輔さんのインタビューは2010年10月のドラフト会議で「ハンカチ王子」こと斎藤佑樹投手(現・北海道日本ハムファイターズ)が指名されるよりも前の時点、そして当の斎藤投手のインタビューもまた2010年秋の早稲田大学4年生時点のままだったりします。

しかし、その2010年当時のままのインタビューであっても、その内容は今も色褪せないどころか、むしろ今年の選抜大会に関する一面の真実を雄弁に物語っているのみならず、これからの高校野球を考える上でのヒントが詰まっています。ということで、以下に本文中の2箇所の記述を引用したいと思います。まずは、2006年夏の甲子園優勝投手である斎藤佑樹選手に関する記述から紹介しましょう:

「センバツの準々決勝で、早実は同じく激戦区を勝ち抜いた神奈川代表の横浜に3対13という一方的なスコアで敗れる。2回戦の関西(岡山)との試合を延長15回引き分け再試合の末に勝ち取ったその直後の大敗だった。それだけに、エース・斉藤が受けたショックは大きかった」(同書56ページ)

夏に全国制覇することになる2006年、斎藤佑樹投手は早稲田実業のエースとして第78回選抜大会に登場しました。初戦(vs北海道栄)の勝利は先述の荒木大輔さんがエースだった1982年以来24年ぶりのセンバツ初戦突破でした。しかし、その4日後に迎えた関西(岡山)との2回戦、典型的な勝ちパターンだったはずの試合を9回裏の土壇場で同点にされ、最終的に7対7で延長15回引き分けとなります。その再試合は翌日の第4試合に組み込まれ、早実がシーソーゲーム(それも相手のタイムリーエラーによる劇的な逆転劇)の末に4-3で勝利。しかし、再試合明けの疲労の影響は隠せず、翌日の準々決勝ではこの大会で優勝することになる横浜に3-13の大敗。しかし、本書内に「3回6失点でKOされた斎藤は、この黒星がフォーム改造と体力強化に励むきっかけとなった」(159ページ)とあるように、このセンバツでの引き分け→再試合→大敗という過酷な経験はそのまま、投手事情の苦しかった当時の早実のエースだった斎藤投手が「連投が効くスタミナ型の投手」へとひと夏かけて変貌していくためのモチベーションとなり、そのまま、同年夏に甲子園夏3連覇がかかっていた駒大苫小牧(南北海道)をこれまた決勝戦の引き分け再試合を経てなぎ倒しての全国優勝に直結していくのです。つまり、このセンバツの引き分け再試合がなければ早実は同年夏に優勝できず、駒大苫小牧は3連覇を達成していたかもしれない…というような、イソップ童話並に教訓的なドラマが潜行していたことになります。

この引き分け再試合の思わぬ「力学」に気付かせてくれたのは、この本の功績です!早実にとっても斎藤投手にとっても、センバツでの延長15回引き分け再試合にはお釣りがくるほどタップリのご利益があったということです。最近は延長戦の試合時間短縮や野球の国際ルール化などの掛け声のもとに、高校野球の延長戦でタイブレークを導入せよという論調がしきりに聞かれますが、実際の現場にいる指導者や選手はみんな心の底から反対していることを私は知っています。特に各校の監督さんたちはみんな、「時代の流れ」や「若者の肉体が弱くなっている」ということは百も承知でありながら、「せめて甲子園の全国大会だけは、タイブレークではない決着で、納得できる形で試合を終えてほしい」と異口同音に言います。出場選手の多くが高校卒業とともに野球から離れるという現実がある中で、一生の禍根を残さないためにも、タイブレークは望ましくないと言うのです。

「センバツが終わってから、いろいろ試行錯誤しながら考えました。(右足)ヒザの曲げ方もそうですが、あと腕の上げ方とか。なにか全部やってみて、それでちょっといいなと思うものを取り入れてみたんです。(中略)そうするうちに、だんだんと球が速くなって行った感じです」(56ページ)

このように語った斎藤投手、この独特のフォーム改造によってスタミナ獲得のみならず、球速アップという副次効果もあったようです。となると、2006年時点の甲子園の延長戦にタイブレーク制が導入されていたら、斎藤佑樹選手は今頃プロ野球の世界にもいなかったかもしれないし、青いハンカチが社会現象になることもなかった(笑)ということなのかもしれません。ちなみに、今大会の再試合組のうち、福岡大大濠のエースである三浦銀二投手は偶然にも体格が斎藤佑樹投手と全く同じ175cm/75kgで、しかも「究極の省エネ投法」の割に球に威力があるという評判からも、驚くほど斎藤投手と類似点が多い投手です。さらに偶然にも、福岡大大濠のユニフォームも白地にエンジ色の早稲田カラーという点が早実と共通です。ということは、今年の夏には「ハンカチ王子アゲイン」かと目の錯覚を起こすようなシナリオもあるかもしれません?!

なお、若年者の肉体が強くなっているのか、弱くなっているのか…。これについては色々と意見があるかと思いますが、同書に掲載の荒木大輔氏のインタビューの中にその答えが書かれていました:

「14年間のプロ生活は故障の連続でしたが、甲子園の酷使が影響したことは間違いないです。僕の肉体が弱い上に、高校野球の3年間があったから、それが爆発した(中略)。アイシングもなければストレッチもなく、試合後はただ『休め』。甲子園に5度出場した17試合のうち、マッサージを受けたのは1回ある意味、強かったのかもしれない(笑)」(45ページ)

まさに、この荒木さんの発言が全てを物語っています。昔の甲子園はそれこそ無茶ばかりでした。今は試合後のアイシングはもちろん、試合後には大会主催者が主導して理学療法士によるストレッチやマッサージも行われますが、昔は全くのほったらかしでした。最近の夏の甲子園では三回戦以降は試合ごとに抽選で対戦相手が決まり、前日の第四試合に登場するチームは翌日の第一試合に当たらないようクジが操作されるなどの配慮がありますが、昔はそれもなく、実際に前日夜遅くに第四試合を終えたチームが翌日朝イチの第一試合に登場させられるケースが普通にありました。そんな無理難題に文句も言わず従ってきた昭和の時代の高校野球部員がタイムマシンに乗って現代の甲子園にやってきたとしたら、「とんだ甘やかしだ!」と怒り心頭でしょう(笑)。投手の三連投も四連投も当たり前、肩は冷やすな、水も飲んではいけないというようなクレイジーな時代に、こっそり便所の水を手ですくって飲んだりしながら生き抜いてきた彼らは、荒木さんが言うように「ある意味、強かったのかもしれない」と私も思います。

「昔の高校生にできたことが今の高校生にはできない」「昔と同じ練習をしたら今の子は壊れてしまう」…そんな趣旨のことを高校野球の監督さんたちが言い出したのは、私の記憶ではだいたい2000年前後ではないかと記憶しています。そういう意味では、21世紀の高校野球の有り方を模索することには意味があります。しかし、それは「タイブレーク制の導入」「球数制限」といった試合内容に介入するような手法ではなく、あくまでも「休養日の確保・厳守」などを含めた「余裕ある大会日程」の実現が何よりも先決であり、それを行ってもなお解決しない場合に初めて次の手を考えるのが本筋ではないかと思います。以前のコラムにも書いたように、来年の第100回記念大会を機に出場校数を増やしたまま固定することも考慮する余地はあるでしょう(→選抜大会を振り返って(1)…察して余りある大阪チャンピオンの苦悩)。全ての野球部員が一生に一度しかない最後の夏を納得できる形で迎えることができるようにするためにも、諸般の「オトナの事情」を横に置いてプレーヤー本位の大会運営が行われることを心から願っています。

最後に、この早実本、他にも王貞治氏のインタビューや歴代監督の今から見ても先進的な指導法についての紹介、王選手の同級生が語る学校内でのエピソードなど、野球に興味がない人でもきっと面白さを感じていただけるであろう内容が満載です。まさに今年のゴールデンウィークを読書週間としていただくにはうってつけの一冊です!是非ともお手にとっていただければ幸いです。

(なお、当コラムもゴールデンウイークはお休みをいただき、5月12日に再開予定です)

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