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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/04/07

選抜大会を振り返って(1)…察して余りある大阪チャンピオンの苦悩

3月19日に開幕した春のセンバツこと第89回選抜高等学校野球大会(毎日新聞社主催、阪神甲子園球場)は4月1日に決勝が行われ、大阪桐蔭(大阪・大東市)が至上初となる決勝戦の大阪対決を制して頂点に輝きました。前年秋の近畿チャンピオンで明治神宮野球大会の覇者でもある履正社(大阪・豊中市)を相手に、近畿大会ベスト4として今大会に乗り込んできた大阪桐蔭の雪辱が成るかが期待されましたが、初回の先頭打者ホームランに始まり終始試合の主導権を握ったのはむしろ大阪桐蔭の方で、8回裏に同点に追いつかれた直後の9回表には代打のツーランホームランを契機に大量得点で突き放し、終わってみれば8-3の圧勝。奇しくもこれが同校の甲子園通算50勝目となり、5年ぶり2度目のセンバツ優勝に花を添えました。

選抜大会の決勝戦における大阪対決こそ今回が史上初でしたが、実は同じ都道府県代表による決勝戦はこれで5度目となりました。戦前から終戦直後にかけて同県対決が3度(1938年および1941年の愛知対決、1948年の京都対決)あったのち、1972年に東京代表同士の対決があったのをご存じでしょうか。これまた奇遇にも同じ日大系列高同士という珍しいカードとなった1972年の決勝戦は「日大桜ヶ丘vs日大三」。前年センバツ優勝の日大三を相手に快投の日大桜ヶ丘のエースといえば、193cmという当時としては珍しい高長身の”ジャンボ仲根”こと故・仲根正広さん(元・近鉄)。後にこの仲根氏が40歳という若さで肺がんで逝去したと報じられた際、一般論としての「日本における190cmを超える高身長者に特有の健康問題」というテーマで当時の医局内で色々な医学的考察や私見が飛び交っていたことを昨日のように思い出します。ちなみに、仲根さんといえば、プロ野球通算50000号ホームランを放った選手でもあります。甲子園優勝投手としてドラフト1位でプロ入りした後に野手に転向、プロ入り13年目の快挙でした。大阪桐蔭と仲根さん、こういうメモリアルな出来事を呼び寄せる運というものは連なっているということでしょうか?

さて、この決勝戦、私は幸いにも岩手放送のオラ君と一緒に見届けることができました。

しかし、大阪対決の決勝戦、それも土曜日だというのに、入場券はネット裏から両アルプス席に至るまで、全てのカテゴリーでまだ売れ残っておりました。きっと早朝からとっくに売り切れだろうと諦めていただけに、ラッキーとばかりにバックネットの中央特別内野席券(2000円)を購入して観戦です↓。

しかし、球場入りしてさらにビックリです。大阪桐蔭の三塁側応援席の周辺はそれなりに埋まっているものの外野は空席が結構あります(左上写真)。履正社サイドの一塁側内野席に至ってはご覧の通り、ガラガラです(右上写真)。土曜日の昼間だというのに…です。

そういえば、今年は清宮幸太郎選手の早稲田実業(東京)が登場する日ですら入場券が売れ残っていたと、大会関係者の方もおっしゃっていました。2年前の夏の清宮フィーバーの時は混乱を避けるために早稲田実業の試合が全て早朝の第一試合になるようにクジを操作したと噂されていたものでしたが、今年はその清宮君の日こそそれなりに客が入るものの他はサッパリだと、別の知り合いも言っていました。公表されている今大会の総入場者数こそ最終的には53万2000人と、平成以降最多となる数字に達しましたが、それは2試合の引き分け再試合(福岡大大濠vs滋賀学園、福井工大福井vs健大高崎)が加わったことが大きく効いていると考えます(末尾参考サイトA)。

今年のセンバツは順延が無かった場合の決勝戦が3月30日の予定だったことからも分かるように、大会開幕が妙に早く、しかも例年よりも寒かったことも、観客数が予想外に伸び悩んだ一因かもしれません。そもそも3月末といえば、会社なら一年で一番大事な年度末の決算期です。「てるみくらぶ」の破産ではありませんが、資金繰りに奔走して青くなっていた人もいたことでしょうし、野球観戦どころではないとしても不思議はありません。今大会だって、その後に気温が上がってきたことからも、4月にもっと大きくまたがる日程であれば、入場者数の記録はもっと大きく更新されていたことでしょう。歴史を紐解けば、少なくとも戦後のセンバツ大会に関する限り、決勝戦の開催日は4月4日~7日のあたりに集中しています。4月3日より前に決勝が行われた大会は2008年までは皆無です!それが、昨年が3月31日、一昨年が4月1日という具合に、この数年で大会期間の前倒し傾向に拍車がかかっているのは、日本における何らかの世相の変化を反映している可能性があり注目に値します。

しかし、私にとって今大会を通して最も気になったのは全く別のことでました。それは、大会関係者の知人数名と会食する機会があった際、ある方の口から飛び出したこちらの発言が契機になっています↓。

「今大会に上宮太子を選出できなかったのは大いに問題だ!だいたい何で大阪から3校を選出しちゃダメなんだよー?」

この発言には少し解説が必要です。今年のセンバツ決勝にコマを進めた大阪桐蔭も履正社も、実は大阪チャンピオンではありませんでした。このことを、全国の人はもとより地元大阪の人もあまり知らないようです。昨年秋の大阪大会を制したのは上宮太子(大阪府南河内郡太子町)で、履正社は準優勝(大阪2位)、大阪桐蔭は3位決定戦を勝ち抜いての近畿大会出場でした。そして、近畿大会では履正社が優勝、大阪桐蔭がベスト4、そして上宮太子はベスト8に入りました。その後、履正社が神宮大会を制したことで、「神宮枠」と呼ばれる枠が回る形で近畿からは7校選出できることになりました。つまり、ベスト4は全校当確(履正社・神戸国際大付・滋賀学園・大阪桐蔭)、ベスト8止まりの4校(智弁学園・高田商・上宮太子・報徳学園)から3校を選出するという話でした。

この4チームをあくまでも実力で評価するならば、落ちるのは上宮太子でないことはおそらく誰も反論がないことでしょう。しかし、ここで上宮太子の選出を阻むことになったのが、選考委員会における内規の存在でした:

”選考委員は「上宮太子は有力候補の一つだったが、規約の対象外」と説明した。内規には「一般選考枠(神宮大会枠を含む)の選出校は同一府県2校まで。ただし、21世紀枠を含めた同一府県からの3校出場は可能」とあり、「補欠1位校にもならない」も加わり、これが上宮太子に該当したものだ”
(ベースボールマガジン社・週刊ベースボール別冊春季号センバツ2017、7ページより抜粋引用)

この内規により、近畿ベスト8のうち上宮太子を除く7校がそのまま春の代表切符をつかみ、上宮太子は補欠2位校に甘んじることになりました。しかし、こんな内規、一体どうしてできたのでしょうか?春の大会は基本的には主催者による招待試合であり、同一県から三校だろうが四校だろうが選ぶことができるのは、そもそもは一県一校の夏の選手権大会になかなか出場できない激戦地区の強豪校に対する救済策という意味合いがあったのではないかと私は思っていました。そして実際、春の大会ではかつて同じ県から三校も四校も選出されることはごく普通でありました。

これまた歴史を紐解いてみましょう。センバツは元々愛知県の八事球場が発祥の地であったこともあり、戦前から東海地区が歴史的に強い傾向にありました。1937年には愛知県からの四校選出(中京商・享栄商・愛知商・東邦商)があり、1933年には和歌山からの四校選出(海南中・海草中・和歌山商・和歌山中)もありました。同一県からの三校選出は戦前はごく普通に行われ、特に愛知、大阪、兵庫の三県では常態化していました。

これが戦後になると、1947年の京都(京都二中・京都二商・京都一商)と和歌山(田辺中・海草中・和歌山中)を最後に、三校選出県は長らく途絶えます。背景には戦後復興から高度成長、ベビーブームと連動しての野球人口増加、要するに野球自体が全国へ普及することで一部の人だけのスポーツでなくなったことがありました。そして歳月が流れ1995年、阪神淡路大震災の直後で開催すら危ぶまれた第67回選抜大会でついに47年振りとなる三校選出が実現します。この大会、被災地である兵庫県から選ばれた報徳学園・神港学園・育英の三校はいずれも初戦を突破、震災に見舞われた地元の人々に大いなる勇気と希望を与えました。そしてさらに6年後、世の中が21世紀を迎えた2001年、センバツで再び三校選出が実現したのは茨城県でした。これまた奇遇なことに、この時の常総学院・水戸商・藤代の三校もまたいずれも初戦を突破(!)、しかも常総学院はこの大会で見事優勝を果たしました。特にこの茨城からの三校選出は、「選考委員の目の確かさ」を実証した歴史的な成功例だと、つい最近まで私は固く信じておりました。

しかし、今大会中に別の大会関係者から聞いたところ、他ならぬこの2001年の茨城の三校選出こそ、三校選出を禁止する内規が生まれた原因だったと言うではありませんか!どうしてそうなったのかと問い返したところ、もっとビックリの返事が返ってきました:

「茨城から三校選んでも、新聞の販売数が伸びなかっただけでなく、観客動員にも貢献できなかったから」

ええっ…と一瞬は思いましたが、ハッと気付きました。2001年当時、選抜大会を主催する毎日新聞が経営不振でセンバツを手放すのではないかという根強い噂が流れていたことを。しかも2001年は「21世紀枠導入元年」でもあります。「僻地・離島のチーム」「恵まれない練習環境」ならまだしも、「駅前掃除などのボランティア活動」といった野球とは関係ない要素まで選考材料となるこの21世紀枠は、ただでさえ夏の選手権大会と比べて盛り上がりにも観客動員数でも負けると言われてきた春のセンバツの目玉として導入された、言うなればマーケティング的手法の色濃い”企画”です。このような選考方法で全国大会を行うアマチュアスポーツなど、高校野球以外の他のスポーツでは聞いたことがありません。球場収入や新聞の地方版の売れ行きも確かに大事かもしれませんが、高校生のアマチュア野球をダシに大人がそこまで金儲けを追求するという話を、誰も異様だと思わないのであれば、それはそれで問題かもしれません。

今回、神宮枠が近畿にもたらされた以上、その神宮枠を上宮太子に例外的措置としてあてがうことはできなかったのだろうか、というのが私の率直な意見です。天皇の退位を特別立法で実現しようと国が手続きを開始しているようなこのご時世に、センバツ大会選考の内規などというものがそこまで絶対的な法規なのでしょうか?現に決勝戦は大阪対決となり、この現実を、あの決勝戦を、果たして上宮太子のメンバーやチーム関係者はどのような思いで見たのか、その心中いかばかりかと察して余りあるものがあります。悔しい、などという言葉では到底生ぬるい、壮絶な葛藤と苦悩があったことでしょう。正直言ってベスト8が揃ったあたりから、私は上宮太子の目線でしか大会を見ることができなくなっていました。しかも、今年の夏の大会ではそんな激戦区・大阪からは1校しか甲子園に出場できないのです(来年夏は100回記念大会につき大阪から2校出場可能となります)。さらに私見ですが、高校野球はそろそろ夏の大阪の出場枠を東京と同じ2にする方法を模索する時期に来ており、来夏の第100回記念大会を機にさらなる改革が必要となると考えます。

なお、今回のセンバツのベスト4のうち3チームが近畿勢であり、近畿地区の強さをアピールする形になりました。その中でも、報徳学園(兵庫)は言うに及ばず、秀岳館(熊本)も昨年よりは減ったものの近畿地区出身選手の多いチームです。昨年センバツ覇者の智弁学園(奈良)や三年前優勝の龍谷大平安(京都)も近畿勢でしたし、一昨年優勝の敦賀気比(福井)も選手の多くは近畿圏出身でした。そう考えると、他地区の強化も随分進んで全国的にレベルが均衡化してきているとはいえ、少年野球や高校野球は相変わらず近畿を中心に回っていることを認めざるを得ません。今回の上宮太子のケースを教訓に、選抜大会の選考のあり方や枠配分について、さらには競技する選手たち自身が納得できる公平性の担保とマーケティングとの折り合いという点からも、根本的に議論し直す必要があるように思いました。


<参考サイト>

A) 日刊スポーツ(2017年4月1日):センバツ入場者数は平成以降で最多53万2000人
http://www.nikkansports.com/baseball/highschool/news/1801147.html

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