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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/03/10

医療用大麻がついに解禁!秒読みの法改正を前に渦巻くドイツの思惑と賛否両論

最近、首相夫人の安倍昭恵さんに関する報道が増えています。大阪の森友学園が開校申請中である小学校の名誉校長に就任した…と報じられたかと思うと今度は辞任表明。しかも同学園には、大阪豊中市における市場価格よりも著しい格安価格での用地取得、その裏に政治家や役人の口利き疑惑なども指摘され、国会もこの話題で紛糾、テレビのワイドショーもこのテーマになると視聴率がアップというように、報道が過熱しているのはご存じの通りです。

さて、ドイツでも最近、連日のように報道が過熱しているテーマがあります。それが、「医療用大麻の合法化」です。医療用大麻といえば、私が大好きなテレビドラマ『相棒』(TV朝日)で杉下右京警部の元妻・宮部たまき役を長年演じた元・女優が昨年10月25日に大麻取締法違反で逮捕、それ以降テレビ朝日が昼間に再放送される『相棒』の差し替え等の対応に追われたこと、さらにその前の2016年7月の参院選でその元・女優さんが「医療用大麻解禁」を公約に立候補していたことを思い出します。

そしてさらにビックリなことに、今話題の安倍首相夫人もまた、「医療用大麻の合法化」の熱心な支持者なのだだそうです(末尾参考サイトA、B、C)。しかも安倍昭恵さんの場合、医療用に限らぬ大麻そのものの普及活動に並々ならぬ意欲があるようで、「神事やお祓いにも使われる大事な日本文化としての大麻」が途絶えることを危惧する発言(参考サイトB)や、「『日本を取り戻す』ことは『大麻を取り戻す』こと」といった発言(参考サイトC)が立て続けに報じられました。

話をドイツに戻しましょう。ドイツでは本年3月から医療用大麻が解禁されることが、本年1月に連邦議会で決定されました。このテーマについてはかなり賛否両論が分かれ、議論が深まったとも言えず、なぜ今なのかもサッパリ分からない中での見切り発車のような側面が否めません。このため、テレビや新聞・雑誌までが昨年末あたりから断続的にそれぞれ特集を組み、来たるべき「大麻合法時代」がどうなるのかを脳内で予習しているような段階です。今は全く大麻合法化とは程遠い日本にもいつかこの波が押し寄せる可能性があるので、ドイツの現状を知っておくのは決して悪い話ではないでしょう。ということで、昨今の報道の中でも特に良くまとまっていると思われる本年3月7日のRP Onlineの一問一答方式の記事(参考サイトD)を軸に、2年前の同紙の別記事(参考サイトE)の内容も織り交ぜて、以下に紹介します(要約は青字表記。強調は筆者):

Q. どういう人が大麻の処方を受けることができるようになるの?
A.今までは、既存の治療で効果が得られない患者のみが対象だった。法改正後も一応は他剤無効例が対象ということになっているが、将来的には第一選択薬としての大麻処方も可能に。処方対象は主に慢性疼痛患者で、特に下記の疾患や症状に対して効果が期待される:
  ・多発性硬化症における筋痙縮性疼痛
  ・AIDS、癌、アルツハイマー病などにおける食欲不振
  ・抗癌剤治療による嘔気・嘔吐
  ・てんかん
  ・がんこなかゆみ
  ・トゥーレット症候群(チックと悪態汚言を主徴とする神経疾患)

Q. 法改正後に処方を予定される患者数はどれくらい?
A. 法改正直前である2017年3月時点では、約1000人の患者が大麻使用許可書を得て大麻の投与を受けている(←2015年3月時点で370人だったことを考えると2年で3倍増!)。今回の法律改正でこれが5000人程度にまで増加すると専門家の予想。

Q. 費用はどうなるの?
A. 現状では医療用大麻は100%自己負担だが、将来的には健康保険負担となる見込み。

Q. どのような形(剤型)での処方となるの?
A. 来たるべき新しい法律では剤型の指定はないが、「オイル」あるいは「液体」の形での処方となる見込み。乾燥大麻(雌花のつぼみを丸めて感想されたもの)も将来的には解禁されるだろう。現状では、いわゆる「吸引」「ジョイント(手巻きタバコに混ぜる)」はまだ想定していない。

Q. この法律改正に賛否両論があるのはどうして?
A. 批判的な意見の人は、これを機に麻薬がなし崩し的に蔓延していくことを恐れている。大麻は現時点でドイツにおける最も使用頻度が高い非合法麻薬であり、その多くはハシッシュとマリファナで、25才~29才の若者の実に40%以上が「少なくとも一度使ってみたことがある」と答えている。長期的使用は依存症につながる。

Q. 現在売られている大麻はどこから来ているの?
A. これまでの大麻はオランダやカナダからの輸入に頼っていた(昨年の輸入量は年間170kg)。2019年からはドイツでも国産大麻が販売される見込み。患者一人当たりの処方量が1グラム/日だとすると、現状でも年間365kgの大麻が必要となる。

Q. 解禁された医療用大麻がブラックマーケットに流れないようにする対策は?
A. その対策として、BfArM(ドイツ連邦医薬品医療製品研究所)の下部組織として、今回「大麻庁(Cannabisagentur)」が新設される。この新しい官庁が、ドイツ国内の大麻栽培から製薬会社での加工・製品化、さらには薬局での小売販売にいたるまでを監視・監督する。

Q. 医者や製薬会社は、今回の法改正をどう見ているの?
A. ドイツ医師会は、この法改正により患者が増えて大麻の使用経験の蓄積も増えるため歓迎ムード。製薬会社(特に国内最大の医療用大麻製品メーカーであるビオノリカ社)は売り上げ増を見込んでいる。しかし、低品質の乾燥大麻の販売解禁については彼らはいずれも批判的見解である。

以上を読んで、妙に納得してしまいました。新たな官庁を設立(ついでに天下り先も確保?)、その庇護のもとにというお墨付きを得ながら「国産大麻産業」を立ち上げ雇用促進…。そんな新規の国内産業を育てるためには、必然的に国内需要を激増させることがポイントになってきます(←それでも対象疾患患者が全土で5000人程度というのがツッコミどころですが)。そしてゆくゆくは、現状ではオランダやカナダの独り勝ちを許しているマーケットに「高品質で安全安心のドイツ産大麻!」というビジネスで果敢に参入、さらに外貨も獲得へ!…などといった想像が、記事を読めば読むほど勝手に脳内で広がっていくばかりです(笑)。そういう観点では、日本のカジノ法案と構図が似ているかもしれません。

この法改正、慢性疼痛や筋痙縮(スパズム)性疼痛に苦しむ数千人の難病患者には確かに福音かもしれません。特に多発性硬化症の疼痛については、確かに効き目があるようです(参考サイトF)。しかし、専門家の使用経験や有識者の見解の多くは、大麻は「一部の人には著効するも、大多数の人には無効」というもののようです(参考サイトA)。また、ある腫瘍内科医はこうも述べています:

「大麻は何よりもコストが高いのが問題。月額1800ユーロ(約21万円)もかかる割には、癌性疼痛にはほとんど効き目がない。このため、過去15年で2例位しか処方しなかった。むしろ吐き気止めとしての方が使い道がある」(セント・ワルブルガ病院シュウォンツェン医師)(参考サイトF)

このコメントを読んでようやく、前述した青字部分のRP Onlineの要約内で「医療用大麻で効果が期待される疾患」のリストの中に「癌性疼痛」が無かった理由がわかりました。てっきり記事執筆者の書き漏れとばかり思っていましたが、悪性腫瘍の症例を数多く経験した専門家が、医療用大麻はエンドステージの悪性腫瘍患者の食欲を上げることには効果があるが緩和ケア(疼痛コントロール)には効果がないと、かくもキッパリ断言するとは驚きました。

それよりもむしろ、医療用大麻の合法化が今このタイミングでそもそも本当に必要なのかどうかが気になります。現状のままでも、該当する疾患の患者たちは、他剤が無効で大麻の適応があると医師から診断されれば、申請手続きを経て正規に大麻使用許可が下りる制度になっているのです。あくまでも問題なのはその高額な薬剤費負担で、これまでの100%自己負担を法改正で健保負担にすれば済む話です。それをここにきて「何が何でも合法化」に固執する理由があるとしたら、「患者さんのため」というよりはむしろ「経済のため」ではないかと思ってしまいます。関連業界のビジネスチャンス増大は結構ですが、苦しんできた患者さんにぬか喜びをさせたり、それまでに何の病気も体調不良もなかった一般国民の堅実な人生を破壊するような薬物依存に陥れるとしたら問題です。そこまで行かなくても、一般国民の手に渡り濫用された場合に大麻の食欲亢進効果によって大食い(?)が促進され、その副作用として肥満や糖尿病などの生活習慣病患者が激増することだって、ありえないことではないでしょう。

なお、記事にもあるように、「(非合法である現状でも)若者の4割が一度は(ハシッシュやマリファナを)試したことがある」という現実もまた衝撃的です。これについては参考サイトAでもまた、専門家の意見として、

「イスラエルのデータでは、医療用として大麻を処方されている人の3割が、娯楽用として快楽目的で友人や家族に大麻を分け与えたりしていました。驚きましたよ」(東京慈恵会医科大学付属病院ペインクリニック診療部長・北原雅樹氏)

と書かれています。国際疼痛学会でも問題になったと北原医師も警鐘を鳴らす「処方大麻の横流し」は、新しい官庁を作ったぐらいで阻止できるのでしょうか。仮に患者さんのフトコロ事情が急に苦しくなり、その際に手元の医療大麻に対して高額の買い取り価格が提示されたら、その甘い誘惑に勝てるでしょうか。

その上、大麻の場合にはもう一つ、犯罪増加の可能性というリスクもあります。参考サイトAで北原医師も指摘している通り、大麻で人は「気分がハイになる」ためです。昨年7月に日本を震撼させた相模原の知的障害者施設やまゆり園での大量殺傷事件でも、犯人は大麻を使用していた可能性が指摘されています(同年2月に大麻使用で措置入院歴あり)。参考サイトBにも、大麻の負の作用として「依存症」と並んで「精神障害」(Psychose)が挙げられています。海外報道を見ても、大麻の影響下での犯罪といった報道は珍しくありません。解禁する以上は、リスクもきちんと計算するべきでしょう。

そもそも大麻に関する研究は非常に少ないそうで、理由は「研究してもおカネにならないから」だそうです。つまり、大麻についてはその効能も副作用も、その長い歴史の割には未だに分かっていないことが結構多いということです。ましてや、「これまでの全ての医薬品を凌駕する万能の魔法薬」であるという根拠も全くありません。参考サイトBにおいてドイツ疼痛医学会会長が、「これでもかというほどの安全性の試験や治験を経て、非常に厳しい選考を経て初めて認可される従来の医薬品に比べれば、今回の合法化される大麻にはそのような厳しい審査の過程が全くなかった」と述べています。この指摘こそ、まさに今回のドイツにおけるドタバタ大麻解禁騒動の本質をズバリ言い当てているかのようです。

上の写真は参考サイトGからのスクリーンショットで、大麻の雌花を丸めて感想させたものです。パッと見は何だか中国茶の一種みたいですが(笑)、医療用大麻が合法化されたあかつきには、患者は処方箋を持って薬局に行き、薬局では薬剤師がこの中国茶みたいな乾燥大麻を粉砕したり濾したりして患者に提供することになるのではないか…と述べられています。ただ、ドイツの乾燥大麻は現状では品質にバラつきが大きく処方量の調整が困難なことがネックとなっており、当面は工業的に精製された抽出液(エキストラクト)やオイルの形での処方がメインとならざるを得ないでしょう。

最後に補足です。ここまで読んでひょっとして疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。「本年3月からドイツで医療用大麻が解禁されることになった」と、私が冒頭部に書いた表現が未来形のままであり、「先日、合法化されました」というような過去形になっていないことに対してです。そうです、実はこの法律、3月1日に発効(施行)するとかねてからアナウンスされていたのに、いまだに発効していないのです(3月7日現在)。「いよいよ解禁!」「3月からの合法化で、ドイツは一体どうなっちゃうの?」などと、先月末から各メディアがそれこそ日本でいう森友学園問題以上の勢いでワーワーキャーキャー盛り上げてきたというのに(笑)、思わぬ肩透かしです。各方面からの批判や苦情が集中して、ストップでもかかったのでしょうか?もっとも、近日中の施行は確実視されているようなので、今はまだ各方面との間で最終調整中なのかもしれません。今後新たな展開が明らかになったり、思わぬ問題が勃発して事情が変わったりした場合には、また当サイトでご報告したいと思います。


<参考文献>

A) ダイヤモンド・オンライン(2017年1月17日):安倍昭恵首相夫人も支持「医療用大麻」は解禁すべきか
http://diamond.jp/articles/-/114387

B) NEWSポストセブン(2016年12月6日):安倍昭恵首相夫人「神事などの文化途絶える」と大麻解禁支持
http://www.news-postseven.com/archives/20161206_472371.html

C) NEWSポストセブン(2016年12月26日):安倍昭恵氏の無防備発言「大麻を取り戻す」「ハワイは聖地」
http://www.news-postseven.com/archives/20161226_477966.html

D) RP Online (2017年3月7日): "Gras" auf Rezept - Wie die Cannabis-Abgabe in Deutschland funktionieren soll
http://www.rp-online.de/leben/gesundheit/news/cannabis-abgabe-in-deutschland-so-funktioniert-gras-auf-rezept-aid-1.6653293

E) RP Online(2015年3月3日): Zum "Deutschen Schmerztag" - "Gras" auf Rezept: überfällige Reform oder riskanter Hype?
http://www.rp-online.de/leben/gesundheit/medizin/cannabis-auf-rezept-ueberfaellige-reform-oder-riskanter-hype-aid-1.4916639

F) Westfalenpost(2017年3月6日):Cannabis auf Rezept sorgt in der Region für Skepsis
https://www.wp.de/staedte/meschede-und-umland/cannabis-auf-rezept-sorgt-in-der-region-fuer-skepsis-id209833593.html

G) DAZ.online(ドイツ薬局新聞)(2017年3月7日):Monografien im DAC/NRF veröffentlicht - Apotheker sind vorbereitet auf Cannabis
https://www.deutsche-apotheker-zeitung.de/news/artikel/2017/03/07/apotheker-sind-vorbereitet-auf-cannabis
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