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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/02/24

健康に良くても環境に悪い?!悩ましき「アボカド・パラドックス」

最近、アボカドの効能について謳った医療バラエティ番組を日本のどこかで見かけました。番組名は忘れてしまいましたが、別名「森のバター」の名に相応しい高い栄養価、ビタミンE/A/C等のビタミン群や不飽和脂肪酸が豊富で抗酸化作用に優れ、利尿・塩分排出を促すカリウムも多く含まれることから、血管年齢の引き下げ・若返り・美容・ダイエットなどに威力を発揮する…というような内容ではなかったかと記憶しています。この手の番組のお約束に違わず、番組後半ではアボカドを利用したレシピなどが紹介され、この調子なら翌日には全国津々浦々のスーパーでアボカドが売り切れ必至と思われました。

この手の番組に出くわすのは初めてではない私でしたが、今回ほど複雑かつ懐疑的な思いで番組を見たことは、これまでにあまりなかったかもしれません。それは、昨年ドイツでこのような報道を目にしていたからです↓。

EatSmarter!(2016年9月8日):Avocados – Leibspeise mit mieser Umweltbilanz(アボカド…肉体の健康には良くても環境にはとんでもなく悪い食べ物)
http://eatsmarter.de/blogs/veggie-blog/avocados-leibspeise-mit-mieser-umweltbilanz?utm_medium=RUN&utm_source=RUN_gala.de

 

(上記リンク先サイトの印刷画面からのスクリーンショット)

タイトルからして尋常でないこの記事は、グリーンピース・メキシコからの警告と題して「世界中の人々がアボカドを欲しがれば、メキシコの豊かな自然が益々破壊されていく!」と冒頭からブチ上げています。世界中の消費者からのアボカド需要の増大によって自然破壊が起きる理由は大きく3つ、「アボカド増産のために松の木やモミの木を伐採する必要があり、稀少な蝶(後に紹介する引用記事の下に写真あり)などの動物の越冬の場でもあるそれらの木が失われることにより生態系が崩れるから」「アボカドの生育には膨大な水を必要とし(木一本あたり50リットル/日←松やモミの倍量以上)、現地の地下水不足ひいては水質汚染を助長するから」「アボカド栽培に適する地域がペルー・チリ・メキシコ・南アフリカといった具合にどこも最大消費地から離れているため、冷蔵コンテナではるばる輸送をする必要があるから」と述べられています。

なお、これはドイツの記事なので、「アボカドを食べたい私たちが取りうる最善策」として推奨されているのが「なるべくイスラエルのアボカドを買おう!」になっています。理由は、南米や南アフリカと比べれば輸送距離が短いからです。これに対して、記事末尾のコメント欄に早速ドイツ人女性からツッコミがありました:

「アボカドはイスラエル産を選べ、だなんて視野が狭い。イスラエルだって砂漠の国だし、アボカドは元々イスラエル固有の品種でもない。それに、多量の水が要るんでしょ?だったら、「アボカドの消費はほどほどに!」と啓蒙するのが筋であって、スーパーフードだの何のとチヤホヤ持ち上げる風潮をやめるべきでは?」

このコメントを読んで、思わず唸ってしまいました。テレビを媒体に食べ物でブームを煽って消費を喚起しようというメディア手法に対する猛烈なダメ出し…という風にも連想せずにはいられませんでした。

それはともかく、記事中ではさらに、「同じ買うのなら、農薬・化学肥料不使用の”BIO”ラベルのものを選べ」とも書かれています。通常のもの(季節にもよるが1個120円程度)とBIOラベルのもの(同・180円程度)とでは価格差が60円程度しかないため、地球環境に良かれと思う心があるのなら、この60円の差を出し惜しみしてはならない…というのがこの記事の結論の一つです。これもまた、BIOラベルのような農薬・化学肥料・添加物を使用しない食材のマーケットが限りなく小さい日本では全く役に立たないアドバイスであり、BIO市場の成熟した欧州との差を突き付けられているように思えます。

それでも、アボカドにまつわるこの手の話をこれまで見たことも聞いたことも無かった私にとって、この記事は衝撃的でした。私たちはいつでも、少しでも身体によいもの、健康に良いものを…という願いをかなえるべく、情報をあるときは受動的に見聞きしたり、あるときは能動的に検索たりしつつ、それぞれが食材を選定してきたはずでした。それが、万難を排して選んだはずの食材が、実は(よその国の)赤の他人を泣かせた上でしか手に入らない、環境汚染と森林破壊の産物だったとしたら?そういう食材は知られていないだけで他にもきっとたくさんあるのでしょうが、今回のアボカドの話はまさに「アボカド・パラドックス」とも命名すべきほど、根源的な問題提起となっています。自分たちの消費者としての行為が赤の他人を傷つけ、ひいては地球全体に対する加害行為となりうる…つまり、近所のスーパーマーケットを舞台にした壮絶な「食うか食われるか」のサバイバルゲームの、私たちは誰もが一員なのかもしれないのです。「世界中の人類が一斉にアボカドを食べたら、人類の健康は増進しても地球そのものが滅びる」という構図から成るこのストーリーは、世界人口が70億人を突破してなお爆発的に増加し続ける現代における、まさに悩ましきパラドックスという以外の何ものでもありません。

なお、この記事にはどうやら元ネタがあるようです。記事中にも引用されているその元ネタとは、アメリカのAP(Associated Press:米国連合通信社)の昨年の記事です↓:

Associated Press(2016年8月10日):In Mexico, high avocado prices fueling deforestation(アボカドの価格上昇が森林破壊を加速させるメキシコ)
http://bigstory.ap.org/article/9176bc7479e048508203f10a68da6fa7/mexico-high-avocado-prices-fueling-deforestation
・アボカドの木は松やモミと同じ気候や高度で育つ。メキシコにおけるアボカドの最大の産地であるミチョアカン州(Michoacan)の山々では、当局の監視の目をかいくぐり、「松の木の下にコッソリとアボカドを植える→下のアボカドが育って来たら松を伐採する→いつの間にか松林がアボカド林に転換」という手法をとる農家がいる。
・松に比べて倍以上の水を必要とするアボカドは、山から湧く水の量を減少させ、他の植物や動物に影響する。そして、稀少な蝶の越冬場所を奪う(下写真)。
・アボカド栽培に要する農薬(とその汚染)、アボカド梱包のための木箱に使われる木材伐採、さらにアボカドの搬出のためのトラックで大渋滞する山道も、全てアボカド栽培の代償である。
・それがどんなに環境に悪くても、農家はアボカドに固執する。アボカドの価格が2016年1月に86セントだったのが同年7月には1ドル10セントに跳ね上がり、同時にメキシコのペソも対ドルで16%安くなったことで、他のどんな作物よりも儲かるようになったためである。アメリカのアボカド熱は凄く、2001年から2010年にかけてミチョアカン州のアボカド生産量が3倍になったのに対し、アメリカへの輸出量は10倍になった。
中国での需要増もあり。メキシコ産アボカドの価格は中国で年200 %のペースで上昇し続けている。
・2000年から2010年にかけて、メキシコの森林は1年あたり1700エイカー(690ヘクタール)ずつ失われた
・2016年7月31日、ミチョアカン州都モレリア市の警察は13人の”闇アボカド農家”を逮捕。彼らは松260本とモミ87本を伐採して得た12エイカー(4.7ヘクタール)の土地に1320本のアボカド苗木を植えた。これらが成木になるには10年かかるが、一本あたり少なく見積もっても100個のアボカドが生ると仮定して、彼らの年間収入は50万ドル(≒5500万円程度)となる見込みだった。

(EatSmarterの記事にも出てくる稀少な蝶の一種、Monarch butterfly オオカバマダラの写真。上記AP記事からのスクリーンショット)

以上が記事のまとめです。余談ながら、甲子園球場の総面積は3.85ヘクタール(38500平方メートル)です。ということから計算してみると、メキシコから森林面積が失われるペースは甲子園球場179個分/年ということになります。もっとビックリなのが、例の”闇アボカド農家”が年間5000万円以上を売り上げる皮算用だった農地面積で、換算すると甲子園球場1.2個分です。たったの1個ちょい?!うーん、これなら、球場の外壁にはツタではなくアボカドを植えた方がウハウハなのでは…などと考える人が続出しそうです(笑)。まさに現代版「金の生る木」でしょうか?

このアボカドとメキシコの森林破壊の話、日本では報道されていないのかと思ってネット検索してみたら、以下の個人ブログくらいしかヒットしませんでした:

1日1語、英単語が語る(2016年11月8日):メキシコのアボカド栽培は思ったよりも森林破壊を招いている!
http://ameblo.jp/j-cuatro/entry-12217428310.html

このサイトには、先程私が紹介したのとは別の「アボカド栽培による環境破壊」を告発する記事が、全文和訳の形で紹介されています。記事の内容はかなり似ていますので、是非リンク先と読み比べていただきたいと思います。

なお、こちらは英語学習のためのブログのようです。「ヴォイス・オブ・アメリカ」(VOA)というアメリカの海外向け短波放送のインターネットサイトから1日1記事を取り上げ和訳しつつ、「今日の単語」を一つピックアップするという、なかなか意欲的な内容です。1日1個、3日で3個…英語のボキャブラリーを増やしたいけど何を教材に使えば良いか分からない、という方にはオススメです!

なお、和訳紹介の元記事たるヴォイス・オブ・アメリカのリンク先も併記されていました↓:

VOA(2016年10月31日):Mexico: Deforestation for Avocados Much Higher Than Thought
http://www.voanews.com/a/mexico-deforestation-avocados/3574039.html

 このリンク先を見ると、記事のネタ元はAssociated Pressとあります(上写真左上方)。つまり、これは私が引用した同じAPの2016年8月10日の記事の続編ともいうべき位置付けにあり、同じ当局の別の取材対象から引き出した話をもとに新たな数字も加えてまとめ直した記事だと分かります。

蛇足ですが、「1日1単語」としてこの記事からピックアップされた英単語は、

”rampant”(まん延した)

でした。VOA記事の原文中には、

”The largely impoverished state depends on avocado growing and harvesting for jobs and income as an alternative to the rampant production of synthetic drugs that also exists in the state”

という形で出てきます。サイト内の全文和訳の中では「州の貧しい地域では、合成薬剤の生産も盛んですが、それに代わるものとしてアボカドの栽培や収穫の仕事、またその収入に頼って生きています」とマイルドに訳されていますが、ここでのrampantは「(悪事・厄災・病気・迷信などが)はびこる」という意味であり、記事は要するに「州の大部分が貧困にあえぎ、(非合法の)合成麻薬の生産がはびこって今に至っているが、今やそれにとって代わる収入源としての(合法の)アボカド栽培・収獲は無くてはならないものとなっている」と言いたいのだと思います。そりゃあ誰だって、同じくらい稼げるのであれば、非合法に稼ぐよりは合法の稼ぎの方が良いに決まっています。環境汚染や森林破壊はすぐには目には見えませんし、蝶々のオオカバマダラは集団訴訟を起こすこともできません。とは言っても、作物(アボカド)は合法でも用地の取得方法が非合法(松・モミの無許可伐採)では話になりませんが…。

このrampantという単語で私が即座に思い出すのは、フランス語のrampantです。これは「這う」という意味の動詞ramperの形容詞形であり、大きく3つの意味があります。1つ目は「地面を這っている」というもので、植物や動物が地表を生い茂るさま、人間が匍匐(ほふく)しているさまを表します。この場合、英語のrampantのように「悪いもの」がはびこるというニュアンスがないのが要注意です(ちなみに「軍隊の匍匐前進」は”marche rampante”という)。つまり、先ほど「甲子園球場の外壁にはツタではなくアボカドを植えてウハウハ…」という軽口をかましましたが(笑)、この”外壁をツタが這う”の”這う”もrampantです。うーむ、つながりましたね!2つ目は「傾いている」の意味で、「這っている状態」だと斜めになることから派生したのか、「傾斜した・勾配のある」、さらにこれが転じて「(事態が)少しずつ進行する」という意味も加わります。そして3つ目は「卑屈な」です。「地を這うようにへりくだりまくる」→「へつらう・ペコペコする」→「卑屈」という展開で、「ゴマすり野郎!」みたいなニュアンスでしょうか(笑)?この3つ目の意味のみ、否定的な文脈で使われます。

以上の3つを把握した上で英語のrampantとの違いを押さえておきましょう。まず、英語のrampantには3番目の「卑屈」という意味は無いようです。そして、1番目の「生い茂る」ものも雑草だったり疫病だったり悪行だったりと、否定的なニュアンスのものが「蔓延する・はびこる」の意味で使われることが、今回のVOAの記事のように比較的多く見られます。

ちなみに、スコットランド王旗の別名は”Lion Rampant”(後ろ足立ちの獅子)で、このようなデザインです↓(下写真)。これは、2番目の意味「傾いている」から転じて、動物が後ろ足のみで立っているさまを表している、と考えれば覚えやすいですね。

(末尾参考サイトから引用)

これが名詞形となると、英語とフランス語が歩み寄ります。フランス語のrampeも英語のrampも、上の2番目の意味「傾いている」から転じたのか、「2平面間をつなぐ傾斜路」「スロープ」「坂」の意味になります。そう、「首都高速道路の霞が関ランプで…」などと言う時の、あの高速道路の出入り口を指す「ランプ」とは、実はこのrampなのです。明かりのランプ(lamp)でもなければ、牛の尻肉を意味するランプステーキのランプ(rump)でもありません(笑)!

アボカドの消費がもたらす環境破壊からいつの間にか、甲子園球場からスコットランド、ひいてはステーキから首都高速道路にまで話が飛んでしまいました。それにしても、このアボカドを巡る議論、果たしてこの悩ましきアボカド・パラドックスの解決に向けた着陸地点としての「ランプ(ramp)」じゃなかった「出口」はちゃんと見つかるのでしょうか(笑)?とりあえず私個人としては、現時点で既に購入済みのアボカドはきちんと美味しくいただいたうえで、メキシコの森林や蝶々を死に追いやらないでも済むような消費行動の有り方について、自分なりの答えを模索して行こうと考えています。


<参考サイト>
Wikipedia英語版 - Royal Banner of Scotland
https://en.wikipedia.org/wiki/Royal_Banner_of_Scotland

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