Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2017/01/20

お正月の過ごし方inドイツ(2)…大晦日の視聴率が断トツのトップ!『ディナー・フォー・ワン』ってどんな番組?

皆さまは昨年から今年にかけての年越しはどのようにお過ごしになりましたか?私の場合、「ウィー・ウィル・ロック・ユー」「伝説のチャンピオン」などでお馴染みのイギリスのロックバンド、クイーンの1981年のライブ『ロック・モントリオール』を堪能してからZDFの年越しカウントダウンライブに飛んでそのまま濃厚な音楽三昧の越年となったことは先週のコラムで述べた通りです(→お正月の過ごし方inドイツ(1)…クイーンの80年代ライブに釘付け!音楽三昧の大晦日)。日本の大晦日のテレビといえば、紅白歌合戦(NHK)vs裏番組(民放各局)の対決という構図かと想像しますが、ドイツの大晦日のテレビの場合、2つの公営放送であるARD(第一放送)とZDF(第二テレビ)が年越しカウントダウンライブの一騎打ちを毎年行っています。ARDの方はドイツの歌とトークを中心にやや高めの年齢層をターゲットにしており、日本で言うころの「紅白歌合戦の第二部」に「笑点」(日本テレビ)を混ぜた感じ(笑)、他方のZDFは先週のコラムで紹介したジャーメイン・ジャクソンを始めとした”外タレ”を数多く招待、選曲も若者向けでしかも音楽通好み、あえて日本に例えるならば往年の人気音楽番組「夜のヒットスタジオ」(フジテレビ)を年末年始カウントダウンスペシャルとでも題して国内外の豪華ゲストを総動員した感じ…と言えばイメージしやすいでしょうか(←今のフジテレビしか知らない方にはイメージできなさそうな比喩になってしまった)。

そして、これまた毎年恒例なのですが、翌日の元旦になるとこれらの番組の視聴率が発表されます(末尾参考サイトA~D)。年越しライブの公営放送対決は、昨年敗れたARDが今年は雪辱を果たしました。ARDの「Silvesterstadl」は平均視聴者数347万人、占有率15.2%(ちなみに昨年は同281万人/13.0%)、対するZDFの「Willkommen 2017」は平均視聴者数321万人、占有率14.1%(昨年は同363万人/17.0%)でした(参考サイトC)。一般論としてドイツでは、テレビ視聴率は高齢層向け番組の方が常に高くなる傾向にあり、要するに「テレビは高齢者のためのメディア」という位置づけが既成事実化して久しいのですが、今年のZDFは僅差でARDに首位奪回を許したものの、若年層の視聴者数(14才~49才)に限定すれば111万人/15.7%で全局トップの数字となり、徹底的に若者を意識した番組内容がそのまま数字で報われた形です(参考サイトD)。

なお、大晦日の各民放他局に目を向けると、往年のヒット曲のビデオクリップ集などの音楽番組は軒並み占有率が10%を超えて好調だったのに対し、「ミスター・ビーン」などのドラマはいずれも5%前後、スキーのジャンプなどは意外にも若年層で惨敗(全年齢層15.4%に対し14~49才で5.8%)と、少なくともドイツに関する限り、若年層の大晦日は音楽との親和性が高いようです。ちなみに、私が見た3satの音楽ライブシリーズの視聴率は例年好調とのことで、中でも22時05分からのクイーンのライブは98万人/4.3%、そして引き続く23時15分からのアデールのライブで92万人/4.0%と数字が下がっているのは、「クイーンからZDFへ」と飛んだ私のような人間がかなり存在したことを示唆しているのでしょう。(参考サイトB)

しかし、これらの番組も到底かなわない、驚異的な視聴率を挙げた番組があった…というのが今週のテーマです。この番組、今年の視聴者数は何と、人口8000万人のドイツ全土で1700万人!もう、桁が違います。さっきまで紹介してきた300万人規模の視聴者数の番組が霞んでみえてくるこのお化けのような超人気番組の名は『ディナー・フォー・ワン』。何と、半世紀前に北ドイツ放送(Norddeutsche Rundfunk=NDR)が制作したという、長さ18分のショートコメディです↓。

冒頭のタイトルロールの文字は『フレディ・フリントン:「90回目の誕生日」または「ディナー・フォー・ワン」』。フレディ・フリントン…と聞いても、日本ではおそらく誰もピンと来ないことでしょう。しかもこの番組、制作された1963年以降、21世紀に入ってからも画面は白黒のままです!それまで放送の空き時間の埋め合わせに不定期放送されていたこの作品が初めて大晦日にオンエアされたのは1972年。それ以降、この番組はドイツの大晦日になくてはならない「伝統」にまで昇格し、今やドイツでこの番組を知らない人は文字通り皆無です!主演のフレディ・フリントンもまた、その名こそ忘れていても「ディナー・フォー・ワンの執事ジェームズ役」と言えばすぐに思い出されるという、「ドイツで最も有名な英国人俳優」の異名を持つ名優です。

ということで、以下に番組を簡単に紹介したいと思います。このスケッチの登場人物は三名。まず、左下写真のドイツ人男性(演:ハインツ・ピーパー Heinz Piper、1908-1972、放送当時55才)の案内役が登場、冒頭でストーリーの概略をドイツ語で解説するところから番組は始まります。そして、登場人物はこの日に90才の誕生日を迎える老淑女「ミス・ソフィー」(右下写真右、演:メイ・ワーデン May Warden、1891-1978、当時72才)と、この老淑女に長年仕える執事の「ジェームズ」(右下写真左、演:フレディ・フリントン Freddie Frinton、1909-1968、当時54才)です。

90才の誕生日にミス・ソフィーは4名のゲストを招きます。といっても、ミス・ソフィー自身が90才という設定からも分かるように、友人4名は全員がすでにあの世に行っております。しかし、そんなことはミス・ソフィーはお構いなしです。ちゃんと4名分のテーブルを執事ジェームズに準備させ、毎年恒例のいつもの質問をぶつけるのです:

「サー・トービーは?」(Sir Toby)
「ソフィー様、トビー様には今年はこちらにお座りいただきました」
「それではフォン・シュナイダー海軍大将は?」(Admiral von Schneider)
「フォン・シュナイダー海軍大将様はこちらに御着席です」
「ポメロイ氏は?」(Mr. Pommeroy)
「ポメロイ様にはこちらにお座りいただきました」(←上写真がこのセリフの場面)
「そして、私の最も親しい友人、ウィンターボトム氏は?」(Mr. Winterbottom)
「ご指示通り、あなた様のすぐ右手のコチラです」

ご覧の通り、実際の席には誰も座っていませんね?しかし、そこはさすがはお化け番組(笑)、ミス・ソフィーにはちゃ~んと4名の親しい御客人が見えるのでしょう。そして、こう始まります:

「では、まずスープから持ってきて頂戴」(You may now serve the soup)

言われた通り、執事がスープを持ってきました。すると、ミス・ソフィーから間髪入れずにさらなる指令が…!
「スープには、シェリーが良いわね」(I think we'll have sherry with the soup)

そう言われれた執事のジェームズ、早速ミス・ソフィーと4名の客人のコップにシェリーを注ぎます。そして、ソフィー嬢の乾杯の掛け声とともに、この執事ジェームズの多忙なことこの上ない「一人四役のお芝居」が幕を開けるのです↓。

左上写真は執事が二番目の客人の海軍大将の物真似(乾杯の声と同時に両足をぶつける度に左足の義足が外れる)をしながら酒をあおるところ、右上写真は三番目の客人ポメロイ氏の仕草(甲高い声で小指を立てる)を真似ながらグイっと飲むところです。他にも、一番目の客であるサー・トービーは大酒飲みだったらしく、酒を注がれる際に「少なすぎる」とばかりに毎度追加を催促するため、執事ジェームスは一旦は通り過ぎながらも戻ってきて再び彼にお酒を注ぎます。また、最も親しいという四番目の客のウィンターボトム氏は、乾杯の前に毎度ながら老淑女への「キミはかつてないほど若く見える」といったリップサービスを欠かしません。。そして、ジェームズは常に四人分のキャラクターを瞬時に演じ分けながら、四人分のお酒を飲み干さねばならないのです!しかし、ソフィー様はコース料理のメニューが新たに運ばれる度に違うお酒を御所望です。そして、話が進むほどに、ジェームズは必然的にヘベレケのグデングデンになっていくという訳です。

なお、この作品にはお約束のパターンがいくつかあります。その一つは、執事がお料理を運んだり下げたりする際に毎度のように虎皮のラグの頭部にけつまづく、というこのシーン↓。

(話が進むほどに、執事もタダではけつまづかないようになっていく…そのあたりの演技もユーモア満点です)

そして、もう一つは、ドイツの全国民が暗記している(笑)と言っても過言ではない、執事とミス・ソフィーのこのやりとりでしょうか↓。

「段取りは昨年と同じでよろしいでしょうか?」(The same procedure as last jear, Miss Sophy ?
毎年同じ段取りでお願いしますよ、ジェームズ!」(The same procedure as every jear, James !

かくして、スープ(mulligatawny soup=インド風カレースープ)にはシェリー、魚料理(North Sea haddock=北海産のコダラ)には白ワイン、チキン料理にはシャンペン、デザートのフルーツにはポートワインを次々とオーダーするミス・ソフィー。それに付き合って飲まされていくにつれて呂律が回らず千鳥足になっていく執事のジェームズ。実際は全くの下戸だというフレディー・フリントンの卓越した演技力とベテランの俳優魂が全開です!そして、「部屋に上がって寝るワ」(I think I'll retire)というソフィー様に対する、執事ジェームズの最後の決めゼリフは…?

「最善を尽くします!」(I’ll do my very best !)(←左下写真がこのセリフの場面)

(左上:二人が階段を登っていく直前。右上:二人が引き揚げたところでエンドロールが流れ始める)

はて、ジェームズは一体、何について最善を尽くすのか?!それについては、末尾に挙げたユーチューブの動画を是非とも実際にご覧いただきたいと思います!当記事にあらかたストーリーを書いてしまったので大丈夫でしょうが、もし英語の聞き取りに自信がないというのであれば、本作品のスクリプトがNDRのサイトに全文掲載されていますので(参考サイトE)、そちらを横目に見ながら鑑賞していただけたら完璧です!

それにしても、こんな古臭~い白黒作品が、しかも外国語だというのに、ドイツで一体どうしてここまで爆発的な国民的人気があるのでしょうか?周囲に聞きまくったところ、「この作品を見ずに年は明けない!」と、老いも若きも口を揃えるのだから不思議です。そして何よりも、この作品が本国イギリスでは全くと言ってよいほど知られていないというのも、これまた意外な事実でした。そのあたりについては、当時の時代背景も含めて、来週あらためて考えてみたいと思います。


<参考動画>
YouTube - Dinner for one - original with Freddie Frinton and May Warden
https://www.youtube.com/watch?v=BN9edpdCH7c
(毎年ドイツのテレビで放映されているものとは別バージョン。冒頭のドイツ人の案内役がおらず、セットもアングルも異なるが、その他の内容は同じ。なお、当コラムの写真は全て、昨年大晦日放送のテレビバージョンからのスクリーンショット)

NDR(北ドイツ放送)(2016年12月31日):Die Einführung zum Sketch
http://www.ndr.de/unterhaltung/comedy/dinner_for_one/Die-Einfuehrung-zum-Sketch,dinnerforone110.html
(冒頭部の案内役によるストーリー紹介の2分間だけは上のサイトから視聴可能)

<参考サイト>
A) Tagesspiegel(2017年1月1日):Silvesterquoten im Fernsehen "Dinner for One" schlägt sie alle
http://www.tagesspiegel.de/medien/silvesterquoten-im-fernsehen-dinner-for-one-schlaegt-sie-alle/19195890.html

B) MEEDIA(2017年1月1日):17 Mio. Zuschauer für das „Dinner for One“, „Silvesterstadl“ erholt sich wieder
http://meedia.de/2017/01/01/17-mio-zuschauer-fuer-das-dinner-for-one-silvesterstadl-erholt-sich-wieder/

C) Quotenmeter(2017年1月1日):Erfolgreicher Neustart: «Silvesterstadl» schlägt «Willkommen 2017»
http://www.quotenmeter.de/n/90307/erfolgreicher-neustart-silvesterstadl-schlaegt-willkommen-2017

D) Quotenmeter(2017年1月1日):ZDF gewinnt mit «Willkommen 2017» das junge Publikum
http://www.quotenmeter.de/n/90308/zdf-gewinnt-mit-willkommen-2017-das-junge-publikum

E) 北ドイツ放送(NDR)(2016年12月27日):Der Text zum Sketch
http://www.ndr.de/unterhaltung/comedy/dinner_for_one/Der-Text-zum-Sketch,dinner14.html
(スケッチ全文を書き出したもの。内容自体はさほど難しい英語ではないため、聞き取りに自信がなければコチラを横目に動画を見ていただくと分かりやすいはず)

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465