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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/11/11

「女ラスプーチン」騒動の後日談…韓国スキャンダルの報道姿勢にみるドイツマスコミの本音と教訓

この記事が掲載される頃は、アメリカ大統領選も終わり新しい大統領が確定している頃かと思います。しかし、当原稿執筆時点ではまだ投票が始まったばかりです。その一方で、先週ご紹介した韓国の朴槿恵大統領とその親友「女ラスプーチン」こと崔順実(チェ・スンシル)容疑者にまつわる報道はというと、ドイツにおいて今週に入ってからほんの少しですが進展がありました。

先週の原稿では、このような一文を掲載しました(→これがドイツの「郵便受け会社」だ!韓国版「女ラスプーチン」事件はアメリカ大統領選にも波及する?):

「中でも、テレビがいまだにこの事件を全く扱おうとしないのが不思議です。「韓国版・女ラスプーチン」という分かりやすいことこの上ないテーマである上に、何と言っても舞台がドイツの片田舎という異色の事件であるにもかかわらず、それもフランスのテレビでは最近ようやくチラホラ扱われるようになったというのに、一体どういうことなのでしょうか?」

この苦言が聞こえたのでしょうか(笑)?ドイツでいうNHK総合に相当する公営放送ARDがようやく重い腰を上げるかのように今回のスキャンダルを報じたのは先週の金曜日(11月4日)、それも東京駐在のARD特派員からのラジオでの音声リポートでした(参考サイトA)。しかし、テレビのニュースにおける初登場となると、何とその翌日となる土曜夜のニュースまで待たねばなりませんでした(参考サイトB)。

(参考サイトBからのスクリーンショット。ニュースの見出しすらなく、「ソウル」という地名の字幕のみで、音声をしっかり聞かなければ何のニュースかすら分からない究極の不親切仕様。「何万人もの人々が集まって首都ソウルでデモが行われました」と、事実のみを淡々とアナウンサーが読み上げている)

(同じく参考サイトBからのスクリーンショット…ただしデモ参加者の顔に画像処理を加えた。参加者の手には「朴槿恵は退陣せよ」と書かれた赤白のプラカードが握られている。ナレーションでは「朴大統領の支持率は5%に低下」「大統領の任期は残り15ヶ月」とだけ述べてニュースが終わる)

この20:00~20:15に流れるARDの「20時のニュース」といえば、日本で言うところの「NHK19時のニュース」に相当し、ドイツでいうプライムタイム(20時15分以降)の直前に流れる「大本営発表」のような重鎮番組でもあります。この15分番組における今回のニュースは番組開始の9分過ぎにやっと登場しただけで、それもたったの30秒というエラく短いものでした。デモの映像を見るだけでもかなりの人数と相当な熱気で、しかも事の始まりがドイツ、「女ラスプーチン」がこの2ヶ月ほど潜伏していたのもドイツ、つまりドイツは半端ないほど誰の目にも当事国です。それでいて、金曜午後にまず聴取率の低いラジオでアリバイ作りのように軽く流して様子を見つつ、これまた誰もテレビなど見ない土曜日の夜にようやくテレビ登場、しかもこれだけ扱いが小さいというのだから、これで作為的なものを感じるなという方がおかしい有様です。

しかし、週明けの火曜日になったら、もう一つの公営放送であるドイツ第二テレビ(ZDF)の朝のニュースがようやく取り上げました。「朴大統領のスキャンダルの渦中に巻き込まれた大企業サムスン」という内容で、その所要時間も1分に倍増(笑)、ちゃんと見出しもついています↓。(参考サイトC)

(タイトルは「韓国で汚職スキャンダル」。ナレーション内容は「サムスンが朴大統領の親友の財団に不正な資金提供」「野党の猛反発で首相指名を撤回」というもの)

これを見て納得できました。どうりで、アメリカ大統領選に関する放送が先週(ARD担当週)は「何が何でもヒラリー」という、公正中立とはとても言えない内容だったのが、今週(ZDF担当週)になったら途端に「トランプ支持者の声」や「トランプ躍進の背景にあるアメリカの現状」といった観点でのリポートが入るなど、妙にバランスがよくなった訳です。

この第一放送(ARD)と第二テレビ(ZDF)が週毎に回り持ちという朝の情報番組のスタイルは、日本で言えば朝のワイドショーが奇数週は「あさチャン!」(TBS)で偶数週は「ZIP!」(日本テレビ)といった具合に交互に放送するようなもので(両局の放送内容は全く同一で、他方が担当の間は自局スタッフはその機関を取材活動や休暇に当てることが出来る)、なかなか合理的で過労死防止にもなりそうです。なお、オンエアは5時半から9時までで、先週まではARDの担当、今週はZDFの担当です。ドイツでは一応、ARDが右寄り保守、ZDFはやや左寄りというのがそれぞれの立ち位置とされています。もっとも、両局ともに、登場する司会者はみんなヒラリー当選を願っている口ぶりなのですが、真夜中であろうワシントンから眠い目を擦って毎度ながら頑張って生出演してくれるZDF特派員は、必ずしもヒラリー一辺倒ではない分析をきっちり紹介しています。そういえば、まだ記憶に新しいブレグジットの国民投票のあった週も、担当はZDFでした。また、3年ほど前のメルケル首相盗聴疑惑を含むNSA(米国国家安全保障局)スキャンダルの際に当コラムでも取り上げた、ベルリン駐在のアメリカ大使がZDFキャスターにコテンパンにされた一件を思い出したりもします。(→駐独アメリカ大使をタジタジにさせたドイツZDFのインタビューの迫力

話が戻りますが、今回の「チェ・スンシル・ゲート」こと女ラスプーチン事件は、先月中旬から地方紙のネットニュースを賑わしてはいましたが、大手メディア、特にテレビが黙殺していたことを先週から述べてきました。しかし、実は当時、私の友人はこの事件の舞台がシュミッテンというヘッセン州の小さな町であることを知っていたのです。

私が事件を知ったのは日本のネットニュースが最初で、まだドイツで誰もこの事件を知らなかった当時、日本の報道で知りえたこの事件のあらましをフランクフルト郊外に住む友人女性に説明したことがありました。すると、彼女からの返答は驚くべきものでした:

「その事件はよく知らないけど、その場所なら知ってる。それってね、シュミッテンの話らしいよ!」

この頃はまだ、「韓国メディアが血眼になってフランクフルト郊外の崔(チェ)親子の居場所を探している」としか報じられていなかった頃でした。しかしこの友人は、この時点で「シュミッテン」という地名をはっきり口にしたのです。

つい最近、ヘッセン州の財界人35名から成る代表団が日本および韓国を訪れたというニュースが流れました。参考サイトDの記事によると、これは同州における企業の投資活動や銀行の誘致を目的とした「セールス行脚」だったようです。

(写真は参考サイトDからのスクリーンショット)

この写真、日本人たる我々が見ると色々と深読みできて面白いです。この人物はフランクフルト商工会議所(IHK=Industrie- und Handelskammer Frankfurt)の会頭であるマティアス・ミュラー氏で、ジェトロのホームページによると、今年の11月1日に東京都港区赤坂にあるジェトロ本部5階で開催された「日本・ヘッセン州・ビジネスセミナー」のプレゼンテーション時のものだと分かります(参考サイトE)。記事によると、この後に行った韓国では大手のウリィ銀行(Woori Bank)のフランクフルト進出について好感触を得たともあります。また、このツアーにおいてミュラー氏は、EUでの拠点をロンドンに置いている日本や韓国の企業が少なくとも45社あることを突き止め、「これらをゴッソリとヘッセン州に誘致するゾ!」と息巻いているのだそうです。

チェ・スンシル事件の舞台となったシュミッテンのあるヘッセン州は、ご存じの通り欧州中央銀行がある一大金融都市フランクフルトを中心に、欧州の空路における一大拠点であるフランクフルト国際空港を擁し、伝統的に自動車工場が多い地区でもあり、韓国からはサムスン、ヒュンダイ、起亜、LGなど大手企業が既に進出しており、この州に暮らす韓国人は7000人以上とされています(参考サイトD)。韓国のヘッセン州への直接投資額は36億ユーロにのぼり欧州外の国としてはアメリカに次ぎ2位、などと言われれば、例えラスプーチンだろうがマネーロンダリングだろうがあまり騒ぎ立てたくないと彼らが考えたとしても無理はないでしょう。また、先日のリオデジャネイロ五輪の女子ゴルフで韓国選手が金メダルを獲得したのは記憶に新しいですが、ヘッセン州といえば彼らの大好きなゴルフ場が多いことでも有名です(笑)。その上、記事には言及がありませんでしたが、特筆すべきは地価の上昇です。ブレグジットの国民投票以降、ロンドンからの転入を検討する企業や銀行の受け皿として注目されてからというもの、都心はもちろん郊外の田舎町ですら地価がズンズン上昇し始めてちょっとしたバブルになっています。おそらく女ラスプーチン軍団も、地価の上昇を睨んで早いうちにに不動産を買っておいた方が得策と踏んで今回の一件に至ったという側面もあるでしょう。

以上のエピソードから得られる教訓その1は、「テレビや大手全国紙だけを見ていては世の中のことは分からない」でしょうか?テレビがここまで偏向的であっても、あらゆる活字媒体を可能な限りたくさん隅から隅まで読む、それも複数の新聞雑誌を網羅的に読破する財力と時間的余裕があれば、あるいは、それなりの問題意識を持ってインターネットを能動的に検索する習慣があれば、多少は騙されにくくなることでしょう。しかし、そんなことが出来る人はきっと一握りにも満たないでしょう。それであればせめて、政治に通じた友人の一人や二人でもいれば、思わぬアングラ情報にだってありつけるかもしれません。その意味で教訓その2は、「クチコミは意外とバカにならない」でしょうか(笑)?

しかし、ドナルド・トランプのようなビリオネアでもない限り、私たちは日々の生活に追われながら見えてくるものを見る以外になかなか選択肢はありません。テレビの視聴時間が日本よりもはるかに少ないドイツでこれですから、実は日本の方が問題は深刻なのかもしれません。それでも、初期の大食い関連コラムでも当サイトで繰り返してきたように、「懐疑的にメディアを読み解く」ということはおそらく、玉石混交のグローバル情報氾濫社会となった21世紀の現代を生き抜く上での最も基本的なサバイバル技術の一つなのだろうと、今回の騒動を振り返るにつけ実感する今日この頃です。


<参考サイト>
A) ドイツ第一放送(ARD)(2016年11月4日):Frau Park und die "finsteren Mächte"(朴大統領と「裏黒い権力」)
http://www.tagesschau.de/ausland/suedkorea-praesidentin-101~_origin-1ea646ec-52e4-475e-bc77-b1d72dca68e9.html
上記のラジオ音声版:Die Präsidentin und die Hexe - Politskandal in Südkorea(女大統領と魔女…韓国の政治スキャンダル)
http://www.tagesschau.de/multimedia/audio/audio-36075.html

B) ドイツ第一放送(ARD)Tagesschau (2016年11月5日):20時のニュース
http://www.ardmediathek.de/tv/Tagesschau/tagesschau-20-00-Uhr/Das-Erste/Video?bcastId=4326&documentId=38770238

C) ドイツ第二テレビ(2016年11月8日):Südkorea: Samsung gerät in Strudel von Park-Skandal(韓国:サムスンが朴大統領のスキャンダルに巻き込まれた)
https://www.zdf.de/nachrichten/heute/videos/park-skandal-erreicht-samsung-100.html

D) Frankfurter Neue Presse(2016年11月8日):Japaner suchen Geschäftspartner, Koreaner auch Golfplätze(日本人はビジネスパートナーを探している、韓国人はゴルフ場も)
http://www.fnp.de/nachrichten/wirtschaft/Japaner-suchen-Geschaeftspartner-Koreaner-auch-Golfplaetze;art686,2308487

E) 日本貿易振興機構(ジェトロ) - イベント情報 - セミナー・講演会 「日本・ヘッセン州(ドイツ)ビジネスセミナーandネットワーキングイベント」
https://www.jetro.go.jp/events/bda/63ecc246578f4077.html
(先着80名、参加費は無料)

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