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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/08/05

暗黒の夏の正体を探る(2)…ミュンヘン連続銃撃事件の意外な犯人像が示す日独共通の教育問題

この原稿が掲載される7月5日といえばリオデジャネイロ五輪の開幕日当日ですが、さらにその2日後には夏の甲子園こと第98回全国高等学校野球選手権大会(阪神甲子園球場)も開幕するという、まさにスポーツの祭典の競演とも呼ぶべき彩り満載の夏の始まりでもあります。しかも、出来過ぎな偶然なのか必然なのか、当サイトにとって思わぬ朗報もありました。以前のコラムで「第2のオコエ瑠偉?!」として紹介した黒人ハーフ選手3名のうち、2名が揃い踏みで甲子園出場を決めたことです!!(→日本版フィールファルト時代到来?!黒人系ハーフ選手が牽引する現代日本の高校野球

コラム執筆当時は、幾多の全国優勝を誇る横浜(神奈川)の万波中正選手(父がコンゴ人)はともかく、初戦で第一シードを倒したとはいえ甲子園出場が一度もない松山聖陵(愛媛)のアドゥワ誠選手(父がナイジェリア人)の方はどうかなぁ…と思っていました。それが、2年前のお兄さんのアドゥワ大選手(九州国際大付→東農大北海道オホーツク)に引き続いての兄弟での甲子園出場を決めたことで、「ナイジェリア版・星一徹」(笑)とも呼べそうな厳しい父として報じられているアントニーさんも今頃はウキウキと大阪入りの準備をされていることでしょう!甲子園に吹くのが万波旋風になるか、アドゥワ旋風になるか?!今からとても楽しみです!

そんな晴れやかなはずの夏が、今年のドイツではすっかり暗黒に塗られてしまっている…というのが今週のお話です。先週のコラムでも述べた通り、ドイツ南部バイエルン州を中心に7月後半に立て続けにテロ事件が発生しました(→暗黒の夏の正体を探る(1)…流血騒ぎが週に4件の南ドイツ!政治家も夏休み返上の異常事態)。そして先週末の7月31日には追悼ミサがミュンヘンで行われ、それを報じるテレビのキャスターもみな黒装束という具合に、毎日がお葬式のようです。

 (2016年7月31日のARDニュース”Tagesschau”より。ミュンヘンでの追悼ミサの模様。参列者は最前列左から右にドイツ大統領ヨアヒム・ガウク、大統領のガールフレンド(!)のダニエラ・シュタット、ドイツ首相アンゲラ・メルケル、ザクセン州首相スタニスラフ・ティリッヒ。日本でも相模原でテロがあったが、追悼集会が開催されたとは聞きませんし、仮に開催されることがあっても、このような天皇皇后両陛下に安倍首相に神奈川県知事が並ぶような豪華な顔ぶれはまず実現しないでしょう)

(2016年8月1日、朝の情報番組ZDF Morgenmagazinより。手前のキャスター二人だけでなく、背後のカフェ店員や左に座るスタジオ観覧客までもが黒づくめ)

そう言えば、先週の日曜日はドイツだけでなくフランスも喪に服していました。こちらはサンテティエンヌ・ド・ルヴレの教会で神父が殺害されたテロ事件を受けての追悼ミサでしたが、これを報じるキャスターもこのような出で立ちでした↓。

(2016年7月31日、France2の夜20時のニュース”20H Weekend”より。この週を担当したJulian Bugierというキャスター、26日のテロの影響か、28日だけは明るいネクタイを着用したものの、それ以外は丸々一週間まるまる着たきりスズメのごとく喪服のような姿で通していました)

これだけテロが続いたせいか、旅行が大の大~好きなドイツ国民も警戒モードのようです。、海外からの観光客のキャンセルはそれほどでもないそうですが、航空会社は売り上げも利益も減少、さらに最近のトルコ情勢のキナ臭さも加わって旅行会社の売り上げも減少していると報じられました(末尾文献A)。みんなが公共の場所に対して不信感や不安を持つようになれば、旅行はおろか普通の生活すら成立しなくなるのは当然です。

しかし、今回ドイツで起きた一連のテロは、人々が外出することを躊躇するような事件だったのでしょうか?報道ではこれらはいずれも「精神異常者による無差別テロ」のような扱いをされているのですが、本当に言われているような性質のテロだったのでしょうか?

少なくとも、バイエルン州で連続したテロのうち2件目の事件となったミュンヘンのマクドナルド及びオリンピア・ショッピングセンター(通称OEZ)における銃乱射事件は、その後の報道で次々と新事実が明らかになり、どうもその前後のテロとは違うのではないかと考えざるを得ない展開になってきています。そのあたりを考える際に多いにヒントとなったのが、参考サイトB)の動画でした↓。

(参考サイトBからのスクリーンショット。左上の少年が今回の乱射事件の犯人)

まず、事件そのものを復習しましょう。2016年7月22日の金曜日、ドイツ南部バイエルン州ミュンヘンに住む18才のイラン系ドイツ人の男子生徒(日本でいう高校3年生相当、本名アリ・ダヴィッド・ソンボリー)が、セリーナ・アキムというトルコ名の女性(実在人物か否かはまだ不明)のフェイスブックおよびツイッターのアカウントを作成、「マクドナルドで食事をオゴるから16時に集合!」というメールを近隣のティーンエイジャーの生徒に一斉送信したことから始まりました↓。

 (いずれも参考サイトBからのスクリーンショット。内容は「今日の16時頃にOEZ向かいのマクドナルドに来た人にはあたしがオゴったげる!ただし、あまり高すぎるものは遠慮してね」というもの)

日本ではマックとかマクドとか呼ばれるマクドナルドを、ドイツの若者はメギー(Meggi)って呼ぶんですね~、知りませんでしたぁー、などと感心している場合ではありません(笑)。このメッセージに釣られてタダ飯にありつこうと「メギー」にやってきた若者に向けて、あらかじめ店内に待機していた犯人は17時52分、一斉に9ミリ口径のグロック17という名称の銃で乱射し始めました(下図の(1)に相当)。そして、逃走経路にあった道路向いのオリンピア・ショッピングセンターでも銃を撃ちまくりながら(下図(2))、OEZに隣接する駐車場の階段を上って屋上へとたどり着きます(下図(3))。

(図は参考サイトCからの引用)

この駐車場の横に高層マンションがあるのが上の図からも分かるかと思います。このマンションのベランダには今回の銃撃犯を目撃した住民が何人もおり、その中の一人がこの犯人と口論を始めました。さらにその口論を別の住民がスマホで録画してそのままネットにアップロードしたものだから、さらに騒ぎが広がります。この動画は瞬く間にネットを駆け抜け、犯人の父親も知人に指摘されてこの動画を目にして初めて自分の息子の犯行に気付き、その足で警察に出頭したのだそうです。ちなみに、警察はこの屋上での近隣住民との口論を察知し駆けつけ、周囲を包囲し、実際に犯人に向かって狙撃したものの命中せず、犯人の現場からの逃走をまんまと許してしまいました。そして後日、「全ての警察官に特殊部隊レベルの狙撃のウデが備わっている訳ではない」と苦しい弁明に終始する事となりました(参考サイトD)。

かくして警察からまんまと逃げおおせた犯人ですが、謎とされる2時間余りの空白を経て、20時半頃OEZから少し離れた別のマンションの敷地内で警察に発見されます(上図(4)の地点)。しかし、警察が投降を呼びかけたその直後、犯人はこの地で自らの頭に銃を向けて、自らその命を絶った…これが事件のあらましです。

この事件は当初、複数犯によるテロ事件と推定されており、発生直後から地元の地下鉄も電車もバスも即座に運休、店も閉店、人々は外出禁止という「非常事態宣言」が発令されていました。実際には事件は単独犯による犯行でしたが、そのことが判明するまでにはかなりの時間を要し、その間は市内の交通も店舗もストップのまま、再開のメドも不明、しかも武器を持ったテロリストがまだどこかに潜んでいるかもしれないという不安との戦いも市民は強いられました。その原因として、玉石混交かつ真偽不明の情報がネットに溢れてその確認に追われたことが警察捜査の足を引っ張ったと指摘され、「事件に関する情報や動画はいきなりネットに上げるのではなく、まず先に警察の通報専用アドレスにのみ送ってほしい」という告知が後日警察から成されることになりました。

しかし、百聞は一見に如かず、です。現場からのホンモノの情報の中には、新聞・雑誌・テレビ等のいかなるマスメディアのもっともらしい解説をも凌駕する、力強い真実が含まれていることがあります。そして、それが事件全体の解釈を一変させてしまうことすらあり得ます。それを、いちいち警察を経てでないと一般の人々は目にしてはいけないというのは、妥当なのでしょうか?

そう思わざるを得なかったのは、先程述べたOEZの近隣住民と犯人との口論の動画が、事件当日の夜以降ドイツの各ニュース専門チャンネルでガンガン流れるようになり、その動画がそれまで報じられていた犯人のイメージを大幅に変えるものだったからです。この動画は参考サイトA(シュピーゲル・オンライン)では10分30秒頃から、参考サイトE(ニュース専門チャンネルn-tv)では冒頭から紹介されています。以下にそのやりとりを書き出して紹介します(以下、犯:犯人、住:口論相手のマンション住人。犯人の発言は全て赤字。住人の発言は、青字は犯人に対しての呼びかけ、緑字は他の近隣住民ないし犯人を包囲したばかりの警察部隊に対する呼びかけとして区別した)↓:

住 「おい、下にいるクソ野郎!」(Hey du Arschloch da unten...)
犯 「お前たちのせいで、俺は7年もの間イジメを受けてきた…」(Wegen euch wurde ich gemobbt, 7 Jahre lang...)
住 「鼻つまみ野郎、お前はクソ野郎だ!」(Du Wichser, du bist ein Arschloch)
犯 「…そのせいで、オレは武器など買ってお前たちを撃ちまくらねばならなくなった」(...und jetzt musste ich ‘ne Waffe kaufen, und euch alle abknallen...)
住 「武器だと?頭がブッ飛んでやがるぜ、このクソ野郎!みなさぁ~ん、この鼻つまみ野郎は銃を持ってまっせ~!(Eine Waffe? Weißt du was, dir gehört der Schädel abgeschnitten, du Arschloch...Hey, der hat ‘ne Schusswaffe, der Wichser...
犯 「このくだらないトルコ人めが…」(Ihr Scheiß Türken)
住 「クソったれな土人が…おーい、この男、武器持ってまっせ~!今、弾丸を込めたところですよ~!(あんたらも)弾丸を持ってきなさいよ!コイツ、この辺をウロウロしてまっせ~!Scheiß Kanaken...Ey, der hat ne Schusswaffe, der hat seine Waffe geladen. Holt die Bullen her. Er läuft herum
(それまで鳴っていたパトカーのサイレンが鳴り止む)
住 「この鼻つまみ野郎が…」(Der Wichser...)
犯 「オレはドイツ人だ!」(Ich bin ein Deutscher!)
住 「お前は鼻つまみ野郎だ、お前は」(Du bist ein Wichser, bist Du)
犯 「オレはここで生まれた…ハーツ4(失業手当)受給者が多いこのハーゼンベルグルのトルコ人集落で…」(Ich bin hier geboren worden, in der HartzIV Gegend, in der Türkenregion, hier in Hasenbergl...)

住 「それが何だ?何ちゅうクソなことをテメエはやってるんだ?下にいる脳がイカレたクソ野郎め!」(Ja und? Was machst hier für ein Scheiß?  Dir gehört der Schädel abgehauen, du Arschloch da unten...)
犯 「オレは(うつ病の診断で)精神科で入院治療を受けていた」(Ich war (depressiv), war in stationärer Behandlung)

住 「そう、治療ね…オマエには精神病棟がお似合いさ、このクソ野郎!」(Ja, Behandlung...Du gehörst in die Psychiatrie, du Arschloch...)
犯 「オレは何もしていない!」(Ich habe nix getan!)
住 「この鼻つまみ野郎!」(Du Wichser, Du...)
犯 「もう話は終わりだ、お黙りなさい」(Jetzt kein Wort mehr, halten Sie die Schnauze
コイツが駐車場のデッキをウロウロしているってのに、あんたらはアホかよ!」(Der läuft im oberen Deck umher, ihr Vollidioten
(ちょうどこのタイミングで銃声が数発あり、人々の悲鳴とともにカメラ映像が乱れる)
住 「このクソ野郎、このクソったれが…あいつらはお前の脳にクソしたんだぜ!」(Du Arschloch, du verschiessene Seele...Dir haben sie ins Hirn geschissen)
犯 「してませんよ。おあいにく様、そんなことしてませんよ」(Haben sie nicht. Das ist es eben, haben sie nicht)

以上の会話を、ドイツ語の分かる人間が音声のみ聞いたならば、どちらが犯人でどちらが一般の住民か、おそらく逆の判断をすることでしょう。どちらが良い人でどちらが悪い人かと聞かれても、百人中百人が犯人の味方をするようにさえ思われます。犯人を取り囲む警察に対して、何をもたついているんだとばかりに「アホか、あんたらは!」と言い放つその悪態にもビックリです。ちなみに、この動画を撮影したというコチラの人物はこう証言しています:

「(動画撮影開始前は)彼が(テロ事件の)犯人だとは全く分からなかった。彼は全く普通の人間に見えた。もし彼が自分の横に立っていたとしても、自分は彼のことを危険だとは思わなかったことだろう。それくらい、何もかもが普通っぽかった」

 

(参考サイトBの動画より)

このビデオを見る者が最も衝撃を受けるとすれば、口論の相手である地元住人はギトギトのバイエルン訛りで「クソ野郎」(Arschloch)だの「土人」(KanakeまたはKanacke:ポリネシア語で「人」の意味、ドイツ語で「蛮族」「未開人」に近い差別用語)だのと、日本人であればあのにしおかすみこさんの「このブタ野郎!」を思い出してしまう程度で済むものの、ドイツ人ならとても聞くに堪えないような下品な表現を連発してひたすら相手を挑発していただけでなく、文法まで間違っていた(住人発言の青下線のセリフはWas machst Du hier für einen Scheißが正しい)のとは対照的に、この狙撃犯の少年がミュンヘンに生まれ育ったとはとても思えないほどキレイな発音で正しい標準ドイツ語を話していたことです。しかも、この状況下では不必要なほどに自分の来歴や病歴を丁寧に説明したり、罵声を浴びせてきた相手に対して所により敬語を使っています。元々はきちんとした教育を受けてきた子なのではないか、というのが第一印象でした。

それに何よりもこの少年、結構な美声の持ち主です。広いミュンヘンの街中にこだまするような透き通る声で、「自分は7年もこの地域の住民からイジメを受けてきた」「自分は何も悪いことをしていない(のに精神病扱いされて入院までさせられていた)!」と、まるで何かのお芝居のセリフかと思うほど切々と訴えるそのさまを見て、なぜか日本人たる私がついつい連想してしまったのが、今は亡き尾崎豊さんの往年の熱唱姿でした。もちろん、彼の罪は「盗んだバイクで走り出す」ようなレベルをはるかに超えているのは言うまでも無く、この時点で既に9人もの人を殺めていた彼が「何もやっていない」ワケでないことは本人も百も承知でしょう。「何もやっていない」はそういう意味ではなく、自分がイジメを受けたことや精神病院に入れられていた時点に遡って「あのころの自分には罪がなかった」という主張なのではないかと、ビデオを見た限りでは推察されました。

これとは別に、私がこの少年のセリフの中で最もショックを受けたのが、こちらのセリフでした↓:

 

(参考サイトEより)

“Ich bin hier geboren worden”とは「ボクはここで生まれた」という意味です。もっとも、一般生活では”Ich bin hier geboren”で済まされることが多く、これも文法的には間違いではないものの、本当は”Ich wurde hier geboren”あるいは”Ich bin hier geboren worden”が正しい…というのが、中級レベルのドイツ語文法ではよく出てくる、ややマニアックな議論の一つです。ちょっとインターネットでドイツ文法の掲示板をのぞけば、これらの三つの表現の違いが分からない人の立てたスレッドがあちこちに立っています。ちなみに、ドイツ文法にそこまで自信の無かった私は、動画を見た直後に某小学校で教諭をしている知人に速攻で電話し、犯人の発言の書き起こしを聞いてもらいました。すると、このような回答が得られたのでした:

「犯人の言う”Ich bin geboren worden”は文法的には全く正しい。むしろ、頻用される”Ich bin geboren”よりもさらに正確を期した表現となっている。それよりも、その犯人がそういう表現を使ったというあなたの話の方が私にとっては新鮮な驚きである。もっとも、その”geboren worden”というのは、『私は生まれた』という現在完了形というのに加えて、『私は生まれさせられた』という受動態、つまり、自分は好きでここに生まれてきたわけではない(本音はイランで生まれたかった?)、という二重の意味もあるかもしれない。もっとも、拳銃を片手に逃走途中という状況下でそこまで深く考えて発言しているとは考えにくいけど。ただ一つだけ確実に言えるのは、その子のドイツ語能力はかなり高いということ。おそらく、元々は優秀な子だったのではないだろうか」

さらに、今回の事件の引き金として先週の当コラムでも紹介した「職業高等専門学校に入るための入学試験(Fachabitur)に落ちたばかりらしい」という報道についても感想を求めたところ、

「職業高等専門学校用の入学試験(Fachabitur)は、一般大学用の大学入学資格取得試験(Allgemeine Abitur)よりも難易度は低いとされている。つまり、イジメと精神科治療の影響で、それまで目標としてきた人生の軌道を大きく下方修正させられた挙句に、それにも失敗したという話かもしれない」

とのコメントが得られました。

もちろん、この知人の話はあくまでも個人の推測でしかありません。ただ、参考サイトBの動画が示唆しているのは、今回のミュンヘンの事件に関する限り、言われているような「精神病に罹患した生徒による無差別殺人」ではなく、「自分をイジメ抜いて人生を狂わせたヤツラに対する復讐」という、明らかにターゲットのある話だったのではないかということです。この参考サイトBにはマクドナルド前での犯人の乱射シーンも出てくるのですが、ここでも意外だったのは、犯人のド真ん前で逃走にモタついている足の悪そうな初老のドイツ人男性が映っているのですが、犯人はその男性を撃たないのです。ひょっとしてこれは、銃を向ける相手が誰でも良かったという話ではないのではないかと、私が最初に疑ったポイントの一つでした。そして、今回の犠牲者9名が全て移民系であること、中でもトルコ系が最多の4名を占めたという事実とともに、上記に書き出したトルコ人への恨みを伺わせる犯人のセリフとも合致します(参考サイトC)。マクドナルドへの招待状もランダムではなく受信先を絞り、ミュンヘンの学生のクラス連絡網を利用して送付していたという説がツイッター上で展開されており(参考サイトF)、真偽はまだ未確定ながら、これがもし本当だとしたら事件の性格自体が大きく変わってきます。

今回の犯人である少年が学校の内外で受けた壮絶なイジメについては事件後から続々と明らかにされており、その悪質さと陰湿さにも言葉を失ってしまいます。今回の犯人が警察の記録に残っているのは2度だけで、それも2010年の暴力事件と2012年の盗難事件において、いずれも被害者としてのものであって、彼が危険人物として記録されたことは一度も無かったのだそうです(参考サイトD)。学校での少年は体育授業中に教室に残した着替えに同級生から小便を掛けられたりしたそうですが(参考サイトG)、警察沙汰になるまで両親は自分の子がいじめられていることにすら気付かなかったそうです。この時は同級生が一緒に家に来てイジメの実態を両親に説明し、さらに学校の担任教師(女性)に相談したそうですが、結局はまともに調査されることもなく、うやむやに終わったそうです。

このあたりから、犯人は不安障害とおぼしき症状を発症、そして精神科への通院に抗うつ剤服薬開始、そして2015年にはついに精神科病棟入院といった具合に、一気に病状が進行していきます。こうなってくると、何が原因で何が結果かもゴチャゴチャに事態は悪循環に入っていきます。そして人種差別主義や優生思想へと傾倒し、奇遇にも本人の誕生日があのアドルフ・ヒトラーと同じ4月20日(!)という全くの偶然も重なり、「アーリア人」の元祖としてのイランを自らのルーツとする誇りとともに、トルコ人やアラブ人への憎しみを増幅させながら、2015年頃からは過去の無差別殺人事件の犯人(2009年ウィンネンデンの犯人Tim K、2014年のノルウェーの犯人Anders Breivik)を個人崇拝するという危険路線をひた走っていくのでした(参考サイトB、C、D、G)。この段階に来れば確かに、「精神異常者」の括りで語られても仕方ありません。

余談ですが、この少年が参加していたシューティングゲームのフォーラムでのハンドルネームは「ネオ・ゲル」だったそうです(Neo Ger:Gerはドイツ人を意味するGermanから取った?つまり「新しいゲルマン」?)(参考サイトB:ちなみにアイコン写真はマトリックスのキアヌ・リーヴス)。これを見て日本人たる私が思い出してしまったのは、かつての日本での西鉄バス事件(2000年)で犯人のネット上のハンドルネームだった「ネオ麦茶」でした。この「ネオ麦茶」も確か最初はイジメの被害者で、不登校や精神科入院歴を経て過激化したという点や、ハッキングなどパソコンのスキルが高かった点など、今回のミュンヘンの犯人との共通点が意外に多いようです。(参考サイトH)

しかし、「自分は何もしていない!」という尾崎豊さんの歌にも出てきそうな悲痛な叫びを心に封じ込めつつ、着替えに小便を掛けられるようなイジメにひたすら耐えていただけの子供時代の彼はどうでしょうか?そもそも、壮絶なイジメをあっけらかんと行う人間と、その被害に苦しみもがいている人間とでは、本当に精神を病んでいるのはどちらの方でしょうか?私がこの一件でつくづく思ったのは、このような性質の悪いイジメを平然と行う生徒を長年放置するような教育現場や周囲の大人・子供を含む人間たちがまず変わっていかないことには、例え武器の裏ルートを解明しようが、精神科の医者が束になって学術的見解を述べようが、今回のような事件に対する根本的な解決にはならないのではないかということでした。日本ではイジメによる自殺なら珍しくありません。そして、その基本的となる「イジメっ子が介入も罰も受けることなくのさばらしになっている」という”イジメたもの勝ち”の弱肉強食のような現実は、日本だろうがドイツだろうが変わりはありません。今回の事件が図らずも濃厚に炙り出したこの現実に対し、私は強い憤りを覚えずにはいられません。

ドイツに限れば、これは一つには基本的に全ての学校が公立で学費が無料であるドイツという国特有の問題でもあるかもしれません(私立の初等・中等教育機関がそもそも国内にほとんどない)。これは本来、「教育機会の均等」という崇高な理念を具現する制度であるはずでした。しかし、高級住宅街に建つハイソな子弟が多く通う公立学校と、ドイツ語もろくにできない移民の失業者やホームレスが占拠する地区のど真ん中に建つ公立学校…そのような学校間格差もまた、近年の移民増加とともに確実に問題となっています。思えばかつての日本でも、暴走族だの学級崩壊だのが深刻な問題となったのは、多くが公立高校でした(私立高校は学校の秩序を乱す生徒を強制退学させることができるため、それが抑止力になるケースが多かった)。そして、ひとたびこのような陰湿なイジメになってしまったら、「私立校」という選択肢がないドイツでは、転居して学区を変えるしか方法はありません。それも、誰も知り合いのいない遠いところに転居しないと、悪友に消息を嗅ぎつけられて足を引っ張られれば元の木阿弥です。

イラン人タクシー運転手の父やデパート店員の母にとって、この「大きく居住先を変える」という解決法は収入の安定を考える上で候補に挙がらなかったのかもしれません。そして、事件後のこの両親は周囲から殺害予告を受けるようになり、「もうミュンヘンでは生きていけない」と話しているようです。そして、13才の次男とともに警察の証人保護プログラムの適用対象となり、おそらく新しい名前を与えられて新しい街で暮らすことになるだろうとも報じられています(参考サイトD)。息子の犯罪で一気に悲劇のどん底に突き落とされたこの家族には大変過酷な未来が待ち受けていると思われ、特に13才の弟の行く末を大いに心配してしまいます。

もし、ドイツの若者に甲子園の高校野球のような世界があったなら、殺された移民系の若者や今回の犯人にも違う色の未来が待っていたのでしょうか?ニュースキャスターの衣装が黒づくめの日ばかりが続く夏よりも、ブラジルカラーや極彩色の陽気な夏休みを皆さまにおかれましては楽しんでいただきたいと心の底から願う今日この頃であります。

(来週のコラムは夏休みのためお休みします。ご了承下さい)

<参考サイト>
A) Oberbayerisches Volksblatt (南バイエルン新聞、OVB) Online(2016年7月29日):TOURISMUS - Die Deutschen reisen weniger(観光:ドイツ人旅行客が減少)
https://www.ovb-online.de/wirtschaft/deutschen-reisen-weniger-6618602.html

B) Spiegel Online Video(2016年7月25日):Counterstrike-Mitspieler berichtet: Amokschütze David S.(シューティングゲーム「カウンターストライク」の仲間が連続狙撃犯ダヴィッドSについて語る)(14分30秒の動画)
http://www.spiegel.de/video/amoklauf-am-oez-muenchen-spiegel-tv-ueber-david-s-video-1692467.html#ref=vee

C) Bild(2016年7月27日):Killer von München war Rassist und Rechtsextremist - Er war stolz, „Arier“ zu sein +++ Begeisterung für Adolf Hitler(ミュンヘン通り魔事件の犯人は人種差別者かつ極右主義者-彼は「アーリア人」であることに誇りを持っていた…アドルフ・ヒトラーを信奉)
http://www.bild.de/news/inland/anschlag-muenchen/news-eilmeldung-muenchen-attentaeter-rassist-47018366.bild.html

D) Bild(2016年7月30日):9 Fakten nach dem Amoklauf von München(ミュンヘン通り魔事件の犯人にまつわる9つの事実)
http://www.bild.de/regional/muenchen/amoklauf/9-fakten-zum-muenchner-amoklauf-47056812.bild.html

E) n-tv(2016年7月22日):Amateurvideos zeigen AnschlagVerstörendes Video: "Ich war in Behandlung"(素人が撮影した困惑のビデオ 「オレは精神科治療を受けていた」)(近隣住民撮影の41秒の動画)
http://www.n-tv.de/politik/Verstoerendes-Video-Ich-war-in-Behandlung-article18257836.html

F) Twitter - Stefan Koldehoff
https://twitter.com/skoldehoff/status/756574992675069952/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw
(ツイッター主曰く、ミュンヘンでは犯人のメッセージを多くの生徒がクラス単位で受信したとのこと)

G) Bild(2016年7月29日) - 20面:Gewaltwelle in Europa - Vier neue Erkenntnisse zum München-Mörder(欧州に暴力の連鎖…ミュンヘンの殺人犯についての四つの新しい知見)(紙面のみ、オンライン版なし)

H) Wikipedia日本語版 - 西鉄バスジャック事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%89%84%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E4%BA%8B%E4%BB%B6

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