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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/07/29

暗黒の夏の正体を探る(1)…流血騒ぎが週に4件の南ドイツ!政治家も夏休み返上の異常事態

テロの連鎖が止まりません。ヨーロッパはつい最近までサッカーの欧州選手権で明るく楽しく盛り上がっていたはずが、お祭り騒ぎから一転、平和な市民生活の根幹を揺るがすような無差別テロに次々と見舞われるようになってしまいました。特にドイツの場合、何と言っても南部のバイエルン州が災難です。まず、7月18日(月)の夜に17才の自称アフガニスタン難民(実はパキスタン国籍と後日判明)がヴュルツブルグの列車内で乗客に斧とナイフで斬りつけ5人負傷、7月22日(金)には18才のイラン系ドイツ人少年(難民ではない)がミュンヘンのマクドナルド及びショッピングセンターで銃を乱射し9人死亡(さらに犯人自殺)、7月24日(日)には27才のシリア難民がアンスバッハの音楽祭の会場付近で自爆テロで15人負傷…といった具合に、何と一週間の間に3件の無差別テロが同じバイエルン州内で相次いだのでした。これに7月24日昼間にお隣のバーデン・ヴュルテンベルグ州にあるロイトリンゲンで起きた21才のシリア難民による45才女性刺殺事件(これは無差別殺戮ではなく失恋絡みの犯行)を加えると、ドイツ南部だけで一週間に4度の流血騒ぎに見舞われたということになります。

 (7月22日のミュンヘンの事件現場となったオリンピア・ショッピングセンターの事件当日の様子。7月25日のZDFニュースより)

そのあおりを食ったのが、夏休みに入るはずだったドイツの政治家の面々でした。時期が時期だけに、多くの政治家が夏季休暇中ないしもうすぐ休暇入りという状態にありました。その中でも最も踏んだり蹴ったりだったのが、以前当サイトのコラムでその”世紀の迷言”を取り上げたことのあるトーマス・デメジエール(Thomas De Maizière)内務大臣です(→「今年の文章2015」選出のメルケル首相発言よりもはるかに面白い!ドイツ内務大臣の迷言がSNSで話題)。

デメジエール氏は今月、14日に起きたフランス・ニースのテロ事件のために取得を遅らせた夏休みにようやくありつき、妻のマルティナさんと一緒に晴れてアメリカに旅立ったのですが、18日のヴュルツブルグの列車テロ事件を受けて19日に緊急帰国。その後、休暇のやり直しとばかりに22日の午後にもう一度アメリカに渡ったのですが、同日発生のミュンヘンのテロ事件によりその日のうちに再び緊急帰国を余儀なくされました。一週間に米独間を二往復と聞いて、「マイルが貯まりそう!」などと反射的に考えてしまった私ですが(笑)、報道によればデメジエール氏は二度目の渡米の際はニューヨークの空港に一時間半滞在しただけでそのまま帰国便に搭乗、さらにこの二件目の事件が決定打となりデメジエール氏の休暇旅行自体が完全に取り止めになったとあり、マイルどころではない大変な夏休みになってしまった氏が気の毒に思えてくるのでした。(末尾参考文献A)

なお、同じ報道によれば、アンゲラ・メルケル首相もまた、先週木曜日(7月21日)の仕事を終えてからそのまま三週間の休暇に入ることになっていましたが、滞在予定の南チロルに向かうことなくベルリンで緊急閣議などテロ後の対応に追われており、実質的に「毎日が休日出勤」の状態となっているのだそうです(文献A)。しかもこの記事には、ドイツの首相たるもは仮に休暇で別荘にいたとしても必ず連絡可能かつ執務可能な状態に置かれるという意味において、厳密には”常に執務中”なのであり、”休暇中の首相”というのは存在しない【Offiziell ist die Regierungschefin ohnehin „nicht im Urlaub“, sondern immer im Dienst (ihre Erreichbarkeit auch im Feriendomizil stets gesichert)】とも書かれています。まるで、ついこないだ辞任に追い込まれたばかりの前都知事の言い訳そのままで、あちらが湯河原、こちらが南チロル、というだけの相違に聞こえてきませんか?(笑)

さて、7月19日からの一週間で4度の殺傷事件が続いたことで、今やドイツは朝から晩までテレビもラジオも新聞もすっかりテロ事件の報道ばかりとなっています。しかも、その前の7月14日夜にフランス・ニースでの無差別テロがあり、その後の7月26日朝にはフランスのルーアン(Rouen)近郊サンテティエンヌ・デュ・ルブレ(Saint-Étienne-du-Rouvray)の教会で神父が殺害される事件があり、その上なんと我らが日本発のニュースとして相模原の障害者施設で19人が殺害されたという残酷なテロ事件がこちらでも大きく報じられるなど、まさに独仏合わせて話題はテロ一色という感じです。つくづく、暗黒のテロリズム時代が到来したものだとゾッとしてしまいます。

 (バイエルン州の内務大臣ヨアヒム・ヘルマン氏もこの1週間余りニュースに出ずっぱりです!)

あまりに次から次へと事件が立て続くため、どれがどの事件だか頭が混乱してきました。それでも、ドイツの4件の事件には、「加害者がいずれも中東イスラム圏にルーツを持つ若い男性」という共通項があります。参考のため、これら4件を簡潔にまとめた「4つの流血事件、4つの物語…戦慄の一週間:これらの犯人がドイツをショックに陥れた」というタイトルのネットュースを紹介したいと思います(参考サイトB)。あまたある記事の中で、この記事は犯人像が最も詳細に書かれており、日本からの読者の皆様にも大変参考になる内容かと思います。来週以降の当サイトの連載の前提となる内容でもあるので、同記事から和訳引用する形で以下にまとめておきます(参考サイトB)。なお、フリュヒトリンゲという単語についてはコチラの記事:(→「今年の漢字」のドイツ版に相当?「今年の単語」に選ばれた「フリュヒトリンゲ」が巻き起こした論争の意味)、オーストリアにおける難民問題へのスタンスについてはコチラの記事:(→ドイツ語圏の流行語大賞ならぬ「今年の言葉」が如実に物語るドイツ・スイス・オーストリアのそれぞれの事情)もそれぞれ参照していただけると、さらに理解がしやすくなるはずです。

事件1) ヴュルツブルグ(バイエルン州)
【日時】7月18日夕方
【場所】ヴュルツブルグ-ハイディングスフェルト間を走行中のローカル列車内
【内容】斧と刃物で香港人観光客ら5人の乗客を刺傷。犯人は警察突入時に射殺された。
【犯人像】17才のパキスタン人の難民(フリュヒトリンゲ)。本名リアヅ・カーン・アフマドジャイ。2015年6月30日にドイツ・オーストリア国境間を越えて来独。来独前にハンガリーでも難民登記されていた。ドイツでの難民申請書類にはアフガニスタン人と記入(後にこれが偽りであり実際はパキスタン人と判明)。昨年難民申請が通り、本年3月以降は難民施設に、事件の2週間前からは地元のホストファミリーとなった農家に下宿しながらサッカーチームにも所属、パン屋で修行も始めていた。犯行直前まで目立たない存在で、「周囲にうまく溶け込み精神的にも安定していた」という。
【動機】思想が過激化したのはつい最近のことと思われる。中でも、友人がアフガニスタンで(空爆で)死亡したという連絡を犯行2日前に受けたことが大きく関与している可能性あり。犯人の知人曰く、「その連絡を受けた直後から、彼は電話しまくっていた」とのこと。

事件2) ミュンヘン(バイエルン州)
【日時】7月22日夕方
【場所】ミュンヘンのオリンピア・ショッピングセンター(Olympia Einkaufszentrum、略してOEZ)およびその向かいのマクドナルド
【内容】マクドナルドで銃を乱射、さらに店舗を出てOEZでも乱射→9人射殺(そのほとんどが移民系の子供)、のち犯人自殺
【犯人像】18才のミュンヘンに生まれ育ったイラン系ドイツ人。本名アリ・ダヴィッド・ソンボリー。父はイラン人のタクシー運転手、母は元デパート店員(イラン人か否かは記載なし)、13才の弟が一人いる。マックスフォアシュタット(Maxvorstadt)という失業者の多い地区の低所得者用公営住宅に住んでいた。
数年前から学校で執拗かつ壮絶なイジメ(からかい・暴力・盗難)の被害に遭っていた。対人恐怖とうつのため、精神科薬剤内服歴及び精神病棟入院歴あり。本年2月からは精神科外来通院中。
【動機】イスラム原理主義とは無関係。本人は今回の犯罪を1年前から準備していた形跡あり。ドイツでは有名な2009年の無差別殺傷事件があったウィンネンデンを訪問したり、5年前にノルウェーで同じく無差別テロを引き起こし77人を殺害した犯人のアンダース・ブレイヴィク氏を尊敬していたという(今回の犯行があった7月22日はブレイヴィクのテロと同じ日)。また、知人によれば、日ごろの言動には人種差別的内容が目立ったといい、今回の犯行で移民系の子供ばかりが狙撃されたことと関係があるかもしれない。また、犯人は犯行当日、職業高等専門学校(Fachoberschule)の入学試験に落ちたことを知らされたという。この落胆が凶行の引き金を引いた可能性もある。

事件3) ロイトリンゲン(バーデン・ヴュルテンベルグ州)
【日時】7月24日昼間
【場所】ロイトリンゲン市中心部
【内容】45才の妊婦(あくまでも本人談)をナイフで刺殺→逃走時に2名に怪我させる→今度は犯人自身が車に轢かれる→轢かれたところを警察に取り押さえられ逮捕
【犯人像】21才のシリア難民。名前はモハメッド。1年半前にシリアのアレッポから来独。被害者と同じファーストフードレストランで働いていた。職場の声は「親切な男」「印象の良い子」。
【動機】本件はテロとは無関係で、恋愛関係のトラブルによる犯行とされる。45才の被害者女性はポーランド人ウェイトレスで、21才の犯人は数か月前からこの女性に恋愛感情を持っていた。事件の直前に二人がケンカしていたとも言われる。(逃走時に負傷させられた2名は犯人との関係なし)

事件4) アンスバッハ(バイエルン州)
【日時】7月24日夜
【場所】アンスバッハ音楽祭の会場入口
【内容】音楽祭のチケットを持たない犯人が入場しようとして係員に制止された→犯人がリュックサック内に隠し持っていた爆弾を爆破させて自爆死、周囲にいた15人が負傷
【犯人像】27才のシリア難民。本名モハンマド・ダレール。2年前にシリアから来独。ドイツでの難民申請は1年前に却下された。以降、アンスバッハの収容施設に滞在。元々がブルガリア経由の入国だった関係で、近々ブルガリアに強制送還される予定だった。事件前に二度の自殺未遂歴があり、このため精神科病棟に入院していた時期もある。薬物や脅迫罪の前科があったが、社会福祉事務所の文書には「親切で目立たず優しい人物」との記載あり。
【動機】犯人所持のパソコンからは爆弾の造り方やイスラム原理主義関連ビデオが見つかっている。犯行声明ビデオではイスラム国のトップの名を引き合いに出し、「ムスリムを殺害したドイツ人に天誅を」と述べている。

以上です。なお、一件目のヴュルツブルグの事件について補足するなら、犯人が本当はパキスタン人なのにアフガニスタン人と偽って難民申請したという記載がありますが、その理由は「アフガン人だと申告した方がドイツ滞在に有利になるから」なのだそうです(参考サイトB、C)。これは日本にいると分かりにくい感覚かもしれませんが、私には理解できます。というのも、ドイツでタクシーに乗るととにかくアフガニスタン人やイラン人の運転手が多いからです。少なくとも、私がドイツに来てから10年以上の間、こちらでタクシーには何度も乗っていますが、未だにドイツ人のタクシー運転手に当たったことがただの一度もありません!これは今の日本ではとても考えられないことでしょうが、少子化がさらに加速すれば、いずれ日本もそうならないと交通インフラが維持できなくなる可能性があります。

私自身の個人的経験を述べるなら、以前たまたま乗ったタクシーのアフガニスタン人運転手と話をしていて大いに驚いたのが、「アフガニスタンの言葉(アフガン語=パシュトゥ語)はアラビア語とは全く似ておらず、むしろペルシャ語に近い」という話でした。当時の私は恥ずかしながら中東の知識が全くゼロで、アフガニスタンはアラビア語圏だとばかり信じていたので、その話に衝撃を受けたものでした。それでも、全国どこの駅前であっても、彼らタクシー運転手の世界でアフガン人とイラン人が助け合っているのを見ているので、その「言葉が近いから」という説明には妙に説得力がありました。そして、ドイツではタクシー業界に限らず、イラン・アフガンからの外国人労働者は技術職や医療・研究職などの知的労働の世界でも人数が多く、しかも彼らのドイツ語の習得の早さに定評があったりします。私も以前イラン人のMRI技師と同じラボで働いた経験がありますが、この技師さん、20才過ぎてからドイツに来て初めてドイツ語を学んだという割にはドイツ人顔負けの訛りの無い完璧なドイツ語を話すことに、日本人では考えられないとビックリした覚えがあります。そのような先達の実績が酌量されてのことなのかは分かりませんが、ドイツでアフガニスタンやイランからの難民申請や移民滞在許可が通りやすいという現実が先にあることはどうやら間違いないようです(参考サイトC)。

なお、報道によれば、前述した自称アフガン人の犯人が犯行声明ビデオで話していたのは「パキスタン訛りのパシュトゥ語」だそうです(参考サイトC)。パシュトゥ語とはアフガン語と同じで、インド・ヨーロッパ語族の中のイラン語派に属し、アフガニスタン東部ならびに隣接するパキスタン北西部にまたがって使用されているのだそうです。犯人も、パキスタンはパキスタンでもパシュトゥ語圏の出身である以上、折角だから少しでもドイツ永住のチャンスを大きくしようとして、ドイツ国内のアフガン人脈に食い込むことも視野に入れた上で難民申請を行ったと推察されます。そして、アフガニスタンでの友人の訃報を受けるまで、本気でドイツにおける自分の将来設計の実現を目指して邁進していたのではないかと思われるのです。

さて、来週は二番目の事件について、私なりに気付いたことも含めて説明したいと思います。そして、昨今の世の中でどうしてこうもテロばかりが蔓延するようになったのか、考えてみたいと思います。


<参考文献>
A) Bild(2016年7月24日):Wegen des München-Amoklaufs | Politiker brechen ihren Urlaub ab(ミュンヘンのテロのせいで政治家が休暇を中断)
http://www.bild.de/politik/inland/politiker/brechen-nach-muenchen-amoklauf-urlaub-ab-46974720.bild.html

B) T-Online(2016年7月26日):Vier Bluttaten - vier Geschichten  Woche des Grauens: Diese Täter schockieren Deutschland(4つの流血事件、4つの物語…戦慄の一週間:これらの犯人がドイツをショックに陥れた)
http://www.t-online.de/nachrichten/panorama/kriminalitaet/id_78501174/david-s-und-co-attentate-von-ansbach-reutlingen-muenchen-und-wuerzburg-im-ueberblick.html

C) Mail Online(2016年7月20日):ISIS train axe attacker is a 'Pakistani' who LIED about being Afghan to get higher immigration status in Germany - as he is pictured at a music festival wearing a pink wig(イスラム国 斧による列車襲撃事件の犯人はパキスタン人:ドイツでより高い移民ステータスを得るためにアフガン人と偽ったか)
http://www.dailymail.co.uk/news/article-3698818/Did-ISIS-axe-attacker-LIE-Afghanistan-Claims-train-jihadi-hid-Pakistani-background-higher-immigration-status-Germany.html

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