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Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/07/15

ポルトガルEURO初優勝!データから浮上した欧州サッカーの強さのキーワードは「フィールファルト」だった!

サッカーの欧州選手権ことUEFA EURO 2016は、クリスチアーノ・ロナウド選手を主将とするポルトガルの涙と感動のユーロ初優勝で幕を閉じました。ポルトガルといえば、グループリーグでは3戦3分でF組3位に終わり、本来ならば予選落ちする成績だったのが、今大会から出場チーム数が16チームから24チームへ拡大されたことと、それに伴う従来ならあり得なかった「グループ3位通過」が4チームに認められるようになったという新ルールに救済され、辛うじて決勝トーナメントに滑り込んできたチームです。仮にポルトガルがグループリーグ3試合のどれか一つでも落としていたら、勝ち点の関係でトルコが決勝トーナメントに繰り上がる予定でした。つくづく、人生は薄氷の上を歩むが如し…ですが、そのようなグループリーグで1勝もしていないチームがあれよあれよという間に決勝進出したのみならず、開催国でもあり過去に決勝で無敗だったというフランスを倒してしまいました。大きな大会でのジンクスとされてきた「イタリアに勝ったことのないドイツ」の準々決勝での奇跡的勝利といい、「ン10年来フランスに負けたことのないドイツ」の準決勝でのまさかの自滅完敗といい、「決勝で負けたことのないフランスの決勝敗北」さらには「優勝したことのないポルトガルの初優勝」で締めくくったというこの大会は、よっぽど不思議な因縁の連鎖反応で成り立っていたと見えます。


 (2016年7月12日、ARDの深夜のニュース番組Nachtmagazinより。中央には優勝トロフィーを手に満面の笑みで幸せいっぱいのクリスチアーノ・ロナウド選手)

さて、先週のコラムでは、この欧州選手権に登場した全24チームの身長とBMIのランキングを紹介しました。そして、このランキングで真っ先に目につく特徴として、”高身長群として大陸部の北半分が固まり、真ん中付近にイギリス連邦&アイルランドおよび東欧諸国、低身長群に南欧諸国がズラリと並ぶという、驚くほどハッキリした「南北格差」”と、”全出場チームの身長が平均・中央値ともに180cmを超えるというW杯では考えられないような「ノッポさん対決」”を挙げました(→サッカーEURO 2016出場選手データに見る大会の特徴と2014年W杯との相違点)。

加えて、先週の原稿で少し触れた身長・BMIの高低と実際の今大会でのチーム戦績との相関についても、その後の準決勝(身長14位でBMI8位のポルトガルと身長ビリでBMI6位のフランスが勝利、身長2位でBMI3位のドイツと身長14位でBMI7位のウェールズが敗退)や決勝の勝敗を見る限り、日本の高校野球であればほぼ例外のない明瞭なトレンドである「身長が高い方が有利」「BMIが平均に近い方が有利」というような、特定のパターンを見出すことは全くできないとの結論に達せざるを得ませんでした。(→出場49代表のBMIランキングの変遷から占う今年の甲子園の優勝旗の行方、→BMIランキング的中!?東海大四の決勝進出が教えてくれた「BMI野球」が不利な理由

その代わり、今大会の勝敗との相関が驚くほど見事に出ている指標が一つ発覚しました。それが、以下に示す「体重の標準偏差ランキング」です。標準偏差といえば、学校の成績の評価にも使用される「偏差値」を算出する際に使用される、データのバラつきの程度を示す指標です。この数字が大きければ大きい程、集団内の個々人の体重がてんでバラバラであるということを、逆に数字が低ければ低い程、体重がみんなに通っていることを意味します。それでは実際のデータを見てみましょう。色分けは先週と同様に緑がベスト16進出(ラウンド16敗退チーム)、ピンクがベスト8進出(準々決勝敗退)チーム、赤がベスト4進出チームですが、今回はついでに赤の一本線のアンダーラインは準優勝、赤で二重線のアンダーラインは優勝とし、加えて黒太字はグループリーグ敗退の8チームとしてみました。すると、このような明瞭なパターンが浮かび上がってくるのです↓。

<UEFAユーロ2016・体重標準偏差ランキング>
1位(8.858) アイルランド
2位(8.343) イタリア
3位(8.108) ベルギー
4位(7.909) ウェールズ
5位(7.806)
6位(7.778) ドイツ
7位(7.538) スロバキア
8位(7.500) クロアチア
9位(7.454) 北アイルランド
 ---全体の標準偏差(7.314)---
10位(7.312) イングランド
11位(7.197) ロシア
12位(7.130) チェコ
13位(7.046) ハンガリー
14位(6.735) スウェーデン
15位(6.702) ポーランド
16位(6.606) ウクライナ
17位(6.600)
18位(6.590) スペイン
19位(6.557) オーストリア
20位(6.336) アルバニア
21位(6.021) ルーマニア
22位(5.585) アイスランド
23位(5.361) トルコ
24位(5.147) スイス

 

もうお分かりですね?このランキング、グループリーグ敗退チームが見事なまでに全て下位に沈んでいるのです。これではまるで、体重のバラつきが決勝トーナメント進出の必須条件の一つであるかの如くです(笑)。しかも、ランキングの上半分のチームは全て決勝トーナメントに進出しているのみならず、ベスト8入りが5チーム、ベスト4入りが3チーム、そして優勝チーム輩出といった具合に、決勝トーナメント進出後の戦績においても強い相関を見ることができます。

なお、比較のために身長・BMIの標準偏差ランキングも調べてみました(データ本体は割愛)。すると、BMIの標準偏差ランキングの場合は確かに「グループリーグ敗退チームが軒並み下位に沈む」という傾向は似ている(ただし体重の標準偏差ランキングの時ほど極端な差ではない)のですが、決勝トーナメント以降のチーム戦績に絞ると相関は全く無くなります。そして、身長の標準偏差ランキングに至っては、グループリーグ敗退チームの分布にも決勝トーナメント以降の勝敗にも全く相関しませんでした。

それにしても、どうしてよりによって体重の標準偏差ランキングの場合だけ、上半分と下半分でかくも明暗がクッキリ分かれたのでしょうか?そもそも、この体重標準偏差ランキングとは、一体何を見ている指標なのでしょうか?そして、例えば2年前のW杯のような他の大会では、同様の傾向はみられたのでしょうか?この疑問点の答えを探すべく過去のデータを見直してみて、大きなヒントとなったのが2年前のW杯サッカーブラジル大会における体重の標準偏差ランキングでした。ここでは参加全32チームのランキングを、先程の色分けとは異なりますが、以前のコラム2本(→「デア・クライネ・ヤパーナー」(小さい日本人)というドイツメディアの衝撃発言とベルギーでの出来事、→祝W杯優勝!ドイツが制した戦いは「ソイラテvsアルゼンチンステーキ」?)で使用した色分けを踏襲して提示したいと思います(青:欧州、赤:中南米、緑:アフリカ、黒:その他)↓。

<2014年FIFAワールドカップブラジル大会・体重標準偏差ランキング>
1位(9.352)     ベルギー
2位(8.692)     イングランド
3位(7.981)     アメリカ合衆国
4位(7.967)     ナイジェリア
5タイ位(7.786)   アルジェリア
5タイ位(7.786)   フランス
7位(7.783)     ブラジル
8位(7.418)     コートジボワール
9位(7.401)     ドイツ       ←大会準優勝
10位(7.230)    イタリア
11位(7.082)    スペイン
 ---全体の標準偏差(7.065)---
12位(7.046)    メキシコ
13位(7.031)    ポルトガル
14位(6.998)    カメルーン
15位(6.708)    クロアチア
16位(6.556)    チリ
17位(6.437)    エクアドル
18位(6.283)    ホンジュラス
19位(6.230)    コロンビア
20位(6.164)    オーストラリア
21位(6.136)    アルゼンチン     ←大会準優勝
22位(6.060)    韓国
23位(5.985)    イラン
24位(5.970)    ボスニア・ヘルツェゴビナ
25位(5.960)    ガーナ
26位(5.838)    ロシア
27位(5.533)    スイス
28位(5.457)    オランダ
29位(5.421)    日本
30位(5.334)    ギリシャ
31位(4.883)    ウルグアイ
32位(4.623)    コスタリカ

このデータを見てまず気付くのは、欧州チームは上位から下位までまんべんなく散らばっていること、それに比べて中南米のチームは軒並み中位~下位に固まっていること、我らが日本を含むアジア4チームは全て下位に位置していること、そして何よりも、上位にアフリカ勢が目立つことです。アフリカ勢と言っても4チームしかいないので断定する訳ではありませんが、真ん中より下にアフリカのチームが一つも存在しないことは注目に値します。そう思ってさらに上位チームの顔ぶれを欧米に絞ってよ~く眺めてみたら、さらにピンときました。1位ベルギー、2位イングランド、3位アメリカ、5位フランス…これらはズバリ、かつての帝国主義時代の植民地政策の影響でアフリカ系移民の多い国ばかりなのです。そして、下位にいる欧州諸国はオランダ以外はアフリカ権益と無縁な国ばかりというのも、何だか話が出来過ぎている気がしてしまいます。

こうなると、今度は今回のサッカー欧州選手権の選手名鑑を今一度見直してみたくなります。ということで、前回も参考サイトに挙げたドイツ公営放送ARDのホームページから各チームの全選手の顔ぶれと標準偏差ランキングを見比べていったところ、驚きの結果が得られました。データが膨大になるので詳細は割愛しますが、結果のみ言うと、体重の標準偏差ランキングのみが「黒人率の高さ」と正の相関があり(ちなみに、体重の標準偏差ランキングの下位にありながら黒人率が高かったのは、何と準優勝のフランスただ1チームのみ!)、BMIの標準偏差ランキングとの間にはこのような相関は見られなくなり、逆に身長の標準偏差ランキングではむしろ下位チームの方が黒人率が上がるトレンドがみられたのでした。

以上から、体重の標準偏差ランキングという指標は、どのような直接的または間接的な機序が働いてがいるのかはまだ分かりませんが、アフリカ系選手の多さをみている可能性が考えられました。これを言い換えれば、少なくとも今回の欧州選手権に関するチームデータが物語っているのは、「人種的な多様性が大きいチームの方がより強くなる傾向にある」ということでしょうか。これは、「ミュラー・マイヤー・ベッケンバウアー」の往年のドイツよりも、「ボアテング、ケディーラ、エジル」の今のドイツの方が時代にかなった強さを持っているという先週までの当コラムで掲載した話にもつながり、そして実はこれはサッカーのみにとどまらない、「欧州全体の強さ」を形成する条件の一つでもあるかもしれないのです。

この「多様性」のことを、ドイツ語では”Vielfalt”(フィールファルト)といいます。この単語、今大会を語る上で、メディア上でも一般生活の中でもとにかくよく聞こえてきました。ドイツが準決勝で敗退した際にも、某インターネットの掲示板で「対戦相手フランスのメンバーは、黒いヤツが半分を占めていた!これって欧州としてどうなのよ?!」という差別的ではないかと問題になったコメントに対し、「アホか、先発11人中7人だぞ!どこが半分だ?」「つまり、ドイツはフランスに比べて、フィールファルトで負けていたのさ!」といったツッコミが矢継ぎ早に入ったのには、なかなか上手い表現をするものだと感心してしまいました。

そう考えれば、最近のドイツにおいて、移民・難民問題に嫌気がさした極右勢力が何かと移民排斥や排外主義を煽る発言をするたびに、それを何倍も上回るグローバリズム寄りの論調が盛り上がることも、ブレグジットという国民投票の結果が出たイギリスに対して非常に厳しい論調が多いことも、一本の線がつながるように腑に落ちるのでありました。

最後に、2年前のW杯サッカーの体重の標準偏差ランキングにおいて、日本を含むアジア諸国は下位に固まっていると先ほど申し上げました。そのアジア諸国の中でも、最もランクが低かったのは我らの日本でした。全体で見ても、ビリから4番目です。2年前の時点では、日本には遺伝的な多様性が世界他国と比較して弱いという解釈が成り立っていたのかもしれませんが、あれから2年が経過し、いよいよ来月開催されるブラジルのリオデジャネイロ五輪では日本からもアフリカ系ハーフの代表選手が出場します。さらに昨年の高校野球においても、父がナイジェリア人というオコエ瑠偉選手(現・楽天イーグルス)が活躍しましたし、今年の高校野球の注目選手の中にもアフリカ系選手が何人かおり、いずれ多くの皆様方の知るところとなるはずです。ということで、もし今後の日本のスポーツシーンにそのような変化が顕著になってきたあかつきには、是非このコラムに登場した「フィールファルト」という単語を合言葉に、そのような選手への温かい応援を心よりお願い申し上げます。


 
(2016年7月11日、朝の情報番組ARD Morgenmagazinより。ポルトカルの得点シーンに沸くリスポンの歓喜のパブリックビューイング)


<参考サイト>
ARD公式ホームページ - Sportsschau - UEFA EURO2016 - Alle Teams(全チーム)
http://www.sportschau.de/uefaeuro2016/teams/index.html
(上記リンク先を起点として、各チームの全選手名鑑から身長・体重・生年月日・所属チーム等のデータを呼び出すことができる。今回掲載の統計データは全てこのサイトのデータを元に算出した)

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