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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/06/24

決勝トーナメント進出の立役者!チョコのパッケージで学ぶマリオ・ゴメス選手ら移民系ドイツ代表の子供時代

このコラムが掲載される頃といえば、サッカーの欧州選手権こと「UEFA EURO 2016」の決勝トーナメントに進出する顔ぶれが出揃う頃に相当します。第1戦こそウクライナ相手に2-0で完勝のドイツでしたが、第2戦は難敵ポーランドと0-0の引き分け、第3戦も北アイルランドにスカッと勝つはずが1-0のギリギリの勝利、何とかグループ1位での通過となったものの、決勝トーナメントの初戦相手がつい1か月ほど前に親善試合で敗れたばかりのスロバキアとなる可能性が濃厚です。初戦に何とか勝利できたとしても、今大会は番狂わせが多かった関係でドイツの入るグループはスペイン・イタリア・フランス・イングランドがひしめく超強豪ばかり揃う「死の山」になっており、現役王者といえどもドイツの今後の先行きは相当険しいものとなることは間違いないでしょう。(末尾参考サイトA)

なお、先日のクループリーグ第3戦のドイツvs北アイルランド戦ですが、唯一となる得点を挙げたのはマリオ・ゴメス選手(Mario Gómez)でした。ゴメス選手といえば、父親がスペイン人で母親がドイツ人というスペイン系ドイツ人です。これにより、今大会のドイツは第1戦のアルバニア系ドイツ人のシュコドラン・ムスタフィ選手(Shkodran Mustafi、両親がアルバニア人)に引き続き、またもや移民系ドイツ人選手が決勝ゴールを記録したことになります(→UEFA EURO2016ついに開幕!ドイツのSNSは「隣人ボアテング」&「小さなシュコドラン」で祭り状態!)。この調子でまた移民排斥や人種差別に熱心な勢力の暴言・失言による場外乱闘が引き起こされて他のニュース報道や重要案件の審議がストップすることのないよう祈るばかりです。

なお、以前のコラムでは、キンダー・ショコラーデという子供用チョコレートのユーロ2016向けスペシャルエディションについて述べました。このスペシャルエディションとは、商品パッケージの表面に元々載っている白人の男の子の顔写真を今大会出場予定選手の子供時代の顔写真に変更した期間限定バージョンで、全11選手分が現在発売中です。そのうち、当サイトの過去の記事ではジェローム・ボアテング(父がガーナ人)、イルカイ・ギュンドガン(両親がトルコ人)、シュコドラン・ムスタフィ(両親がアルバニア人)、ルーカス・ポドルスキー(両親がポーランド人)の4選手のパッケージ写真を紹介しています(→「サミット」も「オバマ広島訪問」もスルーさせた「ボアテング騒動2連発」の異様な盛り上がり)。以前の記事ではマリオ・ゴメス選手バージョンを紹介せず本文だけの言及にとどめていたのは、単に現物をまだ入手していなかったという理由に他なりませんでしたが、実はあれから折々にスーパーで探し回り、先日ついに全11バージョンを無事に揃えることができたのでした↓!

 揃えたり、11枚!こうして並べてみると壮観です!どれがどの選手か分かるかな?そして、北アイルランド戦の救世主となったマリオ・ゴメス選手はどの子でしょうか?

正解はコチラです↓

 


そうです、こちらがゴメス選手です。そして、パッケージ裏面には現在のご尊顔とアンケートへの回答が…!↓

 おぉっ、顔ソックリ…って、当たり前です、本人ですから(笑)!折角なので、ここで本人のアンケートの回答と選手プロフィールも和訳して紹介したいと思います。(青字は本文及びその直訳、カッコ内の赤字は筆者注釈。太字強調も筆者)

【ボクがまだ子供だった頃】
誕生日:1985月7月10日
(30歳)
生誕地:リートリンゲン(←南ドイツのバーデン・ヴュルテンブルグ州のドナウ川沿いにある人口1万程度の町)
好きな食べ物:ピザ
ニックネーム:トレーロ(←「闘牛士」を意味するスペイン語)
模範とする選手:ロマリオ(Romário)(←90年代~2000年代にかけて活躍した元ブラジル代表サッカー選手。現在は政治家でブラジル上院議員)
最初に飼ったペット:セキセイインコのフローピ君
【今のボクが考えていること】
「ホンモノのチームというのは、あまり鳴り物入りの華々しさが無い方が、かえって内部がまとまり互いを尊重し合ってうまく機能する」(Ein echtes Team geht auch dann respektvoll miteinander um, wenn es mal nicht so überragend läuft)
【Mario Gómez選手プロフィール】
スペイン人とのハーフであるマリオ・ゴメス選手は5歳でサッカーを始めた。幾多のチームを渡り歩き16歳になる直前にVfBシュトゥットガルト入団。珍しいことに、チャンピオンズリーグの国際試合での初登場がブンデスリーガでのデビュー(2004年5月)よりも2ヶ月早かった。以降、フォワードとして卓越した能力(überragenden Torjäger-Qualitäten)を発揮。2007年には「年間最優秀サッカー選手賞」(Deutschlands Fussballer des Jahres)に選出。続く2シーズンはいずれも得点王ランキング2位。2009年にブンデスリーガ移籍金史上最高額でバイエルン・ミュンヘンへ。マリオ・ゴメスはパワフルでスビード溢れるフォワードであり、バイエルン時代の得点記録はかつて所属したゲルト・ミュラー以外では誰も達成していないものである。


以上です。正直なところ、子供時代のニックネームがいかにもスペイン的な「Torero(闘牛士)」というのは、まさか日本人の女の子に「ゲイシャ」とあだ名をつけるようなニュアンスだったりしないのかと、ちょっと微妙な思いがよぎりました(笑)。他方で、模範とする人物に元ブラジル代表で現役政治家のロマーリオ氏を挙げているところに、「サッカーだけで終わるつもりはない」というゴメス選手自身の将来的な人生設計をしっかり見据えた性格が伺えます。さらに、現在の考えとして述べられている「あまり鳴り物入りでないチームの方が、かえって内部のまとまりがよい」という趣旨の発言についても、いかにも”純・和風”な日本の高校野球でも十分に通用しそうな哲学がドイツのサッカー選手の口からドイツ語で発せられているところに興味が湧いてきます。

なお、この上記青字の本文の中に同じ単語が2か所に使われていることに気付かれたでしょうか。それは、太字で強調してある”überragend”という単語です。これは「優れた・卓越した・抜群の・重要な」という意味で、一つは【本人が今考えていること】の中の理想のチーム像として「鳴り物入りの華々しさ」と訳した部分で、もう一つは【ゴメス選手プロフィール】の中の選手評価としての卓越したストライカー」という部分で登場します。”überragend”(卓越した、突出した)という単語が使われています。このような強いニュアンスを持つ単語がチョコのパッケージの解説文に2度も出てくる選手が、実際には第1戦と第2戦で出番が無かったのも不思議なものですが、第3戦でついにその実力を花咲かせたのだと考えることもできるかもしれません。

たかがチョコ、されどチョコ…ということで、そうなると他の選手のパッケージにはどのような内容が書かれているのかも気になるところです。全11選手を紹介するのは大変なので、代表してシュコドラン・ムスタフィ選手のパッケージをご紹介したいと思います。グループリーグ第1戦で殊勲の初得点を挙げたアルバニア系ドイツ人選手は、こう紹介されています:


【ボクがまだ子供だった頃】
誕生日:1992月4月17日(24歳)
生誕地:バート・ヘルスフェルト(←ヘッセン州北東端に近い人口2.8万人の町。音楽祭で有名で、「北のザルツブルグ」の異名もとる)
好きな食べ物:ママのピザ
ニックネーム:ドニー(Donny)
将来の夢:マイホーム
嫌いなもの:大言壮語
【今のボクが考えていること】
「過去にとらわれすぎるな。さもなければ、現在における目標を仕留め損ねることになる」(Halte dich nicht zu lange in der Vergangenheit auf, sonst verpasst du es, deine Ziele in der Gegenwart zu erreichen)
【Shkodran Mustafi選手プロフィール】
ヘッセン州のベブラ(←出生地のバート・ヘルスフェルトよりもさらに東で、冷戦時代の東西ドイツ国境の町として有名。人口1.3万人)で育ち、1.FVベブラ入団でプロ選手としてのインパクトあるキャリアをスタート。2006年にローテンブルグの大会で注目を浴び(当時はフォワードだった)、幾多のチームから声がかかりながらも移籍先に選んだのはハンブルガーSVの全寮制サッカーアカデミー(Fussballinternat des HSV)だった。ドイツU-17代表チームのメンバーとして欧州王者(2009年)。彼は海外でも成功している:2009年にはイングランド・プレミアリーグのFC Everton、次にSampdoria Genua(イタリア)、そしてFC Valencia(スペイン)へと移籍。2014年には、ドイツのブンデスリーガでプレーした経験のない選手でありながら、ドイツ代表としてW杯優勝を経験。


ここには書かれていませんが、以前のコラムでも述べたように、ムスタフィ選手は両親がマケドニア(旧ユーゴスラビア)出身のアルバニア人です(参考文献B)。そして、息子のムスタフィ選手が1992年4月にドイツで生まれていることから、その両親のドイツ移住が1990年の東西ドイツ統一や1991年のソビエト連邦解体などとどのような時系列で関連するのかを気にしてしまいます。そのように考えたくなるのには、理由があります。というのは、ムスタフィ選手が育ったヘッセン州北東端のベブラ(Bebra)といえば、かつて東西ドイツがまだ国境を隔てていた時代にいわゆる検問所(関所)として交通の要所だった「ベブラ国境駅(Grenzbahnhof Bebra)」のあった町だからです。つまりここは、東西冷戦が熾烈だったころ、物理的にも精神的にも分断されてしまった2つのドイツを結ぶ、数少ない玄関口の一つだったのです。必然的に、1989年のベルリンの壁崩壊とそれに引き続く東西ドイツ統一に伴い、このムスタフィ選手の故郷であるベブラも「東西ドイツ国境の検問所」という意味を失い、急速に衰退していくのですが、この一家はこの地にとどまり、新天地で生まれた息子とともに人生の新たな一歩を踏み出したという話なのでしょうか?気になったので調べてみました。


そのあたりの想像や疑問をクリアにしてくれたのが、2014年秋のW杯ブラジル大会優勝後のシュピーゲル誌でした(参考サイトB)。上の写真は、この記事の冒頭ページを引用したものです。写真手前にはムスタフィ選手(当時22歳)、その右にはムスタフィ選手の実父であるクイティム・ムスタフィ氏(Kujtim Mustafi)(当時39歳)が何と顔も腹も出して写っています(笑)!こうしてみると、父はいささかメタボ気味ですが、二人の顔だちはかなり似ています。それでいて、父が39歳で息子が22歳というのだから、一体この父はどういう状況で何歳の時にドイツに来たのやら、そしてドイツでどのような職種で生計を立てたのやら、新たな妄想が湧いてきたものでした。

この記事によると、ムスタフィ・パパのクイティム氏自身が出稼ぎ労働者の息子だそうです。クイティム氏の父親(つまりシュコドラン選手の祖父)が先にドイツに渡り、旧ユーゴスラビアのゴスティヴァーという町(現・マケドニア)に生まれたクイティム氏が4歳半の時(つまり1979年前後)に母子をドイツに呼び寄せたとあります。この祖父(故人)は北ヘッセンで出稼ぎ労働者として主に建設及び林業の現場で働いていたそうです。つまり、シュコドラン選手はアルバニア系の三世ということになるでしょうか。そして、父クイティム氏は、かつては自営の警備会社を営み、主にディスコの警備員として生計を立てていたそうです。しかし、このパパも今ではすっかり息子のマネージメント業に専念しているようで、そのあたりのステージパパぶりを読めば読むほど、以前のコラムで取り上げたスロバキア代表のフィギュアスケート女子シングルのニコル・ライチョワ選手とその実父でアシスタントコーチのトム・ライッチ氏の「ライッチ家の人々」を連想せずにはいられません。その熾烈な親バカ対決、是非読み比べていただきたいところです(笑)!(→フィギュアスケート欧州選手権inブラチスラバ(2)…家族愛対決!スロバキアのライッチ家VSチェコのブレジナ家

クイティム氏には22歳のシュコドランを筆頭に16歳のアドリアンや10歳のルアン(←この子はシュコドラン並に有望らしい)を含め5人の子供がおり、一番下の子は2歳半だとか(年齢はいずれも2014年11月の記事掲載当時)。シュコドラン以外の家族は今もベブラ在住で、この記事内には、ベブラに400平方メートルの三世帯用のプール付き大邸宅を建設中という記述があります。つまり、先ほどのチョコレートに書かれた「将来の夢:マイホーム」は見事に現実のものとなったのでしょう(笑)。

「ドニー」という愛称については、由来は本人にも分からないのだそうです。「小さいころから、物心ついたらそう呼ばれていた」とシュコドラン選手は言います。また、記事内で興味深かったのは、「シュコドランがジュニアドイツ代表でプレーするために、マケドニアのパスポートを返上する必要があった」というくだりです。このパスポート問題のために、シュコドラン選手の国際大会デビューは一年近く遅れてしまったのだそうです。そして父親のクイティム氏も、息子が15歳になる時に両親のいずれかがドイツ国籍を取得せねばならないという話になり、自ら息子のためにユーゴスラビア国籍を返上したとあります。ということは、当時の旧ユーゴスラビア諸国は二重国籍を認めていなかったということなのでしょうか?

このシュピーゲル誌、他にも面白い話が目白押しなので全部紹介したいところですが、あまりにも量が膨大なのでこの辺でやめておきます。また別の話題と絡めることができれば、いずれ再び当サイトで取り上げたいと思います。

さて、来週以降はいよいよ決勝トーナメントが始まります。ドイツが「死の山」をどこまで高く登っていけるのか、そして、当サイトで取り上げたジェローム・ボアテング選手やシュコドラン・ムスタフィ選手にマリオ・ゴメス選手などの移民系ドイツ選手が決勝トーナメントでも大活躍を見せてくれるのか、はたまたW杯決勝ゴールながら今大会のグループリーグで絶不調のマリオ・ゲッツェ選手や、W杯では大活躍の連続だったのに意外にも欧州選手権で過去にまだ1得点も挙げたことがないというトーマス・ミュラー選手がどうなるのか、いろいろ注目して観ていきたいところです。


<参考サイト>
A) ゲキサカ(2016年6月22日):EUROで“死の山”誕生…決勝T1回戦で前回決勝の再現、ドイツやフランスら強豪も同居
http://web.gekisaka.jp/news/detail/?192346-192346-fl

B) Der Spiegel(2014年11月3日):Donny, der Weltmeister(世界王者ドニー)
http://www.spiegel.de/spiegel/print/d-130093044.html

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