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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/06/17

UEFA EURO2016ついに開幕!ドイツのSNSは「隣人ボアテング」&「小さなシュコドラン」で祭り状態!

サッカーの欧州選手権こと「UEFA EURO 2016」がついに始まりました。開幕戦のフランスvsルーマニアは昨年11月13日の同時多発テロがあったパリ・サンドニのスタッド・ド・フランスで開催され、テロ警戒の超厳戒態勢の中、フランスが試合終了間際の勝ち越し点で辛うじて勝利しました。そして、その二日後となる日曜日、現・世界王者であるドイツが満を持して登場、初戦のウクライナ戦で2対0の勝利を収めることができました。今大会をドイツでは、2つある公営放送であるARD(第1放送)とZDF(第2放送)が交互に全試合を生中継しています。街へ出れば、レストランはどこもかしこも巨大画面のプラズマテレビを店内から外へとエッサエッサと運び出して試合を映し出すことで客を呼び込むパブリックビューイング状態であり、それこそテレビの大きさと客の入りが正比例するのではないかという世界です。また、誰かの家に集まってワイワイという「家飲み」も多いのですが、最近は巨大液晶テレビが高くて買えないために代わりにプロジェクターで白壁に画面を映し出すのが流行っているそうで、実際に家電量販店でもこの手のプロジェクターがよく売れているとのことです。


(アイントラハト・フランクフルトの本拠地、コメルツバンク・アリーナもまた、ドイツ戦の時だけパブリックビューイングになります。写真は末尾参考サイトAより引用)

さて、全国民が注目したドイツの初戦ですが、当サイトで先々週取り上げた「ボアテング騒動」(→「サミット」も「オバマ広島訪問」もスルーさせた「ボアテング騒動2連発」の異様な盛り上がり)によって今やすっかり”時の人”となっているアフリカ系ドイツ人、ジェローム・ボアテング選手が値千金の超ファインプレーで魅せてくれました↓。


この写真(参考サイトBから引用)の場面は前半37分、ウクライナがドイツの守備陣や守護神GKのマニュエル・ノイアー(写真左端)をも抜き去り、ボールがあわやドイツゴールに転がりこもうかという寸前、ジェローム・ボアテング選手(写真右から2番目)が芸術的とも言える身のこなしで辛うじてボールをクリアした瞬間です。

ドイツは前半にシュコドラン・ムスタフィ選手のゴールで1点をリードしていたものの、このボアテング選手のプレーがなければウクライナは1-1の同点に追いついていたはずで、試合の大きなポイントとなったプレーでした。このプレーについて、代表監督のヨアヒム・レーヴ氏は試合後のインタビューでこう語ったのでした↓:

守備でジェローム(・ボアテング)を隣人に持つと良いことがあるものだ」("Es ist gut, wenn man einen Jerome als Nachbarn hat in der Abwehr")

レーヴ監督、座布団2枚!と言いたくなるこのコメントは、先月末に新聞に掲載されて大騒動に発展したドイツの極右系政党AfD(ドイツのための選択肢)の副党首であるガウランド氏の「世間の人々は、ボアテングはサッカー選手としては良いが、隣人だったらイヤだ、と思っているはず」(”Die Leute finden ihn als Fußballspieler gut. Aber sie wollen einen Boateng nicht als Nachbarn haben.”)という発言をレーヴ監督なりにひねった絶妙な”お返し”でした。ついこの間まで「ボアテングが隣人に相応しいか否か」でドイツ全土が(国内外の重要議題もそっちのけで!)大論争していたこともあり、この日の夜はドイツ国内のツイッターなどのSNSがまたもや一斉に「ボアテング祭り」に突入、それを試合中継を担当したARDがこの流れに便乗するようにネットから次々と傑作を探し出しては、「ボアテング・この試合のヒーロー」(Boateng・Held des Spieles)と題して番組内で紹介していました↓。


(海でもキィーック?!イルカが相手でも全く負けていない、我らがヒーロー・ボアテング…)


(字幕は「ひょっとしてボクってジェローム・ボアテングじゃなくて、マニュエル・ノイアーなのかも!」の意味。ある時はあなたの良き隣人、またある時はチームの窮地を救うゴールキーパー…しかしてその実体は、我らがヒーロー・ボアテング!)


(字幕は「私の隣人、ジェローム」という意味。隣人の危機を足技で救っているつもりなのか、ボアテング…?)

 
(活躍の場はサッカーフィールドに限りません。今度は何とゲームに登場、いい点が出そうなボアテング・キック!)

といった具合です。それにしても皆さん、夜中にご苦労様です、としか言いようがありません(笑)。テレビの実況と解説のご両名も、ややあきれ顔でしょうか↓?

(完全に表情が固まっております…笑)

今や海の向こうのアメリカでは政治経験のない不動産王ドナルド・トランプ氏が大統領候補になるようなご時世です。しかし、我らがヒーロー、ジェローム・ボアテング選手だって、ビリオネアでこそありませんが一応ミリオネアです。この調子で引退後もしっかりキャリアアップを重ねていけば、30数年後には「黒人初」となるドイツ首相ないしドイツ大統領というのも夢ではないのではないかとさえ思えてきます。何と言っても、聖書にだって書いてありますから、「汝の隣人を愛せよ」と!

ちなみに、例の「ボアテングはサッカー選手としては良いが隣人としては相応しくない」発言で物議を醸したAfD副党首の失言王(?)ことガウランド氏ですが、実はあの騒動後、間髪入れずにさらなる問題発言を重ねて炎上していました↓。(参考サイトC)

ドイツやイングランドのサッカー代表チームは、古典的な意味でのドイツやイングランドを代表する存在ではとっくに無くなった」(„Eine deutsche oder eine englische Fußballnationalmannschaft sind schon lange nicht mehr deutsch oder englisch im klassischen Sinne“)

要するにこのオジサン、往年のドイツ代表チームのビッグネームが「ミュラー・マイヤー・ベッケンバウアー」だったような時代がひたすら懐かしく、今の代表選手の名前が「ボアテング」(ガーナ系)、「エジル」(トルコ系)、「ケディーラ」(チュニジア系)、「ムスタフィ」(アルバニア系)などというのがただもう耐えがたいと思っているのでしょう。そして、返す刀で、今度はエジル選手に非難の矛先を向け始めました。イスラム教徒であることを公表しており、最近メッカに巡礼に行ってきた際の写真を先月22日に自身のフェイスブックにアップして実に218万人以上から「いいね!」をゲットしたメスート・エジル選手のことを、ガウランド氏はこのようにバッサリと断じたのでした↓:

慣れるのに大いなる努力を必要とする」(„sehr gewöhnungsbedürftig“.)

生理的に全く理解できない、と言い換えた方が分かりやすいでしょうか。元ネタとなったシュピーゲル誌のインタビューをあたってみると、もっとビックリなことがいっぱい書いてあります。「イスラムはドイツの一部を成して良いのか?」「メッカに巡礼に行くようなヤツがドイツ国民の一員でよいのか?」を皮切りに、「イスラム教徒はドイツの政治家や公務員になるべきではない」まで、その言及範囲が一気にエスカレートしているのです(参考サイトD)。それよりも何よりも、最初の発言で国民から猛反撃を受けた直後は「自分はサッカーは全然観ないし、詳しくないからよく分からず言っただけ」などと言い逃れに終始していたのに、今回のインタビューで「エジル選手は試合開始前にドイツ国歌を歌わない」と、”見てきたような文句”(笑)もしっかり付け加えているのに至っては、「サッカー、観とるやん!」と反射的にツッコミを入れたのは私だけではなかったはずです。

もっとも、国歌をちゃんと歌っているか否かといういわゆる「口元チェック」は、ガウランド氏だけの専売特許ではありません。二人いるAfD党首のうち女性の方であるフラウケ・ペトリ氏も、「ボアテング騒動」に関してはボアテング支持・ガウランド批判に回りましたが、「エジルが国歌を歌わない件」に関してはガウランド側に同調して懸念を表明しています。この報道で私がついでに思い出したのが、以前コラムで取り上げたことのある「旧国歌うたっちゃった事件」です。そもそもAfDの面々が懐かしがる古き良き時代のドイツといえば、実際には敗戦国として周辺諸国の顔色をうかがう余り、国歌を人前で堂々と歌うことを封印されていた時代が長く、1954年のW杯優勝の「ベルンの奇跡」で観客が当時禁止されていたナチスドイツ時代の旧国歌を思わず歌ってしまい、政官マスコミを総動員して火消しに邁進したこと(→2014年ドイツW杯優勝直後の「ガウチョダンス」は1954年の「旧国歌斉唱事件」の再現か?)、1974年W杯優勝当時は「ミュラー・マイアー・ベッケンバウアー」はおろか他の選手も誰一人として国歌を口ずさむことはなかったということ(参考サイトE及びF)、そして、そのこと自体が問題視されることも議論される風潮も無かったということ(参考サイトF)を、今のAfDの人たちは知らないのか、それとも知っていながら無視しているのか、不思議に思います。


(参考サイトFからのスクリーンショット。1974年W杯での西ドイツチーム。会場ではちょうどドイツ国歌が演奏中だが、選手は誰一人として口元を微動だにしないのみならず、右から4番目のゴールキーパーは周囲を見回してキョロキョロしている。会場の観客も誰一人として国歌を歌う者はおらず、どうもこの時代の国歌は歌うものではなく聴くものだったように見受けられる)

そういえば、初戦を中継したARDの放送内でも、前半を1-0で終了した直後にアナウンサーのこのような発言がありました:

「ドイツにシュコドラン・ムスタフィがいなければ、今頃ドイツは0-0のままだったはずだ」

これは明らかにAfDやガウランド氏の一連の移民排斥発言を意識した発言となっています。シュコドラン・ムスタフィ選手はマケドニア出身のアルバニア人を両親に持つ移民系選手だからです。ここでちょっと小ネタですが、大会前にとあるドイツ人男性がツイッター上で、ドイツの初戦である6月10日が出産予定日だというまだ見ぬ息子の名前を検討中で、”今大会でドイツの初ゴールを記録した選手の名前をそのまま付ける”と宣言していたのだそうです。そして同時に、「まぁ、(初得点が)ムスタフィなんてこと、まさか無いでしょう」とも書いています。そのまさかが現実となってしまった今回の初戦直後から、ツイッターでは「デア・クライネ・シュコドラン」(ちっちゃなシュコドラン君)が話題をさらっているといいます(笑)↓。ネガティブな予感ほどよく当たるとはよく言ったもので、ネットでここまで拡散してしまった以上、もはや引っ込みがつかないのではないかと苦笑すると同時に、この子が後々大きくなった時に名前の由来を聞かれたら最高に話が盛り上がること間違いなしのこの「シュコドラン」、実は結構いい名前なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

 (デア・クライネ・シュコドラン…今年生まれるドイツの男児の名前にジェロームとかシュコドランといった名前が増えるかも?)

今大会のドイツ初得点のムスタフィ選手と、ゴール前の薄氷のクリアでドイツの危機を救ったボアテング選手…しかしながら、前半戦で大活躍の二人が揃って移民系ということを快く思わないような人間を、今のドイツは国内に少なからず抱えていることもまた事実であり、昨今の難民問題の行く末や来たるべきBREXIT(英国のEUからの脱退の是非を問う国民投票)の結果次第では、ドイツにとどまらず欧州全体が微妙な空気に覆われるような事態も決して起こりえないとは言えないでしょう。

さて、今大会の決勝は7月10日予定です。つまり、大会はまだ始まったばかりです。しかしドイツ国民、今からこれだけテンション高くて来月まで持つのだろうかと、ちょっぴり先が思いやられる今日この頃であります。そんなドイツでのEURO2016関連報道を見て、他に気付いたことが色々あります。これについては来週以降に説明したいと思います。


<参考サイト>
A) ARD Morgenmagazin(2016年6月13日):Video: Public Viewing: Stadion-Stimmung für das große EM-Feeling(ビデオ:パブリックビューイングはすっかり欧州選手権の気分)
http://www.daserste.de/information/politik-weltgeschehen/morgenmagazin/videosextern/public-viewing-stadion-stimmung-fuer-das-grosse-em-feeling-100.html

B) ドイツ公営第1チャンネル「Sportschau」(2016年6月12日):ドイツ 2-0 ウクライナ
http://www.sportschau.de/uefaeuro2016/spielbericht-deutschland-gegen-ukraine-100.html

C) Focus Online(2016年6月3日):AfD-Vize Gauland findet Nationalelf nicht so richtig deutsch(AfD副党首ガウランド氏がドイツ代表イレブンをドイツっぽいと思わないと発言)
http://www.focus.de/politik/deutschland/parteien-afd-vize-gauland-findet-die-nationalelf-nicht-sehr-deutsch_id_5593682.html

D) Spiegel Online(2016年6月3日): AfD: Gauland kritisiert Mekka-Reisen von Beamten(AfDのガウランド氏、公務員はメッカに巡礼すべきでないと発言)
http://www.spiegel.de/politik/deutschland/afd-alexander-gauland-kritisiert-pilger-reisen-von-beamten-und-politiker-nach-mekka-a-1095675.html

E) Die Welt(2014年6月26日):Sollten alle deutschen Spieler die Hymne singen?(ドイツ代表選手は全員国歌を歌うべきなのか?)
http://www.welt.de/debatte/kommentare/article129454350/Sollten-alle-deutschen-Spieler-die-Hymne-singen.html

F) YouTube - Fußball WM 1974: BRD - DDR 0:1 (I) (W杯サッカー 西ドイツvs東ドイツ ダイジェスト版)
https://www.youtube.com/watch?v=mdVcwN4U8Lc

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