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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/05/20

海外報道で読み解く熊本地震(4)…助け合いの輪、ドイツ発→ハイデルベルク経由→熊本へ!

熊本地震から早一ヶ月が経ち、九州地区では新幹線や高速道路の再開やライフラインの復旧も進み、停止していた工場の再開なども報じられるようになりました。しかし、現在も多くの人々が自宅損壊に苦しみ、一万人以上が避難所生活を強いられています。この状況に対し、いち早くボランティアとして現地入りして活躍中の方もいることでしょうし、そこまでできない人の場合は、街角での募金活動に協力したり、はたまたスーパーに並ぶ熊本県産の野菜や果物などを見たら積極的に買うようにしたりと、みんながそれぞれの方法で少しでも被災地に貢献しようと考えていることでしょう。

そして、そのような気持ちは遠く離れたドイツ国民も同じ…特にお城で有名な某都市においては…というのが今回のテーマです。

以前のコラムでも述べたように、今回の熊本地震に関する海外報道を追っていくと、前震から本震へという時期にはテレビも新聞・雑誌も全国レベルで非常に大きく取り上げていたのが、4月23日頃を境にパタッと報道が止んでいることに気づきます(→海外報道で読み解く熊本地震(2)…ドイツでのキーワードは「火の輪」から「ファスナー効果」へ?)。それまでは環太平洋火山帯の活動活発化とその危険性をやたらと煽り立てる「火の輪(フォイヤーリング)」の大合唱だったのが、最近では日本の地震は経済イッシューへとシフトしてきています。登場する媒体も比較的マイナーな専門誌が多く、「トヨタ、ニッサンの工場が地震でストップ」「ホンダにも影響」(末尾文献A)に始まり、「ソニーは大打撃」「富士フィルム、ニコンに次いでキャノンも地震被害でデジタルカメラ市場に大きく影響」(末尾文献B)などの他、久々に大手新聞に登場した記事も「円高を恐れる日本…市場ムードの悪化には熊本地震の影響も」(末尾文献C)という具合に、日本経済の先行きを占う文脈で語られる傾向にあります。

それが、5月に入ってから、被災地の現状や今後の問題点などを国民の目線で捉えた読み応えのある記事を載せるメディアが遅ればせながら登場しました!それが、熊本市と1992年から姉妹都市提携を結んでいるドイツ・ハイデルベルク市の地元紙である「ライン・ネッカー新聞」です。以下の記事は、日本人である私たちにとっても重要な情報を多々含んでいると思うので、以下に引用し紹介します↓(青字は本文和訳、強調は筆者):

ライン・ネッカー新聞Rhein-Neckar-Zeitung(2016年5月4日):Heidelberger Partnerstadt Kumamoto traf es schlimmer als gedacht(ハイデルベルクの友好都市である熊本にとって、想定よりも深刻だった地震被害)
http://www.rnz.de/nachrichten/heidelberg_artikel,-Heidelberger-Partnerstadt-Kumamoto-traf-es-schlimmer-als-gedacht-_arid,189241.html
・Freundeskreis Kumamoto(「ハイデルベルグ熊本友の会」)のハンス-ユルゲン・ホヴォルト会長は5月1日の日曜日、地震から3週間弱の熊本市を訪問した。
・ホヴォルト会長からラインネッカー新聞宛の連絡によれば、「こちらは新幹線が復旧し、空路も復活、高速道路も再開通し、表面的には日常を取り戻しつつある街中のあちこちに見られるブルーシートや、崩れた屋根の上にかけられた雨除けのための防水シートを除いては」とのこと。
・今でも熊本では2万人もの人々が体育館や公共施設での避難生活を強いられている。1万世帯は未だ断水中で、1万5千世帯へはガスも来ない。家屋は2千軒が全壊、2千5百軒が一部損壊。市内唯一のデパートは閉店したままだ。ハイデルベルク大学病院と23年来の人的交流を続けてきた熊本市民病院も存続の危機にある…なぜなら、その建て直しには費用がかかりすぎるからである。
・会長曰く:「地震被害がひどかったのは古い建造物だけではない。今年の4月1日に落成したばかりの、市内で一番新しい学校は建物が使えない状態になってしまった」「多くの建物は玄関も窓も壊れ、扉は反れ返っている」
・しかし、被害は建物の見た目だけに留まらない。「多くの住民は地震保険に入っていない。家の建て替え費用を捻出するあてもない。子供たちはPTSDで不眠症になり、大人たちは小さな乗用車の中で寝泊まりしている」
・中でも、熊本市民を激しく落胆させているのは、熊本城の被害だ。熊本の人間にとっての熊本城は、ハイデルベルグ市民にとってのハイデルベルグ城以上の存在である。しかし、政府が「支援」を表明しているとはいえ、熊本城の再建の費用を誰が払うことになるのか、誰にも分からない。
・それでも、「助け合いの輪は広がっている」と会長は言う。「日本全国から駆け付けた何百人もの若きボランティアがあちこちにおり、公園にテントを張って野宿しながら頑張っている」
・そして、次はハイデルベルグの番だ。姉妹都市からのあらゆる支援は、”最高級の感謝”を以て受け入れられることだろう。ハイデルベルグ市役所には記帳台が設置された。そして、支援のための募金口座も開設された。口座情報は以下の通り。

(口座受取人): Stadt Heidelberg
(銀行名): Sparkasse Heidelberg
(IBAN): DE 15 6725 0020 0009 2572 25
(BIC): SOLADES1HDB
(Verwendungszweck使途): Erdbeben Kumamoto(熊本地震)

 

(上写真:ライン・ネッカー新聞記事から引用。熊本市内の神社をホヴォルト会長自身が撮影)

熊本地震の被害状況について述べられた記事は日本にもゴマンとありますが、熊本城を「ハイデルベルグ市民にとってのハイデルベルグ城を上回る意味を持つ城」と粋な比喩が出来るのは、さすが友好都市ハイデルベルグのローカル新聞ならではです!しかも、被害状況の描写もさることながら、「地震保険に入っていない市民が多い」という指摘は鋭く、被災者の置かれている苦境がとても他人事とは思えません。全国の地震保険加入率は1994年に9%だったのが2014年に28.8%となり、今回の熊本地震での保険金支払額が阪神淡路大震災を超え史上2位となったという報道が最近あったばかりとはいうものの、このペースで災害が続き保険金支払額が増えていったら、保険会社は商売になりません。東日本大震災後にドイツの保険会社アリアンツがいち早く日本から撤退したのは、こういう事だったのかと今更ながら理解しました。なお、5月15日の神戸新聞には、今回の地震で自宅敷地内の土台が崩れた男性が行政に相談した際に「支援の基になる被害認定の対象は建物そのもの。宅地は該当しない」との理由で「宅地は個々の所有。自分で直してください」と言われたケースが載っていました(末尾文献D)。こんなことでは、地方の一軒家になど恐ろしくて住めない、ということになり、シニア層の移住や若年層のUターンなどの話にも影響します。都市部の被害が中心だった阪神淡路大地震とは異なる熊本地震の問題点の一つとして、一刻も早い法整備によるこれらの人々の救済が望まれます。

なお、熊本市民病院が抱える問題も、このドイツの記事で初めて知りました。”(市の財政で)建て替え費用がまかなえないなら存続できない”という話がもし本当だとすれば、それはそれで一大事です。ということで検索してみたところ、代替地となる国有地へと移転新築の方針とのことで、何とか存続できそうな展開になってきているようです:

熊本日日新聞(2016年5月13日):熊本市民病院、移転新築へ 18年度完成目指す(以下、青字は本文から抜粋引用。強調は筆者)
https://kumanichi.com/news/local/main/20160513014.xhtml
・市民病院は地震後、重症の妊婦や新生児に対応する総合周産期母子医療センターの機能を停止。一部の診療しか再開できていない。市は短期間での再建に向け移転に踏み切る。
・移転先に検討しているのは、陸上自衛隊健軍駐屯地南側の国家公務員宿舎「東町北住宅」の敷地(3万5千平方メートル)。団地12棟のうち東側の9棟は利用されておらず、財務省が処分を検討している。
・移転先選定の理由:(1)災害時に協力できる自衛隊に近く、現在地(約1万4千平方メートル)より広い(2)空港やインターチェンジにも近い
・大西市長は「市だけでの再建は困難。国に財政支援を求める」としている。
・現在の市民病院は3棟で、34診療科目、556床。建物の耐震強度などが課題となり、現在地に建て替える計画だったが、事業費が膨らみ、昨年12月に計画見直しを始めていた。熊本地震では入院患者310人が転院や退院を余儀なくされた。


記事内にもあるように、熊本市民病院はそもそも昨年中に建て替え工事に着工する予定でした。それが、”東京五輪に向けた建設需要の高まりなどで人件費や建設資材が高騰”し”総工費の概算が209億円と当初の約1・6倍に膨れあがった”(末尾文献E)という理由で計画見直しとなった矢先の大地震だったというからビックリです。東京五輪に関しては最近になって招致活動にまつわる賄賂疑惑が噴出中なのはご存じの通りですが、まさかこの五輪招致が熊本の救急医療ひいては全国の周産期医療の一大拠点が壊滅的被害を受ける遠因となろうとは、招致活動当時は誰も予見していなかったはずです。一寸先は闇、とはこういうことを言うのでしょう。昨年1月当時の熊本の大西市長の「ここまでの建設費の増加は想定外。1、2年で高騰が落ち着くという情報もある。できるだけ早く結論を出したい」(同文献E)という発言が、今あらためて読み返すといかにも皮肉という他にありません。

なお、先ほどのハイデルベルグの記事にはもう一つ、大変重要な指摘があります。「市内で一番新しい学校ですら大損害を受けた」という部分です。結局は立地がポイントということなのでしょうが、それを言ったら活断層だらけの日本には安全な場所は皆無という身も蓋もない結論になってしまいます。日本の報道だけ見ていると「耐震基準を満たさない古い建物」以外はあまり被害がなかったのかと勘違いしてしまいそうな話になっているのも、そういう事情からかもしれません。それだけに、以前のドイツの記事でも述べられていたように、「(マグニチュード7の地震の震源となるような)活断層があなたの両足の真下にあったら、どんな耐震設計もひとたまりもない」という今回の地震の最大の教訓を、このハイデルベルグの会長さんはあらためて警告してくれているかのようです。(→海外報道で読み解く熊本地震(1)…今回の地震が異例とされる理由とキーワード「火のベルト」

この記事は、ドイツにいながら何かできないものかと思案していた私の心に大いに響きました。ハイデルベルグ市役所での記帳はもちろんのこと、この募金口座になら我が寸志を託すことができるのではないかと。人口4倍以上という大都市である熊本市に少しでも貢献しようという人口15万人の小さなハイデルベルグ市の姿勢が、この記事からはひしひしと伝わってきます。同じ「お城で有名な街である」というよしみでしょうか?地元の小さなローカル紙がこれだけ現地の声をしっかり反映させて情熱のこもった記事を書いてくれるハイデルベルグなら、そして、今話題のパナマ文書の公開に大きな働きを果たした南ドイツ新聞を擁する国でもあり、つい4年ほど前には現職大統領がカネの問題(住宅ローン金利の便宜供与疑惑)でそのクビがフッ飛んだドイツであれば、きっと熊本城の再建も含め、人々のためになる支援をしてくれるのではないかと期待します。「火の輪」が転じて「助け合いの輪」となるよう、祈りを込めて行ってこようと思います。


<参考文献>
A) Automobilwoche(2016年4月18日):Erdbeben in Japan: Toyota und Nissan stoppen zwei Werke(トヨタと日産が2工場をストップ)
http://www.automobilwoche.de/article/20160418/NACHRICHTEN/160419920/erdbeben-in-japan-toyota-und-nissan-stoppen-zwei-werke
(記事本文中には「ガラス天戸・ドア枠・ドアグリップなどの自動車部品を製造するアイシンセイキでは木曜日の地震で従業員が10名以上死亡した」という衝撃的内容が明記されているが、日本語媒体で裏が取れず真偽不明。工場は震源地に近い場所にあり、崩落の恐れで再開のメドが立たず、とも。今回の被害にあった九州地区は、トヨタにとってはレクサス組み立ての最大の拠点で、北米向けモデルCT, ES, RX, NXを製造。日産はこの地区では主にX-トレイル、ムラノ、ノート、ティアンナ、セレナを製造。ホンダは熊本で主に自動二輪を製造しているが、これも地震でストップした)

B) デジタルカメラマガジンdkamera(2016年5月7日):Erdbeben in Japan sorgt für Produktionsprobleme bei Kameras (日本の地震でデジタルカメラの製造に問題発生)
http://www.dkamera.de/news/erdbeben-japan-sorgt-fuer-produktionsprobleme-bei-kameras/
(富士フィルムではLCD液晶を製造する子会社が4月下旬まで製造ストップ。特にソニーの被害は甚大で、デジカメの液晶センサーの製造に影響。ニコンもクールピクスシリーズの一部新作の発売を遅らせる事態へ)

C) Frankfurter Allgemeine Zeitung(2016年5月2日):Finanzen(金融欄) - Japan fürchtet den starken Yen(円高を恐れる日本)
http://www.faz.net/aktuell/finanzen/devisen-rohstoffe/japan-fuerchtet-den-starken-yen-14210822.html
(この日、日経平均が3.1%マイナスとなる16147円へ下落、1ドル=106.7円の円高となり、麻生太郎財務大臣が介入を匂わす発言。景気判断の指標で50以下で悪化とみなされる購買担当者指数(ドイツ語ではEMI、英語ではPMI)が4月に49.1から48.2に低下した背景に、中国・台湾からの受注の減少の他に、熊本地震によるトヨタやソニーなどの生産拠点の被害もあると解説)

D) 神戸新聞(2016年5月15日):被災者支援制度 宅地被害は? 一部損壊は?
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201605/0009087035.shtml
(被害の大きかった熊本県御船町で日本災害復興学会(事務局・関西学院大災害復興制度研究所)が被災者を対象に支援制度の相談・説明会を開いたという記事。生活再建支援制度自体が「阪神・淡路の際にでき」たもので、「災害の度に見直されてきた」という)

E) 読売新聞(2015年1月23日):熊本市民病院建て替え延期
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20150123-OYTEW49694/
(「同病院は1946年に開業。79年完成の南館、84年に増築された北館、2001年に建てられた新館の3棟からなる。南館の耐震性が低いことなどから、市は南、北館を取り壊して新病棟を建設する計画を進めていた。屋上ヘリポートを備えた新病棟は、地下1階、地上12階建ての鉄骨造り。工事は、診療業務などを続けながら行い、20年度の完成を目指すとしていた」とのこと)

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