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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/05/13

海外報道で読み解く熊本地震(3)…地球温暖化と火山活動との関連性を指摘し続けるターゲスシュピーゲル紙

先月の熊本地震以降、今も九州地区では余震が続いているようです。5月7日の時点の気象庁の発表によると、4月14日以降の熊本・阿蘇地方と大分県中・西部における震度1以上の地震は計1300回を超えました。また、熊本地震の本震(4月16日午前1時25分)があった日は、同日午前8時半に阿蘇山の小規模噴火もみられました。ここから想像するに、前回および前々回の記事でも取り上げた、フランスでは「火のベルト(ceinture de feu)」、ドイツでは「火の輪(Feuerring)」と呼ばれる環太平洋火山帯の活動は、いまだに予断を許さない状況にあるとみるべきでしょう。(→海外報道で読み解く熊本地震(1)…今回の地震が異例とされる理由とキーワード「火のベルト」、→海外報道で読み解く熊本地震(2)…ドイツでのキーワードは「火の輪」から「ファスナー効果」へ?

それでは、このような地震活動や火山活動の活発化は、どうして起きるのでしょうか?そのあたりについて、ドイツのターゲスシュピーゲル(Tagesspiegel)という日刊紙が興味深い記事を掲載しています。とは言ってもこれは、熊本地震の影も形もまだなかった3年以上前の記事で、当時発表されたばかりの某学術論文の内容紹介に過ぎません。それを最近、熊本地震関連の報道をネットサーフィンしていた際、たまたまリンク先の一つとして見かけました。しかし、そんな古い記事が、今回の熊本地震とも決して無縁でない内容となっています。ということで、その記事を以下に要約して紹介します:

Tagesspiegel(2013年2月21日):Geoforschung : Erderwärmung macht Vulkane aktiver (地球温暖化が火山活動を活発化させる)(青字は本文和訳、強調は筆者)
http://www.tagesspiegel.de/wissen/geoforschung-erderwaermung-macht-vulkane-aktiver/7814346.html
・「地球表面が急速に温暖化すると、環太平洋火山帯は寒冷期よりもはるかに活発に活動するようになる…そのような内容の論文を学術雑誌”Geology”に発表したのが、ドイツ・キールのヘルムホルツ海洋研究センターのシュテッフェン・クッタロルフ(Steffen Kutterolf)氏である。
・そのメカニズムは以下の通り:気温が上昇すると氷河が溶けて海面が上昇する。すると、火山群に近接する地殻プレートにかかる圧力が変動し、辺縁の火山に対する噴火リスクを上げる。
・この理論の根拠となったのが、太平洋の海底で行われたボーリング。最初となった中米の海底サンプルには、1~15cmの火山灰が12層みられた。さらに調査対象をアラスカ、アリューシャン、日本、ニュージーランドなどに広げてサンプルを増やし、これらの火山灰層の年代を鑑定した。その結果、太平洋の火山活動は明らかに特定の時期に集中していることがわかった。それは、地球が氷河期から急激に温暖期に移行する時期である。
・地球温暖化と火山活動の活発化との関連性はアイスランドでもみられたが、その機序は環太平洋の場合とは異なる。アイスランドでは氷河期末期からの急激な気温上昇のあった1万2千年前は、今よりも火山活動が30~50倍だった。その理由は「氷河期に氷河の重量が直下のプレートに圧力となってかかっていた→氷河期から温暖期へと急速に移行し氷河が急速に減少すると、プレートにそれまでかかっていた圧力が下がる→地底深部の温度とは無関係にプレート下のマグマが増える→上昇圧力で噴火する」というもの。
・ただし、昨今の地球温暖化により今後の地球で火山活動の活発化が見られるようになるかどうかについては、クッタロルフ氏は懐疑的である。理由は、「現代は前回の氷河期末期と比べると氷河の量がはるかに少なく、当時の120cmといわれた海面上昇の半分も達成されない」、さらに「氷河期から温暖期に移行してから火山活動が実際に倍になるまでには約4000年かかる」という。
 

 
(写真は噴火中のチリのPuyehue火山)

記事の中に、「アイスランドの火山噴火はプレートにかかる圧力が減ることで多発し、環太平洋の火山噴火はプレートにかかる圧力が増えることで多発する」、つまり、火山噴火のメカニズムが真逆となっているという記述があります。しかし、どうして真逆となるのかについては、記事内に説明がありません。しかし、この部分は重要なので、説明のために前々回のコラムで引用したフランスのニュース映像に再登場してもらいましょう↓。


(2016年4月17日、フランス2で放送された13時のニュースから引用。茶色は太平洋プレート、その左の緑はフィリピンプレート)

この映像の中から、ヨーロッパ周辺を抜粋してみました↓。

 中央にスカンジナビア、その左手下方にイギリスとアイルランドが見えます。さらにその左側のギザギザと走る白い線をまたぐように存在する白っぽい島がアイスランドです。白線の向こう側にはグリーンランドが見えます。このグリーンランドを含むプレートの正式名称は「北アメリカプレート」で、イギリス等があるのがご存じのユーラシアプレートです。

アイスランドは確かに北アメリカプレートとユーラシアプレートの境界線上にあり、2010年4月14日の火山噴火に際しては、領空封鎖の影響で10日以上にわたりヨーロッパの交通機能が大混乱を来したのは記憶に新しいところです。ここで重要なのは、この両プレートの境界にかかる力の向きが、環太平洋領域のプレート境界とは真逆であることです。つまり、太平洋プレートは周囲のプレートと衝突してその下に潜っていくのに対し、ユーラシアプレートと北アメリカプレートは互いに離開する方向に動いているのです。だからこそ、境目の直上に陣取る氷河がその離開を食い止める重しとして抑え込むように機能していたのが、急激な温暖化でその重しが軽くなれば、プレートが動いて火山の噴火が活発化するという理屈です。

この記事のもう一つのポイントは、地球温暖化と火山活動活発化の2つの事象の相関は「あくまでも”長い目でみれば”」という条件付きであることです。何せ効果が現れるまでに4000年と言うのですから、現代の温暖化を熊本地震と短絡的に結びつけることはできないのは明らかです。ただし、記事冒頭には、現代の地球温暖化が”近い将来”に火山活動の活発化を絶対もたらさないのかというと、そう断言することもできない(Ob der Effekt auch in naher Zukunft spürbar ist, bleibt offen)、とも明記されています。少なくとも、今年の4月に入って規模の大きい地震が立て続いた熊本・エクアドル・タヒチといった環太平洋火山帯という世界的に恐れられているこのゾーンについて、今後の予測を立てる際には「昨今の温暖化」についても注視する必要があるでしょう。

となると、個人的に思い出されるのが、今年の2月が観測史上初となる記録づくめの異例な暖冬だったという、比較的最近同じターゲスシュピーゲル紙に掲載された記事です↓:

Tagesspiegel(2016年3月18日):Februar war weltweit wärmster Monat seit 1880(今年の2月は世界中で1880年の観測開始以降で最も温かい2月となった)(青字は原文和訳、赤字は本文にない筆者注釈)
・アメリカ海洋大気局NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration:←海のNASAとも呼ばれる)は、これまでの最高値だった2015年2月を0.33℃上回り、地球規模における今年の2月の平均気温が観測史上最高だったと発表した。
・NOAAは1880年に観測を開始。今年の2月の平均気温は、20世紀の平均気温である12.1℃を1.21℃ほど上回り(←つまり13.3℃程度)、それまでの最高記録だった2015年12月をも0.09℃上回る、観測史上最高記録となった。
・今回の2月の数字で、世界の平均気温は10か月連続上昇していることになる。
・今回の記録が史上最高となった理由は、第1に地球温暖化、第2にエルニーニョ現象であると、ドイツ気象局DWD(Deutscher Wetterdienst)のアンドレアス・フリードリヒ(Andreas Friedrich)氏は言う。エルニーニョ現象は主に太平洋の熱帯地域でみられ、今後数週間はまだ影響を及ぼし続ける見込み。地球全体としての温暖化も進行中で、「今後も記録は破られ続けるであろう」とフリードリヒ氏。
・ヨーロッパに限定するなら、今年の2月の平均気温は史上2位の高さ(1位は1910年2月)で、フィンランドなど北欧や中欧では異例に多い降水量を記録。
・ドイツに関しては、今年の2月の平均気温は1961年から1990年にかけての平均気温よりも3度高く、1981年から2010年にかけての平均気温よりも2.4度高かった。


ここで出てきたドイツ気象局DWDといえば、見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。2011年3月11日の東日本大震災とそれに引き続く原発事故があって以降、福島からの放射能拡散予想を同年7月末まで配信しつづけた、日本でいう気象庁にあたるドイツの組織です(→緊急寄稿(4)…ドイツの天気予報に起きた異変)。当時、拡散予想の公表終了直前になって、多くの日本の方々から「配信を辞めないで!」というおびただしい数のメールがDWDおよびドイツ大使館関係者に届き、関係者一同は多大な驚きとともに大変心を動かされたのだそうです。しかし、ドイツ国民の血税で運営しているサービスである以上、継続は困難であり、その経緯は後に報道ステーション(テレビ朝日)でも報じられました。

 

(2014年9月8日オンエアのテレビ朝日「報道ステーション」より。番組内でDWDは「ドイツ気象庁」と訳されていた)

話は戻りますが、今年の2月のドイツは確かに異例の暖冬でした。うちの近所でも、雪は降ったとしてもあっという間に溶けてしまい、冬用タイヤに換え忘れた人も結果オーライだったのみならず、街を歩けば木々が芽吹いているではありませんか!私がドイツの小学校の頃など、冬はクロスカントリー用スキーで登校していたことも良い思い出だったのに…!そして何よりも、そんな暖冬に対する近所のドイツ人の方々の感想コメントがこれまたみんな異口同音に同じフレーズで、ますますドイツ的な印象を与えるのでした↓:

2月に木々が芽吹くなんて…コリャ、この世の終わりかな」(Frühlingssprossen in Februar! Das ist ja der Weltuntergang!)

日本人の感覚では、2月だろうが1月だろうが、木に新芽が萌出してきたら「まあ、もう春の到来ネ!」と心躍ることはあっても、「もう新芽だなんて、地球滅亡は近い!」などという感想を持つ人はあまりいないのではないかと思います。これぞ、以前のコラムでも取り上げた、心配性のゲルマン民族の真骨頂でしょうか?(→緊急寄稿(5)…「German Angst」から「民族大移動」へ

さて、そのターゲスシュピーゲル紙ですが、最近このような記事も出してきました:

Tagesspiegel(2016年4月24日):Wie Vulkane das Klima verändern(火山活動がどのように気候を変動させるか)
http://www.tagesspiegel.de/wissen/treibhaus-effekt-durch-vulkanausbrueche-wie-vulkane-das-klima-veraendern/13493692.html
・溶岩・ガス・火山灰を噴出する火山活動は、地球における気候変動に直接影響を与える恐れがある。それも、噴火から数年間程度というスパンのみではなく、何百万年にもわたって。そのような内容の論文を、アメリカ・イェール大学のライアン・マッケンジー(Ryan McKenzie)氏が学術雑誌サイエンスに発表した。
・彼らが調査したのは、地層内に堆積するジルコンという成分(←ケイ酸塩鉱物の一種でウランやトリウムを含む)放射性があるために地層の年代測定が可能。解析の結果、温暖期とされる5.4~4.8億年前のカンブリア紀や2億~6600万年前のジュラ~白亜紀にかけては、その時代固有の新しいジルコンが多くみつかるのに対し、寒冷期の地層からはその時代よりも古いジルコンしか見つからない。
・その理由をマッケンジー氏は「長期にわたる活発な火山活動により、二酸化炭素が大量かつ長期に放出され、地球全体に温室ガス効果をもたらすため」と説明する。さらに、「温暖期において火山活動により地表へと噴出した溶岩は、その後急速に風化が進む際に大気中の二酸化炭素を吸着する。すると、噴火により上昇した二酸化炭素ガスが今度は現象へと向かい、次第に寒冷期へと移行し火山活動も鎮静化していく」という。

アレレ、さっきは「急速な地球温暖化が火山の噴火をもたらす」という論法だったのが、この記事では「火山の噴火が地球温暖化をもたらす」に逆転しています。これぞまさに「卵が先か、ニワトリが先か?」の世界でしょうか?さらに、そのメカニズムとして、それまで文中に出てこなかった「二酸化炭素」が唐突に登場し、その濃度のアップダウンで全てを説明しようとしています。

しかし、地球温暖化と二酸化炭素濃度の関係の方もまた、実際には「卵が先か、ニワトリが先か?」である可能性はないのでしょうか。例えば、現代に限って言えば二酸化炭素濃度はむしろ世界人口の爆発的増加による人間活動の増加と相関していたりとか、昨今の地球全体の温暖化はむしろ太陽の活動の活発化といった外的要因の方が強かったりというように、別の事象がたまたま同時に起きているという可能性や、はたまた何か別の事象が間にはさまっている可能性などはないのでしょうか?そして、100万年が”ほんの一昔”、4000年に至っては”ほんの一瞬”と思えるほど壮大な時間軸を前提とするこの学問に照らし合わせてみると、現代はそもそもどのフェーズに相当するのか…。もし、ある事象の効果判定にそれこそ中国の歴史に匹敵する4000年の歳月を要するのだとすれば、今のこの瞬間に私たちが経験している大小様々な異常気象や天変地異は、どれがどの時代に起因するものなのか…。ターゲスシュピーゲル紙が同様の記事を今後も続けるのであれば、これまでの記事ではあまり詳しく言及がなかったその辺りも含め、私のようなシロートにも分かるように説明してもらいたいところです。

いずれにしても、先月の熊本地震以降、海外報道では「環太平洋火山帯の活発化」をテーマとする地質学や気象学の専門的内容を発信する記事が雨後の筍のように激増した感があります。それも、ドイツメディアに限って言うならば、今回ご紹介したターゲスシュピーゲル紙の健闘がダントツで光っています。余談ながらこのターゲスシュピーゲル紙、ロゴの一部にもなっているそのモットーがラテン語で”Rerum cognoscere causas”、つまり「ものごとの原因を理解する」というもので、まさに同紙にピッタリです!”まだよくわかっていない地球や宇宙の神秘”のようなテーマを、一般向けに分かりやすく且つ正確に記事化することは決して簡単ではありませんが、ターゲスシュピーゲル紙には今後もその方面での意欲的な記事をどんどん発信していってほしいと期待しています。


<参考サイト>
Wikipediaドイツ語版 - Der Tagesspiegel
https://de.wikipedia.org/wiki/Der_Tagesspiegel

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