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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/04/22

海外報道で読み解く熊本地震(1)…今回の地震が異例とされる理由とキーワード「火のベルト」

皆様もご存じの通り、4月14日夜を皮切りに熊本・大分を中心に地震が続いています。最初のマグニチュード6.2(※末尾註)の地震も十分に大きな規模のものでしたが、余震がひっきりなしに続く中で4月16日の未明に南阿蘇村等で起きたマグニチュード7.0(※末尾註)の地震は、”本震に引き続くより小さめの余震”というこれまでの先入観を大きく裏切る、誰も予想できなかったものでした。前者の余震と考えられていた後者が「本震」へ、前者が「前震」へと後日呼び変えられるようになったこと自体、今まであまり経験したことのない異例の事態ではないでしょうか。当稿作成時点での報道によれば、すでに42名の尊い命が奪われ、現地では住民のみならず観光などで滞在中の方々も、建物や道路などの被害や水・食料などの物資・インフラの不足の中で不自由な生活を強いられているということで、心が痛まずにはいられません。このただならぬ震災を受け、先週スタートした連載は一旦中断し、今週からはしばらく地震関連の記事に差し替えることにします。

思えば、ちょうど五年前の今頃も、同様の理由で連載を差し替えたことがありました。2011年3月11日の東日本大震災当時ヨーロッパにいた私は、自身の体験や現地で見聞きした報道をまとめて当サイトで長らく報告を続けさせていただいたものでした。(→緊急寄稿…”SEISME DU JAPON”の衝撃、→緊急寄稿(2)…さらに衝撃的だった”ERDBEBEN IN JAPAN”、→緊急寄稿(3)…今度は”Super-GAU”の大合唱、→緊急寄稿(4)…ドイツの天気予報に起きた異変、→緊急寄稿(5)…「German Angst」から「民族大移動」へ、→緊急寄稿(6)…「ツェンカータ」に思う国際報道の難しさ、→緊急寄稿(7)…ブロックされたハリウッド映画『HEREAFTER』、→緊急寄稿(8)…ブロックされなかったハリウッド映画の共通点、→緊急寄稿(9)…映画『DEJA VU』が日本へ発するメッセージ、→緊急寄稿(10)…アップルジュースに起きた異変、→緊急寄稿(11)…現在の全日空アップルジュース事情、→緊急寄稿(12)…国難の中でのセンバツ

さて、今回の熊本地震が「本震→余震」ではなく「前震→本震」に変更されたという観点からも、今回はこれまでのパターンとは異なる地震であるという印象を多くの方が抱いたのではないかと想像します。しかし、この地震と連動するかのように起きた他国の地震について、そして、今回の地震の背景について、詳しく掘り下げた報道は日本語圏ではあまり見かけないように思われます。果たして今回の熊本の地震は何らかのシリーズの一環なのか、それとも単独事象?今後もっと大きな地震が起きる可能性は?そのあたりをとても分かりやすく説明してくれる記事をフランスのル・モンド紙で見つけました。原文はとても長いので、以下に日本に関する部分を中心に抜粋和訳して紹介します↓。

Le Monde(2016年4月17日初出、4月19日修正更新):Japon et Equateur : des séismes indépendants, dans une zone très active (日本とエクアドル:一つの活発なゾーンに発生した二つの別個の地震)
http://www.lemonde.fr/planete/article/2016/04/17/seismes-au-japon-et-en-equateur-des-evenements-independants-dans-une-zone-du-pacifique-tres-active_4903809_3244.html
4月14日および4月16日に日本の九州で起きた地震(マグニチュード6.2と7.0)は死者42名(記事掲載時点)、負傷者が千人以上。4月16日のエクアドル地震(マグニチュード7.8)は死者は413名以上、負傷者2000人以上。そして、4月17日にはトンガでも地震(マグニチュード5.8)が発生。となると、気になるのは、これらが連鎖反応のような一連のものなのか、それとも互いに無関係なのか、である。
・「地球上の全ての火山の80%は環太平洋のゾーンにある」と、パリ地球物理学研究所(IPGP)のパトリック・アラール氏は言う。このゾーンは太平洋の「火のベルト」(la ceinture de feu du Pacifique)と呼ばれる(下写真)。
・九州地方では4月14日21:26にマグニチュード6.2の地震が発生。さらに400回以上の余震が続き、4月16日1:25にはマグニチュード7.0の地震が発生。マグニチュードが1ポイント上がるとエネルギー量は30倍となることから、専門家は最初の地震を本震ではなく「前震」(précurseur)へと呼称を変更とした。
・今回の一連の地震は、九州を横断する断層と関係がある。この断層は、2011年3月11日の東日本大震災を引き起こした2つのプレート(太平洋プレートとユーラシアプレート)の境界部に相当する断層とは別個のものである。今回は、「日本列島に沿って副次的にできた断層」が関係していると、IPGPのパスカル・ベルナール氏は言う。1995年の阪神淡路大震災もこの断層と関係している。
・九州地区では、フィリピンプレートが(ユーラシアプレートにつながる小プレートの)アムール・プレートの下にもぐっている。ここ数日の地震は、この部分に急激な変化が起きたことによる。
・日本のような地震に慣れているはずの国で今回ここまでの物理的被害が出たということは、震源が非常に浅い、つまり地殻表層を走る断層であったことを意味する。「耐震建築で被害を最小限に抑えようとすることは出来ても、マグニチュード7の地震の震源があなたの足の真下にあったり、建造物が古かったり強度が足りなかったら、ひとたまりもないと、ベルナール氏は言う。
・日本とエクアドルとトンガで起きた地震は、互いに因果関係はない。「(火のベルト全体からみればこれらの地震の)影響はごくわずか。言うなれば、いかにも崩れそうな断崖絶壁に向かって小石を投げつけるようなものだ」とパスカル・ベルナール氏は例える。
・この広い”火のベルト”において、大地は揺り動くことをやめないのは明らか。「今後、週の単位で余震が続くことを覚悟し、月の単位で観察を続けるべき」とベルナール氏。今回の日本の地震の教訓は、「後から起きる地震が前震よりも大きいことがある」ということで、「今後、もっと大きな地震が襲ってくる可能性があるかと聞かれたら、確率としては低いが、可能性はある」のだそうだ。

 


上の図は、上記記事からの引用です。赤い丸は今回の日本/エクアドル/トンガの地震の震源地、黒い線がプレートの境界、太い矢印はプレートの動く方向、黒い三角が活火山の位置を意味します。そして、太平洋を取り囲むように走行する赤い帯状の領域が、記事の本文中に何度も出てくる「火のベルト」(la ceinture de feu)です。

それにしても、このル・モンドの記事はなかなか読み応えがありました。日本の報道とはまた違った切り口で、日本語では「環太平洋火山帯」と訳される「火のベルト」についての疑問やエクアドル・トンガの地震との関係、東日本大震災よりも阪神淡路大震災の方が関連が深そうだという指摘など、言われてみなければ自分からは考えることがなさそうな話が満載です。

また、「どんなに耐震設計や安全対策などを万全に講じても、マグニチュード7の震源地が自分の足のすぐ真下にあっては意味がない」という指摘は実は大変重要で、これはどうみても稼働中の原子力発電所を牽制した文章のようにしか読めません。このような指摘が原発大国フランスから出てくること自体が驚きです。本来なら、震源地の近隣の原発をどうするかという判断に大きく関わってしかるべき指摘にもかかわらず、フランスの専門家なら鳴らすことが許される警鐘が日本の専門家からは全く聞こえてこないのだとすれば、それはそれで問題かもしれません。さらに、大きな地震が来る可能性についての「確率は低いが可能性はある」(La probabilité est faible, mais elle existe)という専門家の返答も、これまた以前紹介した「お手伝いに参上しました」(Voilà on vient vous donner un coup de main)のお医者さん同様、一度でいいから言ってみたいフレーズです。(→パリの同時多発テロの際に話題となった「ホワイトプラン」って何?

話は戻りますが、震源が浅いということについては、ドイツのシュピーゲル誌も疑問を投げかけていました。この地震を”ungewöhnlich”(普通でない、異例・異常な)という形容詞で表現したこの記事では、以下のような指摘がありました↓。

Spiegel Online(2016年4月16日): Japan: Weitere Todesopfer bei starkem Nachbeben auf Kyushu (日本:後から起きた地震でさらなる犠牲者)
http://www.spiegel.de/panorama/japan-toten-und-verletzte-bei-beben-auf-kyushu-a-1087572.html
・米国地質調査所(USGS)のジョン・ベリーニは、「これからの数日間で、同様の規模の地震が(九州で)再び起こったとしても不思議はない」と言う。九州には車・鉄鋼・船舶など、数多くの重工業の拠点がある。
・日本の南西部で地震が起きるのは、(太平洋の)フィリピンプレートがユーラシア大陸の下に潜るように年間6cm沈んでおり、そのプレートの引っかかりに伴い貯められた張力が地震によって解放されるからである。USGSによれば、今回の九州の地震は異例のものとされている。というのは、この地区の地震は通常なら下に沈むフィリピンプレート側に震源があるためにある程度の深さがあるが、今回の地震はいつもと異なり、上に押し上げられたユーラシアプレート側で起きているために震源が浅い。

このように説明されれば、マグニチュードの数字の割に被害状況が甚大である理由も納得です。陰謀論好きな人が喜びそうな論理展開に読めなくもないのが微妙ですが、これまた短いなりに重要な指摘を含む興味深い記事であることに変わりありません。

さて、このシュピーゲル誌の記事が出たあたりから、ドイツメディアが妙に乱発するようになった単語があります。5年前の3・11の際にドイツで起きた「スーパー・ガウ」の大合唱については以前記事にしたことがありましたが、この単語も今回の地震を境に似たような大合唱の状態にあり、今やドイツで知らない人はいないと言っても過言ではないでしょう。その割には日本でまるで話題に上らないこの単語について、来週あらためて紹介したいと思います。


(フランス2の13時のニュースより。茶色が太平洋プレート、その左の緑がフィリピンプレート、右の紫がナスカプレート。さらに熊本とトンガとエクアドルの位置を踏まえて見ると、位置関係が分かりやすい)


(※註)地震のマグニチュードは、日本の気象庁発表の数値とUSGS(US Geology Service)の発表する数値があり、これらは必ずしも一致しません。本稿では引用するメディアが採用する数値を記載しており、今回はいずれも海外メディアの記事であることから、いずれもUSGS発表値となっています。

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