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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/04/15

毎週誰かが公開懺悔?究極の”不寛容時代”を生きる(1)…バトミントンの田児選手と桃田選手の場合

2016年といえば始まってからまだ1/3も経過していませんが、今年ほど芸能人やスポーツ選手の”公開懺悔”とも呼ぶべき記者会見の多い年も珍しいかもしれません。年始早々にワイドショーを席巻したタレントのベッキーの「ゲス不倫」の謝罪会見当時は、それが単に「懺悔の連鎖」のトップバッターに過ぎなかったと後々判明しようとは、全く想像できませんでした。以降、SMAPの解散騒動に際して「公開処刑」とまで揶揄されたメンバーの生放送での謝罪、海の向こうではテニスのマリア・シャラポワ選手がドーピング陽性で謝罪会見、さらに昨年のプロ野球の野球賭博疑惑が発覚した読売巨人軍の「第四の男」こと高木京介投手のまるで子供のように涙をボロボロ流しながらの生中継での謝罪会見、そしてつい最近ではご存じの通り、バトミントンの田児賢一選手と桃田賢斗選手(ともにNTT東日本)の闇カジノでの違法賭博疑惑による謝罪会見といった具合に、毎週のようにどこかで誰かが涙の謝罪会見を開いている始末です。こんな年はそうそうあるものではなく、わが人生の記憶に強く残る一年となるであろうことはまず間違いなさそうです。

特に、今話題をさらっている日本バトミントン界のトップ選手による闇カジノ賭博報道は、よりによってリオデジャネイロ五輪直前というこのタイミングで、確実視されていたリオ五輪出場の機会を桃田選手から奪ったという点でも衝撃的でした。ドイツ語圏でもチラホラと紹介されたこのニュース、一番詳しく報じたのはスイスのチューリッヒの地方紙であるターゲスアンツァイガーでした↓。


(写真脚注:記者会見でモモタはカジノへの出入りを認めた。これは日本では違法行為にあたる。このため彼は代表チームから除外された)

Tages-Anzeiger(2016年4月12日):Olympiatraum im Casino verspielt (カジノで台無しにしてしまったオリンピックの夢)(青字は本文からの和訳であって筆者の見解ではない。強調は筆者)
http://www.tagesanzeiger.ch/sport/weitere/Olympiatraum-im-Casino-verspielt/story/17444095
・21歳のケント・モモタ(桃田賢斗)は日本ではスーパースター。バトミントンでは世界ランク2位、昨年8月の世界選手権では日本選手初メダルとなる銅メダルの快挙、そして来たるリオ五輪でも優勝候補の一角とみられていた。
・しかし、その夢もパーになってしまった。同じバトミントンのケンイチ・タゴ(田児賢一)とともに、日本では違法であるカジノに出入りしたからである。
・26歳のケンイチ・タゴは五輪出場経験もあり、長く日本の第一人者だったが、規律違反(Disziplinlosigkeiten)のかどで2015年10月、日本代表チームから外された。カジノへは60回以上出入りし、10万スイスフラン弱も負けた。そして、練習にも身を入れなかった。日本代表監督のPark Joo-bong(朴柱奉)は、彼がチームにマイナスの影響を与えることを懸念していたが、その思惑は見事に裏切られたことを、タゴたちの謝罪会見は物語っていた。
・記者会見でタゴは号泣、「自分はどうなってもいいからモモタにチャンスを」と訴えた。モモタも、「カジノ合法国で初めて行って以来、カジノに対する誘惑はどんどん大きくなっていった」と語った。彼のカジノでの負け額は5千フランで、店員(von einem Angestellte)の密告で発覚した。
・この事件は日本では国家の大事件(Staatsaffäre)のように大きく報じられている。日本の文部科学大臣(Kulturminister)馳浩は「スポーツには、メダルを獲るよりも大切なことがある」と息巻き、五輪担当大臣(Olympiaminister)の遠藤利明も「これはオリンピック精神に対する裏切りだ。モモタのカジノ訪問が事実なら、日本代表には100%推薦できない」と、取り付く島もない(wenig nachsichtig)態度を示した。

 (写真脚注:モモタの同僚のタゴが記者会見で涙にくれた。彼がモモタをカジノ遊びへと誘った)

このTages-Anzeigerは、スイス・チューリッヒおよびその近郊で販売されている日刊紙です。ドイツ語で書かれたその内容は、基本的には日本で連日見聞きするものとさほどの差はありませんが、中には日本ではあまり報じられていない話も出てきます。例えば、田児選手は昨年10月に「日本代表を(自ら)辞退した」と日本では報じられていたはずですが(下記の毎日新聞記事参照)、このスイスの記事だと「ナショナルチームへの悪影響を懸念した代表監督の意向を受け、代表から解任された」という意味に受け取れる文面となっています。また、1年以上も前の田児・桃田両選手の賭博の話がどうして今頃、それもどのような経緯で漏えいしたのかについては、日本ではあまり詳報を見かけませんが、この記事では「店員の密告による」と明言されています(単に本原稿作成時点でまだ私の目に触れていないだけで、本稿掲載時は日本でも報道が追加されているかもしれません)。とは言っても、その前の大相撲やプロ野球における賭博問題が今回の一件の伏線となっているであろうことにまでは触れておらず、さすがにスイスの地方紙にそこまで期待するのは酷というものでしょうか。

私個人としては、上述のスイスの記事の中で最も心にズシリと響いてきたのは、最終段落で五輪担当大臣の姿勢について表現した”wenig nachsichtig”というフレーズでした。”wenig”が「わずか、ほんの少し」、”nachsichtig”が「寛大な、思いやりのある」という意味なので、先程は「取り付く島もない態度」と意訳気味に訳しましたが、直訳するならズバリ、「不寛容」となります。紙面からは、執筆したスイスの新聞の記者がこの処分を明らかに厳しすぎると感じていることが行間からプンプンと匂ってきますが、そもそもカジノは欧州発祥ですし、ドイツにもスイスにも公営カジノはいくらでもあります。スイスの場合、1920年に国民投票でカジノが禁止された際も公営カジノは認められており、1996年からは国民投票結果を受けてカジノ解禁となり、今では民営カジノの方が多数派となっています(末尾参考サイト参照)。チューリッヒ湖畔にも有名なカジノがあるくらいですから、今回の日本の騒動の記事は少なくともチューリッヒの読者から見れば何のことやらサッパリ理解できないことでしょう。

今回は田児選手や桃田選手たちが出入りしていたのが”非合法”の賭博場であったことが問題であり、これがパチンコや競馬に宝くじという話だったら、そもそもこの騒動自体が起こりえなかったはずでした。しかし、それなら合法賭博だったら何をどれだけやってもオッケーかというと、確かに法的にはそうかもしれませんが、スポーツの現場の理屈は簡単ではありません。そのあたりを図らずもうまく説明してくれているのが、以下に紹介する毎日新聞の記事です。これは両選手の賭博疑惑が判明する2ヶ月近く前に書かれた少し古い記事ですが、以後の経緯を一通り知った私たちが今になってこの記事を読み進めていくと、まるでタイムトラペルをしているかのような不思議な感覚にとらわれ、記事の全てが何かの暗示なのではないかと思う程、勝手に深読みせずにはいられません↓。

毎日新聞(2016年2月18日):バドミントン - 孤高の26歳田児賢一 全英オープンに挑戦
(青字は全て本文からの抜粋引用。強調は筆者)
http://mainichi.jp/articles/20160218/k00/00e/050/191000c
・バドミントンのロンドン五輪代表で、昨年10月に日本代表を辞退した26歳の田児(たご)賢一(NTT東日本)が大舞台に再び挑もうとしている。3月開催の伝統の全英オープンにエントリーする予定だ。
・今月14日の日本リーグ最終戦。リオでの金メダル獲得を宣言するチームの後輩、桃田賢斗に懸命にアドバイスする姿があった。(中略)「最近、田児さんと一緒に練習する機会が多くなった」と語る様子はどこかうれしそうだ。
・(中略)昨年1月初め、田児の世界ランキングは日本選手最高の8位だったが、6月には30位台に急落。練習をしたくても体が思うように動かない。朝走ろうと思っても、ベッドから起き上がれない。
・昨年、不振の田児と入れ替わるように輝きを放ったのが5歳年下の桃田だ。(中略)だが、桃田が名実ともに田児を超えるにはもう一つの壁がある。田児は、まだ桃田が一度も勝ったことがない林丹(中国)、リー・チョンウェイ(マレーシア)、※龍(中国)の「3強」全員に勝利した経験を持つ。(※は言ヘンに甚)
・国際大会から遠のき、田児の世界ランクは現在60位台。代表を辞さなければ、五輪も狙えたはずだが、悔いはない。「これが俺の生き方だから。だが、世界と戦おうと思ったら難しい道に行くしかない」。


田児選手の世界ランクが2015年1月の時点では何と日本人最高位の8位だったということに、まず驚いてしまいました。そこまで絶好調だった選手が同年6月までの半年弱の間に一気に30近くもランクを落としたというのだから、ちょうどこの闇カジノの閉店(摘発?)に伴う周辺環境の変化や身の不安が時期的に重なっているという可能性はどうでしょうか。また、危険な違法賭博に引きずり込まれながらも桃田選手が田児選手を尊敬することを辞めなかった理由が、(自身が一度も勝ったことが無い)世界の「3強」選手全員に勝利した経験にあるということも、この記事を読んで妙に納得できました。そして、賭博から抜けられない自分を奮い立たせてまでも現役続行にこだわった田児選手の「全英オープン挑戦」は1回戦敗退に終わり、その後の違法賭博発覚、号泣会見、連盟からの無期限資格停止、さらに所属するNTT東日本の解雇へとつながっていくのです。

なお、以前からの読者の皆様は、当サイトでバトミントンについて取り上げたことがあるのを覚えていらっしゃいますか?林丹(中国)とリー・チョンウェイ(マレーシア)の2強時代の真っ只中で迎えた2012年ロンドン五輪について、ドイツのバトミントン事情を盛り込んで解説したドイツの新聞記事を和訳して紹介したものでした(→ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012 (12)…マレーシアのスーパースターと大食いの怪物クンの共通点)。また、この林丹選手と奇遇すぎるニアミスとなったマカオでの『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)の本選ロケも懐かしい限りです(→大食い本選マカオ回想録(1)…まるで芸能人!マカオで見る「国家金牌運動員」の迫力)。このロンドン五輪で中国は実に38個もの「金牌」(金メダル)を獲得したものでしたが、今年のリオ五輪のメダル争いは果たしてどのような勢力図となるのか、我らが日本や私の住むドイツはどこまで上位に食い込めるのか、楽しみにウォッチしたいと思います。

 
(ロンドン五輪バトミントン男子シングルの決勝戦Gold Medal Matchは両者一セットずつ取ってがっぶり四つの状態。名前の表記がマレーシアのリー・チョンウェイはCHONG WEI LEE、林丹がLIN DANと、姓名の順序が逆になっている。今年のリオではどう表記されるかにも注目したい)

なお、今回のバトミントン選手に対する処分は両選手ともダメージの大きい、とても後味の悪いものとなりました。ただし、スイスとは異なり、合法カジノのない日本ではカジノがそのまま裏社会へとつながっていること、もっと言えば、日本における芸能やスポーツといった興行の世界は元々そのような世界とのつながりが歴史的にも深いということを、前提条件として忘れてはいけません。特に、プロ野球の場合は「黒い霧事件」で永久追放となった若き有望なプロ野球選手か何人もいたという歴史を経験しており、裏社会との黒い交際にまつわる疑惑には特に敏感とならざるを得ません。今回のバトミントンも、企業スポーツでもあるという観点からみても、かつての野球界の「黒い霧事件」並の大鉈(なた)が振るわれたことは、そのタイミングから言っても避けようがなかったことでしょう。

ちなみに、大学野球の世界にも、今回の桃田選手と全く同じ「勝負の世界に生きているから賭け事で勝負勘を鍛える」という口実を自分に言い聞かせながら、午前の授業をサボってパチンコに通いつめる人が少なからずおり、挙句の果てに単位を落としたり留年したりするケースもよく耳にします。そんな話を聞くたびに、ギャンブル依存症の芽をスポーツ界に広く仕掛けるようなこの「勝負勘を養う」という決まり文句の無邪気な罪深さに対して怒りすら覚えます。

闇カジノのバカラがダメでもパチンコならOKで、宝くじやサッカーくじなどの政府が胴元となる公営賭博であればむしろ国を挙げて奨励されるというこの国のあり方について、国民はどこまで納得しているのでしょうか。そして、合法と非合法の線引きをどこに置くべきと考えているのでしょうか。日本全体が不寛容の大波に飲まれ、どんな微罪であってもさらし首同然の公開謝罪を強いられるような国へとエスカレートしてしまう前に、国民一人ひとりがきちんと議論を重ねることから逃げるべきではないと、今後も桃田選手のようなケースが報じられるたびに私は問い続けることでしょう。


<参考サイト>
公益財団法人 日工組社会安全研究財団:スイスにおけるカジノ規制制度に対する実態調査(←PDF注意)
https://www.syaanken.or.jp/wp-content/uploads/2012/05/g14310p47-51.pdf

毎日新聞(2016年3月9日):西本拳太が本選進出、田児賢一敗退 全英
http://stacknews.net/news/mainichi.jp/articles/20160309/k00/00e/050/192000c
(田児選手は3月8日、全英オープン1回戦でインドネシアの選手に0-2で敗退。記事には「昨年の不振から脱し切れていない田児」という表現がみられるが、この不振も実はギャンブルの深みでもがいていたことと関係があったのかもしれない)

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