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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/03/25

欧州選手権inブラチスラバ(4)…出場停止処分解除でついに大舞台へ!ドイツの新生ペア「サフチェンコ/マッソ組」の挑戦が始まる

この原稿が掲載される頃といえは、世界フィギュアスケート選手権(3月30日~4月3日、アメリカ・ボストン)まであと5日というタイミングです。最近当サイトで取り上げてきたチェコのブレジナ兄妹(ミハル・ブレジナ及びエリシュカ・ブレジノバ)とその父ルドルフ、スロバキアのニコル・ライチョワ選手およびそのステージパパのトム(→フィギュアスケート欧州選手権inブラチスラバ(2)…家族愛対決!スロバキアのライッチ家VSチェコのブレジナ家)、イギリスのフィリップ・ハリス選手とその愉快なコーチのブレイコ夫妻(→欧州選手権inブラチスラバ(3)…今夜も無礼講(ブレイコ)!ゴディバの街の陽気なコーチは選手よりも目立つ)などもきっと、今頃はそれぞれのホームリンクで最後の仕上げと追い込みに邁進中なのではないかと想像します。

さて、今年の世界フィギュアスケート選手権で最も注目を集める存在といえば、日本では羽生結弦選手や浅田真央選手といった男女シングルの日本人選手なのでしょうが、ドイツを含めた欧州圏では間違いなくこちらの二人で決まりです!男女シングル以外のカテゴリーはあたかも存在しないかの如くテレビ中継もろくに行われない日本とは異なり、海外でのフィギュアスケート人気はむしろアイスダンスやペアの方が高かったりします。特にドイツの場合、男女シングルもアイスダンスもパッとしない割にペアには有力選手がいたりするため、他のカテゴリーがそれこそ完全無視ではないか思うほど、メディアの報道は「ペア偏重」です。中でも、特に話題を集めているのが、アリオナ・サフチェンコ/ブリュノ・マッソ組(ドイツ)です。


(2016年1月29日フィギュアスケート欧州選手権ショートプログラムで、高さのあるトリプルツイストジャンプを披露するサフチェンコ/マッソ組)

アリオナ・サフチェンコ選手といえばウクライナの首都キエフ出身の現在32歳。過去に世界選手権優勝5度、欧州選手権優勝4度、2010年バンクーバー五輪と2014年ソチ五輪の二大会連続銅メダルといった輝かしい実績を残したペア「アリオナ・サフチェンコ/ロビン・ショルコヴィー組」の女性の方です。かつて当コラムでも取り上げたソチ五輪直後のさいたまスーパーアリーナで開催された世界選手権では、ただでさえスケジュールがタイトな上に滞在ホテルからリンクが遠すぎて床で寝る羽目になったといった幾多の逆境にもめげずに見事に優勝(→フィギュアスケート世界選手権inさいたま…ドイツの新聞とテレビでみるドイツ選手の意外なホンネ)。しかし、当時34歳だった相方のショルコヴィー選手がこの大会を花道に引退したと思ったら、いつの間にかライバルのロシアペア(タラソワ/モロゾフ組)のコーチに納まっているではありませんか!しかし、ドイツ国民がそれよりももっと驚いたのが、当時同じく三十路を越えていたサフチェンコ選手の競技続行と、恋人とも事実婚関係とも噂されていたコーチのインゴ・シュトイヤー(Ingo Steuer)氏との別離でした。

ウクライナ代表として2002年ソルトレイクシティ五輪15位(パートナーはタチアナ・ボロゾシャールが現在のマキシム・トランコフと組む前の相手で現コーチであるスタニスラフ・モロゾフ)。その翌年にドイツに渡りロビン・ショルコヴィーとペア結成、2005年にドイツ国籍取得、以降はドイツ代表として2006年トリノ五輪6位、2010年バンクーバー五輪3位2014年ソチ五輪3位と、目下”4大会連続五輪出場中”という驚異の記録を継続する彼女が次の五輪を見据えて新しいパートナーに選んだのは、5歳も年下のフランス・ノルマンディーからやってきたブリュノ・マッソ(Bruno Massot)選手でした。そして、前コーチのシュトイヤー氏との思い出も詰まっていたであろうドイツ東部ザクセン州ケムニッツから現コーチのアレクサンダー・ケーニヒ(Alexander König)氏の指導するドイツ南部バイエルン州オーバースドルフへと綺麗サッパリお引越しです。

ところが、ここで問題が生じます。ペアの相手となるマッソ選手のドイツへの移籍を、フランス氷上競技連盟(FFSG)が頑として認めなかったのです。このため、二人は試合にもショーにも出ることを一切禁止されてしまいました。FFSGの言い分は、「これまでフランスはマッソ選手の育成のために少なからぬ金額を投資してきた。その選手をドイツが横取りしようという以上、しかるべき金額を返してくれれば移籍を認めてもよい」というものでしたが、その請求額が何と10万ユーロ(≒1400万円程度)というぼったくりバーも真っ青な吹っ掛けぶりでした。 しかし、それを言ったら、現在のフランスの1位ペアのバネッサ・ジェームス/モルガン・シプレ組のバネッサ・ジェームス選手とはどう違うのでしょうか?カナダ生まれのアメリカ育ちでイギリス所属のシングル選手だった彼女がペア結成のためフランスに移籍する際は、イギリスのスケート連盟は引き止めこそすれ、嫌がらせした形跡もありません(末尾参考文献Aより)。翌シーズンには普通にフランス所属としてグランプリ大会などの競技に参加できました(→エリック・ボンパール杯観戦記(3)…移民国家フランスのロールモデル?シャフィック・ベセギエが体現する世界)。

 それに、こう言っては失礼かもしませんが、ブリュノ・マッソ選手の渡独前の実績はそれほど輝かしかった訳ではありません。フランス選手権こそ一度優勝しているものの、欧州選手権は最高が2013年の7位(昨年は8位)、世界選手権は2014年が初出場で15位というもので、FFSGが言うほどには大きく投資されてこなかったことがその後のドイツ側の粘り強い交渉の中でバレていき、それにつれて要求金額がどんどん下がっていったというのだから(末尾参考文献B)による)、 ドイツ人の値切りのテクニックもなかなか関西人顔負けのレベルです。そして、ようやく2015年11月1日付でマッソ選手のドイツへの所属変更がISUか ら発表されたのですが、その際にドイツ側がフランス側に支払った金額は最終的に3万ユーロ(≒400万円程度)と報じられました(末尾参考サイトB及びCより)。

 これがいわゆる「マッソ事件」(Causa Massot)です。しかし、どうしてここまでこじれてしまったのでしょうか。フランスの連盟(FFSG)はどうしてここまで頑迷だったのでしょうか。そして何よりも、このお金、結局誰が払ったのでしょうか?そのあたりについてよくまとまっている南ドイツ新聞の記事がありましたので以下に紹介します。(原文は青字、筆者注釈は赤字)

Süddeutsche Zeitung(南ドイツ新聞2015年11月11日):Eiskunstlauf : Freiheit für Bruno Massot (フィギュアスケート:マッソ選手に自由)
http://www.sueddeutsche.de/sport/eiskunstlauf-freiheit-fuer-bruno-massot-1.2731050
(記事発表当時)31歳のアリオナ・サフチェンコ選手のペアの相手であるブリュノ・マッソ選手(同26歳)は、19ヶ月近くに及ぶ出場停止処分からようやく解放された。
・かつてサフチェンコ選手は、ドイツのショルコヴィー選手とペアを組むためにウクライナの家族の元を去った。そして今度は、マッソ選手とペアを組むために、11年の歳月を過ごしたケムニッツとコーチのシュトイヤー氏の元を去った。彼女は「自分がオーバースドルフに住む日が来るなんて想像したことも無かった!遠くて小さい町としか思っていなかった」と述懐するが、新天地の住み心地は最高だという。
・マッソ選手は2014年9月にドイツへの所属変更希望を書面で表明。出場停止中は賞金もギャラも発生しないため、唯一の収入減はスポーツ互助会(Sporthilfe)から振り込まれる月200ユーロ(≒2万4千円弱)だった。
・マッソ選手は(ドイツ代表としての)五輪出場の決意のため、右上腕に五輪マークの入れ墨を入れた。しかし、彼にとって五輪で活躍するために尽力することは、彫り師に身を任せる以上の痛みを伴うかもしれない。
・選手の所属国変更自体は珍しいことではない。代表歴が3か国あるような選手もザラにいる。それぞれの国の連盟がそれで納得すれば、何も問題は生じない。しかし、マッソ選手の場合、もめた原因はフランスの連盟にある。もっとハッキリ言えば、FFSG会長ディディエ・ゲヤゲ氏(Didier Gailhaguet)のせいである。彼はこの機会を利用して、自分に従わない者がどうなるかの見せしめとした。
(記事発表時点で)62歳で元フィギュアスケーターでもあるゲヤゲ氏は、スケート連盟役員としての経歴も長い。その手腕の強引さや野心家ぶりなどから、「狡猾男」(der Gerissene)「厚顔男」(der Skrupellose)「闇ブローカー」(der Schieber)といった異名もとる彼は、2002年のソルトレイクシティ五輪でアイスダンスで便宜を図ってもらう見返りとして、ペア競技のフランス人審判にロシアに便宜を図るよう圧力をかけたとして3年間の謹慎処分を食らった当人でもある。その時はスケート連盟会長職も辞任させられたが、2007年再選。しかも、近年中にはISU(国際スケート連盟)会長選への立候補も予定している。
・DEU役員は「今回のような話はスポーツの世界にマイナスにしか働かない。今後はこのようなことが起きないようにみんな努力しなくてはならない」と言うが、よりによってフランスのゲヤゲ会長のISU会長選での公約の一つが「所属国変更に伴う移籍料の固定化」である。
・ドイツのスケート連盟(DEU)は、(移籍金を払わないために)裁判に訴えるという手もあった。しかし、それでは白黒決着がつくのに時間もお金もかかる(←サフチェンコの年齢を考えると無駄な時間は費やせないということか)。ということで、ドイツの連盟役員2名が9月2日にパリに飛び、先方から「3万ユーロ」という回答を引き出した。ただしDEUは、この金額を払うためにドイツオリンピック体育協会、ドイツ連邦内務省、ドイツ連邦行政局からそれぞれ同意を取り付ける必要があった。かくしてこの金額は名目上は「職務上の個人支出に対する補償金」(Aufwandsentschädigung)として決済されることになるが、実際は「恐喝被害者給付金」とでも読んだ方が真実に近いのではないか(←凄い嫌味だが、これは意訳ではなく原文通りの直訳です)
・サフチェンコ選手とマッソ選手は今後得られる賞金やショーのギャラなどでこのお金の一部を返済しなくてはならない。そのうち2000ユーロ分は既に募金で集まった。


南ドイツ新聞はタブロイド紙でもなんでもないマトモでお堅い新聞なのですが、いやはや強烈な文面です。フランスのスケ連会長を闇ブローカーとか、恐喝者呼ばわりです!それにこの人、チンクワンタ会長の後釜としてISU会長の座を狙っているとも書かれており、「他国への移籍料に関するルール改正」を公約に掲げているそうです。

しかし、この記事で私が最も意外に思ったのは、今回のマッソ選手の移籍料がひとまずはドイツ国民の税金で立て替えられるということと、サフチェンコ&マッソ選手に(全額ではないにしろ)返済義務があるということでした。税金が投入されているとなれば、ドイツの新聞テレビなど各メディアでフィギュアスケートの話題といえばこのペアの動向話ばかりになるのも納得です。サッカー選手の派手な移籍金報道とは次元もケタも違う話な上に、出場停止処分でギャラなどの収入源を絶たれて月200ユーロの救済基金で生活するしかないフィギュアスケート選手の悲哀と、フランスのスケ連の壮絶な意地悪ぶりが、読む者の胸に迫ってきます。ついでにマッソ選手が入れ墨を入れた話まで出てきたのは、先週のコラム(→欧州選手権inブラチスラバ(3)…今夜も無礼講(ブレイコ)!ゴディバの街の陽気なコーチは選手よりも目立つ)や清原和博さん保釈のニュースを連想してしまいました(もっとも南ドイツ新聞の記事自体は昨年11月のものですが)。

さらに記事内でハッキリではないにしろサラリと言及されていて目を引いたのが、サフチェンコ選手のケムニッツからオーバースドルフへの引っ越しを「コーチのシュトイヤー氏の元を去った」と結びつけていることです。これが恋愛関係の終わりを意味しているのか、単に師弟関係に絞った話なのかは明言されていませんが、意味深な言い回しではあります。このあたりについては、欧州選手権のショートプログラム前に出たフランクフルター・アルゲマイネの記事が参考になるかと思います。サフチェンコ選手とマッソ選手のプライベートにも言及しているこの記事はきっと日本のフィギュアスケートファンにとっても興味深い内容だと思うので、以下に要約して紹介します。

フランクフルター・アルゲマイネ新聞(2016年1月29日):Eiskunstlauf-EM : Mit Hochdruck ins Gute-Laune-Projekt (フィギュアスケート:全力でニコニコ高気圧プロジェクト)
http://www.faz.net/aktuell/sport/wintersport/aljona-savchenko-und-bruno-massot-starten-bei-eiskunstlauf-em-14039651.html
・欧州選手権4度優勝と世界選手権5度の優勝のアリオナ・サフチェンコ選手が今回新しいパートナーとともにその新たな輝かしい戦績を加えることが出来るかどうかは、今大会の最大の見どころの一つである。
・サフチェンコ選手の一行は1月27日(水)に7時間かけて車でブラチスラバに到着。ただ、オーバースドルフでの最後の仕上げ練習の際、サフチェンコ選手がスロートリプルフリップの着地で失敗して腰を痛めたのが懸念材料。ただ、ショートプログラム前日の公式練習では腰痛は改善傾向にあり、コーチのケーニヒ氏も「俺たちにはドラマは付きものなのサ!」と楽観的。
・ケーニヒコーチも含めたサフチェンコ/マッソ組の雰囲気はいつも快晴(←直訳すれば「高気圧の下」)である。氷の上ではみんなが笑顔で、これはかつてケムニッツでインゴ・シュトイヤー氏の厳しい指導を受けていた頃のサフチェンコ/ショルコヴィー組が常にピリピリして誰一人ニコリともしなかったのとは対照的だ。
・オーバースドルフでは、サフチェンコとマッソはそれぞれの恋人と一緒に生活しているアリオナ・サフチェンコはイギリス人のリアム・クロス氏(Liam Cross)と婚約中で、今年の8月18日にドイツアルプスのアルゴイ(Allgäu)で入籍予定だ。ブリュノ・マッソは、恋人の女性がフランスのカーンからオーバースドルフに引っ越して来たことを喜んでいる。そして、49歳のケーニヒ氏はベルリン出身で性格の明るいコーチで、そんな二人がケンカしても丸く収め、ポジティブな方向に導くことができる。
・ドイツスケート連盟(DEU)のウド・デンスドルフ氏いわく、「ペア相手の変更が思わぬ副次効果をもたらすことがある。サフチェンコはマッソと組むようになってからソロジャンプのミスが減った」という。そのジャンプ力向上の秘訣は、
サフチェンコとマッソの二人だけで行っている「ジャンプ競争」。例えば3回転トーループや3回転サルコーなどの特定のジャンプをクリーンに、しかも何度連続で成功させるかを、彼らは時折リンクで競い合うのだ。その過程でたまにサフチェンコが怒り狂ったりマッソの堪忍袋の緒が切れたりすることがあるが、そうするとケーニヒコーチがすかさずなだめに入る。
・世界のトップを張ってきたサフチェンコに追いつこうとするマッソには焦りかある。今マッソが取り組んでいるのは、練習でミスをしないだけの実力をつけること。これが達成されて初めて、演技そのものの芸術性を高めることに対する余力が生まれる。このような内容の練習は、それまでマッソがフランスで組んできたお世辞にも一流とは言えないペア相手と一緒だった頃には考えも及ばないことだった。
・18ヶ月の長きにわたる出場停止処分を経て、ドイツ選手権優勝ペアとして迎えるブラチスラバの欧州選手権では、サフチェンコ/マッソ組として初のメダル獲得を狙う。

記事の中に、「インゴ・シュトイヤーがコーチだった頃のサフチェンコ/ショルコヴィー組はいつもピリピリして笑顔などとは無縁だった」という内容が出てきます。言われてみて2010年11月のスケートアメリカ観戦時の写真を探り出して確認してみたところ、確かにシュトイヤー氏の周囲は足元の氷のみならず周囲の空気そのものが凍っているのではないかと思うほど、ピリピリした緊張感が伝わってきます↓。   

(左上) フリープログラム前の6分間練習時。左からショルコヴィー選手、シュトイヤーコーチ、サフチェンコ選手。確かに顔は引きつり笑顔はない。
(右上) リンクサイドで見守るシュトイヤーコーチの後ろ姿が既に怖い(笑)。
(左下) 左のサフチェンコ選手も中央のショルコヴィー選手も表情がまるで戒厳令下のよう。
(右下) ショートプログラムの本番中。デススパイラルを披露する二人の演技を、UNIVERSAL SPORTSと書かれたフェンスの後方で首を捻りつつ据わった目つきで睨むシュトイヤーコーチの姿あり。

それにしてもこのフランクフルター・アルゲマイネ紙の記事、当人の了承を当然得てはいるのでしょうが、サフチェンコ選手の婚約者の名前も含めたプライベートな内容をかくもサラリと暴露してしまうとは、そのフィギュアスケート担当記者の圧巻の取材力と筆力に脱帽です。サフチェンコ選手は今年の8月に結婚予定、マッソ選手も彼女とラブラブという具合にそれぞれに別の相手がいながらも、広いアイスリンクにたった二人きり、手に手を取り合って感情溢れる熱~い演技を披露する…それでこそフィギュアスケートのペア競技の真骨頂です。もっとも、ゲスだの不倫だのといった話題がスキャンダルとして扱われる日本の感覚では、ちょっと理解し難い世界でもあります。それこそ、以前のコラムの「ライチョワ・スポコイナー」(→フィギュアスケート欧州選手権inブラチスラバ(2)…家族愛対決!スロバキアのライッチ家VSチェコのブレジナ家)ではありませんが、”スポ根魂”で結びついた両者の氷上の絆の固さは、幾多の紆余曲折と場外乱闘を乗り越えてここまできた以上、折り紙付きです!

なお、このブラチスラバが欧州選手権初参加となったサフチェンコ/マッソ組は、フリーで手痛いミスがあったもののショートプログラムの貯金が効いて、辛うじて銀メダルというビッグタイトルを手中に収めることができたのでした↓(下写真4枚組は彼らのフリー演技の様子)。

   
(上左写真) 男性が女性を投げるスロージャンプ。末尾参考文献Cによると、”マッチョなマッソ選手”はこの手の力技系エレメント(スロージャンプやツイストジャンプ)では既にトップレベルにある。

(上右写真)その反面で文献Bによると、マッソ選手は”優雅で気品ある動き”を苦手としていると、コーチのケーニヒ氏の発言あり。腰痛のためとも言われているが、マッソ選手の体の硬さや右腕のポジショニングに表現面の課題が垣間見られる。2010年のスケートアメリカでのロビン・ショルコヴィー選手の写真でのどの角度からも感じられる柔らかな物腰と比べても、その演技における芸術性の獲得がそう一朝一夕にはいかないであろうことを想像させる。
(左下写真)演技終了直前のリフトが、男性の腕の力が尽きてしまって女性を持ち上げることができなかった。結局、エレメント2つが完全に零点となってしまう羽目に。演技後に引き揚げてきたリンクサイドで、ケーニヒコーチと一緒に前を歩くサフチェンコの晴れやかな表情とは対照的に、後ろのマッソ選手は左腕を痛めたと訴えるかのように手でかばい、横にいるフランス人コーチがそんな彼にしきりに何か言葉をかけていた。
(右下写真)キスアンドクライでの得点発表の瞬間。マッソ選手はこの少し前からずっと泣いており、顔を上げられない。結局フリーは3位だったが、総得点ではライバルのタラソワ/モロゾフ組をわずかに3点ほど上回る200.28点で2位となり、薄氷の銀メダル獲得となった。

2018年平昌五輪をアリオナ・サフチェンコは34歳、ブリュノ・マッソ選手は29歳という年齢で迎えることになります。今はまだ粗削りで実績もこれからという若きマッソ選手が今後、五輪までの短期間にどこまでその技量と芸術性を上げてくるのか、そして、ドイツ国防軍の兵士という身分にありながら(末尾参考文献Bより)、競技続行の理由を「引退してしまうとお金を稼ぐ手段がなくなり、スポンサーもつかないから」と説明したアリオナ・サフチェンコ選手は、2018年の五輪で晴れて「オリンピックチャンピオン」の称号を掴み取って有終の美を飾るという、自らに課したサクセスストーリーを完遂できるのでしょうか?そして、フランス語で「ノルマン人のような返事をする」と言えば「優柔不断でハッキリしない」という意味なのがちょっと心配なのですが、ドイツ国籍まで取得申請して平昌五輪で金メダリストになるという夢に向かって頑張っているこちらのノルマン人は大丈夫でしょうか?

その先行きを占ううえでも、並みいるライバルが出揃う中での戦いとなる来週の世界フィギュアスケート選手権は大きな意味を持つことになるでしょう。彼らの目標はズバリ、優勝です(末尾文献Cより)。当コラムの読者の皆様も、男女シングルの応援も結構ですが、この「ウクライナ人とフランス人て結成されたのに、なぜかドイツペア」という、シロートさんが聞いたら怒涛の突っ込み必至というこの不思議な二人に是非注目していただければと思います。


<参考サイト>
文献A:BBC SPORTS(2008年1月10日):GB skater set for France switch(イギリスのスケーターがフランス移籍へ)

http://news.bbc.co.uk/sport2/hi/other_sports/winter_sports/7180838.stm

(イギリスの連盟はバネッサのペア相手をイギリスで探すべく努力したが、結局見つからなかったという)

文献B:フランクフルター・アルゲマイネ新聞(2015年9月2日):Eistänzer Savchenko und Massot - Vorbereitung auf Tag X (いつ来るとも分からぬXデーに備えるサフチェンコ/マッソ組)

http://www.faz.net/aktuell/sport/wintersport/eistaenzer-savchenko-und-massot-bereiten-sich-auf-tag-x-vor-13778506.html

 (アリオナ・サフチェンコ選手の本職の肩書はドイツ国防軍Bundeswehrの上等兵Obergefreiteというもので、現在の生計を立てているの も国防軍からの給料、つまりドイツ国民の税金である。「引退するとお金もスポンサーもなくなる」という彼女の発言からは、競技を引退すると国防軍も退職せねばならないという解釈も成り立つ)

文献C: フランクフルター・アルゲマイネ新聞(2015年12月13日):Deutsche Eiskunstlauf-Meister - Aljona und der Normanne (ドイツ選手権優勝:アリオナとそのノルマン人)

 http://www.faz.net/aktuell/sport/wintersport/aljona-savchenko-und-bruno-massot-holen-dm-titel-2015-13964130.html

 (ノルマン人とはノルマンディー出身のマッソ選手を指す。本文中でサフチェンコ選手は、日に日にマッソ選手は成長していると説明)

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