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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/03/11

3・11から5年の今年、ベルリン国際映画祭で高評価!ドイツ注目の「フクシマ・モナムール」ってどんな映画?

この原稿が掲載されるのは3月11日、あの東日本大震災から5年の節目の日にあたります。このためか、先月あたりからドイツで「FUKUSHIMA」の話題を耳にすることが多くなりました。先月といえば、2月11日から21日にかけてドイツでは恒例のベルリナーレ(Berlinale)こと、第66回ベルリン国際映画祭が開催されており、連日のように朝のワイドショーや昼夜のニュース番組を賑わしていました。ところが、ある日の昼間、何気なくテレビをつけたところ、このような画面が目に飛び込んできました↓。


 
トレバー・ホーン(←「ラジオスターの悲劇」で有名なバグルスの片割れ)みたいなメガネ姿が個性的な女性が出てきました!『GRÜSSE AUS FUKUSHIMA』と赤字で書かれた白黒ポスターの前で何やら熱~く語っています。この女性は1955年ハノーバー生まれで現在60歳のドリス・デイならぬドリス・デリエ(Doris Dörie)さんで、現代のドイツで最も成功している女性映画監督との称号では飽き足らず(?)、小説家でもありオペラも手掛けるという多彩な顔を持つマルチウーマンでもあります。旧ソ連からアフリカにアジアにと世界を股にかけて長年活躍してきたこの人物、実は大の親日家でもあり、『MON-ZEN』(1999)、『漁師と妻』(2005)、『HANAMI』(2008)といった日本をテーマにした作品もコンスタントに発表しています。そして今年、震災後間もなく5年というこのタイミングで、日本の福島を舞台にした今回の最新作がベルリナーレのパノラマ部門(←コンペティション部門にノミネートされなかった優秀な作品を上映する枠)で人気上映中ということで、ドイツ公営放送第二チャンネル(ZDF)にて映画の紹介と監督インタビューが放送されたものです。

 
  
番組ナレーションによれば、ノンフィクションのドキュメンタリーではなく今回のようなフィクションの映画が東日本大震災後の避難区域において撮影されたのは、本作品が初めてとのことです。

しかも、ドイツ人女優さんと並んでのダブル主演が、あの桃井かおりさんだという…。↓

 

しかし、ベルリナーレの公式ホームページを見ると、この映画のタイトル『GRÜSSE AUS FUKUSHIMA』の後ろには副題がついています。その名も、『フクシマ・モナムール』(Fukushima,mon Amour)です↓。

第66回ベルリン国際映画祭公式ホームページ「Grüße aus Fukushima Fukushima, mon Amour」
https://www.berlinale.de/de/programm/berlinale_programm/datenblatt.php?film_id=201606080#tab=video25

 

(左が「ドイツから来たボランティア女性」の役を演じるロザリー・トーマス。右が、何と「福島最後の芸者」を演じるという桃井かおり。リンク先に50秒の予告編動画があり、桃井さんが英語喋ってます!)

タイトルの『Grüße aus Fukushima』とは”福島からの挨拶”という意味ですが、副題の『Fukushima, mon Amour(フクシマ・モナムール)』の方に何だか聞き覚えがありませんか?これは、かつて当サイトで取り上げたことのある不朽の名作たるフランス映画『Hiroshima, Mon Amour(ヒロシマ・モナムール)』(1959)(アラン・レネ監督、岡田英次主演)を意識していることは、この現代にあえて同じ白黒映像で制作されていることからも、まず間違いありません(→フランス映画HIROSHIMA MON AMOUR」の再公開、そして8月6日のイタリア報道が問いかけるもの)。そして、その内容がこれまた結構似ているのです!以下に、まずは『フクシマ・モナムール』の内容を、公式パンフレット掲載のあらすじ部分を全訳して紹介したいと思います(訳文は青字、筆者注釈および強調は赤字)↓。

第66回ベルリン国際映画祭公式パンフレット - パノラマ作品:13ページ「フクシマ・モナムール」
https://www.berlinale.de/media/pdf_word/service_7/66_ifb/programmbroschueren/Panorama_2016.pdf 

 

若いドイツ人女性のマリーは、夢破れた失意から「クラウンズ・フォー・ヘルプ」(←「お助けピエロ」の意味)という名の慈善団体に登録し、ボランティアのため日本に行くことにした。2011年のトリプル災害(Dreifachkatastrohe:地震・津波・原発事故のこと)のために住む家を奪われ避難所生活の続く福島の人々を元気づけるためである。避難所生活者に高齢者が多いのは、遠くに行きたくない、あるいは行きたくても行くことができないからである。ところが、日本でのマリーは次第に自分がこの仕事に向いていないと感じるようになり、再び逃げ出そうとする。そしてその直前、「福島の最後の芸者」とも呼ばれる頑固頭のサトミと出逢う。サトミは、立ち入り禁止区域内にある壊れた自宅に戻って生活していくことを決意。そこでマリーは一緒にサトミの家の片づけを手伝うことに。若いドイツ人女性とかなり年上の日本人女性という”違い過ぎるほどの二人”は、少しずつ心の距離を縮めていき、その過程でお互いが自らの過去の亡霊と向き合うことになっていく…。

あらすじ部分だけ読んだ限りではありますが、これはまさにヒロシマ・モナムールそのものではありませんか?!比較のために、以前当コラムで『Hiroshima Mon Amour(仏語だとイロシマ・モナムールと発音)のことを紹介した部分を抜粋してみます↓。

・「平和を題材にした映画の撮影のために来日したフランス人女優が、ロケ現場である広島で出会った日本人男性と(一夜の)恋に落ちる」
・ストーリーは確かに男女の刹那の情事とそれぞれが背負う過去の告白を中心に進行するが、そのストーリーの合間に広島への原子爆弾投下の模様およびその被害を受けた人々のアーカイブ映像がちりばめられており、その記録映画的な側面もまた無視できない強さで見る者の印象に残る
・1959年公開のこの映画が撮影されていたと思われる1950年代後半の広島の街並みが、今の広島とあまりにも異なっている…(中略)…その変遷の事実自体がこの映画の内包する別のメッセージひいては存在意義を浮かび上がらせている
・フランス人監督が撮ったフランス映画『イロシマ・モナムール』…それは、「色島」のようでありながら、実は「広島」だったり「廣島」だったりする、あらゆるシーンが折り重なるように時空を交錯する、そんな不思議な映画…(中略)…私たち日本人が実はあまりきちんと正視して来なかった貴重な原爆記録映画でもあり、高度成長前の我らが故郷から根こそぎ失われてしまった原風景を保存した歴史アーカイブとしても、是非一見をお勧めしたい映画

「平和映画の撮影のため来日」を「ボランティア活動のため来日」へ、「男女の刹那の情事」は「年の離れた女の友情」へ、「広島の原子爆弾の被害」を「福島の原発事故の被害」へとスイッチしたらそのままこの映画になる…などと言ったらちょっと割り切り過ぎかもしれませんが、構図はソックリです。その上、「それぞれが背負う過去の告白」という部分は、どうやら完全一致の可能性が高いです。というのも、「イロシマ」の方にはフランス人映画女優が戦時中に敵国ドイツ兵の恋人だったという過去の告白が出てきますが、今回の「フクシマ」では桃井かおり演じる「福島最後の芸者」という部分の裏話がそれに相当するのではと推測されるからです。そして何よりも、今日で震災後5年を迎えたこのタイミングではまだまだかもしれませんが、「あらゆるシーンが折り重なるように時空を交錯」「記録映画的な側面」「原風景を保存した歴史アーカイブ」といった、1959年公開の『イロシマ・モナムール』の存在意義そのものが、いずれは『フクシマ・モナムール』も同様の歳月を経ることによって同じように帯びてくることが今から容易に想像できるからです。

それらにも増して、これらの二つの映画の最も大きな共通点となるであろうと思われるのが、「日本人が実はあまりきちんと正視して来なかった貴重な記録映画」という部分です。「フクシマ」というテーマは、海外の人々にとってはハッキリ言えば他人事であるからこそ、少なくとも欧州では今も酒の席でもテレビのトークショーでも新聞紙面でも喧々諤々のディスカッションがなされるホットイッシューとなりえるのだと、彼らの議論を聞いているといつも思います。私の耳に入ってくる彼らの見解は、ここにはとても書けないほど、日本にとって大変厳しいものがとても多くなりました。これがひとたび日本に足を踏み入れると、正視や議論どころか、もはや人前でこの話題を持ち出すこと自体がよほどの勇気がないととても無理という空気が、この5年で完全に出来上がった印象すらあります。それだけ、自分の膿を自分で出すということは難しいのです。しかし、この現状は果たして本当に、被災から5年経ってもなお多大な苦しみと不安の中で明日の見えない生活を余儀なくされ続けている方々のためになっているのでしょうか?

ちなみに、「フクシマ・モナムール」という副題を持つこのドイツ映画ですが、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門における観客投票では、ドキュメンタリーを除くフィクションの全34作品の中から堂々の2位に輝きました!それだけ評価の高い作品であり、しかも舞台が日本だというのに、本作が日本で今も今後もまるで話題になることがないのだとしたら、このままではもったいない気がします。ドイツでは3月10日より劇場一般公開予定のこの映画、私も機会があれば是非ともこの目で見てみたいと思います。そして、この調子でこの映画の話題が今後もメディア等で取り上げられること、そして、いずれは日本でも公開があることを期待したいと思います。


<参考サイト>
YouTube - BR (バイエルン州営放送)「kinokino」(2016年2月17日オンエア): George Clooney, Julia Jentsch und Doris Dörrie - kinokino vom 17. Februar
https://www.youtube.com/watch?v=ZovENdHLwUA
(8:00頃から「フクシマ・モナムール」の紹介あり)

YouTube - Grüße aus Fukushima | Trailer 1 | Deutsch HD German (Doris Dörrie)
https://www.youtube.com/watch?v=fdogctzRYeg
(映画の予告編:1分59分のバージョン)

ゲーテ・インスティテュート - ヴィラ鴨川:2013年第3期招聘アーチスト「ドリス・デリエ」(日本語)
http://www.goethe.de/ins/jp/ja/kam/stp/k13/3zr/s09.html
(デリエ監督の業績紹介)

ゲーテ・インスティテュート:「ドリス・デリエ」インタビュー“I Would Like to Shoot in Japan Again – Preferably in Fukushima”(また日本で映画を撮りたい…できればフクシマで)(英語)
https://www.goethe.de/en/uun/akt/20397444.html
(インタビュー記事。デリエ監督の日本愛が伝わってくる)

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