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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2016/02/26

フィギュアスケート欧州選手権inブラチスラバ(2)…家族愛対決!スロバキアのライッチ家VSチェコのブレジナ家


先週は台北でフィギュアスケートの四大陸選手権が開催されていました。四大陸とはアジア・アメリカ・オセアニア・アフリカの四つで、オリンピックの五つの輪が象徴する五つの大陸から欧州を除いたものです。つまり、欧州選手権に相当する大会が無い他の大陸の選手に同等のレベルの大会への出場機会を提供するために1991年に創設されたという、比較的新しい大会です。

翻って欧州選手権の方は1891年創設、つまり今年で何と125周年であり、近代オリンピックや世界選手権(いずれも1896年創設)よりも歴史が長いというからビックリです。「氷が無い」(1902年)とか「参加者が一人のみ」(1903年)という現代では考えられない理由で大会中止になってみたり、二度の世界大戦で中断を余儀なくされながらも、現在までその長い歴史と伝統を守ってきました。もっとも、当初はシングル(当初は女子競技者がいなかったため必然的に男子シングル)のみの開催であり、1930年に女子シングルとペアが創設されたのに続き、1952年にアイスダンスが追加されて今に至っています。

その由緒正しき欧州選手権が開催されたのはスロバキアの首都ブラチスラバ、ということもあり、今年は何と言っても地元選手の登場が会場を一番盛り上げました。中でも象徴的だったのはこちらのシーンです↓。

 

 これは女子シングルのショートプログラムの最終グループの6分間練習直前の様子で、前の競技者の得点を待つ間、リンクサイドにて女子選手6名とそのコーチ陣が待機しているところに、地元メディアのカメラが二台張り付いています。このカメラ配置がなかなかこの大会ならではの特徴を表しています。写真が小さいので、以下に該当部分を拡大してみましょう。

【カメラその1】

 


右端にグレーの半袖シャツを着たカメラマンが見えます。その映し出す先には、右から左へ順にエレーナ・ラジオノワ(ロシア)、アンナ・ボゴリラヤ(ロシア)、ロベルタ・ロデギエロ(イタリア)、エフゲニア・メドベジェワ(ロシア)という錚々たる面々が並んでおり、さすがは最終グループという迫力があります。(ここには写っていないが、実はメドベジェワの背後にもう一人、アンゲリーナ・クチバルスカ(ラトビア)がいる)

【カメラその2】


 
右端に、重そうなカメラを担いだカメラマンがここでも見えます。しかし、こちらは打って変わって、カメラが狙う先には選手はたった一人!地元期待の一番星こと、ニコル・ライチョワ選手(Nicole Rajičová)です(上写真中央の白いジャンパー姿の女性)。先程のカメラマンが一人で五人の選手を一絡げに映すのと比べたら、贔屓の引き倒しとも言うべき特別待遇です!しかも、写真左端には同選手のコーチでもあるステージママならぬステージパパこと、トム・ライッチ氏(Tom Rajič)の姿も…。

この父娘、スロバキアでは有名人のようです。日本の高校野球では父親が監督で息子が選手のチームの場合に「父子鷹」という単語がメディアで頻用されますが(2013年夏全国制覇の前橋育英の監督と主将だった荒井親子など)、この親子もそれに近い二人三脚の涙ぐましいストーリーがあるらしいのです。大会会場で販売していた公式パンフレットにも、見開き2ページデカデカと使ってこの親子の物語が詳しく説明されていました↓。

 

ライッチ家は父トムの代でアメリカに渡った移民。父は、身内はみんなスロバキアにいる中、身寄りのないアメリカで孤軍奮闘しながら、愛する家族を養ってきた。1995年にニューヨークで生まれた現在20歳の長女のニコルは、ひどいX脚でつまづいてばかりだったために治療を兼ねて3歳の時に父に連れられアイスリンクへ。これでX脚が治ったのみならず、コーチ(元チェコスロバキアのペア選手で後にアメリカに亡命したミランダ・クビコワ)に才能を見出され、本格的に競技生活へ(2011年の全米ジュニア選手権まではアメリカ所属)。ここで父は「娘が本気でスポーツに打ち込むなら、親も同じくらい本気を出さにゃあかん」(“if a child takes a sport seriously, parents have to do so as well”)とのたまい、何をしたかというと、2010年の夏休みに母国スロバキアにすっ飛んでスロバキアスケート連盟の前会長に直談判、アメリカとスロバキアの二重国籍を持つ娘をスロバキア所属にねじ込んだ

さらにはアメリカに戻り、今度はスロバキア人のコーチ探し。女子シングルのエレナ・グレボワ(エストニア)を指導したことでも知られるイゴール・クロカベック(スロバキアのコシツェ出身)に2013/2014年シーズンから師事。スロバキアスケート連盟とのいくつかのいざこざを経て2014年ソチオリンヒックにも晴れてスロバキア代表として出場。ここでも父はアシスタントコーチ兼マネージャーとしてソチに乗り込み、娘は素晴らしいショートプログラムを演じて無事にフリー進出を果たした(最終順位24位)。さらにソチ五輪後のオフシーズン、ライチョワは減量に成功、それに伴いスケートの成績も向上。2015年の世界選手権15位、欧州選手権11位となる。

ライチョワ選手の父は常日頃から「学校の勉強も大切だ」と娘に強調し、成績が落ちたらスケートをやめさせると脅しをかけてきた。しかし、長女ニコルもその妹のドミニカも成績優秀だという。ニコル自身、朝4時半に起きて自分で車を運転してアイスリンクと学校とジムをハシゴしながら頑張っている。彼女はニューヨークのフォーダム大学の国際ビジネス学部の学生で、「私は数学が大好きなの。だって、フィギュアスケートもエレメンツのポイントを計算する数字の世界だから」と言う。

今季フリー使用曲の「ドクトル・ジバゴ」は振付担当のニコライ・モロゾフ氏の推薦。ショートも今大会の数週間前になって好調だった昨年のプログラム(同じくモロゾフ振付)に急遽戻し、「他ならぬブラチスラバの欧州選手権ではノーミス演技を2本そろえたい」と彼女は意気込んでいる。


なかなか面白かったのは、元々X脚を直すために始めたスケートだったという話と、体重が減ったらスコアが上がったというくだりです。そして、このパンフレットを読めば読むほど、ニコルちゃんよりも父親トムの猛烈な家族愛と半端ないスロバキア愛、そしてフットワークの軽さの方についつい関心が惹きつけられます。日本だと親子鷹を通り越してモンスターペアレントと言われかねないかもしれませんが、生粋のアメリカ育ちで2011年の全米ジュニアで最下位の12位だった彼女が3年後のソチオリンピックに行けたこと自体、「スロバキアへの所属変更」というこの「お父ちゃんのウルトラC」なしにはあり得なかったと思うのは私だけではないはずです。美空ひばりも草葉の陰で真っ青であろうこのスロバキア親子のスポ魂マンガみたいな感動物語に、こちらまでついウルウルしてくるのでした(笑)。

さて、今年の欧州選手権。ニコライ・モロゾフ氏振付の自慢のショートプログラムに向かう瞬間のライッチ家の父娘を、大会会場のスクリーンはこのようにデカデカと映し出しました↓。


フェンス手前が娘、奥が父ですが…これじゃあまるで、オペラ座の怪人とクリスチーヌでしょうか?!怪人化したお父さん(笑)、顔が引きつっております。それにしても、地元スロバキアの中継クルーのカメラワーク、見事すぎます!そして、ニコル選手はほぼノーミスの会心のショートプログラムを終え、リンクサイドに引き上げてきました↓。


 
いの一番におとうちゃんとハグです。ニコルちゃんの満面の笑顔もさることながら、周囲の人々の視線がこの親子に集まっており、この親子がスロバキア国民にいかに温かく見守られているかが伝わってきます。


さらに得点が出た瞬間です。堂々の自己ベスト更新(57.24)に、左端のアシスタントコーチ兼マネージャーこと父トムも、それまでフランケンのような固まった表情だったのが一転して実に嬉しそうです。今までのどの大会でも見たことがないほどたくさんのスロバキア国旗が一斉に振られ、会場の歓声もピークに達した瞬間でした。この日の様子を、地元テレビもニュースで大々的に報じました↓。


 
見出しの”Rajičová spokojná”(ライチョワ・スポコイナー)を見た瞬間は笑ってしまいました。「ライチョワ、スポ魂だな~」という意味かと日本人なら思ってしまいそうですが、これはスロバキア語で「ライチョワが満足している」という意味だそうです。「スポ魂(spokojný:スポコイニー)=満足」とは日本人には覚えやすく、2013年のクロアチア・ザグレブでの欧州選手権以降、一念発起してクロアチア語の勉強を始めたことをつい思い出しました。これなら、スロバキア語も勉強し始めたら結構楽しそうです。(→日本語とクロアチア語の思わぬ共通点…「数の簡潔性」と『九九』は東洋の誇る文化遺産?!、→私がクロアチア語にハマり始めた理由…次々見つかる日本語との思わぬ類似点!

ただ、ニコル選手、翌々日のフリー演技は芳しくなく、最終順位は12位に終わり、目標だった「母国でのトップ10入り」は惜しくも果たせませんでした。現地メディアのインタビューにスロバキア語で答える表情にも落胆が伺えます。しかし、大会会場にテレビに新聞にと、まさに「ライチョワ祭り」だったこの数日間は、彼女にとっては他国での大会ではまず味わうことのできない特別な体験となったのではないでしょうか。

 

ちなみに、親子愛に家族愛とくれば、こちらの一家も負けていません。それが、お隣チェコから来たこちらの御一家です↓。


 
チェコのミハル・ブレジナという男子シングル選手をご存じでしょうか。フェンス手前の氷上で演技中の女性はその妹であるエリシュカ・ブレジノワ選手(Eliška Březinová)。そして、MARY COHRと書かれたフェンスのMとAの間くらいの位置でチェコカラーのジャージを着ながら演技を見守るのが実の兄で男子シングル選手のミハル・ブレジナ(Michal Březina)、そしてその左隣に黒いコート姿で立っているのがこの兄妹の実の父で妹エリシュカのコーチも務めるルドルフ・ブレジナ(Rudolf Březina)です。

 

 (左上)エリシュカの演技を腕を組みながら見守る父ルドルフと兄ミハルは雰囲気も顔もソックリ。背後の白い椅子にはエリシュカの私物のカバンやジャージが置かれている。
(右上)ジャンプやスピンなどの度に拍手する姿もタイミングもこれまた完璧にシンクロで、血は争えず。
(左下)演技を終えて戻ってきたエリシュカを温かく迎える兄と父。妹の荷物を運ぶのも兄の役割。
(右下)兄ミハル自身もこの後の男子シングルの練習と本番を控えており、時間がない様子。エリシュカがスケートのブレードカバーをつけ始めるやいなやのうちに、ササーッとカーテンの奥に消えていった。

 

さすがにショートプログラムの時のキス&クライには、父はいても兄の姿はありません。そして、兄が妹のそばから離れてカーテン奥に消えたのが13時6分頃でしたが、この8時間半余り後となる21時50分には、兄自身もこのような出で立ちで、さきほどと同じ場所に今度は選手として戻ってきたのでした↓。

 

(名伯楽と言われるコーチのカレル・ファイフル氏と二人きりの兄ミハル。ちなみに父ルドルフは現在はミハルのコーチに名を連ねていない)

私は昨年の欧州選手権(ストックホルム)も観戦しているのですが、この時もブレジナ家の父と兄は全く同じパターンで妹に張り付いていました。特に兄ミハルは、自身もシングル選手で調整やら何やらあるはずなのに、本当にギリギリまで妹の傍にいようとするのです。つくづく、家族の絆が固いのだな~、いかにもヨーロッパだな~、などと感じては圧倒されるのでした。

この翌日、男子フリーが行われ、兄ミハルは2度の転倒などでショートプログラムの3位から大幅に順位を下げて10位に終わるという残念な結果となりました。そして、自分の出番が終了した気楽さもあってか、そのさらに翌日の女子フリーには妹の応援に駆けつけ、最後はキス&クライでの兄妹揃ってのこの表情で大会を締めくくったのでした↓。

 

日本の兄妹だとこういう感じにはなかなかならないのではないでしょうか。ちなみに、来年のフィギュアスケート欧州選手権はチェコのオストラバで開催されます。今年が「ライチョワ祭り」だったとすれば、来年はきっと「ブレジナ祭り」で凄いことになるのだろうなと今から容易に想像がつきつつも、怖いもの見たさで来年も観ちゃおうかしらと思ったりもします(笑)。

そういえば、先日の四大陸選手権で優勝したアイスダンスのマイア・シブタニ/アレックス・シブタニ(アメリカ)のシブタニ兄妹も、同じくアイスダンスで姉が引退したばかりのキャシー・リード/クリス・リード(日本)もこんな感じの兄妹愛(ないし姉弟愛)ですが、これは遺伝ではなく育った環境で間違いないでしょう。今回のライッチ家とブレジナ家の家族愛対決(?)を見るにつけ、家族内で殺し合ったり、ゲスだの不倫だの辞職だのというニュースが次から次へとタケノコのように湧いてくる昨今の日本に思いを馳せては、一体この国はどうなってしまったのかと考える今日この頃です。


<参考サイト>
Wikipediaドイツ語版 - Eiskunstlauf-Europameisterschaften(ヨーロッパフィギュアスケート選手権)
https://de.wikipedia.org/wiki/Eiskunstlauf-Europameisterschaften

Wikipediaドイツ語版 - Eiskunstlauf-Weltmeisterschaften(世界フィギュアスケート選手権)
https://de.wikipedia.org/wiki/Eiskunstlauf-Weltmeisterschaften

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