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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/12/11

ドイツ語圏の流行語大賞ならぬ「今年の言葉」が如実に物語るドイツ・スイス・オーストリアのそれぞれの事情

今月1日、日本で流行語大賞が決定したとのニュースがありました。正式名称を「現代用語の基礎知識選 2015ユーキャン新語・流行語大賞」と呼ぶ年末恒例のイベントで、2015年の年間大賞に選ばれたのは「爆買い」と「トリプルスリー」、さらにトップテン入りしたのが「アベ政治を許さない」「安心して下さい、穿いてますよ。」「一億総活躍社会」「エンブレム」「五郎丸(ポーズ)」「SEALDs」「ドローン」「まいにち、修造!」でした。

この中で、海外での認知度が多少なりともあるものといえば、コチラ↓と、

(今年の7月18日に行われたという「アベ政治を許さない」のポスターを掲げたデモのニュースを、私はフランス滞在中に中国中央電視台のフランス語版国際放送CCTV-Françaisで知りました)

コチラ↓くらいでしょうか?

(今や完全に幻となってしまった2020年東京オリンピック・パラリンピックの「エンブレム」。ベルギーの劇場のロゴからの盗作疑惑というその第一報をよりによってベルギーで聞いた私は、まさか後にこれらが本当に取り下げとなるとは、この時点では想像していませんでした)

ちなみに、今回選ばれた10の単語ないしフレーズのうち、私の全く見たことも聞いたこともないものが実に4つもあったのはショックでした。このため、最初に第一報を聞いた時、「私ってそんなに浦島タロウな訳?」とヘロヘロになったものでしたが、後の報道を見ると、今回の選考は善良な日本国民の皆々様にもすこぶる評判が悪かったようで、少しホッとしているところです↓。

J-CASTニュース(2015年12月2日):「トリプルスリー」なんて聞いたことない! 流行語大賞選出に疑問の声続々(サイトからの引用部分を青字で表示)
http://www.j-cast.com/2015/12/02252164.html?p=all
選考基準については「1年の間に発生したさまざまな『ことば』のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶ」と、公式サイトに説明がある。
   「トリプルスリー」も今年話題になった単語の一つであることは間違いないが、最も「広く大衆の目・口・耳をにぎわせた」とは言い難いだろう。
(中略)
今回の結果を受け、スポーツコメンテーターの為末大さんは、「これから先もう流行語は生まれないんじゃないかという感あり」とツイート。ジャーナリストの佐々木俊尚さんもツイッターで「なんかマスの時代の完全な終わりを印象づけちゃった感じがしますね。もはや時代の何も体現していない」と評した。「流行語大賞そのものが流行ってない」というデーブ・スペクターさんのツイートは、いつになく皮肉たっぷりだ。


なお、上記サイトでは、比較のためにGoogle検索による流行語ランキングのトップテンも紹介されています。その顔ぶれが「マイナンバー」(大賞)、「ラッスンゴレライ」、「エンブレム」、「ドローン」、「北陸新幹線」、「あったかいんだから」、「大阪都構想」、「火花」、「おにぎらず」、「モラハラ」であり、先日発表の流行語大賞と比べてどちらがしっくりくるだろうか…という問いで記事を締めくくっています。しかし、こちらも私の知らないフレーズがテンコ盛りで、まるでしっくりこないことが発覚!これで私もついに「浦島確定」でしょうか(笑)。それともこれは、老若男女を問わず広く受け入れられて皆に愛される物事や概念が生まれにくい、個々のタコツボ化が著しい現代日本を反映しているのでしょうか。

さて、舞台はドイツに移ります。日本の「ユーキャン新語・流行語大賞」に似ていそうなものとして、ドイツには「今年の言葉」という意味の「Wort des Jahres」というのがあります。しかし、その選考対象は日本の場合のような流行語ではなく、「その年を最も象徴する政治・経済・社会的な出来事や事象などを端的に表す単語ないしフレーズ」とあります。その範囲が最初からここまで限定されていれば、当然ながらお笑い用語もギャグも対象外です。ちなみに、選考・発表を行うのがGesellschaft für deutsche Sprache(通称GfdS、直訳すればドイツ言語協会)というれっきとしたお堅い政府系機関であるところも、民間企業(『現代用語の基礎知識』を刊行する自由国民社と株式会社ユーキャン)が中心となって選考する日本の流行語大賞との大きな違いです。

ドイツの場合、1971年創設の「今年の言葉」の他に、1991年以降は「今年のよろしくない言葉」(Unwort des Jahres)、2001年以降は「今年の文章」(Satz des Jahres)(ただし2004~2008は中断)、2008年以降は「今年の若者用語」(Jugendwort des Jahres)なんてのも毎年発表されるようになっています。ちなみに、今年の「ドイツ版・今年の若者用語2015」だけは一足先に発表されており、何と「スモンビー」(Smombie)だそうです。これって何だと思いますか?そう、「スマートフォン・ゾンビ」(Smartphone-Zombie)を略した造語です!日本だと「スマホ依存症」という言葉はありますが、それが酷くなると若者がゾンビのようになってしまうという、日本でも仕掛ければ流行りそうな単語です。皆さまの周囲にも結構いらっしゃるのではないでしょうか、スモンビー(笑)!

このような「今年の言葉」や「今年の文章」は、元々はドイツ語圏共通のものとして選定・発表されてきたのですが、あまりにドイツ関連の用語に偏りだしたために、1999年にオーストリアが、さらに2003年にはスイスがそれぞれ自国独自の言葉を選定するようになりました。選考を担当するのは、オーストリアの場合はカール・フランツ大学内のオーストリア・ドイツ語研究機関、スイスの場合は公共放送局のSRF3です。

同じドイツ語圏の国でありながら、「今年の言葉」に選出されたそれぞれの国の言葉にはお国柄が滲み出てくるのが面白いところです。まず、興味深かったのは、既に発表済みの「スイス版・今年の言葉2015」に選ばれた「Einkaufstourist」(買い物観光客)です。イメージとしてはいわゆる「越境爆買い観光客」に相当しますが、これを聞いて今年の日本の流行語大賞でもある「(中国人観光客による)爆買い」を思い浮かべた方、不正解です。この言葉、実はスイス国外(特に隣国ドイツ)で爆買いするスイス人を指します。スイス国内の物価高を嫌がるスイス人が、周辺諸国の物価安に魅かれるように国境を越え(特にドイツは言葉も同じで、スイスから歩いて越境できる買い物スポットも少なくないため人気が高い)、買い物しまくるのみならず、さらに免税手続きで還付金までせしめ、再び国境を越えて帰国してくる…。これを可能にするのは、スイスがEU圏でないことと、スイスフランの通貨高です。考えてみれば、中国からの爆買い観光客が日本で急増しているのも、その主因は人民元高と円安とタックスフリー制度であり、その点では今回のスイスとドイツの関係に似ていることに気づきます。

さらに重要なのが、スイスの隣国のEU諸国のうち、ドイツ以外のフランス・イタリア・オーストリアでは免税を受けるための最低購入額が設定されている(例えばフランスの場合、同一店舗で同日に合算170ユーロ以上の買い物をしないとタックスフリーの書類を作成できない)のに対し、ドイツにはこの最低額の設定がないことです。これもまた、ドイツにおけるスイス人の「ウハウハ爆買いツアー」を加速させる要因となりました。そして、そのユーロに対するスイス・フランを大幅に高騰させた今年の1月15日の通称「スイスフラン・ショック」(Frankenschock)も、いかにも金融大国スイスらしさの溢れるカテゴリーである「今年の経済用語2015」(Finanzwort des Jahres)に選出されるという、堂々のアベック受賞です(笑)。ここからも、いかにこの「越境爆買い」が今年のスイスを象徴する出来事だったのかが伺い知れます。

他方で、お隣のオーストリアはだいぶ感じが異なります。同国でも今年の「今年の言葉」は既に発表されています。「オーストリア版・今年の言葉2015」に「Willkommenskultur」(歓迎する文化=難民を歓迎するムードのこと)、「オーストリア版・今年のよろしくない言葉2015」に「Besondere bauliche Maßnahmen」(直訳すると「特別な建築上の措置」で響きがマイルドだが、実際に意味するのは続々流入する難民を入国させないために建てられたスロベニア国境沿いのキロ単位の長さのバリケード)という、昨今の難民流入問題に対する正反対のアクションを示す表現がこれまたアベックで選ばれているのが、なかなか絶妙です。その上、「オーストリア版・今年のよろしくない文章2015」が「Ich bin kein Rassist, aber…」「私は人種差別主義者じゃない、だけど…」)に選ばれるという、「トリプルスリー」も顔負けの先制・中押し・ダメ押しの様相を呈しております(笑)。この選出された一連の言葉やフレーズから類推するに、今年のオーストリアはスイス以上に、よっぽど難民問題で頭がいっぱいなのだろうと思われます。

ドイツのGfdSのホームページによると、ドイツ版の「今年の言葉」はちょうどこの原稿が掲載される12月11日(金)午前10時(日本時間18時)にヘッセン州の州都ヴィースバーデンの市役所で発表されることになっています。いわゆる「賞」ですらないので、お笑い芸人や元プロテニス選手が表彰式に臨むようなショー的要素も全くない、商売っ気ゼロの地味なことこの上ないイベントです(笑)。なお、昨年の「今年の言葉」は「Lichtgrenze」(ベルリンの壁崩壊25周年記念で壁を6880個の白い風船で再現したアートワーク)という、今回の「トリプルスリー」以上に発表当時の知名度が低い単語でした。今年に関しては、候補として「Flüchtlingsflut」(直訳すると”難民洪水”)、「Grexit」(グレグジット=欧州経済危機で議論されるEUからのギリシャ脱退のこと)、「Abgasskandal」(すっかり有名になったフォルクスワーゲン社による排ガス規制違反のスキャンダル)などが挙げられております。果たして、スイス・オーストリアとも異なるドイツのお国柄が滲み出る選考となるのでしょうか?今から結果が楽しみですが、それについては来週の記事で別の某フレーズとともに紹介したいと思います。


<参考サイト>
Gesellschaft für deutsche Sprache (GfdS)公式サイト:プレスリリース
http://gfds.de/fluechtlingsflut-grexit-oder-doch-abgasskandal/

Badische Zeitung(2015年8月11日):Rekord beim Schweizer Einkaufstourismus(スイスの買い物ツーリズムが新記録達成)
http://www.badische-zeitung.de/wirtschaft-3/rekord-beim-schweizer-einkaufstourismus--109561865.html

Badische Zeitung(2015年12月3日):"Einkaufstourist" ist Wort des Jahres 2015 in der Schweiz(「買い物観光客」が「スイス版・今年の言葉2015」に選ばれる)
http://www.badische-zeitung.de/schweiz/einkaufstourist-ist-wort-des-jahres-2015-in-der-schweiz--114659908.html

SBI FXトレード - スイスレポート:スイスフランショック:経緯とFX市場に与えた影響・問題点
https://www.sbifxt.co.jp/suisureport8.html

T-Online/AFP通信発(2015年12月3日):"Willkommenskultur" ist Wort des Jahres in Österreich(「歓迎文化」が「オーストリア版・今年の言葉2015」に選ばれる)
http://www.t-online.de/nachrichten/ausland/eu/id_76309164/oesterreich-waehlt-willkommenskultur-zum-wort-des-jahres-2015.html
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